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『柿渋の殺菌効果について』

金曜日, 7月 1st, 2016

 

KW:殺菌効果・柿渋・シシツ・柿葉・シヨウ・柿蒂・シテイ・柿餅・シヘイ・柿・カキ・タンニン・エピカテキン・エピガロカテキン・エピカテキン-3-ガレート・エピガロカテキン-3-ガレート・抗菌作用・抗ウイルス作用

Q:柿渋の殺菌効果について

A:柿渋は漢方名を柿渋(シシツ)と云い、その他、柿葉(シヨウ)、柿蒂(シテイ)、柿餅(シヘイ)が漢方名として存在する。
『柿渋』はカキノキ科カキ(柿Diospyros kaki)の渋を用いる。柿の未熟な果実(青柿)を搗き砕き、水を加えて時々拡販しながら3週間ほど放置して醗酵し、滓を除くと膠状の赤褐色で半透明の液体が得られる。これを柿漆、あるいは柿渋という。嘗ては傘や渋紙、渋団扇などの紙や絹糸、皮革などに塗布して防水・防腐等の強化に用いていた。現在では主に日本酒製造における清澄剤として用いられている。
柿渋にはシブオールを主成分とする多量のタンニンが含まれる。このタンニンのため柿の果肉には渋みがあるが、熟して行くにつれ、タンニン細胞が凝固、収縮して褐色斑に変化し、タンニンが不溶性となって渋みが無くなる。
柿渋には血圧降下作用が認められ、高血圧や脳卒中の後遺症などに少量ずつ服用する。夜尿症にも有効である。その他、扁桃炎や口内炎に含嗽薬として、火傷や湿疹等では冷湿布として用いる。
その他、次の報告も見られる。成熟時渋ガキに1%程度含まれる渋み物質である可溶性タンニン(カキタンニン;分子量13,800)は、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン-3-ガレート、エピガロカテキン-3-ガレートの4つの単量体のポリフェノールが構成要素となっている。カキタンニンは、若い果実を搾汁したものを3年ほど瓶の中で発酵させて作る‘柿渋’の中に豊富に含まれる。柿渋はタンパクとの結合性を利用して、清酒の白濁原因のひとつであるタンパクの沈殿除去;澱(おり)落としに使われたり、セルロースなど繊維質との結合性を利用して、魚網や傘に塗って補強するのに使われている。抗酸化性、抗変異原性(細胞が突然変異をするのを防ぐ性質)、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、抗アレルギー作用、血圧降下作用、消臭作用、香味改良効果、悪酔い防止作用など多くの機能性が証明されている。

柿葉(シヨウ):vitamin Cが多く含まれるほか、フラボノイド配糖体のアストラガリン、ミリシトリン、その他カロテン、パントテン酸、タンニン等が含まれる。中国では止咳・止血薬して、咳嗽や喀血、消化性潰瘍、血小板減少症等に使用される。日本の民間療法では血圧降下作用のある健康茶として吞まれている。近年、アストラガリンにヒスタミン分泌抑制作用があることが認められ、花粉症に対する効果が期待されている。

柿蒂(シテイ):カキの宿存花萼を用いる。成熟した柿のヘタを柿蒂という。ヘタにはレアノール酸、ウルソール酸、ヘミセルロースが含まれる。柿蒂はシャックリを止める特効薬としてよく知られている。また民間では夜尿症に用いられる。

柿餅(シヘイ、シペイ):渋柿の成熟した果実の外皮を剥き、1ヵ月間日夜露に当て乾燥し、更に1ヵ月間は室内でムシロの中に放置すると柿餅が出来る。そのうち日干しにしたものを白柿、火で燻じたものを烏柿と云う。柿の果実には糖類、ペクチン、カロテノイド、vitamin C、タンニン、酵素類も含まれ、栄養価も高い。熟した柿には止咳・止渇の効能があり、二日酔い等の酒毒を解する作用がある。漢方では潤肺・止血・止瀉の効能があり、咳嗽や血痰、喀血、痔、下痢等に用いる。

抗ノロウイルス作用:杉山らは、患者糞便由来のノロウイルスを利用して、植物由来成分の抗ノロウイルス効果を検定した。リアルタイムPCRによってウイルスゲノムの定量解析を行った結果、植物由来成分のなかで柿渋タンニンが最も強い抗ノロウイルス効果を示し、ウイルスゲノム測定で約99%の消毒効果を示した。ちなみに、現在使われている消毒剤の次亜塩素酸やポビドンヨードの消毒効果は40~50%であることを考えると極めて有効で安全な消毒剤である。ノロウイルスによる感染性胃腸炎の治療薬としても開発が期待できる。

ノロウイルス(Norovirus)を原因とする食中毒及び感染性胃腸炎は、全世界に広がっており、年間数十万人から数百万人に及ぶ患者が発生しているといわれている。ノロウイルスによる胃腸炎は重症化することは稀で、死に至ることはほとんどないが、その症状は下痢、嘔吐、腹痛、発熱等、激しいものがある。現在、ノロウイルス感染に対する有効な治療薬はなく、その対処法は、十分な水分の補給と安静である。また、予防法として、食材等の加熱処理(85℃以上-1分間)や塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、ヨード剤(ポピドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)等による消毒が挙げられている。

現在、ノロウイルスの感染予防に用いられる消毒薬は、人に有害な物質が殆どで、調理器具や食材又は人の手指等に用いて安心な抗ノロウイルス消毒薬の開発がのぞまれている。そこで食品添加物として利用可能な植物由来成分の抗ノロウイルス効果について検証し、安全で安心なエタノール製剤の開発を試みた。多くの植物由来成分をスクリーニングした結果、柿渋タンニンが、最も強い抗ノロウイルス作用を示した。患者糞便由来のノロウイルスを利用して、植物由来成分の抗ノロウイルス効果を検定した。リアルタイムPCRによってウイルスゲノムの定量解析を行った結果、植物由来成分のなかで柿渋タンニンが最も強い抗ノロウイルス効果を示し、ウイルスゲノム測定で約99%の消毒効果を示した。ちなみに、現在使われている消毒剤の次亜塩素酸やポビドンヨードの消毒効果は40~50%であることを考えると極めて有効で安全な消毒剤である。ノロウイルスによる感染性胃腸炎の治療薬としても開発が期待できる[島本ら2007]。

柿渋の抗ノロウイルス効果の測定は、患者便由来のノロウイルスを用い、ウイルスゲノムを測定するリアルタイムRT-PCR法によって行った。その他の人病原ウイルスとして手足口病や髄膜炎の原因となるコクサッキーウイルス、気管支炎や胃腸炎の原因となるアデノウイルス、乳児下痢症の原因となるロタウイルスを用い、更にノロウイルスの近縁ウイルスであるネコカルシウイルスについても柿渋の効果を調べた。また、魚病ウイルスとしてウイルス性神経壊死症ウイルス(NNV)、アクアビルナウイルス(ABV)、マダイイリドウイルス(RSIV)についても同様に柿渋の効果を調べた。

クエン酸の添加により柿渋の抗ノロウイルス効果が増強されること及びvitamin C添加による柿渋安定効果も明らかになった。ノロウイルス以外の7種全てのウイルスに対して、柿渋は抗ウイルス効果を示し、柿渋添加によってウイルス感染価が10ー2 ~10ー5 (0.01)~(0.00001)にまで低下した。今回、柿渋の効果を調べたウイルスは、ノロウイルスを含めて全てenvelopeを持たない非envelopevirusであることから、柿渋は少なくとも非envelopevirusに対して強い抗ウイルス効果を示すことが明らかになった。食品添加物として用いられている安全な柿渋が、抗ウイルス性消毒剤や抗ウイルス剤として利用できる可能性が明らかになった[島本ら2008]。

食中毒対策除菌剤

品名:アルタンノロエース(アルタン株式会社)
成分(重量%):エタノール50.18%、グリセリン脂肪酸エステル.20%、柿抽出物0.15%、フェルラ酸0.05%、精製水49.42%
用途:調理器具、調理用具、冷蔵庫、食器、ショーケース、施設などのドアノブ・手すり、トイレの除菌・ウイルス対策に

使用方法:
①調理器具には対象物の表面を洗浄し水分を除去した後、表面が濡れる程度噴霧する。(噴霧後の水洗いや、拭き取りは不要。)
②食品添加物として食品に混入しても食品衛生上の問題はないが味覚や臭いの点で適さない事がある。
加工食品への添加については経時変化を含めて確認してから使用する。
※食品添加物表示:添加、練り込み、浸漬使用した場合はアルコールまたは酒精と表示する。
使用上の注意:
①火気に近づけない。
②使用するときは十分に換気する。
③冷蔵庫、冷凍庫、コールドテーブル等の表面に塗布してあるクリアコート面や樹脂製把手、庫内外の樹脂材質部分に使用しないこと。くもりや亀裂を生じる恐れがある。
④飲まないこと。
⑤次の物に使用する場合は、変色、溶解、亀裂、膨潤などの変化が起きる場合があるため、確かめてから使用すること。樹脂・塗料・ワックスの塗布・コート面、樹脂材料、ゴム材料、皮革材料、木・紙製品。
⑥食材によっては、アルコールを噴霧後変質する場合があるので、経時変化を含めて異常が無いことを確かめてから使用すること。
⑦鉄製の器具機械に使用する時は、噴霧5分後に水で洗い流すこと。放置すると黒く変色し、黒サビを発生する。
※噴霧口からこぼれたり垂れてしまった液剤は、そのまま放置すると容器や設置場所に色が付着するので、直ちに水拭き又は水洗いする。放置して落ち難くなった場合、中性洗剤等で洗い流すこと。
※まれに、噴霧口などに結晶状の物質が析出することがあるが、食品添加物であるため安全である。洗い流す。
応急処置:①初期火災の場合、大量の水又は消火器で消火する。②眼や粘膜に触れた場合、すぐに大量の水で洗い流す。
容器:500mL/瓶・2L/瓶

[板村裕之:カキ果実の成熟および脱渋後の軟化に関する研究(総説),日食保蔵誌,32,81~88(2006)・平 智・板村裕之:カキタンニン(V)カキタンニンの特質を生かした利用法について(総説),日食保蔵誌,34,291~297(2008)]

[註]成分中のアルコール・柿渋に対する過敏症注意。

参考文献

1)鈴木 洋:漢方くすりの事典 第2版-生ぐすり・ハーブ・民間薬-;医歯薬出版株式会社,2011
2)板村裕之:柿の機能性; http://www.kasuikyo.jp/text/18-1.Html,2016.2.24.
3)島本 整・他:植物由来成分の抗ノロウイルス作用の検討と新規エタノール製剤の開発;第28回日本食品微生物学会学術総会(東京)講演要旨集,2007.9.26-27
4)島本 整・他:柿渋の抗ノロウイルス効果と他のウイルスに対する効果;第29回日本食品微生物学会学術大会講演要旨集,2008.11.12.-13.
5)広島大学大学院生物圏科学研究科;http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/kenkyu_syokai/shimam
-oto/index.html

                    [615.28.DIO:2016.2.26.古泉秀夫]