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『歯牙着色を惹起する薬剤』

木曜日, 4月 30th, 2015

KW:副作用・歯牙着色・歯着色・pigmentation of tooth・色素沈着・テトラサイクリン系・食用色素・煙草タール・細菌性物資・アマルガム・胆色素・先天性ポルフィリン症・鉛・蒼鉛・水銀・ニッケル・歯牙黄染・黄色歯・抗てんかん剤・primidone・マイソリン・carbamazepine・テグレトール錠・clonazepam・ランドセン錠・sodium valproate・デパケン錠・zonisamide・エクセグラン錠・テトラサイクリン・オキシテトラサイクリン・エナメル質減形成・tetracycline・oxytetracycline・demethylchlortetracycline・minocycline・doxycycline・アクロマイシン・レダマイシン・ビブラマイシン錠・ミノマイシン錠・蛍光写真撮影法・蛍光顕微鏡

Q:20歳台前半の患者で著明な歯牙着色を呈している患者がいる。薬剤性を疑っているが、原因薬剤を知りたい。テトラサイクリン系の抗生物質とも考えられるが、20歳台前半の成人にテトラサイクリン系の抗生物質はあまり投与されないのではないか。テトラサイクリン系の薬剤を除外すると他にどのような薬剤が考えられるか。

A:歯の着色(pigmentation of tooth)又は歯牙着色について、次の報告がされている。

歯表面及び歯質内への種々の外来性色素の沈着したもの。

歯表面外来性色素沈着:食用色素、煙草のタール、檳榔子の葉に含まれるカテキン、細菌性物資、銅(緑色)、水銀(黒褐色)等の金属で、アマルガム充填や歯冠補綴物で発現することがある。お歯黒は、タンニン酸第二鉄による着色である。

歯質内外来性色素沈着:新生児溶血症時の胆色素、先天性ポルフィリン症の赤色調着色等の内因性のものと、テトラサイクリン等の抗生物質、鉛、蒼鉛、水銀、ニッケルの重金属等の外因性のものがある。

等の報告がされている。

なお、以前に「カルマバゼピン・バルブロ酸ナトリウム・マイソリン・クロナゼパム・エクセグランを服用中の7歳の男児において、永久歯の黄染が見られた」とする調査依頼に対し、調査した結果は、次記の通りであった。

一般名・商品名(会社名) 添付文書記載事項  

primidone
プリミドン錠(日医工)

クル病、骨軟化症、歯牙形成不全。(血清アルカリフォスファーターゼ値の上昇血清カルシウム・無機リンの低下等) 本剤の副作用として歯牙形成不全はあるが、歯牙黄染の報告例は存在しない。抗てんかん剤について、歯牙黄染の副作用報告例を検索したが、その様な報告例は検索されなかった[大日本回答 1994]

carbamazepine
テグレトール錠
(ノバルティス)

ビタミンD・カルシウム代謝異常(血清カルシウムの低下)  

clonazepam

ランドセン錠 (大日本住友)

 

sodium valproate
デパケン錠
(協和醗酵キリン)

 

zonisamide
エクセグラン錠
(大日本住友)

本剤の副作用として、歯牙黄染は報告されていない[企業回答1994]

黄色歯(yellow tooth)→歯牙が黄色に着色した状態をいう。原因は外因性のものと内因性のものがあり、外因性の着色は歯牙萌出後の歯の表面に色素が付着するためであり、通常は除去できる。内因性の着色は、歯の硬組織に色素が封入されてできるもので、通常除去できない。内因性着色の原因には歯牙形成期に投与されたテトラサイクリン系薬剤、フッ素症、歯牙の黄色形成不全などで起こるが、いずれもエナメル質形成不全を伴う。重症のものは補綴的に処置する。

エナメル質形成不全(enamel hypoplasia)→ 歯の発育中に歯胚に局所的、全身的障害が及ぶことによりエナメル質の形成が阻害される。局所的原因による場合には、その部の歯にのみ変化が現れる。局所的原因としては外傷、炎症があり、全身的原因に因る場合には、同名歯が左右対称的に侵され、歯冠の全体に亙って変化が見られることが多い。全身的原因としては、発育期における栄養障害、発熱、内分泌障害、遺伝等である。

軽症のものではエナメル質に局限性の白斑、小窩、成長線に一致した浅い溝、波状エナメル質、強い場合には小窩が連続したり、溝が深くなる。エナメル質の一部が全く欠落し象牙質が露出していることもある。

歯牙黄色について、テトラサイクリンによる報告例があるが、以下の通り紹介されている。

黄、灰-褐色の歯の脱色が、乳歯及び永久歯の鉱物質強化法の間にテトラサイクリンを投与された子供に観察された。

テトラサイクリン剤が臨床応用され10数年過ぎて最初の知見が行われ、最初の研究は8年間の長期間に化学療法を受け、肝臓に乳腺腫をともなった子供の症例であった。この歯の脱色がテトラサイクリンの沈着によるものだとする証拠は1961年に子供の乳歯のテトラサイクリンによる蛍光線について、解明された。歯から抽出した色素は、UV光で270μの吸収があり、この物質はテトラサイクリン塩酸塩液中のものと一致した。

テトラサイクリンによって脱色した歯は、紫外線で黄色の蛍光を発し、このことは歯の脱色及び胎児溶血性疾患で見られるエナメル質減形成の鑑別診断に価値がある。この様な脱色は、普通妊娠3カ月期間に母親がテトラサイクリン療法を受けた患者で観察された。臍帯の血液中のオキシテトラサイクリン及びクロールテトラサイクリン濃度は、母親の血中濃度の半分であり、胎盤透過性は別として、テトラサイクリンは母乳を通して胎児にもたらされて同じ障害を及ぼしやすい。

テトラサイクリン群は、歯の鉱物質帯にカルシウム複合体として沈着する。

乳歯の石灰化は、体内期の4カ月から誕生後の7カ月間に始まり、生後7-8歳まで続く。鉱物質の精製の地帯は、、生後第1週にテトラサイクリン療法を受けた早熟の幼児では検出不可である。

歯の脱色現象の危険性及びその広がりと全テトラサイクリン投与量の間には、ある相関関係が存在する。歯のエナメル質欠損と形成不全は激しい症例であり、その様な影響を被った歯では、カリエス形成を起こしやすいが、他の報告ではカリエス発症は観察されていない。

体内でテトラサイクリンの影響を受けたことによる歯の脱色は、テトラサイクリンを妊娠3カ月で投与された子供の50%に見られ、全投与量3g以上若しくは10日目以上の療法を行った子供の約3分の1に可視的な歯の変化をもたらした。最近の報告では、体重当り全量として400-1,000mg/kg以上の投薬を受けた子供の37.5%に大きな変化が見られた。
多くの研究報告によればこの点に関しては、種々のテトラサイクリン剤の間で相違がありオキシテトラサイクリンはテトラサイクリンでの場合よりも歯の脱色の生成率は低い。
以上から導き出される結論は、妊娠3カ月後の人にはテトラサイクリン剤による療法を行わない事であり、授乳期にある母親にもこれらの薬剤を与えない事である。同様のことが誕生後から8歳位までの子供にいえる。生命を救うためにテトラサイクリン療法が必要な患者にはオキシテトラサイクリン[oxytetracycline](又は新型のテトラサイクリン群)を投与すべきであり、それらの薬剤についての副作用は判明しているので限定して投与すべきである。

以上の各報告から今回の事例において、テトラサイクリン系の抗生物質の服用の事実を確認する必要がある。

なお、テトラサイクリン系薬剤として、次の薬剤が市販されている。

一般名・商品名(会社名) 添付文書記載事項 その他

tetracycline(hydrochloride)
アクロマイシンVカプセル(ポーラ)

ハイドロオキシアパタイト結合率:3位・永久歯粉末結合率:3位

demethylchlortetracycline hydrochloride
レダマイシンカプセル (ポーラ)

ハイドロオキシアパタイト結合率:1位・永久歯粉末結合率:1位

minocycline hydrochloride
ミノマイシン錠・カプセル (ファイザー)

ハイドロオキシアパタイト結合率:2位・永久歯粉末結合率:2位

doxycycline hydrochloride
ビブラマイシン錠
(ファイザー)

 

*妊婦・授乳婦への投与:妊娠後半期の投与により、胎児に一過性の骨発育不全、歯牙の着色・エナメル質形成不全を起こすことがあり、また、動物実験で胎児毒性が認められているので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

*新生児、乳・幼・小児への投与:歯牙の着色・エナメル質形成不全、また、一過性の骨発育不全を起こすことがあるので、他の薬剤が使用できないか、無効の場合のみ適用考慮

テトラサイクリン系薬剤の着色は大別して次の3種類に分けられるとする報告が見られる。
灰色-褐色:主としてオーレオマイシン
黄 色:テラマイシン、レダマイシン、アクロマイシン
帯 褐 色:黄色が褪色したもの。

着色がテトラサイクリンによるものかどうかの判定は、黄色、帯褐色、灰-褐色などの着色が左右の同名歯に同程度発現することと、母体の妊娠中又は生後にテトラサイクリン系薬剤服用歴があることによるが、詳細は蛍光写真撮影法による。

テトラサイクリン系抗生物質は、化学構造上、母核の1位と12位の位置で2価あるいは3価の金属イオンとキレート結合することが実証されており、このキレーション作用は、テトラサイクリン誘導体の全てに起こる現象である。

歯及び骨などの硬組織は、ハイドロオキシアパタイトが、その無機質の構成成分であり、テトラサイクリンは2価の金属イオンであるCa++とキレート結合する。硬組織形成中はとりわけテトラサイクリンの取り込みが活発で、投与量の多寡に関係なく必ず歯あるいは骨組織に沈着する。

特に歯では、骨と異なって、一度石灰化が進行すると永久的に生体、特に象牙質内に残留する。歯の研磨切片を蛍光顕微鏡で検鏡すると、象牙質の成長線に一致してテトラサイクリンの黄色蛍光条が確認できる。この蛍光条は投与回数に一致して数本から数十本の線条として確認できる。しかし、肉眼的に観察した場合、一様に黄色に見える。一般的には投与量の多いものほど濃度は濃いい。

テトラサイクリンによる着色は、黄色のみならず褐色、暗褐色と変色していることが多いが、これはテトラサイクリンが日光など紫外線あるいは高熱(体温)などにより異性化反応を起こし変色するからである。臨床的には歯の唇面のほうが舌面より濃く、また、歯の崩出時より年齢の高くなるほど着色の程度が濃くなることが知られている。また、連続投与でははなくとも、投与日数だけ象牙質の成長線に沿って沈着する。

各報告から勘案するに今回の事例は、過去に服用したテトラサイクリン系抗生物質による歯牙着色が年齢とともに目立つようになったとも考えられるため、蛍光写真撮影法による確認が必要である。

1)最新医学大辞典 第2版;医歯薬出版株式会社,1996
2)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:抗てんかん剤の副作用-歯牙黄染;FAX.DI-News, No.1124,1995.8.30.
3)アクロマイシンVカプセル添付文書,1997.2.改訂
4)高久 史麿・監修:治療薬マニュアル;医学書院,1997
5)堀岡 正義・編:DI実例集第2集;薬業時報社,1978.p.236
6)杉田 久美子・他:小児に対するテトラサイクリン系抗生物質投与-質疑応答第20集;日本医事新報社,1993.p.304
7)佐藤 誠:テトラサイクリンによる黄染歯の治療法-質疑応答第6集;日本医事新報社,1979.p.330
8)大野 紘八郎:テトラサイクリンによる歯の着色機構について-質疑応答第9集;日本医事新報社,1982.p.77
9)高久史麿・他:治療薬マニュアル;医学書院,1203

*薬剤名・企業名のみ修正

 

[065.615TC:1998.1.16.古泉秀夫・2015.4.16.一部修正]