「ヒヤシンスの毒性」□□□□□□□□□□□□□□□□
月曜日, 2月 12th, 2018■対象物□□□□□□□□□□□□□□□□*和名:ヒヤシンス。ギリシャ神話の美少年の名前より命名。*別名:ヒアシンス、風信子、飛信子。*学名:Hyacinthus orientalis 。*分類:キジカクシ科(クサスギカヅラ科)(旧ユリ科)ヒヤシンス属。*分布:地中海東部沿岸からイラン、トルクメニスタン付近の原産。オスマン帝国で栽培され、園芸化された。また、オランダで品種改良されたダッチヒヤシンスが園芸植物として普及とする報告も見られる。日本には1863年に渡来。小アジア原産。■成 分□□□□□□□□□□□□□□□□*alkaloidのリコリン及びシュウ酸カルシウム等。■一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□*花壇、鉢、水栽培、切り花用にする多年草。地下の鱗茎は長さ3cm位。葉は束生で斜上し長さ15-30cm、多肉。花は露地4月、葉心から中空の花茎を出し、総状花序に大きく直立、ロート状で径2-3cm。花被合着、6裂し反り返る。雄蕊6、蒴果は鈍3稜形。強い芳香がある。紅、白、紫、黄色と園芸品種は多い。*原種本来の花色は紫青色のみだが、園芸品種には暖色から寒色までさまざまな色彩が濃淡豊かである。ダッチ系とローマン系の二系統があり、ダッチ系は水耕栽培が出来る種で、花付きが豪華だと言われている。ローマン系は花数は少し少ないが、一つの鱗茎から幾つもの花茎を立てる。■毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□
有毒部位:全草、特に鱗茎。*lycorine:ヒガンバナ科の鱗茎に含まれるlycorineは、フェナトリジン骨格を持つalkaloid。C16H17NO4=287.31。lycorineは哺乳動物において、少量投与で流涎、多量投与でエメチン様の下痢、吐き気を惹起するが、その毒性は比較的弱いので催吐、去痰薬として用いられる。また、かなり強い体温下降作用、抗アメーバ作用も示す。*シュウ酸カルシウム:ヒト推定経口致死量;シュウ酸として15-30g。通常シュウ酸含有植物を一口食べると口腔症状が発現する。■症 状□□□□□□□□□□□□□□□□*中毒症状は胃痙攣や嘔吐、下痢等。草汁が皮膚に付くと炎症を起こす。草汁による皮膚炎は、草汁にふんだんに含まれているシュウ酸カルシウムに起因する。■処 置□□□□□□□□□□□□□□□□*蓚酸含有植物経口摂取の場合:流涎、嚥下困難、血性嘔吐、下痢、口と舌の痛み、一過性の言語障害、水疱を伴う口腔・舌・口唇・咽頭の浮腫。皮膚に付着した場合:皮膚炎眼に入った場合:結膜炎、羞明、流涎、角膜障害。*蓚酸含有植物経口摂取の場合:牛乳又は水で口腔内を洗浄、冷水や氷を含ませる。子供にはアイス クリーム等を食べさせても良い。大量摂取の場合:催吐、吸着薬、下剤、輸液、対症療法。眼に入った場合:流水で15分以上洗浄、精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液、抗菌薬点眼液等を点眼。皮膚に付着した場合:石鹸と水で十分に洗浄、ステロイド剤の塗布。*誤食事例(lycorine等)①胃洗浄、②吸着薬(薬用炭等)、③下剤、④輸液、⑤対症療法*薬用炭(別名:活性炭):成人:1回40-60gを微温湯200-300mLに懸濁して経口又は経管チューブで投与。反復投与では4-6時間毎に15-20g(0.25-0.5g/kg)を投与。註:必ず下剤を併用する。*薬用炭は優れた吸着作用を有する。経口での反復投与により腸肝循環する薬毒物や血管内から消化管内へ逆受動拡散する薬毒物等では、静注で投与された物質等でも体内からの除去を高めることが出来る。*⑤対症療法中毒治療の4大原則は、①対症療法、②吸収の阻害、③排泄の促進、④拮抗薬・解毒薬の投与とされている。その中で対症療法とは、vital signsを維持する治療である。気道、呼吸、循環を安定させ、意識を含めて中枢神経症状の安定と体温管理を行う。基本的事項ではあるが、中毒治療の根幹をなすと考えられている。*対症療法:生理学的徴候維持のために行う治療法であり、絶対的禁忌はないと考えられている。原則として中毒原因物質によって引き起こされているvital signsの異常は、その排除(吸収の阻害、排泄の促進、拮抗薬・解毒薬の投与)が優先事項であり、それと並行して、対症療法を行う。*vital signs:生きている状態を示す指標。体温・呼吸・脈拍・血圧等。生命徴候。■事 例□□□□□□□□□□□□□□□□*鱗茎は玉葱やノビル等と、葉はニラに似る。■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□*ヒヤシンスの名は、ギリシャ神話の美青年ヒュアキントスに由来する。同性愛者であった彼は、愛する医学の神アポロン(彼は両性愛者であった)と一緒に円盤投げに興じていた。しかし、その楽しそうな様子を見ていた西風の神ゼピュロスは、やきもちを焼いて、意地悪な風を起こした。その風によってアポロンが投げた円盤の軌道が変わり、ヒュアキントスの額を直撃してしまった。アポロンは医学の神の力をもって懸命に治療するが、その甲斐なくヒュアキントスは大量の血を流して死んでしまった。ヒヤシンスはこの時に流れた大量の血から生まれたとされる。■文 献□□□□□□□□□□□□□□□□1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,20002)佐竹元吉・監:フィールドベスト図書v.16-日本の有毒植物;学研教育出版,20123)森 昭彦:身近にある毒植物たち-”知らなかった”ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み-;サイエンス・アイ新書,20164)森 博美・他:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
調査者:古泉秀夫 | 分類:63.099.HYA | 記入日:2018.2.7. |