「福寿草の毒性」□□□□□□□□□□□□□□□□
日曜日, 4月 1st, 2018*英名: spring adonis、pheasant’s-eye。
*学名: Adonis amurensis Regel et Radde
*別名:ガンジツソウ(元日草)、ツイタチソウ(朔日草)。
*分類:キンポウゲ科フクジュウソウ属。
*分布:北海道、本州、九州及び千島、サハリン、朝鮮半島。中国東北部、シベリア東部に分布し、草地、林内に生え、観賞用などに栽培される多年草。
*形態:草丈10-30cm。根茎は短く肥厚する。茎はしばしば分枝し上部に乳頭状の短毛と、時に軟毛がある。葉は互生し、3-4回羽状複葉で小葉は皮針形。花期は2-4月。茎の頂にやや大型の黄色花を単生する。
■成 分□□□□□□□□□□□□□□□□
*全草に強心配糖体のシマリン(cymarine)、シマロール(cymarol)、アドニトキシン(adonitoxin)、ソマリンの他、コルコロサイドA、コンバラトキシン、ストロファンチン、リネオロン、イソリネオロン、アドニライド、ウンベリフェロン、スコポレチンなどを含む。アドニトキシンは非常に水溶性が高い。
■一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□
*薬用部分:根及び根茎(福寿草根<フクジュソウコン>)。根及び根茎を堀あげ、水洗い後、日干しにする。
*薬効・薬理:シマリンはジギタリス配糖体と類似作用があり、ウサギに投与すると少量で心臓の拍動を増強かつ緩徐にし、血圧が僅かに上昇する。蛙の露出心臓に滴下すると、初め拍動を増強、緩徐にし、ついで不整となって蠕動状を呈し、収縮期に停止する。福寿草根は浸剤、チンキ剤として強心、利尿薬としてジギタリスの代用とする。
■毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□
*有毒部位:全草。
*毒成分:シマリン、アドニトキシン(adonitoxin)等。強心配糖体が含まれ、有毒である。
*福寿草根は毒性が大変強く、用量を誤ると心臓麻痺を起こして死亡する危険が大きいため、民間、家庭では使用してはならない。福寿草の致死量は約0.7mg/kgといわれている。42mgあれば体重 60kgの成人が死亡する。
*福寿草の毒は心臓に作用するアドニトキシン(adonitoxin)という強心配糖体の他に、20種以上の物質が知られている。そのうちアドニトキシンの含有量は0.25%である。
■症 状□□□□□□□□□□□□□□□□
*中毒症状:嘔吐、酷いときは心臓麻痺を起こす。死亡例あり。
*強心配糖体による急性中毒症状は、いわゆるジギタリス中毒の症状とは異なる。嘔吐が80%に見られる。服用後数時間で出現するが、中毒の重症度と関係ない。25%の症例に不安を伴う興奮が見られる。錯乱性の迷妄、幻覚があらわれ、てんかん様発作を見ることもある。頭痛、筋肉痛、脱力感が見られる。心筋の種々の部位で障害が起こり、その部位が刺激伝導路上で、下方に位置するほど危険である。刺激伝導障害と自動能の障害が同時発生する場合が殆どである。死亡は65%が心室細動、25%が長時間の無収縮、10%が急性循環不全である。高カリウム血症は、重症度を示す重要な因子である。
*悪心、嘔吐、腹痛、頭痛、錯乱、不整脈、高カリウム血症、呼吸困難、心停止。
■処 置□□□□□□□□□□□□□□□□
*①胃洗浄、②吸着剤、③下剤、④輸液。⑤対症療法。
*福寿草摂取者に関する具体的な処置法は確認できなかったため、ジギタリス以外の強心配糖体による中毒発現時の処置として報告されている例を参照として紹介する。①血清カリウム値を1時間おきに測定し、高いようであればケイキサレートの経口投与又はブドウ糖とインスリンの静注を行う。入院時の値が6.4mEq/L以上は極めて予後が悪いと考えておかなければならない。②房室ブロックにはフェニトイン(アレビアチン注射液)を1回25mg(小児:1回0.5-1.0mg/kg)、1-2時間おきに静注する。心室性不整脈に対しては、初回量15mg/kg(総量1gまで)、1分間0.5mg/kgを超えない速度で静注する。維持量は2mg/kgを成人で12時間おき、小児で8時間おきに、必要に応じて静注する。できれば血清中フェニトイン濃度を測定し、10-20μg/mLを保つようにする。③心室性頻脈、二段脈にはリドカインが有効。初回量1mg/kgを静注。必要なら0.5-1.0mg/kgを20分後に静注する。維持量として10-40μg/kg・minを点滴静注する。④血液透析や血液灌流ではalkaloid・強心配糖体を除去することはできない。
■事 例□□□□□□□□□□□□□□□□
*ふきのとうと誤って誤食する事例があるとされる。
*76歳の女性、8年間にわたって心臓病と糖尿病を患っていた。福寿草の根を煎じて飲めば心臓病にいいといわれ、福寿草の根を掘り出して水洗いし、乾燥させた。2L入りの薬罐にひげ根の束を10cmほど入れ煮詰めた後、茶碗(180mL)についで飲んだ。夫もつきあって少し飲んだところ、突然、胃が引っ繰り返るほどの嘔吐と、激しい痛みが二人を襲った。直ちに病院に運んだが、5時間後に心室性不整脈で死亡した。夫は命を取り留めたが、1週間の継続入院が必要であった。
*1992年4月26日、心臓が悪く、病院で貰う薬の他、不断はドクダミを煎じて飲んでいたが、76歳の女性が、心臓病に効くといわれて、福寿草根を煎じて180mLを服んだ所、突然吐いて、5時間後に心室性不整脈で死亡した。
■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□
*福寿草根の毒性は、相当に強いということである。文献等を見ても、素人療法で福寿草を使用することは危険であり、回避するようにとの注意書き多く記載されている。
■文 献□□□□□□□□□□□□□□□□
1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
2)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
3)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2000
4)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
5)佐竹元・監:フィールドベスト図鑑v.16<日本の有毒植物;学研マーケティング,2012
6)森 博美・他編:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
調査者:古泉秀夫 | 記入日:2018.3.21. | 分類:63.099SPR |