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『サクラソウ類について』

水曜日, 5月 27th, 2015

KW:薬用植物・サクラソウ・桜草・さくらそう科・サクラソウ属・サクラソウ皮膚炎・トキワサクラソウ・西洋サクラソウ・Primula・プリムラ・常葉桜・オトメザクラ・乙女桜・キバナノクリンザクラ

Q:サクラソウについて

A:サクラソウについて、次の報告がされている。

サクラソウ(和名:桜草)学名:Primula sieboldi E.Moren。
さくらそう科サクラソウ属。桜草。別名:日本桜草。桜に似た花形に基づく。

[分布]桜草はプリムラの仲間で、北海道南部、本州、九州及び朝鮮半島、中国、ダフリア、アムール、ウスリー、ウダに分布し、原野、低湿地に生え、広く栽培される多年草。主に北半球のimage温帯・寒帯や高地に約200種があるとされ、日本には14種が自生し、その代表種が桜草である。学名はプリムラ・シーボルディといい、我が国では四国と沖縄を除いて各地に分布している。
[形態]根茎は短く、匍匐する。葉は根元に集まり、長柄で卵形から卵状広楕円形、長さ4-10cm、鈍頭で縁に浅い欠刻と不整歯牙がある。花期は4-5月。葉間から高さ15-40cmの花茎を直立し、淡紅色花を7-20個、散形状に着花。
[薬用部分]根、根茎(桜草根<オウソコン>)。開花中の地下部を刈り取り、水洗いして日干しにする。
[成分]全草に桜草サポニン、フラボンを含む。
[薬効・薬理]saponinに利尿、去痰、鎮咳作用が有り、去痰・鎮咳薬として用いられる。またflavoneには消炎作用が有り、創傷、浮腫等に外用するが、桜草saponinには溶血作用もあるため、連用する場合には専門家の指導の下に使用する。
[使用方法]去痰・鎮咳には桜草根1日量10-15gに300mLの水を加え、半量になるまで煮詰め、3回に分けて服用する。

荒川流域の桜草は、元は秩父山中などから流れ着き、繁殖したものだと考えられている。この地は江戸時代から浮間ヶ原と呼ばれ、現在の戸田、志村、川口、田島ヶ原等とともに桜草の自生地として有名であったが、嘗て荒川沿岸の各地に大群落を造っていた桜草も、現在ではさいたま市の田島ヶ原に昔の面影を僅かにとどめるのみとなっている。
荒川の堤防に立って浮間を一望すると、昔荒川の本流があった浮間ヶ池を除いては宅地、工場地に変わってしまい、江戸時代に桜草の群生地であったと云うことは、想像することは難しい。
桜草は、江戸時代に育種が進み、数百に及ぶ品種が作られたと云われる。2005(平成17)年時点で、297品種が認定されているとされる。江戸時代の中ごろから、荒川の原野に野生する桜草から本格的な栽培が始まり、種子まきを繰り返すうちに、白、桃、紅、紫、絞りなどの色変わりや、大小さまざまな花形の変わり品種が生まれ、名称が付けられた。

西洋サクラソウ(キバナノクリンザクラ)学名:Primula veris L.(Primula elatior(L)Hill)。西洋桜草、黄花九輪桜。(英)Cowslip(カウスリップ)。さくらそう科、サクラソウ属。
[分布]ヨーロッパ、西南アジア、アフリカ北部に原産し、しばしば花壇に栽培される多年草。
[形態]草丈10-20cm。全体に微絨毛がある。葉は根際に叢生し、卵形又は卵状長楕円形。花期は春。細網のある花茎を伸ばし、茎の頂きに側方を向いた散形花序に多数の花を付imageける。花は良い香りが有り、黄色で中心に赤い斑紋がある。品種により角色がある。
[薬用部分]葉、花、根。
[成分]プリムラ・カンファー、プリムラベロサイド、根にプリンベリン、ペリムベラベリン、花にはアントシアン類のマルビジン、フラボン配糖体のプリムラフラボノサイドを含んでいる。
[薬効]西洋では根茎、花、葉を去痰、鎮痙、弱い利尿、緩下薬とし、またシロップ剤として気管支炎、咳などに用いられる。日本では民間で生薬をもんだ汁を切り傷、腫れ物に貼ると効果があると云われている。
[用法]葉、花、根を煎じて服用する。また花には弱い鎮静作用があるとして、お茶代わりに飲用される。
[その他]本種は黄花九輪桜で、九輪桜に似て花が黄色で、九輪桜は輪生する花が九層、即ち多層を作ると云うことである。西洋桜草と一華桜(P.vulgaris Huds.)はヨーロッパに広く分布し、日本の花壇の縁取り用、その他に、最も普通に見られる。西洋桜草はセネガ根に優る去痰薬として古くから使用され、中風にも効果があるとされた。
本品は葉の表面に白い粉状の物質がついていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるプリミン(primin、2-methoxy-6-pentylbenzoquinone)である。葉の毛などに触れると皮膚の弱い人はかぶれる(サクラソウ皮膚炎)ことがあるので注意が必要である。
西洋サクラソウとして
医療用途:桜草の匂いの素である精油は、人の気分と神経に作用する。肩凝りからくる頭痛にはこの花から作ったお茶がよく効く。お茶を作るには乾燥した花を小匙2杯分を1カップの熱湯に入れ、蓋をして5分間そのままにする。蜂蜜で甘くしてこのお茶を必要に応じて数杯飲むとよい。このお茶には鎮静作用があり、催眠作用を示す。睡眠茶には
     サクラソウ花2/ホップの雌花穂2/オトギリソウ葉と花1/レモンバーム葉1
このお茶の効果は治療用匂い枕によって高められる。
安眠枕用ミックス、尿酸茶、リューマチ痛・神経痛・筋肉弛緩用にサクラソウオイルを擦り込むとよい。
含有物質:サポニン、精油、vitamin C、苦味素等。

トキワザクラ(常葉桜)学名:プリムラ・オブコニカ:Primula obconica。

imageさくらそう科サクラソウ属。原産地:中国西部-ヒマラヤ。主な開花期:12月-3月。別名:しきざきさくらそう(四季咲き桜草)。通称:オブコニカ。和名:化粧桜。桜草の中には局所刺激作用の強いものとして本種が知られている。本種は中国産で開花期が長いので好んで観賞植物とされる。本種はその腺毛に含まれるプリミンという物質のため、刺激性を発揮する。
本種は葉の表面に白い粉状の物質がついていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるプリミン(primin、2-methoxy-6-pentylbenzoquinone)である。葉の毛などに触れると皮膚の弱い人はかぶれる(サクラソウ皮膚炎)ことがあるので注意が必要である。

マラコイデス(学名:プリムラ・マラコイデス:Primula malacoides Franch.)本種をセイヨウサクラソウ(西洋桜草)Primula elatior(L)Hill。Primula veris L.とする文献もある。
別名:オトメザクラ(乙女桜)。
漢薬名:報春花(但し、報春花=福寿草とする文献もある。)。
原産地:中国雲南省および四川省
薬用部分:全草を薬用とする。
採集・保存:5月に採集し、生のまま用いる。
あるいは、乾燥して保存する。

imageサクラソウ皮膚炎

桜草は高率に接触性皮膚炎(かぶれ)を惹起するとされるが、接触性皮膚炎を惹起する桜草としてトキワサクラソウ(学名:プリムラ・オブコニカ:Primula obconica)と西洋サクラソウ(プリムラ・マラコイデス:Primula malacoides)の両種が挙げられており、原因物質としてプリミンの含有が云われている。
その他、接触するとかぶれたりアレルギー反応を起こすことがある植物としてサクラソウ科のPrimula obconicaが挙げられている。葉の表面に白い粉状物質が付いていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるpriminであるとされている。

 

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2000
2)浮間ヶ原桜草圃場;東京都北区/浮間ヶ原桜草保存会,刊行物登録番号25-3-027
3)舟山信次:毒と薬の科学-毒から見た藥・薬から見た毒;朝倉書店,2007
4)手塚千史・訳:大地の薬-ヨーロッパの薬用植物の神話、医療用途、料理レシピ-;あすむく,1996
5)三橋 博・監:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988
6)大塚恭男:東西生薬考;創元社,1993

      [11.141.PRI:2015.4.25.古泉秀夫]

『フジについて』

水曜日, 5月 27th, 2015

KW:薬用植物・フジ・藤・ヤマフジ・山藤・ムラサキフジ・紫藤・ノダフジ・野田藤・紫藤・イソフラボノイド・WTTC

Q:フジについて

A:我が国に生育するフジの仲間は2種類有り、ヤマフジとフジ(別名:ノダフジ、ムラサキフジ)である。

[分布]ヤマフジは近畿地方以西の本州、四国、九州の暖帯に生育する。フジは本州、四国、九州、対馬の温帯、暖帯に分布する。藤はしばしば観賞用に栽植される日本特産の蔓性落葉低木である。

[学名]Wisteria floribunda。マメ科フジ属。ムラサキフジ(紫藤)、ノダフジ(野田藤)ともいう。ノダフジ(野田藤)の名称は、この種が植物学者の牧野富太郎により命名されるきっimage

 

 

 

 

 

 

 

かけとなった、フジの名所であった大阪市福島区野田に由来するとされる。中国の『藤』はシナフジ(紫藤:Wisteria sinensis)のことであり、別の植物である。山藤と藤との区別は、蔓の巻imageき付き方で分別し、山藤は左巻き、藤は右巻きである。

[形態]藤の幹は著しく伸長して分枝し、右巻きに他の物に巻き付き、長さ10m以上に達する。葉は互生し、奇数羽状複葉で、小葉は11-19個。卵形から皮針形でやや鋭尖頭、全縁。花期は5-7月。淡紫色か白色の蝶型花を多数下垂する総状花序に付ける。果実は莢果。

[薬用部分]樹皮に出来る瘤(藤瘤、別名:藤の実)が用いられる。老木に多く出来る瘤を採集し、水洗い後、日干しにして保管する。種子は7-8月頃に莢ごと採取する。天日で乾燥させ、種子のみを収集する。藤瘤は多くは地上部にあるが、稀れに地下に埋もれていることもある。

[成分]樹皮にイソフラボン配糖体のウェスチン、ウエスタリン、tannin、樹脂、花に蛋白質、vitamin等を含む。藤瘤のメタノール抽出成分としてイソフラボノイドがあり、発がん抑制作用があるとする報告がある。また、藤の樹皮には有毒なウイスタリン(wistarin)、種子にシチシン(cytisine)等が含まれているとする報告もある。

*シチシン(cytisine):毒性のあるalkaloidで、過剰摂取は呼吸を妨げ、死に至ることもある。
*ウイスタリン(wistarin):藤類の植物体にはウィスタリン配糖体が含有まれており、有毒であるが、少量で腹痛等の薬として利用されることがある。

[薬効]薬理作用及びその効果に関しての詳細は不明。民間療法として消炎、止瀉などの効果があるとされた。下痢止め、口内炎、歯肉炎、扁桃炎等に用いられる。

[使用方法]口内炎、歯肉炎、扁桃炎等に藤瘤1日量3-5gに300mLの水を加え、1/3になるまで煎じて煮詰め、この煎液でうがいをするとよい。また粉末を脇の下に付けると、腋臭症を防ぐ効果があると云われている。

藤瘤は民間療法として胃癌に制癌剤として用いられるが、効果は必ずしも明らかではない。
単独では藤瘤を刻み粉末として用いる。1日量10g、2-3回に分けて水で服用する。多くは藤瘤(10g)・菱の実(10g)・訶子(カシ*)(5g)・薏苡仁(10)を配合したものを1日量とし、水約0.7-0.8Lで煎じ、約半量まで煮詰め、1日3回食間に服用する。
訶子により嘔吐の症状が出る場合、タラノキの根皮を用いることがある。
種子は緩下剤として使用される。種子1-3gを1日量とし、水約200mLを加え、半量になるまで煮詰めたものを空腹時に3回に分けて服用すると、下痢止めになると云われている。

[その他]
WTTC(ダブリュティーティーシー)について
・藤瘤(Wisteria floribunda)
・訶子(Terminalia chebula)
・菱実(Trapa japonica)
・薏苡仁(Coix lacyma-jobi)
の植物名(ラテン名)の頭文字を並べたもので、古くから横須賀市の薬局で、「船越の胃腸薬」と称して用いていたものを、昭和30年代に、千葉大学の中山恒夫教授がガンに有効だと発表して有名になったとされる。

*訶子:印度・ビルマを原産とし、中国では雲南等で植栽されているシクンシ科の落葉高木。ミロバラン(Terminalia chebulo)の果実。

1)水野瑞夫・他:くらしの薬草と漢方薬-ハーブ・民間薬・生薬-新日本法規,2014
2)鈴木 洋:漢方の薬の事典-生ぐすり・ハーブ・民間薬-第2版:医歯薬出版株式会社,2011
3)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988

                    [11.141.FLO:2015.5.2.古泉秀夫]

『矛盾に満ちた結論』

水曜日, 5月 27th, 2015

             魍魎亭主人

政府の“規制改革会議”(議長・岡素之住友商事相談役)で、医薬分業の際、厚労省は病院と薬局に①経営を別にする、②道を挟むなど別れて立地する-ことを義務付けている。病院の前に「門前薬局」が並ぶ状況から、規制改革会議では、「病院内にあればもっと便利」「高齢者や車椅子の患者が薬局に行くために道路を渡ることを強いられるルールに意味があるのか」などの意見が出されていたという。

しかし、考えてみれば可笑しな話である。病院内に住んでいない限り、患者は自宅から一定の時間をかけて通院してくる。病院から薬局によって自宅に戻るという行程で薬局に行くのが大変だというのであれば、薬局を院内の調剤所に戻せと云うことか。それとも道路を隔てず、院内に直結していれば大変ではないと云うことか。

嘗て病院の調剤所で調剤していたとき、あまりに処方数が多いため、患者を待たせるなという以外、ろくな患者サービスが出来ていなかった。院外処方の発行は、そういう病院のありようが問題だということも理由の一つだったわけである。その同じことをやろうという愚を犯すことは避けるべきだろう。第一医薬分業とは病院と薬局が放れることで有り、現状見られる病院の至近距離に大形の薬局を作り、大謀網で魚を掠め取るようなやり方は真の意味での医薬分業ではない。そのいびつな形の分業を、更にいびつにしようという論議には、賛成できない。

更にいえば、厚労省は、大きな病院に紹介状無しで受診すると、初診料加算を更に高額にして取るとおっしゃっている。また、考え方としては、初診時だけではなく再診時にも賦課金を課すという考え方を表明している。つまり大きな病院に、患者が自己判断で通院することを阻止しようと考えていると云うことが出来る。

つまりある意味で言えば、患者の大病院集中を排除しようとしているということだろう。いわゆるかかり付け医という開業医中心の医療を推奨するということは、患者の自由選択の権利を抑制してでも大病院集中を排除しようということであり、ある意味大病院の外来抑制を図るということと同じではないか。それならば大病院の門前薬局を院内に入れることに意味はなくなる。また、調剤薬局を院内に入れれば、外来患者の集中する薬局は、従前の院内調剤所と同様、患者サービスの全く出来ない場所を作るだけである。服薬指導等絶対に出来ない。車椅子の病人が不便だ、病人が歩くのが可哀想だというなら、医師は全て往診で治療をするという方式に変えざるを得ないと云うことになる。

本来、この様な会議で決めなければならないことは、真の分業を目指して医師法第22条『処方箋の交付義務』についての条文の改正を提言することでなければならないはずである。因みに医師法第22条は『医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。』となっているが、次の但し書きがあるばかりに、完全分業が中途半端な分業に終わっている。
『ただし、患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。
一暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
二処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四診断又は治療方法の決定していない場合
五治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
七覚せい剤を投与する場合
八薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合』

完全分業になれば、処方箋を受け付けた薬剤師は、患者と相談して、患者の服薬状況を確認し、処方箋の記載内容を監査し、不要な薬剤は削除するよう医師に助言できる。現在、薬剤師は患者持参薬の確認を行っているが、これは残薬の確認であって、再調剤して他の患者に出す訳にはいかず、最終的には廃棄することになり、医療費の無駄の排除には成らない。入口で薬剤師が処方薬をコントロールするシステムを導入するためには、完全分業以外にはないと云うことである。
更に掛かり付け薬局を確立することで、高齢者の介護斡旋の窓口として、必要とする車椅子やベッド等のリースの斡旋、在宅医療に必要とされる医療機器等の提供窓口としての役割を果たすことは『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』からいっても当然の役割である。

現在、病院の門前に大形の薬局が蝟集し、服薬指導もせずに手当だけ取るなどと云うことがされていたとの報道がされていたが、その様な薬局を敷地内に入れることに何の意味もない。現在のあの姿は明らかに厚生省の失敗である。その現状の姿を固定化する方策を少なくとも政府主導の会議で論議する必要はない。

医療改革を行うということを考えた場合、薬に関していえば、完全な医薬分業の実施と、後発医薬品の数の制限、あるいは先発医薬品の後発医薬品レベルへの薬価の引き下げ、セルフメディケーションを謳いながら漢方薬に見られるOTC薬半量処方などという、妙な投与量の製品の廃止等々を実施することこそ喫緊の課題である。

      (2015.5.21.)