「紫君子蘭の毒性について」□□□□□□□□□
■対象物□□□□□□□□□□□□□□□□
*対象:紫君子蘭。アパガンサス。
*学名:Agapanthus africanus
*分類:ヒガンバナ科アガパンサス属。
*英名: African lily。lily of the Nile。
*分布:南アフリカが原産。
*漢名:
*別名:アパガンサス。アフリカンリリー。
■成 分□□□□□□□□□□□□□□□□
* lycorineを含む。
*lycorine:C16H17NO4=287.31。ヒガンバナ科の植物彼岸花の鱗茎(石蒜)に含まれるフェナントリジン骨格を持つalkaloid。lycorineは哺乳動物において、少量投与で流涎、多量投与でエメチン様の下痢、嘔気を惹起するが、その毒性は比較的弱いので、嘔吐、去痰薬として用いられる。また、かなり強い体温降下作用、抗アメーバ作用も示す。分解点:276℃、エタノール、石油エーテル、クロロホルムに可溶。細胞分裂に対してコルヒチン様の細胞分裂促進作用を持つ。
*ヒガンバナ科の植物は、全草にlycorineやgalanthamine、crinine等の有毒alkaloidを含んでいる。尚、galanthamineは小児麻痺の後遺症治療への応用が検討された事もある。
*ヒガンバナ科植物の中にはヒガンバナ科alkaloidと呼ばれる一群のalkaloidが含有されている。その生合成にはノルベラジン(norbelladine)を共通中間体として行われるため、norbelladine型alkaloidと呼ばれることがある。ヒガンバナ科alkaloidを化学構造上から分類すると、galanthamine型alkaloid、crinine、へマンタミン(haemanthamine)型alkaloid、lycorine型alkaloidの三つの型に分類することが出来る。
*crinine:C16H17NO3=271.31。彼岸花alkaloidの一つ。5,10b-エタノフェナントリジン骨格有するクリニン系の代表的なものである。融点209℃、有毒、LD5010mg/kg(イヌ静注)。
*galanthamine:C17H21NO3=287.35。ヒガンバナalkaloidの一つ。無色の柱状晶。融点127-129℃。抗コリンエステラーゼ作用を有し、臭化水素酸塩は小児麻痺の後遺症に有効であるとされている。
■一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□
*明治時代の中期に渡来、花壇、鉢、切り花用に栽培される。花期は6月-8月ごろで、花茎を伸ばして球状花序に淡い紫色の花を多数咲かせる。名前は、ギリシア語の愛(Agape)と花(Anthos)に由来する。和名は「むらさきくんしらん(紫君子蘭)」と呼ばれる。園芸品種も多く、濃紫色や淡青色、白色などがある。半耐寒性多年草である。
*観賞用にAgapanthus africanusが輸入されたが、Agapanthus praecox やAgapanthus inapertus等も含めてアガパンサスと呼ばれ、ハイブリッド品種も多数作り出され、多くの園芸品種がある。畑の横や、道端にも植えられているものが見られ、大きいため初夏に目立つ。尚、ヒガンバナ科の君子蘭に似て、花色が藍色であることから、紫君子蘭と命名された。
*常緑多年草で、葉は地表付近から伸び出て、幅3cm長さ40cm程と細長く、光沢がある。地下の太い根茎から高さ1m前後の花茎を伸ばして、先端に数十個ロート状の花を放射状に咲かせる。花期は梅雨の前後の物が多く、花色は青紫、紫、白等がある。
*APG IIでは、ネギ科、ヒガンバナ科の姉妹群であるアガパンサス科としてキジカクシ目に含められていたが、APG IIIではではアガパンサス亜科としてヒガンバナ科にまとめられている。クロンキスト体系ではユリ科、新エングラー体系ではヒガンバナ科に含められていた。
*リコリンは水溶性が高く、雑草抑制への利用が期待されるが、作物への影響にも留意する必要がある。抗菌・殺虫作用もあり、小動物への影響にも留意する必要がある。
■毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□
*ヒガンバナ科の幾つかの種には脳に直接作用するalkaloidを含むものがある。彼岸花の葉及び鱗茎か、強い植物生育阻害活性を持つ物質が単離された。主成分はalkaloidのlycorineとクリニンである。lycorineの含有量が最も多く、EC50(50 %生育阻害濃度)はレタス幼根伸長で2ppm、イネ根伸長で15ppmであり、天然物で最強のアブシジン酸に匹敵する活性を示す。lycorineは毒性がやや強い。LD50:41mg/kg(イヌ静注)、30mg/kg(経口)、生の球根中に含まれるlycorineの量は0.5mg/gとする報告も見られる。
■症 状□□□□□□□□□□□□□□□□
*葉等の汁液に触れると皮膚炎、眼に入ると結膜炎を起こし、口にすると口内炎を惹起するので注意した方がよい。
*ヒガンバナ科の植物は、誤食により下痢、嘔吐、中枢神経麻痺、呼吸不整等を惹起する。
■処 置□□□□□□□□□□□□□□□□
*汁液が皮膚に付着した場合、直ちに流水で洗浄する。付着部位に炎症が見られる場合、皮膚科医の検診を受ける。
*汁液が眼に入った場合、直ちに流水で洗浄する。その後眼科医の検診を受ける。
*大量摂取の場合、活性炭、塩類下剤の投与。
*流涎・下痢等の抗コリンエステラーゼ作用による症状が強い場合、硫酸アトロピンの静注。
■事 例□□□□□□□□□□□□□□□□
*彼岸花の球根1個以下の摂取で、消化器症状出現の報告。誤食時の処置等については、彼岸花の事例を参照した。
■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□
*紫君子蘭(アガパンサス)による具体的な誤食例は確認できていない。
■文 献□□□□□□□□□□□□□□□□
1)川原勝征:自然と生きる基礎知識-毒毒植物図鑑;南方新社,2017
2)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2003
3)Anthony T.Tu・編著:薬物・中毒用語辞典;化学同人2005
4)船山信次:毒の科学-毒と人間のかかわり;ナツメ社,2013
5)田中 治・他編:天然物化学改訂第6版;南江堂,2002
6)斉藤勝裕:毒の科学-身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで;サイエンス・アイ新書,2016
7)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改定7版;医薬ジャーナル社,2003
8)吉村壽次・代表編:化学辞典第2版(小型版);森北出版株式会社,2012
[調査者:古泉秀夫◆分類:63.099.AGA◆記入日:2020.11.1.]