トップページ»

「ニチニチソウの毒性」□□□□□□□□□□□□□□□□

木曜日, 5月 17th, 2018

 

image対象物□□□□□□□□□□□□□□□□

対象:ニチニチソウ(日日草)。日々草の名称は1日毎に新しい花に咲き代わる事に基づく命名である。
学名: Catharanthus roseus
分類:キョウチクトウ科ニチニチソウ属。
英名: Madagascar periwinkle
別名:ビンカ、長春花(漢名)。

成 分□□□□□□□□□□□□□□□□

vinca alkaloidと総称されるalkaloidが含まれ、vindoline(C25H32N2O6)、vincristin、vinblastine(vincaleucoblastine)等が含まれる。現在では70種程度のalkaloid成分が単離されている。

一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□image

マダガスカル、ブラジル、ジャワ等熱帯原産で、常緑低木状多年草。天明元年(1781年)に渡来。切り花用、花壇、鉢植え用に栽培し、1年草として扱う。茎は直立、高さ20-60cm。花期は7-9月、径3-9cm、園芸品種により白、桃色、赤、紅紫色にぼかしや混合あり。多花性の矮性等もある。花期は7-11月。草丈40cm前後。
花期が長く花壇の他、道路沿い等にも良く植えられている。日日花が咲き続けることから名が付いた。葉は濃い緑色で光沢があり、花をよく目立たせる。花色は白で中心が紅いものや、その逆の配色のもの、ピンク系のものなどがある。沖縄では野生化し、冬でも花を見かけるが、本州の花壇では冬は枯れる。原種は小低木で、匍匐する傾向があるが、一般には一年草として、観賞用に改良された品種は、直立するものが多い。葉は長楕円形で、対生する。
日々草は世界各国で薬用に利用されてきた。ヨーロッパやアジア圏では、糖尿病、高血圧、不眠の治療薬として葉の抽出液が使われる。アーユルヴェーダでも抗糖尿病薬として葉の煎じ薬が使用されるが、ラットの実験では有意な結果が見られたという。

毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□

日々草にはビンカアルカロイド(vinca alkaloid)と総称される10種以上のalkaloidが全草に含まれる。vinca alkaloidのうちvindoline及びvincristin(1961年開発)とvinblastineimage(1958年開発)等があり、vincristin、vinblastineには細胞分裂阻害作用があり、抗癌剤として用いられている。脱毛、嘔吐、下痢等の副作用がある。中国では長春花として内服されているが、毒性が強く、素人の使用は危険。
vincristin LD50(マウス・腹腔)5.2mg/kg、vinblastinen(C46H58N4O9=811.00)。LD50(マウス・静注)9.5mg/kg。
猛毒性alkaloidの成人の推定最小致死量は、含有植物1g、tincture 5mL又は2mgのalkaloidであるが、非常に変動がある。

症 状□□□□□□□□□□□□□□□□

中毒症状として嘔吐、下痢、麻痺の症状が起きる。
中枢神経刺激作用、心機能障害、痙攣、筋肉麻痺、嘔吐。
100種を超えるalkaloidが全草に含まれており、摂取量を誤れば、腹痛、下痢、時には急性の呼吸困難を惹起する。花の部分だけには有毒性は見られなかったとする報告もある(2012年ラットでの実験L.Kevin他,)。
抗癌剤として使用されるvinblastine、vincristinの副作用として、胃腸障害、脱毛、白血球減少等が見られる。
この他vinca alkaloidの毒性として報告されている症状は喉頭筋の麻痺、一過性の皮質性黒内障、失明、膀胱弛緩による尿閉、インポテンス、虚血性心筋障害等が見られる。

image処 置□□□□□□□□□□□□□□□□

催吐剤の使用は不可。丁寧な胃洗浄と塩類下剤。呼吸困難には酸素吸入と人工呼吸。atropine 1mgの皮下注射。痙攣にはdiazepam 5~10mgを緩徐に静注、又は筋肉内に深く注射。痛みには塩酸ペチジン100mgを皮下注射。morphineは不可。保温と安静、循環困難には適当な血圧を維持するため、ブドウ糖、生理食塩水の注射。
猛毒性alkaloid経口摂取後早期であれば、薬用炭を経口投与する。薬用炭の投与量と溶解法は、成人では50~100gを、小児では25~50g(1歳以下では1g/kg)を推奨する。この投与量を成人では微温水300~500mLに、小児では10~20mL/kgの生理食塩液に溶解する。

事 例□□□□□□□□□□□□□□□□

日々草を誤食した事例は捕捉できなかったが、日々草の成分として精製された抗癌剤vincristinの誤用例を参照として紹介する。
日々草の葉汁から得られるvinca alkaloidの内極量の12倍のvincristinを投与された44歳の男性では、2週間続いた水様性下痢と小腸麻痺、重篤な骨髄抑制、直後から3日間続いた不眠、6日目に現れ12日間続いた昏迷と健忘等のほか、筋肉痛、筋の脱力、眼瞼下垂等が見られた。腎不全は23日目に回復した。肝・膵障害も現れた。顔面・四肢の表皮剥離と全身の脱毛も2週間続いた。解熱薬に反応しない高熱、心室性の頻脈と期外収縮も見られた。四肢の軽度の不全麻痺は、13ヵ月も残った[Maeda K et al.Jpn J Clin Oncol,7:247-253(1987)]。
2mgのvincristinを初日だけ投与するはずのところ、5日間連続投与された18歳の女性では、出血傾向が5日目に現れ3日間続いた。頭痛は8日目に軽快した。発熱、吐き気、嘔吐は10日目位に消退したが、全身の筋肉痛、腹痛、腰痛は増悪持続した。麻痺性イレウス、不眠、骨髄抑制が7~8日目に現れ、3週間持続した。下肢の筋肉の脱力が10日目に現れ、増悪し、歩行不能になり、深部腱image反射は完全に消失したが、28日目には自律歩行が可能なまでに回復した。しかし、筋電図上多発神経炎の症状は残り、3ヵ月後も深部腱反射は消失したままである。肝実質障害が5日目に現れ、15日迄続いた[高田真一・他:日癌治,24:2617-2623(1989)]。

備 考□□□□□□□□□□□□□□□□

民間では葉を擂り潰して水を加えたものを胃潰瘍、消化不良、便秘等に用いるとされるが、毒性が強いため、使用しない。

文 献□□□□□□□□□□□□□□□□

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2000
2)高橋 冬・他:散歩で見かける草花・雑草図鑑;創英社/三省堂書店,2011
3)佐竹元吉・監:フィールドベスト図書v.16-日本の有毒植物;学研教育出版,2012
4)森 昭彦:身近にある毒植物たち-"知らなかった"ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み-;サイエンス・アイ新書,2016
5)中井將善:気をつけよう!毒草100種;金園社,2002
6)鈴木 洋:漢方の薬の事典-生ぐすり・ハーブ・民間薬-第2版:医歯薬出版株式会社,2011
7)Anthony T.Tu:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
8)内藤裕史:中毒百科改訂第2版-事例・病態・治療-;南江堂,2001
9)白川 充・他共訳:薬物中毒必携第2版;医歯薬出版株式会社,1989

調査者 古泉秀夫 分類 63.099.CAT 記入日 2018.4.6.