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「蒼耳子について」

日曜日, 5月 1st, 2016

KW:漢方薬・蒼耳子・蒼耳・オナモミ・オオオナモミ・イガオナモミ・葈耳実・シジジツ・雄生揉・リノール酸・オレイン酸・イソリノール酸・リノレン酸・carboxyatractyloside

Q:蒼耳子とはどのようなものか

A:蒼耳子は、植物名オナモミ(学名:Xanthium strumarium L.)の成熟果実を乾燥したものである。オナモミ(蒼耳)の果実には、鍵状の棘があり、動物に付着して遠くまで運ばれることから、ユーラシア大陸に広く分布する。オナモミ属の植物は世界に25種類が知られている。我が国では古い時代に帰化したと考えられている。日本で見られるXanthium(オナモミ)属の植物としては、オオオナモミ(X.sanadense Mill.英名:coklebur)、イガオナモミ(X.italicum)、トゲオナモミ(X.spinosum)があり、いずれも帰化植物である。

オナモミはキク科(Compositae)の一年草で、道端に生え、高さ20-100cm、茎は太く、葉と共に短い毛がある。葉は長柄があり、大きな心臓型で鋭頭、不規則な鋸歯があり、ざらつく。雄の頭状花は枝先に円錐状に集まり、雌は葉の元に付く。雌雄異花で8-10月に開花する。果実を包む総苞は鍵状の刺と短い剛毛が密生し、よく服に付く。

従来、オナモミはどこにでも見られる植物であったが、最近はオオオナモミやイガオナモミ等が増え絶滅危惧種になるほど少なくなったとされる。オナモミの代表品としてオオオナモミも使用されるが、品質は落ちるとされている。

【名称】オナモミの成熟した果実は漢方で蒼耳子と云い、 別名として葈耳実(シジジツ)、巻耳実がある。虫刺されに生葉を揉んで患部に付けると効くことからオナモミ(雄生揉)という名前が付けられた。漢名で蒼耳と呼ばれるのは、深緑色の総苞が耳飾りに見えることからと云われている。

【効能】鎮痛、消炎、止痒、抗菌。若葉や蒸した種子を食用にできるとされているが、有毒成分を含むとする報告が見られるため、食用は回避すべきである。春先の子葉期に家畜が食べて中毒死したことがあるとされている。

【成分】種子には豊富な油脂を含んでおり、絞るとリノール酸、オレイン酸、イソリノール酸、リノレン酸を含む脂肪油が採れる。主成分はリノール酸で60-65%含まれる。果実には配糖体のthiazinedione誘導体、xanthiazone、chlorogenix acid、ferulic acid、formononetin、ononin、xanthostrumarin、β-sitosterol、stigmasterol、hydroquinone、carboxyatractyloside(カルボキシアトラクティロシド)等が含まれる。カルボキシアトラクティロシドには毒性があり、ラット腹腔内投与でLD50は13.5mg/kgと報告されている。またカルボキシアトラクティロシドは、細胞内で酸化的リン酸化とミトコンドリア膜におけるATPの転位を阻害する。カルボキシアトラクティロシドはオナモミの種子及び地面に落ちて発芽した実(子葉期cotyledon stage、dicotyledonary stage)に含まれている。家畜での中毒は子葉期の植物を食べたものが多く、従って中毒は多くの場合、早春に起きているが、成熟した植物による中毒も報告されている。ブタでは子葉を体重の0.75-3%あるいは刺の付いた実を体重の20-30%食べて中毒を起こしたとの報告も見られる。ブラジルで見られるX.cavanillesiiは、子葉7.5-10g/kgで子牛に中毒を起こす。

中毒症状は摂取後数時間で現れ、歩様蹌踉、沈鬱、筋収縮、痙攣、横臥、呼吸及び心拍数増加などが見られ、重症例では12-24時間で死亡する。

【薬理作用】去風散湿(風湿の邪による関節痛・筋肉痛等)・通鼻竅(孔・風熱による鼻閉)。発汗・鎮痛・抗菌・消炎の作用があり、in vitroで黄色ブドウ球菌を抑制する。但し、口渇・便秘等の副作用がある。蒼耳子から一種の配糖体様の黄白色結晶が得られるが、これが主な毒性成分と考えられる。動物実験によると、主として血糖を急激に下降して昏睡・死亡に至らしめる。

【臨床応用】1.急性副鼻腔炎(鼻淵)で、発熱・頭痛・膿性鼻汁等の熱像(炎症)を伴うとき、慢性の場合、アレルギー性鼻炎に用いる。2.関節の運動障害・遊走性の疼痛等の風湿による痺痛に用いる。3.風邪による頭痛(いわゆる“頭風”)で、錐をさすような疼痛が項部へ放散する・風にあたると痛みがひどくなる等の症状があるときに使用する。4.蕁麻疹に、蒼耳子を水煎して外用する(茎・葉も一緒に用いる方がよい)。

『神農本草経』の中品に『枲耳実』の名前で記されている。『久しく服すれば、気を益し、耳目聡明にして身を軽くする』とされている。漢方処方では蒼耳散(蒼耳子、辛夷、白芷、薄荷)に配合して、目眩、吐き気、花粉症、副鼻腔炎、蓄膿症、アレルギー性鼻炎などに用いる。

【用量】蒼耳子 3-9g。過量に服用すると中毒を生じる。中毒症状は悪心・嘔吐・低血圧・腹痛である。

その他、次の報告も見られる。
【使用上の注意】 蒼耳には全株に毒がある。果実の毒性が最も強く、鮮葉は乾燥葉より、若い葉は古い葉より毒性が強い。毒性成分は xanthostrumarin と alkaloid である。中毒症状は、服用後2日目以後に発生することが多く、上腹部が脹って苦しい・悪心・嘔吐・腹痛・下痢・無力感・煩躁等である。酷いときは肝障害による黄疸・毛細管透過性増大による出血・意識障害・痙攣あるいは呼吸・循環・腎機能不全による死亡を引き起こす。

なお、生の茎葉は揉んで患部に付けると、虫刺され、疥癬に効く。また、煎剤を頭痛、鼻炎、リウマチ、四肢痙攣等に服用する。しかし過量に服用すると中毒を起こす恐れがある。症状は悪心、嘔吐、低血圧、腹痛である。

1)山岸 喬:生薬シリーズ173 ソウジン(蒼耳子);漢方研究:532(4):131-132(2016)
2)家庭の中医学:http://www.sm-sun.com/family/syouyaku/syou-sa/soujisi.htm,2016.4.25.
3)清水矩宏・他:牧草・毒草・雑草図鑑;社団法人畜産技術協会,2005
4)鈴木 洋:漢方のくすりの事典第2版-生ぐすり・ハーブ・民間薬-;医歯薬出版株式会社,2011

                                                  [015.9.XAN:2016.4.30.古泉秀夫]