『コレステロール摂取量に関する声明』
火曜日, 6月 30th, 2015魍魎亭主人
新聞に掲載される雑誌の広告を見ていたときに、週刊現代5月30日号に「コレステロール値」の嘘、動脈硬化学会が渋々認めた不都合な真実「食事制限」はまったく無意味だった。健康診断の「コレステロール基準値」はこんなにいい加減、意味のない「コレステロール値」で儲けている人たち………という広告が出ていた。
どちらかと言えば、週刊現代は、専ら軟派を売りにする雑誌である。その掲載記事である。あまり信は置けないのではないかとは思ったが、取り敢えず手に入れてみた。
記事の全体的な印象は、真面なものと判断できたが、確認するために『日本動脈硬化学会-コレステロール』のkeywordで検索した結果、一般財団法人日本動脈硬化学会のホームページ(http://www.j-athero.org/outline/cholesterol_150501.html)に辿り着いた。そのホームページに掲載されていたのが下記の声明文である。
『コレステロール摂取量に関する声明』
日本動脈硬化学会
2015年5月1日
最近、米国学会および行政機関よりコレステロール摂取に関わるガイドラインおよびレポートが発表された。すでに日本動脈硬化学会はコレステロール摂取に関わる見解を表明しているところであるが[1]、今回の米国での発表に接し、改めてコレステロール摂取に関わる日本動脈硬化学会としての見解を表明する。
2013年秋にアメリカ心臓病関係の学会であるACC/AHAが、生活改善のためのガイドライン「心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメントのガイドライン」を発表した[2]。そこで、「コレステロール摂取量を減らして血中コレステロール値が低下するかどうか判定する証拠が数字として出せないことからコレステロールの摂取制限を設けない」との見解が出された。2015年2月に米国農務省USDAから一般国民向けに発表されたガイドライン作成委員会レポート[3]において、ACC/AHA同様、食事中コレステロールの摂取と血中コレステロールの間に明らかな関連を示すエビデンスがないことから、これまで推奨していたコレステロール摂取制限を無くすことが記載された。我が国の「2015年日本人の食事摂取基準」[4]では、健常者において食事中コレステロールの摂取量と血中コレステロール値の間の相関を示すエビデンスが十分ではないことから、コレステロール制限は推奨されておらず、日本動脈硬化学会も健常者の脂質摂取に関わるこの記載に賛同している。ただし、このことが高LDLコレステロール血症患者にも当てはまる訳ではないことに注意する必要がある。
日本動脈硬化学会は、まず動脈硬化性疾患へのリスクを正確に評価し、それに沿ってリスクを減らすような生活習慣を改善する包括的管理が大切であることを動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012において提唱している[5]。この考え方は、ACC/AHAガイドラインの脂質に関する生活習慣マネジメントと一致するところである[2]。高値となった血中LDLコレステロールを減らすためには、生活習慣、運動、食事など包括的に修正することが大切であり、コレステロール摂取のみを制限しても改善はほとんど期待できない。特に摂取する脂質に焦点を当てる場合、コレステロールだけではなく、脂肪酸のバランスに留意することが大切である。このような見解から、具体的な食事療法として、米国ではDASH食などが推奨されているのに対し、我々の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012では、伝統的な日本食(The Japan Diet)を推奨している[5]。伝統的な日本食はDASH食などと同様に、抗動脈硬化的であることが我が国の研究で多数示されており、減塩に留意したうえでの日本食を勧める。このなかに、高LDLコレステロール血症患者が食事療法を行う注意点として、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールの3種類の脂質成分の摂取をとりあげている。日本における摂取実態を鑑み、飽和脂肪酸4.5%以上7%未満、トランス脂肪酸の摂取を減らす、コレステロール200mg/日以下とした。食品にはこれら3種類がさまざまな量で含まれており、別々に摂取しているわけではない。そのため、食品を組み合わせることができるように、これらの数値をそれぞれ成分表示することを提案し推進してきた。コレステロール摂取量と血中LDLコレステロール値との関連を示すエビデンスが不十分である一因として、コレステロール摂取制限を行った場合、血中LDLコレステロールが低下する人と低下しにくい人があり、個体差が大きいことが知られる。高LDLコレステロール血症の食事療法を行う場合、食事のなかの摂取バランスとさまざまな生活習慣のなかで摂取する個々の差を考慮し、我が国の平均摂取量を下回る数値を実践することで、薬物療法を始める前に生活改善による効果を確認していただきたい[6]。上記の脂肪酸やコレステロールの摂取量は、超過してはいけない値ではなく、目安となる平均摂取量であり、時にはたくさん摂取しても常日頃は抑えておこうとするのが大切である。担当医と管理栄養士がより正確に個々の食事摂取内容を把握し、そこからバランスを考慮して現状よりも摂取量を低下した食事を実践し、その評価を行うことが推奨される。また脂質を減らすだけでなく、包括的な食事内容の改善を試みること、例として食物繊維を多く含む大豆製品、海藻、野菜類を増やすことが大切である[6]。事実、これらは血中コレステロール値を下げることが明らかにされている[6]。
大切なポイントは、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、高トリグリセライド(中性脂肪)血症の方は、摂取エネルギー(カロリー)を制限する必要があるが、高LDLコレステロール血症の方は、より飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量に注意する必要があるということである。食材の選び方や献立の工夫については、日本動脈硬化学会の脂質異常症治療ガイド2013年版を参照していただきたい[6]。動脈硬化を防ぐには、高LDLコレステロール血症だけでなく、血圧や血糖値のコントロール、禁煙や運動など包括的な生活習慣の改善を介した予防が大切である。
引用文献
(1) ACC/AHAガイドラインに対する日本動脈硬化学会の見解 日本動脈硬化学会HP http://www.j-athero.org/outline/guideline_lifestyle.html
(2) Eckel RH, et al. 2013 AHA/ACC Guideline on Lifestyle Management to Reduce Cardiovascular Risk. Circulation 2014;129(25 Suppl 2):S76-99
(3) USDA. Scientific Report of the 2015 Dietary Guidelines Advisory Committee. February 2015. http://www.health.gov/dietaryguidelines/2015-scientific-report/
(4) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書
(5) 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版
(6) 日本動脈硬化学会. 脂質異常症治療ガイド 2013年版
『我が国の「2015年日本人の食事摂取基準」[4]では、健常者において食事中コレステロールの摂取量と血中コレステロール値の間の相関を示すエビデンスが十分ではないことから、コレステロール制限は推奨されておらず、日本動脈硬化学会も健常者の脂質摂取に関わるこの記載に賛同している。』
迄はいいが、『ただし、このことが高LDLコレステロール血症患者にも当てはまる訳ではないことに注意する必要がある。』但し以下の記載はどういう意味か。
食事性のコレステロールが、血中のコレステロール値に影響しないというのであれば、高LDL-C血症の患者の血中コレステロールにも影響しないと考えるのが普通ではないのか。それが何故別扱いになるのか教えて貰いたいものである。現在まで、駄目だ駄目だと云い続けてきた食事規制はしなくともよしとする意見を一辺の声明で済ますことでいいのか。果たして診療している全ての医師に情報として徹底されるのか。何時までもevidenceのない指導で患者に無理をさせるべきではない。
(2015.5.21.)