「脂質異常症(高脂血症)治療薬の発癌性について」
土曜日, 8月 29th, 2015
KW:副作用・脂質異常症・高脂血症・cholesterol・コレステロール・高密度リポ蛋白・低密度リポ蛋白・LDL・HDL・アテローム動脈硬化症
Q:高脂血症治療薬「ロバスタチンカルシウム(rosuvastatin calcium)」を服用して3年目になる、最近の検査で胃癌の発生が指摘された。コレステロールを下げると癌が発生するから下げるべきではないとする本を頂いたが、ロバスタチンカルシウムの服用を中止した場合、何か問題があるか。
A:コレステロール(cholesterol)は「胆汁から生じた脂肪」の意味だとされる。cholesterolは細胞膜、ステロイド、胆汁酸、及びシグナル分子の普遍的な構成成分である。全ての脂質は疎水性で大半は血液に溶けず、従ってリポ蛋白と呼ばれる親水性の球体構造に取り込まれ、輸送される必要があり、リポ蛋白の表面蛋白(アポ蛋白)は脂質を処理する酵素の補因子及びligandである。リポ蛋白は、大きさ及び密度によって分類され、低密度リポ蛋白(LDL)高値及び高密度リポ蛋白(HDL)低値はアテローム動脈硬化性心疾患の主要な危険因子であることから重要とされる。
コンテナサイズの小さいものは密度が大きく、高密度リポ蛋白(high density lipoprotein:HDL)と云われ、主として組織から肝臓にcholesterolを運ぶ。これに対して低密度リポ蛋白(low density lipoprotein:LDL)は、肝や腸で造られるcholesterolを末梢組織へ輸送するやや大型のコンテナである。
cholesterolの大部分は食事に由来するのではなく、体内で合成され、血漿に含まれるリポ蛋白と呼ばれる粒子を媒体として輸送される。cholesterolはそれを生産する臓器や細胞膜や小胞体のような膜組織が密集している細胞で構成される臓器、例えば肝臓、脊髄、脳に高濃度に分布している。成人の体内cholesterol量である100-150gのうち約1/4が脳に集中し、約1/3が脳を含めた神経系に集中している。動脈硬化叢に形成されるアテローム(血管の内側に詰まるカスのようなもの)にも高濃度で存在する。また、cholesterolが胆汁中で結晶化すると胆石の原因となる。
脂質及びリポ蛋白は、密接に関連する二つの経路で代謝される。リポ蛋白の合成、処理及びclearance(浄化率)の経路に欠陥が生じると血漿及び内皮にアテローム生成性脂質が蓄積するので、これらの経路は臨床的に重要である。
LDL(低密度リポ蛋白)は超低密度リポ蛋白(VLDL)及び中間密度リポ蛋白(IDL)の代謝産物であり、全てのリポ蛋白の中で最もcholesterolに富んでいる。全LDLの約40-60%は、アポB及び肝LDL受容体の媒介する過程を介して肝臓で除去される。HDL(高密度リポ蛋白)は、腸細胞及び肝臓の両方で合成され、初期にはcholesterolを含まないリポ蛋白である。HDLの全体的な役割は末梢組織及び他のリポ蛋白からcholesterolを受け取り、他の細胞やリポ蛋白、肝臓(除去目的)等、それが最も必要とされている場所まで輸送することである。全体的な作用は抗アテローム生成性である。
①高LDL-cholesterol血症の治療の目的は、動脈硬化性疾患の初発・再発の予防である。
②禁煙に加えて食事の改善、有酸素運動を含めた生活習慣の改善を継続的に行う。
③生活習慣の改善をはかってもLDL-cholesterolが高値の場合は、リスクに応じて薬物治療を開始する。
④スタチンは高LDL-cholesterol血症を改善させ、心血管イベント抑制効果が最も確立している。
⑤横紋筋融解症や肝機能異常などの副作用のチェックを定期的に行う。
脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血)[日本]
*トリグリセライド(triglyceride:TG:中性脂肪)の主要な機能は、脂肪細胞及び筋細胞にエネルギーを貯蔵することである。
[米国]
HDL-cholesterol:空腹時30-70mg/dL(女性30-90mg/dL)。冠動脈疾患(CAD)の発症とよく相関する。男性ではHDL-cholesterolの減少は危険性の増加となる。<45mg/dLはCADの危険率の増加を伴う。
LDL-cholesterol:<50-190mg/dL。増加は食事中の飽和脂肪酸過剰、心筋梗塞、高リポ蛋白血症、胆汁性肝硬変、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症)。
成人における望ましい脂質値[米国]
脂質の種類 目標値(mg/dL)
総コレステロール 200mg/dL未満
LDLコレステロール 100mg/dL未満
HDLコレステロール 40mg/dL超
中性脂肪 150mg/dL未満
cholesterolのうちHDL-cholesterol及びLDL-cholesterolの値での日・米の比較を検討すべく文献から引用した数値を並べたが、日本の数値がやや低く抑えられていると感じられる数値となっている。
健康なヒトのコレステロール値は性別や年齢によって異なる[日本人間ドック学会の基準範囲(中間報告)
■cholesterolが生体の種々の分野で重大な役割を果たしており、極端に低下させた場合、生体の各部に影響が出ることは考えられるが、発癌性を直接指摘する報告は確認できなかった。
■一方でcholesterolが高値に保たれることはアテローム動脈硬化性心疾患の主要危険因子とされており、これはある意味“地雷”みたいなもので、必ずしも踏むとは限らないが、踏む可能性が有り、前もって避けておくことは賢明であると考える。更に厳密な食事管理(飽和脂肪酸の摂取制限)、1日3000歩以上の歩行等の運動療法が確実に可能であれば、cholesterolのコントロールが可能とされるが、この辺の判断は飽く迄も主治医と相談の上で決定することが求められる。
1)長谷川榮一:カラー版医学ユーモア辞典 改訂第3版;エルゼビア・ジャパン,2008
2)山口 徹・他監修:今日の治療指針-私はこう治療している-;医学書院,2014
3)福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第18版;日経BP社,2006
4)飯野靖彦・監訳:スカッド・モンキーハンドブック-基本的臨床技能の手引;MEDSi,20035)浜 六郎:コレステロールに薬は要らない!;角川oneテーマ21,2006
6)福島雅典・監訳:最新メルクマニュアル医学百科(家庭版);日経BP社,2004
7)読売新聞,第49975号,2015.3.15.
[015.4CHO:2015.3.5.古泉秀夫]