Archive for 3月, 2015

トップページ»

§蹌々踉々[4]

火曜日, 3月 31st, 2015

            鬼城竜生

                              『ワクチン接種歴』

例えば、『貴方は破傷風ワクチンを接種していますか』と聴かれて、はっきり『している』と回答できる人が、どの程度いるだろうか。破傷風が特殊すぎるというのであれば、『麻疹ワクチン』でもいい。摂取したことがあるのか無いのか。乳幼児の頃のワクチンの接種歴など、殆どの人々が正確に記憶していないというのが実情ではないか。
突然この様な話を持ち出されても、なへんに話の意図があるのか分かりづらいと云うことになるのかもしれないが、先日知り合いが怪我をした時、熱が下がらないということから、破傷風ではないのかという話になり、破傷風ワクチンの接種の記憶にまで立ち至ったというわけである。
種々のワクチンを接種することは重要なことである。しかし、それを当人が明確に認知する手立てが取られていないということは、医療提供側としては怠慢ではないのか。電子化したカードの中に、ワクチン接種歴を登録する等ということは出来ないのかどうか(呑)。

                                『消炎酵素薬』

抗炎症・腫脹作用、喀痰・膿汁の融解・排泄促進作用、抗生物質の病巣部移行促進作用等を有するとするのがserrapeptaseの薬理作用である。本薬は1995年に行われた再評価における承認条件として、厚生労働省から必要なdataを揃えるよう求められていた。そこで武田薬品では、自主的に慢性気管支炎、足関節捻挫を対象とした試験を実施したが、プラセボ対比で有効性を示すことができなかった。これを受けて1月19日の厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品再評価部会は、本薬の有効性を検証する再試験の実施を指示。同社は再試験の実施に向け、試験デザインを見直す方向で検討を進めてきたが、最終的に有効性を証明することは困難と判断。武田薬品は2月21日販売を打ち切り、自主回収すると発表した。1968年に承認された同薬は、2009年度決算ベースで年間売り上げ約67億とされている[読売新聞,第48496号,2011.2.21.]。本薬の後発品は10製品ばかりある。後発品の定義は全く同じ薬ということである。当然これも消滅する定めにある(呑)。

                                「ついに出た」

2011.2.11.読売新聞によれば、担当医が常用量の5倍の治療薬を記載した処方箋の誤記を見逃したとして、薬剤師法の規定違反で損害賠償を求める判決が出されたという。「治療薬は劇薬指定され、重大な副作用を生じ得る医薬品で、常用量の5倍だったことを考慮すれば、担当医に紹介すべきだった」ということで薬剤師の過失を認定したという。従来であれば、医師の処方誤記が問題になるだけで、調剤した薬剤師に迄は手が伸びなかったのではないか。それが今回は薬剤師の責任が明確に判断されている。責任ありとされた今回の事例の薬剤師は調剤担当者なのか、それとも調剤の鑑査をした薬剤師なのか。新聞の記事からは読み取ることが出来なかったが、詳細な判決文を読みたいものである。何れにしろ顔の見える薬剤師ということは、このような責任の取らされ方をするということなのだろう(呑)。

                                『独善の排除』

薬剤師の書く論評を読む度に、何時も不思議に思うのは、なぜ同じような論調になるのだろうかということである。常に反省しつつ、業務の改善をしなければ、しなければという理論の展開は、一見前進的に見える。しかしこれは、いってみれば、何も改善はしておらず、旧態依然とした業務に流されていたというこになるのではないか。改善できない言い訳も、やれ員数が足りない、やれ院外処方箋の発行がされていない等の、似たり寄ったりの内容で、殆ど御当人の改善しようとする力量は棚上げされている。入院患者の服薬指導は、仕組みが完成して金が取れるようになったから実施するという仕事ではない。薬の専門家として、当然しなければならないことと認識していれば、どんなに忙しかろうと、患者の元に行かなければならない。何も向こう受けを狙った改革が必要なわけではなく、患者の治療にどう貢献するかが重要なはずである(呑)。

(2015.3.31.)

『ジェネリック医薬品批判記事への反論?』

火曜日, 3月 31st, 2015

                          魍魎亭主人

週刊文春1月8日号に「本当は危険なジェネリック医薬品」と題する取材記事が収載されたという。残念ながら読むことは出来なかったが、概ね次のような趣旨だったようだ。
『最近、薬局で安価なジェネリック医薬品を勧められた経験がある人も多いのではないか。厚労省は医療費削減のために、積極的に推奨しているが、果たして本当に先発品と同じ効き目があるのだろうか。その効果と共に安全性や製造ルートなどを多角的に検証した』と云うことのようである。

この記事に対してNPO法人ジェネリック医薬品協議会(GEDA)の理事長が1月15日文書による反論を行ったという。
『ジェネリック医薬品への正しい理解が広く速やかに浸透し、それが着実に定着していくことを標榜しているGEDAとして反論する。以下に詳述する前に、ジェネリック医薬品について、正しい理解のために重要なポイントを簡潔に述べると、①主薬(薬効成分)、その投与量、投与方法、更に生物学的同等性試験(薬物が血中へ入る量と入る速さ)が一定の許容域の範囲であれば、同等医薬品と見なせる

②上記①の考えは、欧米では1960年代に、日本国内では1970年代初めに確立され、医薬品の製造承認の基準に盛り込まれている。

③上記①は、1997年に国際薬学連合のみならず、世界保健機構及び国際医師会連盟においても公式に承認され国際承認事項になっている。

④上記①に関する学問領域は、実に日進月歩し信頼性が増している。そして日本の医薬品製造技術及び行政規制が、上記①を十分保証できる水準にあることは、国の内外で高く評価されているところである[週刊薬事新報,第2874号(20-21),2015]。

細かなことを云うようだが、『同等医薬品と 見なせる』と云うことはどういうことか。『見なす』とは『①見てこれこれだと仮定又は判定する。実際はどうであるかにかかわらず、こういうものだとして扱う』、『②見極める、見届ける。』、『③見るようにする。』、『④性質を異にする事物について、法律上これを同一視する。『推定』と区別して用いる』ということになるようで。

つまり『見なせる』と云うことは、あくまで性質を異にするものであるが同一視すると云うことであって全く同じではないと云っているのではないか。更に最近のTV-CMで、製剤的な工夫を施し、より飲み易くしている等と宣うているが、それは最早後発品とは云えない。その製剤的な工夫が、賦形剤等の変更により行われているとすれば、最早『生物学的同等性』が維持されているとは考えられない。

賦形剤の変更により、吸収率が上がり、副作用が発現したなどと云うこともあり得るのである。

           (2015.3.25.)

OTCエパデール「試験的販売」へ

火曜日, 3月 31st, 2015

                      魍魎亭主人

高脂血症治療薬「エパデール」(一般名:イコサペント酸エチル)のスイッチOTC薬が4月中旬にも発売される見通しだった。しかし、販売に際して「薬局・薬店が適正に販売できているか」を見極めるというOTC薬としては前代未聞の「適正使用調査」が義務付けられることになったという。そのため調査が終わるまでは店舗を限定した「試験的な販売」が行われるという。調査は最短でも3ヵ月は要すると見られ、「本格販売」までにはまだ相当の時間がかかりそうだという報道がされていた。

「エパデール」のスイッチOTC薬については、承認段階から問題があったと云うことである。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の一般用医薬品部会で、日本医師会の常任理事が、エパデールのOTC化に断固反対の姿勢を崩さず、審議は難航を極めた。しかも全会一致の慣例を無視して、医師会の常任理事以外が賛成するという賛成多数の原則論で珍しく厚生労働省が押し切ったという経緯がある。

「エパデール」のスイッチOTC薬化に、厚生労働省が珍しく執念を燃やしたのは、今後のself-medicationの導入推進の手段として、導入を図りたいと考えていたからではないかと思われる。従って今後も慢性疾患の治療薬をswitch化すると云う底意が隠れている。医師会はそれを見抜き、断固反対という姿勢を見せていたのではないか。それからすると今回の「適正使用調査」は、簡単に済むような話にはならないのではないかと思われる。

医師会の意見が種々加味されれば、「適正使用調査」の内容は、簡単なものにはならないことが予測される。現在、具体的な内容が未だ見えてこないので何とも云いようがないが、厚生労働省も経緯があるだけに、抵抗できないのではないか。

不思議なことは、「エパデール」のような、血液検査をしなければその効果が判定できないような薬を何故OTC薬化しようとするのか。更に何回か薬を服めば治癒するという性質の薬ではない。この様な厄介な薬をOTC薬化するのでは無く、短期間の使用で結果の出る薬はもっと有りはしないか。

例えば肉芽形成作用のある傷薬の外用剤あるいは化膿性皮膚疾患に使用可能な外用剤等々、医師の処方では無く、医師の指示書に基づいて薬局で個人が購入する、その様な手法の薬の導入があってもいいのでは無いか。

「エパデール」のOTC薬は2社が販売したが、1社は「適正使用調査」の困難さから撤退したと聞く。これでは仏造って魂入れずで、意味がない。医療用医薬品のOTC薬化については、どの範囲の薬を取り上げるのか、基本的なところを決めてから話を進行させるべきではないのか。何でもかんで槍玉に挙げるというやり方をしていたのでは、医師会の反論を受けるだけで終わってしまう。

                                 (2015.3.31.)

「タミフルの予防投与について」

日曜日, 3月 8th, 2015

KW:薬物療法・タミフル・予防投与・抗インフルエンザウイルス剤・oseltamivir phosphate・A型インフルエンザウイルス・B型インフルエンザウイルス

Q:TVでタミフルの予防投与について紹介されていたが、詳細な情報について知りたい。

A:抗インフルエンザウイルス剤『タミフル』(中外製薬)は、oseltamivir phosphate(JAN)を75mg/Cap.の製剤と30mg/gの3%ドライシロップ剤が市販されている。
本剤の適応は『A型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防』(添付文書,2014.11.)。
また、本剤の効能・効果については、以下の通り記載されている。

『1.治療に用いる場合には、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症と診断された患者のみが対象となるが、抗ウイルス薬の投与がA型又はB型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ、患者の状態を十分観察した上で、本剤の使用の必要性を慎重に検討すること。
特に、幼児及び高齢者に比べて、その他の年代ではインフルエンザによる死亡率が低いことを考慮すること。
2.予防に用いる場合には、原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。

(1)高齢者(65歳以上)。
(2)慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者。
(3)代謝性疾患患者(糖尿病等)。
(4)腎機能障害患者(<用法・用量に関連する使用上の注意>の項参照)。

また、本剤の用法及び用量は
『1.治療に用いる場合:通常、成人及び体重37.5kg以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口投与する。』
『2. 予防に用いる場合:(1) 成人 通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日1回、7~10日間経口投与する。(2) 体重37.5kg以上の小児 通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日1回、10日間経口投与する。』とされている。
また、本剤の使用上の注意として
『3.1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)に対する安全性及び有効性は確立していない。4.本剤はA型又はB型インフルエンザウイルス感染症以外の感染症には効果がない。5. 本剤は細菌感染症には効果がない』の記載がされている。
本剤は警告として次の記載がされている。
警 告
1.本剤の使用にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。
2.10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、(1)異常行動の発現のおそれがあること、(2)自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。
なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。
3.**インフルエンザウイルス感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤の予防使用はワクチンによる予防に置き換わるものではない。

用法及び用量に関連する使用上の注意として
『1.治療に用いる場合には、インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること(症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。
2.予防に用いる場合には、次の点に注意して使用すること。
(1) インフルエンザウイルス感染症患者に接触後2日以内に投与を開始すること(接触後48時間経過後に投与を開始した場合における有効性を裏付けるデータは得られていない)。(2) インフルエンザウイルス感染症に対する予防効果は、本剤を連続して服用している期間のみ持続する。
3.成人の腎機能障害患者では、血漿中濃度が増加するので、腎機能の低下に応じて、次のような投与法を目安とすること(外国人における成績による)。小児等の腎機能障害患者での使用経験はない。
Ccr(mL/分)>30投与法(治療):1回75mg 1日2回
Ccr(mL/分)>30投与法(予防):1回75mg 1日1回
Ccr(mL/分)10<Ccr≦30投与法(治療):1回75mg 1日1回
Ccr(mL/分)10<Ccr≦30投与法(予防):1回75mg 隔日
Ccr(mL/分)≦10投与法:推奨用量は確立していない

                                                [Ccr:クレアチニンクリアランス]

本剤により『重大な副作用』として、次の副作用が報告されている。
1.ショック、アナフィラキシー(蕁麻疹、顔面・喉頭浮腫、呼吸困難、血圧低下等発現)2.肺炎(薬剤性、感染性等鑑別)。3.劇症肝炎、肝機能障害、黄疸(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、Al-Pの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸)。4.皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)。5.急性腎不全。6.白血球減少、血小板減少。7.精神・神経症状(意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等発現)。8.出血性大腸炎(血便、血性下痢等の異常)。
尚、本剤の作用機序について、オセルタミビルリン酸塩の活性体はヒトA型及びB型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害し(IC50:0.1~3nM)、新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制するとされている。
本剤の『薬事法上の効能・効果等の変更に伴う留意事項』として、「予防」投与に関する通知文書は『保医発1218第1号(平成21年12月18日)』-「タミフルカプセル75及び同ドライシロップ3%の薬事法上の効能・効果等の変更に伴う留意事項の一部改正について」により通知されている。

1)タミフルカプセル75添付文書,2014.11.
2)厚生労働省保険局医療課長発 地方厚生(支)局医療指導課長等宛通知 保医発1218第1号,平成21年12月18日

           [035.1.OSE:2015.1.15.古泉秀夫]

「シマハスノハカズラについて」

土曜日, 3月 7th, 2015

KW:薬名検索・エボラ出血熱・シマハスノハカズラ・縞蓮葉葛・テトランドリン・防己・ボウキ・粉防己・フンボウキ

Q:エボラ感染防ぐ?ハーブとして報道されたシマハスノハカズラについて

A:報道された内容は以下の通りである。
『西アフリカで流行中のエボラ出血熱への感染を、中国原産のハーブで防止できる可能性があるとの論文を、米テキサス・バイオメディカル研究所の桜井康晃研究員らのチームが、米科学誌サイエンスに発表した。
研究チームは、エボラウイルスが細胞の中に入って感染にいたる仕組みを研究。中国原産の植物シマハスノハカズラに含まれる成分の「テトランドリン」が、感染を防ぐことを発見したという。
論文によると、同研究所の高度安全実験(BSL4)施設で、致死量のエボラウイルスに曝したマウス7匹に、体重1kg当たり90mgのテトランドリンを2日に1回投与したところ、約半数の3匹が10日後も生存した。テトランドリンを投与しなかったマウス7匹は、8日後までに全て死亡した。
桜井研究員は、「今後、サルなどでテトランドリンの効果を確認し、エボラ出血熱の薬の開発につなげたい」と話す。
「テトランドリンは中国以外では人間への投与が承認されておらず、投与量によっては人体に有害。現在60種類あるエボラ出血熱の治療薬の候補と同様に、更なる研究が必要だ」としている。
エボラ出血熱は西アフリカのリベリア、シェラレオノ、ギニアを中心に流行、22日現在で2万3729が感染、うち9604人が死亡した。

シマハスノハカズラ(縞蓮葉葛・和名)の基源は、ツヅラフジ科(Menispermaceae)ハスノハカズラ属の植物で、漢方名粉防己(フンボウキ)である。異名として解離、載君行(サイクンコウ)、石解。木防己及びウマノスズクサ科の植物、広防己、異葉馬兜鈴の根。
シマハスノハカズラ(Stephania terandra S.Moore)、石蟾蜍(セキセンジョ)、山烏亀(サンウキ)、漢防己、倒地拱(トウチコウ)、金糸吊鼈(キンシチョウベツ)、白木香(ハクモッコウ)とも云われる。多年生の常緑のつる性よじのぼり植物。根は円柱形で塊状のこともある。外皮は淡褐色か茶褐色。開花期は4-5月、結実期は5-6月。山野丘陵地、草むら、低木林の縁に生える。分布は浙江、安徽(アンキ)、江西、福建、広東、広西及び台湾等。
[採取]秋、掘り出し、洗浄するかコルク部を剥ぎ、長い棒切りにして太い根を縦に2-4分割し、日干しにする。
[成分]粉防己の根にはalkaloidが約1.2%含まれるが、それらはテトランドリン(tetrandrine:C38H42O6N2)、デメチルテトランドリン(demethyl tetrandrine:C36H40O6N2)、ファンチノリン(fanchinoline)、一種のフェノール性alkaloid(C34H42O6N2)、メニシン、メニシジン及びシクラノリン等である。
粉防己のalkaloidは過去様々な異名で呼ばれた。テトランドリンはハンファンチンAとかファンチニンと呼ばれ、ファンチノリンはデメチルテトランドリンとかハンファチンB、フェノール成分はハンファチンCと呼ばれていた。メニシンは、もとはムファンチンA、メニシジンはムファンチンBと呼ばれ、それぞれテトランドリンとデメチルテトランドリンの異性体である。
粉防己の根にはこのほかフラボノイド配糖体、フェノール類、有機酸、精油などが含まれる。
[薬理]①鎮痛作用を示す。煎剤・抽出液には鎮痛作用がある。但し、量を増やすと鎮痛作用がかえって減弱する。総alkaloidの作用が最も強く、有効投与量は50mg/kg、LD50は241-251mg/kgである。ハンファチンCの鎮痛作用は、A・Bに比べて強いが、毒性も強いため実用価値はない。ハンファチンA・B及び粉防己の流エキスか煎剤には、共にかなりの鎮痛作用が有り、Aの作用はBより強く、有効投与量はモルヒネの10-20倍であることが解っている。モルヒネの鎮痛効力を100とすると、粉防己の総alkaloidは約13で、抗ヒスタミン薬であるdiphenhydramineはハンファンチンA及びCの鎮痛作用を著しく高めるが、毒性には影響しない。
②消炎及び抗アナフィラキシー作用、③循環器系の作用(降圧作用、血管拡張作用)、④横紋筋への作用(弛緩作用)、⑤平滑筋に対する作用(子宮平滑筋の抑制)、⑥抗菌、抗原虫、抗悪性主要作用、⑥筋弛緩作用。⑦利尿作用:作用は顕著で、尿量を47%増加した。
[効能]粉防己は利尿、鎮痛薬としてリウマチ性関節炎、高血圧、神経痛、水腫、腫れ物、毒蛇による咬傷などに使用される。
tetrandrineには、消炎・抗アナフィラキシー、解熱、鎮痛、血管拡張、顕著な降圧作用がある。降圧作用は、血管運動中枢と交感神経中枢の抑制及び血管に対する直接作用による。また、下垂体-副腎系を刺激して、副腎皮質機能を亢進させる。demethyl tetrandrineはtetrandrine類似の作用を持つがやや弱い。
[用法・用量]粉防己4.5-9gを水で煎じて服用する。外用には新鮮な根を擂り潰して患部に塗布する。

[註]中国では“防己”として木防己と漢防己を最もよく用いる。但し、日本ではツヅラフジ科清風藤(Sinomenium acutum(Thumb.)Rehd.et Wils)(オオツヅラフジ)を漢防己としており、中国で云う漢防己とは違うので、注意を要する。

1)読売新聞,第49961号,2015.3.1.
2)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[4];小学館,1998
3)三橋 博・監:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988
4)神戸中医学研究会・訳・編:漢薬の臨床応用;医歯薬出版株式会社

                               [015.9.STE:2015.3.6.古泉秀夫]

『蠟梅について』

土曜日, 3月 7th, 2015

KW:生薬・蝋梅・唐梅・ロウバイ科・ロウバイ属・Calycanthus fertilis・蜡梅・腊梅・ソシンロウバイ・素心蝋梅・マンゲツロウバイ・満月蝋梅・トウロウバイ・唐蝋梅

Q:蝋梅は漢方としての使用例は見られるのか

A:中国、温帯アメリカ原産。庭木にされる落葉低木。12~2月に芳香のある花を付ける。花は萼片と花弁の区別のない多数の花被片から成る。花被片*は淡黄色で蝋を染み込ませたような光沢がある。最も内側の数片は暗紫色である。葉は対生、全縁である。秋に熟す果実は3cm程の長卵形で色は暗褐色、光沢はなく、蛹か昆虫の巣を想像される。

基原:ロウバイ科(Calycanthaceae)ロウバイ属。蜡梅:Chimonanthus praecox(L)Link.(ロウバイ)の萼付きの花を乾燥したもの。

image

性味:味は辛・苦、性は平。

別名:唐から導入されたことから唐梅、蠟梅、臘梅。ソシンロウバイ(素心蝋梅)、マンゲツロウバイ(満月蝋梅)、トウロウバイ(唐蝋梅)等の栽培品種がある。よく栽培されているのはソシンロウバイで、花の中心まで黄色く、花全体が黄色である。ロウバイの基本種は、花の中心部は暗紫色で、その周囲が黄色である。

処方名:蜡梅花、蜡梅、腊梅花、腊梅。

生薬名:蝋梅花。

使用部位:蕾

薬効:熱による眩暈、煩悶、口渇、喉の腫れに用いる。但し、漢方では用いられないとするほか、漢方では解熱、鎮咳、鎮痛薬として、熱病煩渇、咳嗽、小児麻疹、百日咳、火傷などに用いられるとする報告及び頭痛、発熱、口渇、胸内苦悶、多汗等の治療に用いられるとする報告がみられる。

使用方法:鎮咳、解熱に蝋梅花1日量4~8gに300mLの水を加え、1/3量になるまで煎じたものを3回に分服する。蝋梅花20~30gを200mLのゴマ油に漬けたものは火傷に効果があるの報告が見られる。
              
成分:花蕾にはcineole、borneol、linalool、camphor、farnesol、テルピネオール、セスキテルペノール、インドール、アルカロイドのカリカンチン及びイソカリカンチン、フラボン類のmeratin、α-carotene、キモナンチン等を含む。その他精油としてα-ocimene、3-hexenol、1,8-cineole等を含むとする報告がある。

有毒部:種子。種子に含まれるalkaloidのカリカンチン(calycanthine)は、哺乳動物に対し、ストリキニーネ様作用を示し、ウサギの摘出腸管、子宮に対して興奮作用が見られる。また麻酔ネコ、イヌに対して心臓抑制による血圧降下作用が認められた。ストリキニーネ様作用による平均致死量は静脈注射でマウスに対して43.79±1.89mg/kg、ラットに対し17.16±0.82mg/kg。その他、calycanthineは中枢神経を麻痺させ、手足の硬直性痙攣を来す。calycanthineの致死量はマウス44mg/kg(静脈注射)、ラット17mg/kg(静脈注射)であるとする報告も見られる。

*花被片:通常、花弁と萼が形態的に類似する、あるいは殆ど区別できない場合に、花弁と萼をまとめて花被片という。

1)指田 豊・他:身近な薬用植物-あの薬はこの植物から採れる;平凡社,2013
2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報,2003
3)三橋 博・監:原色牧野和漢薬草大圖鑑;北隆館,1988
4)神戸中医学研究会・訳編:漢薬の臨床応用;医歯薬出版,1979

                                 [011.1.CAL:2015.1.6. 古泉秀夫]

『不思議な人だね』

火曜日, 3月 3rd, 2015

             魍魎亭主人

韓国の大統領が新年の記者会見で、安倍首相との会談について「日本側の姿勢の転換、変化が重要だと述べたと云う。いわゆる従軍慰安婦問題で、日本側の歩み寄りが必要との考えを改めて示したものだ。朴氏は日本との関係改善に意欲を示す一方で「一歩前進できる首脳会談にしなければならないが困難がある。元慰安婦のおばさん達が生存している間に旨く解決することが重要だ」と述べ、更に「合意案がでても、国民の目線に合わなければ役に立たない」と語り、国内世論も納得出来る内容でなければならないとの立場を強調した[読売新聞,第49914号,2015.1.13.]という。

よく解らないが、これは明らかにハードルを上げたということだろう。つまり国民の代表である大統領が、自ら国民を代表していないと表明したも同じで、どのような提案であれ、自身では判断せず、国民が納得する回等がない限り解決はないと発現したと云うことではないのか。色々な政治状況の中で、完全解決を目指すことが困難な場合が多いことは常識だろう。その様な状況下で、厳しい現実を認識していない国民の納得などと云うのは、得られる可能性は低い。その時にどういう決断をするのか、国民を代表する大統領の責任だろう。

この問題、日本の軍隊が朝鮮人の婦女子を強制的に駆り集め、部隊の性処理をさせたという事であるが、軍隊の女性狩りによる強制確保と云う話しは、稀代の詐話師の騙りを見抜けなかった朝日新聞の記者が、念を入れて報道した結果だということになっている。その意味では、我が国としては、軍隊が強制的に女狩りをしたという云い分を認めるわけにはいかない。入口論議としてこの辺の話しは合意できるのか。まして戦争中は売春禁止法は成立していない。つまり当時の日本では、売春は違法行為ではなく、商売として成立していたわけである。

国外に同じシステムを持ち込んだことの是非については、異論があるかもしれない。しかし韓国が期待するような回答にはならないと思われることから、これを問題解決の第一位に据えている限り、交渉の場は開かれない。これ以外に相談すべき外交問題がなければ、呑気な顔をしていてもいいが、もし近々に片付けなければ成らない課題があるとするなら、今のままでは済まないのではないか。お互いに知恵を絞って落としどころを考えるべきではないのか。韓国にも国民がいるだろうが我が国にも国民はいる。今、我が国の国民は賃金の抑制や消費税の増税、物価の上昇等、諸々の経済的圧力に頭を垂れているのが現状である。この問題で安易に韓国に賠償金を払うなどと云うことになれば、国民は納得しない。現在民間の基金から支払われている見舞金があるはずである。戦後賠償の請求は全て終了したという国の約束を乗り越えての請求に対して、その様な手立てがされていると理解している。

つまり何もしていないわけではないのに、あえてそこに固執すると云うことであれば、本質的に何が目的なのかと云うことを明確に云うべきなのではないか。

参照:元慰安婦を含む個人への補償問題は、1965年の請求権協定で「完全かつ最終的に」解決している。日本政府は、95年にアジア女性基金を設立し、韓国の元慰安婦61人らに、首相のお詫びの手紙とともに「償い金」も支給した。韓国政府は当初基金設立を評価したが、その後、日本の法的責任を追求する民間団体と歩調を合わせる立場に転じた。

              (2015.3.3.)

「胎児危険度分類」

日曜日, 3月 1st, 2015

 

魍魎亭主人

薬を使用する際、最も重要な情報源は添付文書である。但し、添付文書に記載されている情報の全てが、完全な情報というわけではなく、中には曖昧なままの情報が記載されている項目もある。病気の治療に使用される薬は、ヒトに投与されるものであり、治験段階でヒトに投与したときのdataが記載されていなければならない。しかし、実際には「胎児毒性」のdataは、ヒトでの臨床試験は出来ないので、動物実験の結果を受けて、曖昧模糊としてたdataが記載がされている。

 

tramadol hydrochlorideの妊婦、産婦への投与

 

1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。トラマドールは胎盤関門を通過し、新生児に痙攣発作、身体的依存及び退薬症候、並びに胎児死亡及び死産が報告されている。また、動物実験で、トラマドールは器官形成、骨化及び出生児の生存に影響を及ぼすことが報告されている。]

2.妊娠後期の婦人へのアセトアミノフェンの投与により胎児に動脈管収縮を起こすことがある。

 

acetaminophenの妊婦、産婦への投与

 

1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]

2.妊娠後期の婦人への投与により胎児に動脈管収縮を起こすことがある。

3.妊娠後期のラットに投与した実験で、弱い胎仔の動脈管収縮が報告されている。

上記のような添付文書情報から『妊娠期間』中の服用に関する質問を受けたとしても、投与の安全性について回答することは難しい。その様な場合、我々が頼りにしていた情報源が、『米食品医薬品局(FDA)のヒト用医薬品と生物学的製剤の胎児危険度分類(A,B,C,D,X)』のdataであった。そのdataが今回改訂されることになったと云うことは、我々は今後何に依拠して回答すればいいのかと云うことになる。 米食品医薬品局(FDA)は2014年12月3日ヒト用医薬品と生物学的製剤の胎児危険度分類(A,B,C,D,X)を廃止すると発表した。

2015年6月30日から新たな分類を含めた妊娠・授乳中の医薬品等の使用に関する表示のルールを適用する。 FDAによると新分類は現行の「妊娠中」「分娩・出産時」が「妊娠期間」に集約、「授乳婦」は「授乳期間」に変更される。また、処方前後あるいは服薬中の妊娠検査や避妊の必要性、薬剤による生殖機能への影響等に関する情報の表示として「生殖の可能性がある男女」のカテゴリーが加わる。 新分類は前記の三つのサブセクションを示した上で、当該医薬品又は生物学的製剤の妊娠中あるいは授乳中等の使用に伴うリスクについて詳細を示すことが義務付けられている。

現行のA、B、C、D、X分類の廃止理由について「妊娠あるいは授乳中の処方判断は個別化されており、母体、胎児あるいは乳幼児への複雑なリスク・ベネフィットを含んでいる」と指摘。「現行の分類はあまりにも簡素で、それぞれの項目がグレーディングシステム(等級制度)と勘違いされ、製品のリスクに対する見方の過度な単純化につながっていた」。 今回の改編により、医療関係者の当該患者への処方判断及び患者への処方せん薬に関する説明を支援する仕組みの強化が期待される。FDAによると米国では、毎年600万人以上が妊娠しており、妊娠中に平均3~5種類の医薬品が使用されている。喘息や高血圧等の慢性疾患では治療薬を妊娠・授乳中でも継続することが必要になったり、同時期に急な体調不良等で医薬品の使用が必要になる場合もある。 新たに承認される医薬品や生物学的製剤は、承認後速やかな適用が、既に承認されている製品に対しては、段階的な適用を求めていくと説明している[Medical Tribune,2014.12.18.]。

 

■ヒト形態異常のbaseline risk

ヒト胎児の形態異常の多くは、原因が明らかでなく、環境や遺伝など、多くの複合因子の合併により発生するとされている。ヒトの場合、特に原因が特定できなくても生じる胎児の形態異常は、軽微なものを含めると全体の約3%、形態異常以外のものを含めると約5%存在するとされる。これをbaseline riskと云っている。

 

■妊娠初期のall or none theory

殆どの薬物は、妊娠初期(多くは受精後18日未満)に使用した場合、薬物による影響があるとすれば、着床しないか流産などにより妊娠継続そのものが不能となる。これをall or none theory(全か無かの法則)という。

 

■妊娠時期による薬物毒性の違い

妊娠初期:催奇形性が問題となる。 例えば、妊娠期間中に使用可能な鎮痛剤として何があるかという質問に対して、『使用経験が長く、これまでを妊婦に投与しても胎児に何か影響があったという報告は無い』と云うことを根拠としてacetaminophenの投与が可能と判断したとしても、ヒトの妊娠期間中を対象とした臨床試験が行われたわけではなく、飽く迄、疫学調査の結果で有り、胎児毒性を完全に否定するものではないということが出来る。更に妊婦側の問題として、baseline risk(基準危険)が存在する。 そのため薬による毒性はないと判断して、服用可の指示をしたとして、出産後に何等かの障害が児に見られたとすれば、家族はbaseline riskとしての障害とみるのではなく、薬物の服用が原因であると判断する可能性は否定できない。 FDAの今回の判断も、「妊娠あるいは授乳中の処方判断は個別化されており、母体、胎児あるいは乳幼児への複雑なリスク・ベネフィットを含んでいる」とすることから、単純に記号化することは、妊娠期間中の薬の服用に関する説明としては簡単すぎる。例えば質問された薬について危険性はないと判断したとしても、妊婦の持つbaseline riskは無視することは出来ない。それらの事実を丁寧に説明するとすると、単純なA・B・Cで判断するわけにはいかないと云うことなのだろう。 臨床で多く使用されている酸性のNSAIDsは胎児の動脈管早期閉鎖などの危険性につながる可能性が有り、妊娠中、特に妊娠末期での使用は避けるべきであるとされている。しかし、チアラミド(tiaramide)のような塩基性のNSAIDsは比較的安全性が高いと云われているが、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用がないため、臨床効果が十分でない場合もある。aspirinは妊娠後期の妊婦が服用すると、出産時に異常出血したり胎児の血流に悪影響が出る恐れがあるので、出産予定日12週以内の妊婦では禁忌になっている。

妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension:PIH)は、妊娠20週以降に発症する高血圧症で、分娩後12週迄に改善するものを妊娠高血圧症候群に分類する。従来は蛋白尿と浮腫を含めた三主徴を基準として妊娠中毒症・子癇前症と呼ばれていた。現在でも腎機能との関連は重要であるとされている。 PIHの原因は不明であるが、胎盤機能不全との関連が深いとする報告もある。従って子宮内胎児発育遅延(FGR)や常位胎盤早期剥離の合併がよく見られる。リスク因子として、初産婦又は前回PIH既往、多胎妊娠、高齢、肥満妊婦、高血圧合併、高血圧の家族歴、自己免疫疾患、尿路感染症・歯周病などがあげられる。

症状:

▶母体血圧の上昇と血管透過性の亢進、浮腫、胸腹水。

▶腎機能障害と蛋白尿、尿酸値の上昇。

▶血小板減少、血液凝固能の異常。

▶眼華閃発・視野障害、脳血管障害・子癇発作。 病型分類

▶妊娠高血圧(gestational hypertension):妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、分娩後12週迄に正常に服する場合を云う。

▶妊娠高血圧腎症(preeclampsia):妊娠20週以降初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので分娩後12週迄に正常に服する場合を云う。

▶加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia):①高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20週迄に存在し、妊娠20週以降蛋白尿を伴う場合。②高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週迄に存在し、妊娠20週以降にいずれか又は両症状が増悪する場合。③蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週迄に存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合。

▶子癇(eclampsia):①妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こしたもの。②てんかんや二次性痙攣が否定されるもの。

▶治療・管理:根治治療法は妊娠の終結のみ。①現在、PIHを治療できるevidenceのある方法は存在しない。主に高次医療機関への搬送と経母体胎児ステロイド投与の時間稼ぎ、また脳血管障害の発症を防ぐため、重症例では降圧療法が試みられる。②根本的な治療は、経腟分娩若しくは帝王切開による妊娠の終結(termination)である。

▶軽症妊娠高血圧症の治療:①安静を勧め、自宅で不可の場合入院させる。自宅でも血圧測定を励行させ、重症化の場合は直ぐ受診させる。②高圧薬使用の有用性はなく、妊娠の転帰に有意な効果はない。既に投薬歴のある高血圧合併妊婦では、血圧を見ながら投与量の調節を行う。③摂取カロリー制限、軽度塩分制限(7-8g/日)もこれまで推奨されてきたが、evidenceはない。但し、過度の間食については制限する。

▶重症妊娠高血圧症の治療:①満期であれば、降圧療法を行いながら妊娠の終結を計る。早産域の場合は、降圧療法を行い、母体の症状、児の発育とCTG(Cardio Toco Gram:胎児心拍陣痛図所見)を見ながら待期・妊娠終結を判断する。②急激な高圧は胎児胎盤循環と腎循環に悪影響を及ぼすため、目標を拡張期血圧90-100mmHg、収縮期血圧155-160mmHg程度とし、平均血圧で前値の15-20%以内の高圧にとどめる。必ずCTGで胎児のwell-being(健康状態)を把握する。

▶薬物療法:重症PIHに対する内服の第一選択薬はmethyldopa(アルドメット)又はlabetalol(トランデート)である。

処方例

methyldopa(250mg)2-6錠 分2-3で開始。最大2000mg/日。

labetalol(50mg) 3-9錠 分3で開始。最大450mg/日。

*methyldopa(血圧降下剤):妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。また、妊娠中の投与により、新生児に浮腫による著しい鼻閉を生じたとの報告がある。][添付文書,2014.3.]

*labetalol(αβ遮断性降圧剤):妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場合には、投与上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。投与に際しては、母体及び胎児の状態を十分に観察し、過度の血圧低下とならないよう注意すること。胎児及び新生児に血圧低下、徐脈等の異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと[妊婦への投与例において、胎児に徐脈等、新生児に血圧低下、徐脈等の症状が認められたとの報告がある。][添付文書,2013.9.]。

処方例

hydralazine(10mg) 3-4錠 分3-4で開始。最大200mg/日。

nifedipine(10mg) 1-4CR錠 分1-2で開始。最大80mg/日。

他の内服薬の選択肢としてhydralazine(アプレゾリン)又はnifedipine(アダラート)も存在し、併用も可能であるが、これによって高次医療機関への紹介が遅れるべきではない。

*hydralazine(血圧降下剤):妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[動物実験(マウス)で催奇形作用が報告されている。またヒト胎児においても経胎盤的に移行し、新生児に血小板減少等を起こすおそれがある。][添付文書,2012.6.]

*nifedipine(持続性Ca拮抗剤:高血圧・狭心症治療剤):①妊婦(妊娠20週未満)又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと[動物実験において、催奇形性及び胎児毒性が報告されている。]②妊娠20週以降の妊婦に投与する場合には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない]。投与に際しては、最新の関連ガイドライン等を参照しつつ、急激かつ過度の血圧低下とならないよう、長時間作用型製剤の使用を基本とし、剤形毎の特徴を十分理解した上で投与すること。また、母体や胎児及び新生児の状態を十分に観察し、過度の血圧低下や胎児胎盤循環の低下等の異常が認められた場合には適切な処置を行うこと[妊婦への投与例において、過度の血圧低下等が報告されている。]③硫酸マグネシウム水和物の注射剤を併用する場合には、血圧等を注意深くモニタリングすること。[併用により、過度の血圧低下や神経筋伝達遮断の増強があらわれることがある。][添付文書,2013.6.]

処方例

nicardipine(1mg/mL)(注射用Ca拮抗剤)注射液の原液で0.5mL/時から開始。

降圧効果を見ながら0.5-1mL/時ずつ増減。 降圧不良の場合、頭痛や消化器症状など母体症状の重症化があって降圧を急ぐ場合、分娩周辺期の発症の場合、nicardipine(ペルジピン静注液)を用いる。

*nicardipine(注射用Ca拮抗剤):妊婦又は妊娠している可能性がある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること[動物実験で、妊娠末期に投与すると、高用量では胎児死亡の増加、分娩障害、出生時の体重減少及びその後の体重増加の抑制が報告されている。] [添付文書,2014.4.]

処方例

magnesium sulfate(2g/20mL)原液で5mL/時から開始。

*magnesium sulfate(マグネゾール静注用)(子癇の発症抑制・治療剤):重症PIHの分娩開始から産後24時間迄、子癇発作予防のため、本剤を用いる。降圧効果は無い。Mg中毒(呼吸抑制・腱反射消失)があれば直ちに中止。

注意事項:妊婦にはACE阻害薬とアンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)及びそれらの合剤は胎児腎障害・羊水過少を招くので禁忌である。妊娠前から内服している場合には、妊娠が判明した時点で切りかえる(初期の催奇形性は指摘されておらず、内服中の妊娠判明で中絶を勧める理由はない)。 従来、妊婦への投与を判断する場合、催奇形性を主体に考えてきたが、今後はそれだけでなく、胎児が体内にある期間を通して考えることが必要だといえる。その他、妊娠期間中の投与が安全とされる薬の服用について考える場合も、常にbaseline risk(基準危険)のあることを説明する事も必要であり、更に安全ではないかとされている薬について、飽く迄『疫学調査の結果』であり、精度を高めるためには、更に広汎な情報収集が必要であることを伝えることも必要ではないかと思われる。

 

1)北川道弘・他:妊婦・授乳婦のための服薬指導Q&A;医薬ジャーナル社,2010

2)小林 浩・監:産婦人科研修ハンドブック第2版;海馬書房,2014

3)林 昌洋・他:今これだけは知っておきたい 第2版 妊娠・授乳とくすりQ&A-安全・適正な薬物治療のために;JHO,2013

(2015.2.25.)

§蹌々踉々[3]

日曜日, 3月 1st, 2015

          魍魎亭主人

          「水準を測る物差し」

薬科大学の6年制移行に伴う実務実習が、いよいよ現実の問題として身近に迫ってきた。現在までに、教育に携わる薬剤師の水準問題について、色々論議され、専ら実習指導者としての薬剤師の適正を論ずるものが多く見られたが、不思議なことに、実習受け入先である病院の水準についての論議は、あまり見られなかったような気がする。しかし、実際的な問題として云えば、人の問題もさることながら、教育現場としての施設(病院薬局)の業務水準がより問題なのではないか。例えば、350床の病院であれば、全国どこでも同じ水準の医療を提供していると考えていいのか。また全ての病院の薬局は全く同じ設備を保有していると考えていいのか。例えば製剤室を保有しているのか。その製剤室は、湿性と乾性に区分されているのか。あるいは無菌製剤室はあるのか。注射薬調剤室はあるのか等々、受け入れ施設の水準を測る物差しを明確にすることが必要ではないのか(呑)。

           「副作用にならない薬の服み方」

高脂血症の治療薬を服用し始めた。その程度の検査値なら薬の服用はいいのではないかと申し上げたのだが、年齢的な問題もあるからというのが処方した医師の御宣託である。院外処方せんが出されたため、調剤薬局で調剤して貰ったが、御多分に漏れずお仕着せの薬の説明書を渡された。その説明書を拝読しているうちに、記載されている横紋筋融解症の前駆症状に引っかかった。筋肉痛、脱力感の記載がされているが、何処の筋肉が痛むのか、筋肉痛の痛みの程度はどの程度なのかの判断の基準については何の記載もなく、貰った側には不満が残った。例えばキーボードの叩き過ぎで出る筋肉痛と、前駆症状としての筋肉痛の区別がつかなければ、判断のしようがないということである。脱力感についても、どういう状態になるのかの具体的な説明がされていない。それ以上に、今度は是非、横紋筋融解症にならない服み方について、説明を求めたいと思っているがどうであろうか(呑)。

               「時の流れ」

日本薬剤師会雑誌の判型がA4判に変わったのは、2003年1月号からと記憶している。従来、我が国で多用されてきたB5判という判型は、和紙の判型であり、貿易障壁の一つとして、米国から強硬な苦情が出された。つまり官庁への提出書類をA4からB5に書き換えるのが大変だということである。そこで官庁への提出書類の判型はB5からA4に変更された訳だが、それに伴って、今後、官庁で使用する用紙は、全てA4判とすることが決められた。従来、我が国で発行される雑誌は、B5判であったが、その後A4版に移行するものが増えてきた。雑誌が移行するのは、何等かの規制があるからではなく、B5判に比べてA4判の方が割付がし易いという実務的な問題であり、特に横組みで写真や図を多用する雑誌の場合には出来上がりがいいということである。ただし、未だにB5版の判型を守っている雑誌もあるが、時の流れに抵抗するの意識でやっているのかどうか(呑)。

             軸足をどこに置くのか

薬学教育6年制の施行に伴い、学校教育法施行規則が改定され、薬学部の薬学専任教員数に関し、その1/6は概ね5年以上の実務経験を有する薬剤師が必要であると規定している。これは従来の『物』に偏った薬学教育から『人』に軸足を移し、病人の治療に貢献する医療人としての薬剤師を教育するということを最大の目的とした教育改革の一環である。つまり臨床経験のある薬剤師を教官として配置するということを目的としたものである。それを受けて大学の方も、病院薬剤師の引き抜きをしているようであるが、殆どの事例で、教官として大学に囲い込んでいるようであるが、これは違うのではないか。現職の病院薬剤師が、教育するから臨場感あふれる臨床教育ができるのであって、大学に抱え込んでしまったのでは、古典的な臨床経験を伝達することで終わってしまう。薬科大学は最低限実習用の調剤薬局を併設し、可能であるなら近隣の医療機関と提携し、その提携病院の薬剤師を教官として採用すべきである。出来るなら付属病院を持つ位の気概がいるのではないか(呑)。