『矛盾に満ちた結論』
水曜日, 5月 27th, 2015魍魎亭主人
政府の“規制改革会議”(議長・岡素之住友商事相談役)で、医薬分業の際、厚労省は病院と薬局に①経営を別にする、②道を挟むなど別れて立地する-ことを義務付けている。病院の前に「門前薬局」が並ぶ状況から、規制改革会議では、「病院内にあればもっと便利」「高齢者や車椅子の患者が薬局に行くために道路を渡ることを強いられるルールに意味があるのか」などの意見が出されていたという。
しかし、考えてみれば可笑しな話である。病院内に住んでいない限り、患者は自宅から一定の時間をかけて通院してくる。病院から薬局によって自宅に戻るという行程で薬局に行くのが大変だというのであれば、薬局を院内の調剤所に戻せと云うことか。それとも道路を隔てず、院内に直結していれば大変ではないと云うことか。
嘗て病院の調剤所で調剤していたとき、あまりに処方数が多いため、患者を待たせるなという以外、ろくな患者サービスが出来ていなかった。院外処方の発行は、そういう病院のありようが問題だということも理由の一つだったわけである。その同じことをやろうという愚を犯すことは避けるべきだろう。第一医薬分業とは病院と薬局が放れることで有り、現状見られる病院の至近距離に大形の薬局を作り、大謀網で魚を掠め取るようなやり方は真の意味での医薬分業ではない。そのいびつな形の分業を、更にいびつにしようという論議には、賛成できない。
更にいえば、厚労省は、大きな病院に紹介状無しで受診すると、初診料加算を更に高額にして取るとおっしゃっている。また、考え方としては、初診時だけではなく再診時にも賦課金を課すという考え方を表明している。つまり大きな病院に、患者が自己判断で通院することを阻止しようと考えていると云うことが出来る。
つまりある意味で言えば、患者の大病院集中を排除しようとしているということだろう。いわゆるかかり付け医という開業医中心の医療を推奨するということは、患者の自由選択の権利を抑制してでも大病院集中を排除しようということであり、ある意味大病院の外来抑制を図るということと同じではないか。それならば大病院の門前薬局を院内に入れることに意味はなくなる。また、調剤薬局を院内に入れれば、外来患者の集中する薬局は、従前の院内調剤所と同様、患者サービスの全く出来ない場所を作るだけである。服薬指導等絶対に出来ない。車椅子の病人が不便だ、病人が歩くのが可哀想だというなら、医師は全て往診で治療をするという方式に変えざるを得ないと云うことになる。
本来、この様な会議で決めなければならないことは、真の分業を目指して医師法第22条『処方箋の交付義務』についての条文の改正を提言することでなければならないはずである。因みに医師法第22条は『医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。』となっているが、次の但し書きがあるばかりに、完全分業が中途半端な分業に終わっている。
『ただし、患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。
一暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
二処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四診断又は治療方法の決定していない場合
五治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
七覚せい剤を投与する場合
八薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合』
完全分業になれば、処方箋を受け付けた薬剤師は、患者と相談して、患者の服薬状況を確認し、処方箋の記載内容を監査し、不要な薬剤は削除するよう医師に助言できる。現在、薬剤師は患者持参薬の確認を行っているが、これは残薬の確認であって、再調剤して他の患者に出す訳にはいかず、最終的には廃棄することになり、医療費の無駄の排除には成らない。入口で薬剤師が処方薬をコントロールするシステムを導入するためには、完全分業以外にはないと云うことである。
更に掛かり付け薬局を確立することで、高齢者の介護斡旋の窓口として、必要とする車椅子やベッド等のリースの斡旋、在宅医療に必要とされる医療機器等の提供窓口としての役割を果たすことは『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』からいっても当然の役割である。
現在、病院の門前に大形の薬局が蝟集し、服薬指導もせずに手当だけ取るなどと云うことがされていたとの報道がされていたが、その様な薬局を敷地内に入れることに何の意味もない。現在のあの姿は明らかに厚生省の失敗である。その現状の姿を固定化する方策を少なくとも政府主導の会議で論議する必要はない。
医療改革を行うということを考えた場合、薬に関していえば、完全な医薬分業の実施と、後発医薬品の数の制限、あるいは先発医薬品の後発医薬品レベルへの薬価の引き下げ、セルフメディケーションを謳いながら漢方薬に見られるOTC薬半量処方などという、妙な投与量の製品の廃止等々を実施することこそ喫緊の課題である。
(2015.5.21.)