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『サクラソウ類について』

水曜日, 5月 27th, 2015

KW:薬用植物・サクラソウ・桜草・さくらそう科・サクラソウ属・サクラソウ皮膚炎・トキワサクラソウ・西洋サクラソウ・Primula・プリムラ・常葉桜・オトメザクラ・乙女桜・キバナノクリンザクラ

Q:サクラソウについて

A:サクラソウについて、次の報告がされている。

サクラソウ(和名:桜草)学名:Primula sieboldi E.Moren。
さくらそう科サクラソウ属。桜草。別名:日本桜草。桜に似た花形に基づく。

[分布]桜草はプリムラの仲間で、北海道南部、本州、九州及び朝鮮半島、中国、ダフリア、アムール、ウスリー、ウダに分布し、原野、低湿地に生え、広く栽培される多年草。主に北半球のimage温帯・寒帯や高地に約200種があるとされ、日本には14種が自生し、その代表種が桜草である。学名はプリムラ・シーボルディといい、我が国では四国と沖縄を除いて各地に分布している。
[形態]根茎は短く、匍匐する。葉は根元に集まり、長柄で卵形から卵状広楕円形、長さ4-10cm、鈍頭で縁に浅い欠刻と不整歯牙がある。花期は4-5月。葉間から高さ15-40cmの花茎を直立し、淡紅色花を7-20個、散形状に着花。
[薬用部分]根、根茎(桜草根<オウソコン>)。開花中の地下部を刈り取り、水洗いして日干しにする。
[成分]全草に桜草サポニン、フラボンを含む。
[薬効・薬理]saponinに利尿、去痰、鎮咳作用が有り、去痰・鎮咳薬として用いられる。またflavoneには消炎作用が有り、創傷、浮腫等に外用するが、桜草saponinには溶血作用もあるため、連用する場合には専門家の指導の下に使用する。
[使用方法]去痰・鎮咳には桜草根1日量10-15gに300mLの水を加え、半量になるまで煮詰め、3回に分けて服用する。

荒川流域の桜草は、元は秩父山中などから流れ着き、繁殖したものだと考えられている。この地は江戸時代から浮間ヶ原と呼ばれ、現在の戸田、志村、川口、田島ヶ原等とともに桜草の自生地として有名であったが、嘗て荒川沿岸の各地に大群落を造っていた桜草も、現在ではさいたま市の田島ヶ原に昔の面影を僅かにとどめるのみとなっている。
荒川の堤防に立って浮間を一望すると、昔荒川の本流があった浮間ヶ池を除いては宅地、工場地に変わってしまい、江戸時代に桜草の群生地であったと云うことは、想像することは難しい。
桜草は、江戸時代に育種が進み、数百に及ぶ品種が作られたと云われる。2005(平成17)年時点で、297品種が認定されているとされる。江戸時代の中ごろから、荒川の原野に野生する桜草から本格的な栽培が始まり、種子まきを繰り返すうちに、白、桃、紅、紫、絞りなどの色変わりや、大小さまざまな花形の変わり品種が生まれ、名称が付けられた。

西洋サクラソウ(キバナノクリンザクラ)学名:Primula veris L.(Primula elatior(L)Hill)。西洋桜草、黄花九輪桜。(英)Cowslip(カウスリップ)。さくらそう科、サクラソウ属。
[分布]ヨーロッパ、西南アジア、アフリカ北部に原産し、しばしば花壇に栽培される多年草。
[形態]草丈10-20cm。全体に微絨毛がある。葉は根際に叢生し、卵形又は卵状長楕円形。花期は春。細網のある花茎を伸ばし、茎の頂きに側方を向いた散形花序に多数の花を付imageける。花は良い香りが有り、黄色で中心に赤い斑紋がある。品種により角色がある。
[薬用部分]葉、花、根。
[成分]プリムラ・カンファー、プリムラベロサイド、根にプリンベリン、ペリムベラベリン、花にはアントシアン類のマルビジン、フラボン配糖体のプリムラフラボノサイドを含んでいる。
[薬効]西洋では根茎、花、葉を去痰、鎮痙、弱い利尿、緩下薬とし、またシロップ剤として気管支炎、咳などに用いられる。日本では民間で生薬をもんだ汁を切り傷、腫れ物に貼ると効果があると云われている。
[用法]葉、花、根を煎じて服用する。また花には弱い鎮静作用があるとして、お茶代わりに飲用される。
[その他]本種は黄花九輪桜で、九輪桜に似て花が黄色で、九輪桜は輪生する花が九層、即ち多層を作ると云うことである。西洋桜草と一華桜(P.vulgaris Huds.)はヨーロッパに広く分布し、日本の花壇の縁取り用、その他に、最も普通に見られる。西洋桜草はセネガ根に優る去痰薬として古くから使用され、中風にも効果があるとされた。
本品は葉の表面に白い粉状の物質がついていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるプリミン(primin、2-methoxy-6-pentylbenzoquinone)である。葉の毛などに触れると皮膚の弱い人はかぶれる(サクラソウ皮膚炎)ことがあるので注意が必要である。
西洋サクラソウとして
医療用途:桜草の匂いの素である精油は、人の気分と神経に作用する。肩凝りからくる頭痛にはこの花から作ったお茶がよく効く。お茶を作るには乾燥した花を小匙2杯分を1カップの熱湯に入れ、蓋をして5分間そのままにする。蜂蜜で甘くしてこのお茶を必要に応じて数杯飲むとよい。このお茶には鎮静作用があり、催眠作用を示す。睡眠茶には
     サクラソウ花2/ホップの雌花穂2/オトギリソウ葉と花1/レモンバーム葉1
このお茶の効果は治療用匂い枕によって高められる。
安眠枕用ミックス、尿酸茶、リューマチ痛・神経痛・筋肉弛緩用にサクラソウオイルを擦り込むとよい。
含有物質:サポニン、精油、vitamin C、苦味素等。

トキワザクラ(常葉桜)学名:プリムラ・オブコニカ:Primula obconica。

imageさくらそう科サクラソウ属。原産地:中国西部-ヒマラヤ。主な開花期:12月-3月。別名:しきざきさくらそう(四季咲き桜草)。通称:オブコニカ。和名:化粧桜。桜草の中には局所刺激作用の強いものとして本種が知られている。本種は中国産で開花期が長いので好んで観賞植物とされる。本種はその腺毛に含まれるプリミンという物質のため、刺激性を発揮する。
本種は葉の表面に白い粉状の物質がついていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるプリミン(primin、2-methoxy-6-pentylbenzoquinone)である。葉の毛などに触れると皮膚の弱い人はかぶれる(サクラソウ皮膚炎)ことがあるので注意が必要である。

マラコイデス(学名:プリムラ・マラコイデス:Primula malacoides Franch.)本種をセイヨウサクラソウ(西洋桜草)Primula elatior(L)Hill。Primula veris L.とする文献もある。
別名:オトメザクラ(乙女桜)。
漢薬名:報春花(但し、報春花=福寿草とする文献もある。)。
原産地:中国雲南省および四川省
薬用部分:全草を薬用とする。
採集・保存:5月に採集し、生のまま用いる。
あるいは、乾燥して保存する。

imageサクラソウ皮膚炎

桜草は高率に接触性皮膚炎(かぶれ)を惹起するとされるが、接触性皮膚炎を惹起する桜草としてトキワサクラソウ(学名:プリムラ・オブコニカ:Primula obconica)と西洋サクラソウ(プリムラ・マラコイデス:Primula malacoides)の両種が挙げられており、原因物質としてプリミンの含有が云われている。
その他、接触するとかぶれたりアレルギー反応を起こすことがある植物としてサクラソウ科のPrimula obconicaが挙げられている。葉の表面に白い粉状物質が付いていることがある。これがかぶれの原因物質で、ベンゾキノン系化合物であるpriminであるとされている。

 

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2000
2)浮間ヶ原桜草圃場;東京都北区/浮間ヶ原桜草保存会,刊行物登録番号25-3-027
3)舟山信次:毒と薬の科学-毒から見た藥・薬から見た毒;朝倉書店,2007
4)手塚千史・訳:大地の薬-ヨーロッパの薬用植物の神話、医療用途、料理レシピ-;あすむく,1996
5)三橋 博・監:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988
6)大塚恭男:東西生薬考;創元社,1993

      [11.141.PRI:2015.4.25.古泉秀夫]

『フジについて』

水曜日, 5月 27th, 2015

KW:薬用植物・フジ・藤・ヤマフジ・山藤・ムラサキフジ・紫藤・ノダフジ・野田藤・紫藤・イソフラボノイド・WTTC

Q:フジについて

A:我が国に生育するフジの仲間は2種類有り、ヤマフジとフジ(別名:ノダフジ、ムラサキフジ)である。

[分布]ヤマフジは近畿地方以西の本州、四国、九州の暖帯に生育する。フジは本州、四国、九州、対馬の温帯、暖帯に分布する。藤はしばしば観賞用に栽植される日本特産の蔓性落葉低木である。

[学名]Wisteria floribunda。マメ科フジ属。ムラサキフジ(紫藤)、ノダフジ(野田藤)ともいう。ノダフジ(野田藤)の名称は、この種が植物学者の牧野富太郎により命名されるきっimage

 

 

 

 

 

 

 

かけとなった、フジの名所であった大阪市福島区野田に由来するとされる。中国の『藤』はシナフジ(紫藤:Wisteria sinensis)のことであり、別の植物である。山藤と藤との区別は、蔓の巻imageき付き方で分別し、山藤は左巻き、藤は右巻きである。

[形態]藤の幹は著しく伸長して分枝し、右巻きに他の物に巻き付き、長さ10m以上に達する。葉は互生し、奇数羽状複葉で、小葉は11-19個。卵形から皮針形でやや鋭尖頭、全縁。花期は5-7月。淡紫色か白色の蝶型花を多数下垂する総状花序に付ける。果実は莢果。

[薬用部分]樹皮に出来る瘤(藤瘤、別名:藤の実)が用いられる。老木に多く出来る瘤を採集し、水洗い後、日干しにして保管する。種子は7-8月頃に莢ごと採取する。天日で乾燥させ、種子のみを収集する。藤瘤は多くは地上部にあるが、稀れに地下に埋もれていることもある。

[成分]樹皮にイソフラボン配糖体のウェスチン、ウエスタリン、tannin、樹脂、花に蛋白質、vitamin等を含む。藤瘤のメタノール抽出成分としてイソフラボノイドがあり、発がん抑制作用があるとする報告がある。また、藤の樹皮には有毒なウイスタリン(wistarin)、種子にシチシン(cytisine)等が含まれているとする報告もある。

*シチシン(cytisine):毒性のあるalkaloidで、過剰摂取は呼吸を妨げ、死に至ることもある。
*ウイスタリン(wistarin):藤類の植物体にはウィスタリン配糖体が含有まれており、有毒であるが、少量で腹痛等の薬として利用されることがある。

[薬効]薬理作用及びその効果に関しての詳細は不明。民間療法として消炎、止瀉などの効果があるとされた。下痢止め、口内炎、歯肉炎、扁桃炎等に用いられる。

[使用方法]口内炎、歯肉炎、扁桃炎等に藤瘤1日量3-5gに300mLの水を加え、1/3になるまで煎じて煮詰め、この煎液でうがいをするとよい。また粉末を脇の下に付けると、腋臭症を防ぐ効果があると云われている。

藤瘤は民間療法として胃癌に制癌剤として用いられるが、効果は必ずしも明らかではない。
単独では藤瘤を刻み粉末として用いる。1日量10g、2-3回に分けて水で服用する。多くは藤瘤(10g)・菱の実(10g)・訶子(カシ*)(5g)・薏苡仁(10)を配合したものを1日量とし、水約0.7-0.8Lで煎じ、約半量まで煮詰め、1日3回食間に服用する。
訶子により嘔吐の症状が出る場合、タラノキの根皮を用いることがある。
種子は緩下剤として使用される。種子1-3gを1日量とし、水約200mLを加え、半量になるまで煮詰めたものを空腹時に3回に分けて服用すると、下痢止めになると云われている。

[その他]
WTTC(ダブリュティーティーシー)について
・藤瘤(Wisteria floribunda)
・訶子(Terminalia chebula)
・菱実(Trapa japonica)
・薏苡仁(Coix lacyma-jobi)
の植物名(ラテン名)の頭文字を並べたもので、古くから横須賀市の薬局で、「船越の胃腸薬」と称して用いていたものを、昭和30年代に、千葉大学の中山恒夫教授がガンに有効だと発表して有名になったとされる。

*訶子:印度・ビルマを原産とし、中国では雲南等で植栽されているシクンシ科の落葉高木。ミロバラン(Terminalia chebulo)の果実。

1)水野瑞夫・他:くらしの薬草と漢方薬-ハーブ・民間薬・生薬-新日本法規,2014
2)鈴木 洋:漢方の薬の事典-生ぐすり・ハーブ・民間薬-第2版:医歯薬出版株式会社,2011
3)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988

                    [11.141.FLO:2015.5.2.古泉秀夫]

『矛盾に満ちた結論』

水曜日, 5月 27th, 2015

             魍魎亭主人

政府の“規制改革会議”(議長・岡素之住友商事相談役)で、医薬分業の際、厚労省は病院と薬局に①経営を別にする、②道を挟むなど別れて立地する-ことを義務付けている。病院の前に「門前薬局」が並ぶ状況から、規制改革会議では、「病院内にあればもっと便利」「高齢者や車椅子の患者が薬局に行くために道路を渡ることを強いられるルールに意味があるのか」などの意見が出されていたという。

しかし、考えてみれば可笑しな話である。病院内に住んでいない限り、患者は自宅から一定の時間をかけて通院してくる。病院から薬局によって自宅に戻るという行程で薬局に行くのが大変だというのであれば、薬局を院内の調剤所に戻せと云うことか。それとも道路を隔てず、院内に直結していれば大変ではないと云うことか。

嘗て病院の調剤所で調剤していたとき、あまりに処方数が多いため、患者を待たせるなという以外、ろくな患者サービスが出来ていなかった。院外処方の発行は、そういう病院のありようが問題だということも理由の一つだったわけである。その同じことをやろうという愚を犯すことは避けるべきだろう。第一医薬分業とは病院と薬局が放れることで有り、現状見られる病院の至近距離に大形の薬局を作り、大謀網で魚を掠め取るようなやり方は真の意味での医薬分業ではない。そのいびつな形の分業を、更にいびつにしようという論議には、賛成できない。

更にいえば、厚労省は、大きな病院に紹介状無しで受診すると、初診料加算を更に高額にして取るとおっしゃっている。また、考え方としては、初診時だけではなく再診時にも賦課金を課すという考え方を表明している。つまり大きな病院に、患者が自己判断で通院することを阻止しようと考えていると云うことが出来る。

つまりある意味で言えば、患者の大病院集中を排除しようとしているということだろう。いわゆるかかり付け医という開業医中心の医療を推奨するということは、患者の自由選択の権利を抑制してでも大病院集中を排除しようということであり、ある意味大病院の外来抑制を図るということと同じではないか。それならば大病院の門前薬局を院内に入れることに意味はなくなる。また、調剤薬局を院内に入れれば、外来患者の集中する薬局は、従前の院内調剤所と同様、患者サービスの全く出来ない場所を作るだけである。服薬指導等絶対に出来ない。車椅子の病人が不便だ、病人が歩くのが可哀想だというなら、医師は全て往診で治療をするという方式に変えざるを得ないと云うことになる。

本来、この様な会議で決めなければならないことは、真の分業を目指して医師法第22条『処方箋の交付義務』についての条文の改正を提言することでなければならないはずである。因みに医師法第22条は『医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。』となっているが、次の但し書きがあるばかりに、完全分業が中途半端な分業に終わっている。
『ただし、患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。
一暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
二処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四診断又は治療方法の決定していない場合
五治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
七覚せい剤を投与する場合
八薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合』

完全分業になれば、処方箋を受け付けた薬剤師は、患者と相談して、患者の服薬状況を確認し、処方箋の記載内容を監査し、不要な薬剤は削除するよう医師に助言できる。現在、薬剤師は患者持参薬の確認を行っているが、これは残薬の確認であって、再調剤して他の患者に出す訳にはいかず、最終的には廃棄することになり、医療費の無駄の排除には成らない。入口で薬剤師が処方薬をコントロールするシステムを導入するためには、完全分業以外にはないと云うことである。
更に掛かり付け薬局を確立することで、高齢者の介護斡旋の窓口として、必要とする車椅子やベッド等のリースの斡旋、在宅医療に必要とされる医療機器等の提供窓口としての役割を果たすことは『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』からいっても当然の役割である。

現在、病院の門前に大形の薬局が蝟集し、服薬指導もせずに手当だけ取るなどと云うことがされていたとの報道がされていたが、その様な薬局を敷地内に入れることに何の意味もない。現在のあの姿は明らかに厚生省の失敗である。その現状の姿を固定化する方策を少なくとも政府主導の会議で論議する必要はない。

医療改革を行うということを考えた場合、薬に関していえば、完全な医薬分業の実施と、後発医薬品の数の制限、あるいは先発医薬品の後発医薬品レベルへの薬価の引き下げ、セルフメディケーションを謳いながら漢方薬に見られるOTC薬半量処方などという、妙な投与量の製品の廃止等々を実施することこそ喫緊の課題である。

      (2015.5.21.)

『みちのく仏像展』

木曜日, 5月 7th, 2015

            魍魎亭主人

特別展『みちのくの仏像』-東北六県を代表する仏像が結集-と云う展示が東京国立博物館で行われるというので、見に行くことにした。東北と云えばなんでも食いつくわけではないが、今回image気になったのは福島・勝常寺、宮城・双林寺、岩手・黒石寺の各県の古刹が全て薬師如来像と云うのが興味を引かれた点である。

薬師如来は除病延寿、眼病平癒が本願で、薬師の衆生救済の十二願が知られている。医・薬が専門で、貧しい時代の病の治癒を願って御参りをする仏で有り、それが東北に多いというのは、気候風土の影響で貧しかったことの反映でもあるのかと考えたが、どうなんだろうか。原発が暴走した後、現地に行って講演を聞いたが、原発の導入は、貧しさから逃れられるという幻想の結果だと云っていたが、貧しさを人質に、東京辺りの電気の需要量を賄ってきたと云うことかもしれない。

勝常寺:(国宝仏。巨材を用いた一木造りのみちのくを代表する仏像)
双林寺:(重要文化財。欅の一木から彫り出した像)
国石寺:(重要文化財。貞観4年(862年)の墨書銘があり、7年後に発生した貞観地震を知る像)

勝常寺の薬師如来坐像は平安時代・9世紀の作造とされている。巨材を用いた一木造(いちぼくづくり)の堂々とした姿は、みちのく仏教文化の繁栄を伝えますとする説明がパンフレットにimageimage記載されていたが、本当に繁栄を反映しているのか。

双林寺の薬師如来坐像は同じく平安時代・9世紀の作造である。欅の一木から彫り出された像で、厚い胸板の表現などに、平安前期彫刻の力強さがよく表れているとされる。

黒石寺の薬師如来坐像は平安時代・9世紀(貞観4年:862年)の作造である。桂の一木から彫り出されている像で、この像の最大の幅は左右の膝の間で101.5cm、木心は臍の辺りにあるとされており、彫刻する前の木はそれより大きくなければならないわけで、東北地方に多い『桂』の木は、胴回り2mを超える大木になると云われている。

上野の吉野桜にはまだ早く、眼を引いたのは『緋寒桜』の名札の付いた桜だった。ヒカンザクラ(緋寒桜)は、バラ科サクラ属に属する植物。サクラの原種の一つで、旧暦の正月あたりに咲くことからガンジツザクラ(元日桜)とも呼ばれるという。その他、タイワンザクラ(台湾桜)、ヒザクラ(緋桜)と云う別名で呼ばれることもあるとされる。
学名:Prunus campanulata 。

image知らなかったが、東京国立博物館の庭園が散策可能と云うことだった。但し、開園は春と秋の2回、10:00-16:00と云うことで、桜と紅葉の季節と云うことなんだろう。その他、移築された茶室が5棟、桜は江戸彼岸、枝垂れ桜、兼六園菊桜、大島桜、帝吉野桜、山桜、八重紅彼岸等の花が見られることになっている。まだ時期的には早すぎて桜は咲いていなかったが、桜の花が見られる時期と紅葉の時期には、見に行く価値のある庭だということが出来る。

写真の五重塔は高さ570cmの銅製の塔である。最上部の相輪には龍が絡み付き、垂木、斗拱の組み物の細部まで入念に作られている。基壇に第五代将軍徳川綱吉が法隆寺に奉納した旨の銘文が線刻されているという。

2015年3月21日土曜日、総歩行数10,329歩。

1)東京国立博物館・他編:特別展みちのくの仏像;東京国立博物館等,2015

 

(2015.5.5.)

「第一類に据え置き」

木曜日, 5月 7th, 2015

             魍魎亭主人

平成21年11月25日に開かれた薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会で、ロキソプロフェンのswitch OTC薬化が認められ、ロキソプロフェン錠としてのswitch OTC薬“ロキソニンS錠”が承認され、平成23年1月から販売されている。

現在、switch OTC薬として市販されているロキソプロフェン錠は、次の通りである。

ロキソプロフェン錠のOTC薬一覧[2014.11.現在]

•ロキソニンS(第一三共ヘルスケア)
•ユニペインL(小林薬品工業)
•ハリー解熱鎮痛薬L(小林薬品工業)
•ロキソプロフェン錠「クニヒロ」(皇漢堂製薬)

上記の製品は現在、いずれも第一類医薬品に指定されている。

ところで平成26年8月27日に開催された、平成26年度第5回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で、ロキソニンS錠については、指定第二類へのリスク区分変更が適当だという決定がされていた。

しかし、11月14日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会では、第一類に分類されている「ロキソプロフェンナトリウム水和物」(第一三共ヘルスケア:ロキソニンSほか)のリスク区分について審議した。下部組織の調査会がまとめた指定第二類に引き下げる案に対して、委員から慎重な意見が相次いだため、第一類に据え置くことに成った。

今年8月の安全対策調査会では、指定第二類に分類されているイブプロフェンやアスピリンなどの解熱鎮痛剤と比較して、特に注意が必要な副作用が認められなかったことなどを踏まえ、妊娠末期の女性に対して禁忌であること、長期連用しないなどの情報提供を確実に行うことなどを条件に、指定第二類に引き下げることが適当との案をまとめたが、結果的に妊婦への影響に対する意見が多く寄せられ、第一類に据え置くことが決定された。

ロキソプロフェンは「妊娠末期の婦人に対しては投与禁忌」とされている。医療用医薬品の添付文書(ロキソニン錠・細粒添付文書,2014.8改訂)では、『妊婦、産婦、授乳婦等への投与』について、次の注意事項が記載されている。

1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]

2.妊娠末期の婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット)で分娩遅延が報告されている。]

3.妊娠末期のラットに投与した実験で、胎児の動脈管収縮が報告されている。

第二類への移行を決定した「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」は、「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会」の下部組織であり、下部組織が指定第二類医薬品で問題ないと判断したものを、上部委員会が却下したという事である。しかし、判断としては、薬剤師でさえ判断に迷う妊婦への投与に関する判断を“登録販売者”に委ねる危険を冒すことは避けるべきである。

平成24年3月23日行われた薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会は、第一類医薬品5件のリスク区分について審議し、女性用頻尿等改善薬のフラボキサート(内服)を指定第二類へ引き下げることを決定した。

市販薬(一般用医薬品)の「第一類」とは、初めて市販される成分や、薬剤師による使用上の注意が必須な成分を示す。新発売されてから何年か(多くは4年)がたつと、リスク区分の再検討がなされ、第一類から第二類にリスクを下げるか、第一類のままに据え置くかが決められる。

フラボキサート(製品名:レディガードコーワ)は、市販薬としては初の女性の頻尿・残尿感を効能・効果とする抗コリン成分である。市販後調査で副作用は少なかったが、男性や妊婦には禁忌になっていたことから、通常の第二類より販売時に注意を要する指定第二類とすることになった。

一方、引き続き第一類に留め置かれたのは次の薬剤である。
*肝斑改善薬のトラネキサム酸配合剤(内服)→ トランシーノ(第一三共)
*禁煙補助剤のニコチン(貼付剤) → 貼るタイプの禁煙補助剤
*膣カンジダ治療薬のミコナゾール(膣錠)→ メディトリート(大正製薬)
*殺虫剤のジクロルボス(樹脂蒸散剤)―バポナ殺虫プレートなど(アース製薬)。

このうちトランシーノは、漫然と長期使用した場合の塞栓症の懸念が否定できない(血栓傾向のある人は血栓を安定化させることがある)ため、薬剤師が必ず関与する第一類薬のままに。ニコチンは、そもそも毒物であるため注意が必要で、副作用の発現頻度の高さ、徐々に投与量を減らしていくなど使用法も単純ではないため、第一類のままに。ミコナゾールは、膣カンジダ再発の薬なので、第一類のままに。ジクロルボスは、劇薬からは除外されることが決まったが、家畜への危険性など長期的な影響の観点から第一類のままにということになった。

トランシーノ………………第一類据置き
シガノンCQ………………第一類据置き
ニコチネルパッチ…………第一類据置き
ニコレットパッチ…………第一類据置き
レディガードコーワ………指定第二類へ(平成24年8月19日以降適用)
メディトリート(膣錠)…第一類据置き
ジクロルボス殺虫剤………第一類据置き

第一類医薬品として発売されたswitch OTC薬は、発売後概ね4年経過後にリスク区分の再検討がされ、リスク区分の下位に移行される。しかし全ての薬を機械的に下位に移行する必要はない。如何にセルフメディケーションとは言え、使用者が自己責任で服用した薬の結果について、全責任を持つことはない。危険性を回避する情報の提供をするためには、薬剤師の管理下に置き、薬剤師が責任を持つことが必要である。少なくとも第一類に分類される医薬品については、“お薬手帳”に薬剤師が必要事項を記入する位のことが必要ではないか。

指定第二類医薬品について

(1)第二類医薬品のうち特別の注意を要するものとして厚生労働大臣が指定するもの(薬事法施行規則第210条第5号)。第二類医薬品:その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生じる恐れがある医薬品。
(2)指定第二類医薬品の分類が出来た経緯
    *厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会(平成16年5月~平成17年12月において)
    *第二類と相対的リスクの評価は同じだが、相互作用又は患者背景において特に注意すべき禁忌があり、その要件に該当するものが服用した場合に、健康被害にいたるリスクの高まるものや使用方法に特に注意すべきものとして、小児や妊婦に禁忌とされている成分、相互作用や過量投与に心停止の恐れのある成分、習慣性、依存性がある成分として、会わせて18成分(当初)が選択され、これらについては、陳列方法を工夫する等の対応が望ましいとされた。
    *これを踏まえて、医薬品の販売等に係わる体制及び環境整備に関する検討会(平成20年2月~7月)においては、販売時の情報提供を行う機会をより確保できるような方法により陳列・販売されるよう、指定第二類医薬品を陳列する場合には、情報を提供するための設備から一定の距離の範囲内に陳列することとされた。

                       (2015.5.4.)

『後発医薬品』

水曜日, 5月 6th, 2015

                魍魎亭主人

後発医薬品を推奨する厚労省のいい分は、先発品に比べて値段が安いということであった。しかるに今回、薬価を精査している段階で、8成分9品目が先発品を上回る見込みであるとの報道があった[RISFAX,第5528号,22.2.4]。所謂薬価の『逆転現象』が起こった原因は、商品に付加価値を付けようとする企業努力、その結果、製剤的な工夫がされ、それを評価した結果だと思われるが、先発品の剤形と異なる剤形の製剤を、後発品として扱うことに問題があるのではないか。

あるいはたかが製剤上の工夫ということにして、先発品を越える薬価は付けないということにしてしまうか。少なくとも後発品は先発品との比較で安くなければいけない訳で、僅か9品目とはいえ、先発品より高い後発品があったのでは、国民に嘘をついたことになる。

更に患者の立場からいえば、後発品を推奨したいために、医療機関での取扱に、色々点数を附加することは、その分患者の個人負担が増えることになるため、有り難くも何ともないということになる。兎に角、後発品は安いということが売りで、TVの宣伝等も専ら安いを振りかざしている。

ところで厚労省は、苦心惨憺、何でこれほど後発品を推奨しているのか。医療費の総枠抑制のため、少しでも安くあげられるものはあげたいという、御国の政策に由来すると云うことである。

それならこの際、製薬企業に協力を仰ぎ、特許期限を過ぎた医薬品については、その時点で後発品並みに薬価を切り下げさせて戴いたらどうか。何れにしろ後発品が出れば売り上げは下がる。それならば薬価を切り下げてでも、使用の継続を保証された方がいいのではないか。更にいわせて戴ければ、無闇に後発品の製造がされているが、それはある意味、資源の無駄遣いに繋がるのではないか。売れそうな薬の後発品には、甘いものに参集する蟻の如く叢がってくるが、医療の現場ではその全ての薬が万遍なく売れるわけでは無い。結局値段を下げて薬価差で稼げるようにと云うことになるのかもしれないが、薬を持っているのは調剤薬局で、処方を書く医師には何の恩典もない。

最近、後発品の薬品名を記載して、変更不可に印の入った処方せんが出回り始めたと云うが、これなどは自社製品の囲い込みをしようとする企業の意図が覗える。後発品は全て一般名と含有量の記載に統一し、企業の影を窺い知れないようにすることが必要ではないか。更に後発品の薬価収載は2-3品目にするぐらいの思い切った手立てを講じないと、後発品使用の推奨が瓦解しかねない問題が起こる可能性が考えられる。

            (2015.5.4.)