『本当に環境は整ったのか?』
水曜日, 9月 9th, 2015魍魎亭主人
日本産婦人科学会は29日(2015.8.)国に対し、子宮頸がんワクチンの接種の勧奨再開を求める声明を発表した。ワクチンは2013年4月に国の定期予防接種となったが、接種後に体の痛みなどの症状が出たという報告が相次ぎ、現在、積極的な接種の勧奨は中止されている。
同学会は、日本医師会などが今月、接種後の症状に対する診療の手引を公表したことから、接種できる環境は整ったとした[読売新聞,第50143号,2015.8.30.]。
しかし、この産婦人科学会の『接種できる環境が整った』とする意見には、急ぎすぎではないかと些か首を捻らざるを得ない。日本医師会などが出した文書を読んでみたが、その内容はワクチンの安全性を証明したものではなく、接種後に出る痛みの原因は、現段階では分からないとしている。
つまり原因が分からないと云うことは、避けようがないと云うことである。その意味から云えば、接種を受けた方は、一定の比率で『接種後疼痛』に見舞われると云うことであり、回り合わせが悪かったとか、運が悪かったなどと云うことで済ませるわけにはいかない。
それとも今回の日本産婦人科学会の声明は、接種を受けた方が、報告された副作用に見舞われた場合には、それぞれ注射をした医師が、『接種後疼痛』に対する賠償責任を取ると云うことも含めてお出しになった決意なのだろうか。
副作用とは常に施術者には何の被害もなく、受ける側にのみ被害が出る負の要件である。完全に原因の解明が出来るまで、急いで定期接種の再開を行うべきではない。今、急ぐべきは、思わぬ副作用発現の原因の解明と完治させるための治療法の開発である。
『子宮頸がんワクチン被害 任意接種の救済拡充』
子宮頸けいがんワクチンの接種後に体の痛みなどの重い症状が出ている問題で、厚生労働省は、健康被害を訴えている人たちの救済に本格的に乗り出す方針を固めた。2013年4月に定期接種となる前に接種を受けた人にも、定期接種と同水準の救済を行う方向。同省は今月中にも有識者検討会を開き、具体的な議論を始める。
ワクチン接種に伴う健康被害の救済制度は、法律に基づく定期接種と、それ以前の任意接種とで内容が異なる。定期接種では通院、入院両方の医療費の自己負担分が支給されるが、任意接種の場合、入院相当分に限られる。医療手当も、定期接種では通院にも支給されるが、任意接種は入院相当分にとどまる。
同省によると、子宮頸がんワクチンの接種を受けたのは約340万人。副作用の疑い例約2600件のうち、重症が約4分の1を占めるという。大半は定期接種化される前に公費助成を受け任意で接種していた。
同省などによると、任意接種の救済制度には今年7月末までに98件の申請があり、結論が出たのは27件。このうち支給が決まったのは18件、不支給は9件。定期接種の救済制度にも15件の申請がある。子宮頸がんワクチンは13年4月に定期接種となったが、副作用が疑われる症例の報告が相次ぎ、2か月後に同省は積極的に接種を勧めることを中止した。14年10月以降、副作用の疑い例を約2600件集め、症状や治療内容、現在の状況などの調査をしている[読売新聞,第50148号,2015.9.4.]。
戦後我が国における薬害の第1号は、京都・島根におけるジフテリア予防接種禍事件とされている。本件は製造工程の誤謬による事故であるが、この事件が、その後の我が国のワクチン行政に大きな影響を与えたことは間違いない。この様な事例があるにもかかわらず、ワクチンの接種の方法-『任意接種』と『定期接種』によって救済制度に相違があると云うことが、納得がいかない。
ワクチンの接種は、自分の病気の予防と云うことだけではなく、個人から複数の他人への病気の伝播を防ぐ目的があるはずである。つまり自分が感染源にならないということを含めて接種を受ける訳であるから『任意接種』と『定期接種』で救済に差を付ける必要はないのではないか。ワクチンの接種は、いずれにしろ医師が行うわけで、医師が接種の証明を行えば、虚偽の申請はなくなるはずである。
いずれにしろ子宮頸がんワクチンの副作用問題は、原因不明のままである。また、接種後疼痛の治療法も開発されていない。こういう状態の中で接種の勧奨再開は、待つべきである。
[2015.9.8.]