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『ツルボの毒性』□□□□□□□

月曜日, 9月 23rd, 2019

対象物□□□□□□□□□□□□□□□□

対象:ツルボ(蔓穂)。
学名:Barnardia japonica var.Japonica。(Scilla scilloides)
分類:キジカクシ科ツルボ属(キジカクシ科は旧分類のユリ科から分割)。
英名: Chinese Scilla。Japanese Jacinth、Wild Hyacinth、Chinese Squill。
別名:サンダイガサ(参内傘;花穂の形状が公家が参内する時に、供人が差し掛ける長柄傘を畳んだ形に似ていることに由来)。ヘッピリグサ(大量に食べると放屁雷鳴して下気:
放屁)。綿棗児(メンソウジ)。

成 分□□□□□□□□□□□□□□□□

植物中に含まれるラナクリンは酵素で加水分解されプロトアネモニン(protoanemonin)になって毒作用を表す。ラナクリンやプロトアネモニンの含有量はまちまちで、一般的に開image花期に多いとされている。プロトアネモニンは不安定な物質で、乾燥や加熱で不活性の二分子重合体アネモニンに変化する。
プロトアネモニン(protoanemonin)。C5H4O2=96.08。キンポウゲ、クリスマスローズ、翁草の球根に含まれる。血圧低下や中枢神経麻痺などを起こす。プロトアネモニン(protoanemonin)はモノテルペノイドの一種で、刺激臭を有する油状物質である。
キンポウゲ科の多くの植物に配糖体ラヌンクリン(ranunculin)として存在する。これらの植物は、葉や茎が傷ついたり折れたりする細胞組織の破壊に伴い、加水分解により二次的にプロトアネモニンを生成する。
プロトアネモニンは淡黄色、油状で、揮発性が強く、皮膚や粘膜に対する刺激性の強い物質である。
イヌリン(inulin)。地下の鱗茎にinulinが存在する。救荒植物として煮詰めて生ずる甘味はinulinの糖化によるものである。inulinは自然界においてさまざまな植物によって作られる多糖類の一群である。炭水化物の一種、果糖の重合体(フルクタン)の一種であり、同類の植物による貯蔵栄養素である澱粉と異なりヒトの消化器では分解不能で大腸の腸内細菌叢によってはじめて代謝されるため、栄養成分表示では糖質ではなく食物繊維として扱われる。

一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□

球根のある多年生の草本。地下に球根があり、秋の初めにピンク色の花を密生した細長い穂を出す。地下に卵球形の鱗茎が有り、春早くこれから数枚の葉を出す。夏に葉は枯れ、秋に又現れて花を咲かせる。スルボとも云うが意味は不明である。説によれば古くはスミラと云い、救荒植物とされた。秋対生する葉の間から茎を立てて花序を付ける。花期:8-9月、高さ20-30cm。地下の鱗茎は黒褐色の皮で包まれる(3月)。花は下から咲き上がる。花被片6片、雄蕊6本(10月)。熟して裂けた果実、種子は細かくて黒色(12月)。林縁や堤防、草地等、日当たりの良いところに多く、往々に群生を作る。
*北海道南西部から九州までと琉球列島に広く分布。国外では朝鮮、中国本土と台湾、それにウスリーに分布する[全国の日当たりの良い林縁、畑の土手等]。image
ツルボ属には90-100種があり、大部分が中央アジアから西、西アジア、ヨーロッパ、それにアフリカに分布する。鑑賞価値の高いものも多く、球根性の花物としてシラーの名で呼ばれる。本属で日本にあるのは本種1種のみ。同時に本種は本属の中で東アジアに分布する唯一の種である。細胞学的には多型で、2倍体から5倍体までを含む。

毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□

球根には毒成分が含まれる。
全体(球根)。プロトアネモニン。
プロトアネモニンは皮膚や粘膜に対し刺激性が強く、引赤、発疱性を有する。また、食べた場合、胃腸炎を起こす。プロトアネモニンのビニリデン基は活性が高く、皮膚や粘膜のスルフィド基と結合するため強い刺激性を示すと考えられている。
プロトアネモニンは不安定で、加熱などにより直ちに二分子重合してアネモニン(anemonin)(無色板状晶、融点157-158)になる。アネモニンには揮発性や刺激性はない。このため、乾燥したキンポウゲ科の植物では皮膚炎は起こさない。
プロトアネモニンは刺激性があり、皮膚につくと水疱を生じる。アネモニンには心臓毒性がある。また煎液には抗アメーバ・抗菌作用、強心作用などが認められている。

症 状□□□□□□□□□□□□□□□□

嘔吐、下痢、腹痛。食べると腹痛や嘔吐を惹起する。彼岸花同様に過去に救荒植物として食べられた歴史があるが、食べない方が良い。汁が皮膚や粘膜に付くと、表皮下や粘膜に水疱を形成し、治り難く、色素沈着を起こす。
腹痛、下痢、口腔の潰瘍、嘔吐、流涎、胃腸炎の症状が見られる。吐物には血が混じる。血尿、多尿、排尿痛、腎障害が見られることがある。食べると焼けるような痛みを感じるので、大量に食べることは稀れで、全身中毒は稀れである。人での死亡例は内。動物では後肢の麻痺、痙攣が報告されている。
眼に入った場合、流涙が見られ、結膜炎症状を惹起する。

処 置□□□□□□□□□□□□□□□□image

眼に入ったり皮膚に付いた場合、直ちに流水で洗浄する。
摂食した場合、直ちに良く嗽をし、飲み込んだ場合には牛乳又は水250mL 程度を服ませる。嘔吐が激しい場合、電解質の異常を来さないよう、輸液を行う。

事 例□□□□□□□□□□□□□□□□

具体的事例は確認できなかった。

備 考□□□□□□□□□□□□□□□□

根を水と一緒に長時間煮て、糊状に成った後食べるとされている。天明の飢饉で、人々の飢えを癒やしたと言われ、身近なツルボは食べ尽くされ、1日掛けて深山までツルボを採集に行ったという話がある。また、根と葉を2-3日とろ火で十分煮詰め、殆ど原型がなくなった物を食べる。少しエグ味があるが、砂糖のような濃厚な甘味が有るとされている。

文 献□□□□□□□□□□□□□□□□

1)岩瀬 徹・他:新版形とくらしの雑草図鑑;全国農村教育協会,2016
2)川原勝征:毒毒植物図鑑;南方新社,2017
3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
4)佐合隆一:飢えを救った雑草たち-救荒雑草;全国農村教育協会,2012
5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001

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