「水仙の毒性」□□□□□□□□□□□□□□
金曜日, 3月 2nd, 2018
■対象物□□□□□□□□□□□□□□□□
*和名:水仙(スイセン)、漢名の水仙を音読みして『スイセン』になった。
*学名:Narcssus tazetta L.var.chinensis Roem.
*分類:ヒガンバナ科スイセン属。
*英名:Narcissus
*別名:ナルシサス、雪中花(セッチュウカ)、ニホンズイセン、ニワキ。
■成 分□□□□□□□□□□□□□□□□
*中毒成分はalkaloidのリコリン(lycorine)、タゼッチン(tazettine)等である。また、スイセンによる皮膚炎は、蓚酸カルシウムによる。その他ガランタミン(galanthamine)の報告がある。
*lycorine:ヒガンバナ科の鱗茎に含まれるlycorineは、フェナトリジン骨格を持つalkaloid。C16H17NO4=287.31。lycorineは哺乳動物において、少量投与で流涎、多量投与でエメチン様の下痢、吐き気を惹起するが、その毒性は比較的弱いので催吐、去痰薬として用いられる。また、かなり強い体温下降作用、抗アメーバ作用も示す。
*galanthamine:ヒガンバナ科の植物に含まれる。C17H21NO3=287.35。コリンエステラーゼ阻害薬で、筋無力症や筋障害、中枢神経系の障害を伴う知覚及び運動機能不全に用いられた。痴呆症薬として最近注目されている。良い澱粉質であるので、昔は充分な灰汁抜きをして食べたようである。LD50(マウス、静注)8.0mg/kg、(マウス、経口)18.7mg/kg 。
*シュウ酸カルシウム:ヒト推定経口致死量;シュウ酸として15-30g。通常シュウ酸含有植物を一口食べると口腔症状が発現する。
■一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□
*庭植、切花用に栽培される多年草。本州関東以西の海岸近くに生えるが、昔中国から渡来して帰化した物だという解説が見られる。地下の鱗茎から葉は平たく重なり、長さ20-30cm。花は12-3月。花茎は直立し横向き、芳香がある。花被片6、平開、副花冠がある。雄蕊6、下位子房3室、結実しない。繁殖は鱗茎の分裂。
*分布:地中海沿岸原産。特に本州(関東以西)、四国、九州の海岸に帰化。独特の香りがあり、季節の花として正月に欠かせない。古く中国を経由して渡来、日本各地の海岸等で野生化している。
■毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□
*有毒部位:全草。
*有毒植物で毒成分はリコリン (lycorine) とシュウ酸カルシウム (calcium oxalate) 等。全草が有毒だが、鱗茎に特に毒成分が多い。水仙の致死量はマウスで10.7g/kgである。食中毒症状と接触性皮膚炎症状を起こす。中毒は初期に強い嘔吐があり摂取物の大半が吐き出されるため症状が重篤に到ることは稀であるが、鱗茎を浅葱(あさつき)と間違えて食べ死亡した例がある。
*葉がニラととてもよく似ており、家庭菜園でニラを栽培すると同時に、観賞用として本種を栽培した場合等に、間違えて食べ中毒症状を起こすという事件が時に報告・報道される。ニラとの大きな違いは次の通りである。
*葉からの臭いがない(ニラは葉からニラ独特の強い臭いを放つ)。鱗茎がある(ニラは髭(ひげ)根で鱗茎はない)。
■症 状□□□□□□□□□□□□□□□□
*誤食すると中毒症状として嘔吐、下痢、発汗、頭痛、昏睡等の症状が起きる。また切り口の乳液が皮膚に付くと皮膚炎を起こす。
*蓚酸含有植物
経口摂取の場合:流涎、嚥下困難、血性嘔吐、下痢、口と舌の痛み、一過性の言語障害、水疱を伴う口腔・舌・口唇・咽頭の浮腫。
皮膚に付着した場合:皮膚炎
眼に入った場合:結膜炎、羞明、流涎、角膜障害。
■処 置□□□□□□□□□□□□□□□□
*蓚酸含有植物
経口摂取の場合:牛乳又は水で口腔内を洗浄、冷水や氷を含ませる。子供にはアイス クリーム等を食べさせても良い。
大量摂取の場合:催吐、吸着薬、下剤、輸液、対症療法。
眼に入った場合:流水で15分以上洗浄、精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液、抗菌薬点眼液等を点眼。
皮膚に付着した場合:石鹸と水で十分に洗浄、ステロイド剤の塗布。
*誤食事例
①胃洗浄、②吸着薬(薬用炭等)、③下剤、④輸液、⑤対症療法
*薬用炭(別名:活性炭):成人:1回40-60gを微温湯200-300mLに懸濁して経口又は経管チューブで投与。反復投与では4-6時間毎に15-20g(0.25-0.5g/kg)を投与。註:必ず下剤を併用する。
*薬用炭は優れた吸着作用を有する。経口での反復投与により腸肝循環する薬毒物や血管内から消化管内へ逆受動拡散する薬毒物等では、静注で投与された物質等でも体内からの除去を高めることが出来る。
*⑤対症療法
中毒治療の4大原則は、①対症療法、②吸収の阻害、③排泄の促進、④拮抗薬・解毒薬の投与とされている。その中で対症療法とは、vital signsを維持する治療である。
気道、呼吸、循環を安定させ、いしきをふくめての中枢神経症状の安定と体温管理を行う。基本的事項ではあるが、中毒治療の根幹をなすと考えられている。
*対症療法:生理学的徴候維持のために行う治療法であり、絶対的禁忌はないと考えられている。原則として中毒原因物質によって引き起こされているvital signsの異常は、その排除(吸収の阻害、排泄の促進、拮抗薬・解毒薬の投与)が優先事項であり、それと並行して、対症療法を行う。
*vital signs:生きている状態を示す指標。体温・呼吸・脈拍・血圧等。生命徴候。
■事 例□□□□□□□□□□□□□□□□
*過去50年間の我が国の高等植物による食中毒事例の傾向として、スイセンは 『発生件数31・患者数137・死亡者数0』とする報告が見られる。
■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□
*葉はニラ、アサツキ、ノビルと間違えることがある。鱗茎は玉葱と間違えやすく、誤食例が多数報告さている。
*alkaloid:alkaloidは本来アルカリ性の物という意味であるが、研究が進むに連れて、必ずしもアルカリ性ではなく、中性の物が多いことが解ってきた。現在では"窒素原子を含む有機化合物"と云う意味で使われているが、植物毒で最も多いのはalkaloid類である。ヒガンバナ科のヒガンバナ、スイセン、ハマユウ、キツネのカミソリの毒成分はほぼ共通しており、リコリンを初めとする一群のalkaloidである。ヒガンバナ科ではないが、ヒヤシンスにもリコリンが含まれる。
■文 献□□□□□□□□□□□□□□□□
1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2000
2)藤井伸二・監修:色で見わけ五感で楽しむ-野草図鑑;ナツメ社,2014
3)佐竹元吉・監:フィールドベスト図書v.16-日本の有毒植物;学研教育出版,2012
4)森 昭彦:身近にある毒植物たち-"知らなかった"ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み-;サイエンス・アイ新書,2016
5)船山信次:アルカロイド-毒と薬の宝庫-;共立出版株式会社,1998
6)Anthony T.Tu:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
7)森 博美・他:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
調査者:古泉秀夫 | 分類:63.099.NAR | 記入日2018.3.2. |