『ジャガイモの毒性』□□□□□□□□□□
木曜日, 7月 4th, 2019■対象物□□□□□□□□□□□□□□□□
*対象:ジャガイモ、
*学名:Solanum tuberosum L.
*分類:ナス科ナス属。
*英名:potato
*別名:馬鈴薯・バレイショ、ジャガタライモ、ジャガイモ、ポテト、
■成 分□□□□□□□□□□□□□□□□
*ソラニン(solanine):C45H73NO15=868.04。α-、β-、γ-solanine、α-、β-、γ-chaconineの六つに分けられる。ジャガイモの新芽に含まれる毒物。原形質毒で有、強力な溶血作用を示し、体液の電解質バランスを狂わせる。またコリンエステラーゼにも作用する。動物実験では、消化管からの吸収は少ない。糞便中に速やかに排泄され、極く少量が尿中に排泄される。solanineは水溶性で、熱に対しては比較的安定なアルカロイド配糖体である。
*ステロイドアルカロイド配糖体(ソラニン、カコニンなど)。
■毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□
*solanineはジャガイモの発芽した部分やナス科の植物に含まれる毒素で、熱に強いので煮ても毒素は分解されないで残る。LD50(マウス)42mg/kg。親芋で発芽しなかった芋、光が当たって皮が薄い黄緑~緑色になった芋の表面部分、芽が出た芋の芽及び付け根部分等は食べない。
*収穫時に見かける小芋も同様の症状を起こすことがあるが、学校等で、児童自身が栽培した芋による事故が殆どで、市販の大きな芋で起こる事故は皆無に近いとされている。収穫後の芋は暗い場所に保管しておき、発芽部分の周囲を深く除去し、緑色の皮は厚くむいて調理することが必要とされている。
*solanineはalkaloidのsolanidineと糖(glucose、galactose、rhamnose)が結合した配糖体である。solanineは水溶性であるが、加熱しても壊れない。solanineは馬鈴薯の全ての部分に含まれている。特に光に当たって緑色になった部分や芽の周辺に濃厚に含まれている。solanineはacetylcholineを分解する酵素であるacetylcholinesteraseを阻害する働きがある。solanineは酵素阻害物質なので、大量を摂取すると血中のacetylcholineが滞留する。
*solanineやchaconineは馬鈴薯の芽に一番多く含まれているる。馬鈴薯の可食部分100 gあたり平均7.5mgのsolanineやchaconineを含んでおり、そのうち3~8割が皮の周辺に存在する。 一方、光に当たって緑色になった部分は100 gあたり100mg以上のsolanineやchaconineを含んでいるといわれている。体重が50kgの人の場合、solanineやchaconineを50 mg摂取すると症状が出る可能性があり、150 mg~300 mg摂取すると死ぬ可能性があるとされる。
■症 状□□□□□□□□□□□□□□□□
*摂取により吐き気、頭痛、胃炎、運動神経の麻痺等を引き起こす。但し、大量に摂取しない限り致命的になることは稀であると報告されている。激しい嘔吐、下痢、頭痛、胃炎等を起こし、重症では痙攣、呼吸困難、昏睡状態から死に至る。
*solanineを含む芋を食べると20分ほどで症状が発現する。
*大量を摂取すると血中のacetylcholineが滞留し、発熱、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、徐脈、意識低下、呼吸困難等の症状を発現する。
*食後2~3時間:アトロピン作用[口渇、興奮、幻覚、痙攣、発熱、皮膚乾燥、頻脈、不整脈、血圧上昇、昏睡]
*食後7~19時間後:抗コリンエステラーゼ作用[嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、食欲不振、徐脈、呼吸困難、中枢抑制]
*重症[腎不全、血糖上昇、発汗、流涎、呼吸抑制、循環障害、ショック]
■処 置□□□□□□□□□□□□□□□□
*中毒治療の4大原則は、①対症療法、②吸収の阻害、③排泄の促進、④拮抗薬・解毒薬の投与とされる。
*solanineの摂取後4時間以内で、嘔吐や下痢がなければ胃洗浄、吸着剤と下剤の投与が有効。基本的措置:胃洗浄・吸着剤・下剤の投与。
*solanineの摂取によって起立性低血圧や神経症状があれば、少なくとも24時間の入院観察が必要。呼吸障害は後期に出現することがある。
*①催吐:咽頭刺激による催吐は、合併症も多く禁忌。胃洗浄を優先すべきである。特に腐食性薬剤、灯油、昏睡時、ショック時は絶対禁忌である。
*②胃洗浄:胃洗浄の有益性が合併症などの不利益を上回る場合、誤嚥に対する対応や配慮とともに、積極的に施行すべきである。外径8mm程度の柔らかい胃管を用いて最初に検体を採取した後、左下側臥位で、200mLずつ、温めた水道水で、洗浄液がきれいになるまで行う。居る人がトールの使用が便利である。
*③吸着薬:薬用炭。未吸収物質の吸着には大きな効果がある。既に吸収されたものでも、濃度勾配による腸管内への再分配を促進して吸着する非常に優れた治療法である。単回投与や頻回投与を行う。治療薬剤も吸着するので、注意する。通常下剤と併用する。
処方例:薬用炭→成人では40-60gを微温湯200-300mLに溶解すする。小児では1g/kgを5-10mL/kgに溶解する。
*④下剤:D-sorbitol液又はクエン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の塩類下剤等を用法通り投与する。
*⑤輸液:硫酸リンゲル液若しくは生理食塩水等が使用される場合が多いとされる。
*⑥呼吸管理:気道、呼吸の異常や場合によっては循環や意識の異常でも適応になる。呼吸管理は、一般的にパルスオキシメーター、観血的動脈圧測定を中心にモニター管理を行い、動脈血液ガス測定を頻回に行い、呼吸状態を確認する。急性呼吸不全としては、
a.気道狭窄及び閉塞
b.換気の抑制(換気不全)
c.肺の酸素化能の低下
等の要素が考えられる。気道トラブルの原因は、意識障害等による舌根沈下、浮腫や吐物等による上気道閉塞が原因と考えられている。
*⑦対症療法:vital signsを維持する治療である。気道、呼吸、循環を安定させ、意識を含めて中枢神経症状の安定と体温管理を行う。基本的事項ではあるが、中毒治療の根幹をなすと考えられている。対症療法は生理学的徴候維持のために行う治療法で有、絶対的禁忌はないと考えられるとされる。原則として中毒原因物質によって惹起されているvital signsの異常は、その排除(吸収の阻害、排泄の促進、拮抗薬・解毒薬の投与)が優先事項で有、それと並行して対症療法を行う。
■事 例□□□□□□□□□□□□□□□□
*1983年(昭和58年)埼玉県の小学校で、理科の実験で自分達が栽培した馬鈴薯を食べ、99人の生徒が1時間後に嘔吐、腹痛等を訴えた。この時の馬鈴薯の外面は緑色、割面もかなり緑色だった報告されている。馬鈴薯の芽や日に当たって緑色に変色したところは毒があるから食べてはいけないという事は、よく知られているはずである。
*2015年1月22日奈良県内の小学校で、校内で栽培・収穫した馬鈴薯を調理・喫食した51名のうち31名に吐き気、腹痛等の症状が出た。なお、残った粉ふきいもを分析したところ、100 gあたり19-39 mgのsolanine類が検出された。
■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□
馬鈴薯中毒発生患者数
│ 年 発生件数 患者総数 摂食者総数
│ 2013年 3件 9人 38人
│ 2012年 3件 28人 62人
│ 2011年 1件 5人 47人
│ 2010年 3件 42人 82人
│ 2009年 1件 35人 56人
■文 献□□□□□□□□□□□□□□□□
1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2003
2)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
3)川原勝征:自然と生きる基礎知識-毒毒植物図鑑;南方新社,2017
4)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
5)ジャガイモによる食中毒を防止するために;農林水産省,2018.9.1.
6)自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ジャガイモ;
7)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001
8)日本中毒学会・編:急性中毒標準診療ガイド;じほう,2008
9)森 博美・他編:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
10)福井次矢・他総編:今日の治療指針;医学書院,2017
調査者:古泉秀夫:分類:63.099.記入日:2019.7.4.