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『青酸配糖体等の植物毒』

木曜日, 2月 5th, 2015

 

KW:語彙解釈・青酸化合物・cyanogen・青酸配糖体・cyanogenic glycoside・シアン化水素・HCN・ビターアーモンド・amygdalin・キャッサバ・

Q:青酸配糖体等の植物毒について

A:青酸化合物(cyanogen)とは、グルコシダーゼや酸、アルカリで処理すると青酸(HCN)を発生する天然有機化合物の総称である。その分布は広く、バラ科、イネ科、マメ科、キク科、シダ類など約100科2000種類の植物、蛾、ヤスデなどの動物にも存在している。化学構造的には、α-hydroxynitrile(cyanhydrin)類のOHに糖が結合した物が青酸配糖体(cyanogenic glycoside)、脂肪酸がエステル結合した物が青酸脂肪(cyanogenic lipid)に分類される。また、酸や酵素ではHCNを発生しないが、アルカリ処理で微量のHCNの生成が見られる物をプソイド青酸配糖体(pseudo-cyanogenic glycoside)と呼ぶ。
以上の化合物は有毒で、食中毒の原因になる。

image青酸配糖体(cyanogenic glycoside)は、主に植物由来の一群の化合物で有り、加水分解でシアン化水素(HCN)を遊離するので、天然の毒物として注意が必要である。
このグループに属する物としてL-phenylalanine由来の物として、鎮咳生薬、苦扁桃(ビターアーモンド:Prunus amygdalus var.amara:バラ科)の種子、アンズ(Prunus armeniaca)の種子:杏仁、桃(Prunus persica)の種子:桃仁、梅(Prunus mume)の種子などに含まれるアミグダリン(amygdalin)、バクチノキ(Prunus zippeliana)の葉に含まれるプルナシン(prunacin)などが知られる。

青酸配糖体を含む植物組織を潰した場合、同じ植物内の別の細胞にある糖加水分解酵素が配糖体と接触し、加水分解を開始する。amygdalinはβ-グルコシダーゼ型酵素(エムルシン:emulsin)によってprunasin更にはmandelonitrileへと連続的に加水分解される。mandelonitrileはベンズアルデヒドのシアノヒドリン体である。mandelonitrileの成分はベンズアルデヒドと有毒なHCNに別の酵素なよって加水分解される。ビターアーモンドの果実仁はamygdalinと加水分解酵素を含んでおり、摂取すると非常に危険である。一方スウィートアーモンド(Prunus amygdalus var.ulcis)の果実仁は無毒である。これは酵素を含むものの青酸配糖体を含まないからである。

amygdalinそのものは特に動物に対しては毒性を示さないが、加水分解酵素を一緒に摂取することにより毒性を発現する。毒性はamygdalinの加水分解によっても生成するが、prunasinは天然に存在する青酸配糖体で有り、ブラックチェリー(Prunus serotina)の種子、チェリーローレル(Prunus taurocerasus)の種子と葉で見つかっている。

食用植物であるキャッサバ(あるいはタピオカ)(Manihot esculenta:トウダイグサ科) も青酸配糖体であるlinamarinとlotaustralinを生産し、澱粉状の塊根の処理には長時間の加水分解と煮沸によるHCNの放出駆除が必要で有り、その後に食用にする。

image青酸配糖体含有植物

バラ科[梅、杏子、林檎、梨、ビターアーモンドの種子仁]
マメ科[シロツメクサ、アカシア、アオイマメ、カラスノエンドウ]
スイカズラ科[セイヨウニワトコ]
トウダイグサ科[キャッサバ(リナマリン:linamarin)]
イネ科[筍(タキシフィリン:taxiphyllin)、[ソルガム=モロコシ:若芽(タキシフィリン:taxiphyllin)]
アマ科[亜麻種子(linamarin)]

等の植物体には青酸配糖体を含むものがあり、腸内細菌のβ-glucosidaseで分解されると、HCNを遊離する。この酵素は青酸配糖体と共に植物体の中にあるし、サラダで摂取するとレタス、セロリ、茸などにも含まれている。
筍は青酸配糖体を最も高濃度に含むものの一つであるが、他の青酸配糖体と異なり、タキシフィリン(taxiphyllin)は熱に弱く、35-40分の煮沸で分解する。

果物や野菜は、健康的な食事に取って重要であるが、カナダ消費されている果物や野菜の幾つかに少量の天然毒素が含まれている。以下はヒトの健康に有害な影響を及ぼす可能性のあるこうした天然毒性等への曝露を減らすための助言である。
imageシアン化合物を産生する果物や野菜
Stone Fruits(核果):アプリコット、チェリー、桃、梨、プラム、プルーンなどは種子仁に青酸配糖体を含む。果肉には毒性がないが、種子仁を摂食すると青酸配糖体から有害な青酸が生じる。シアン化合物の致死量は0.5~3mg/kg体重である。
◆キャッサバ根及び筍:青酸配糖体はキャッサバ根や筍にも含まれる。これらを摂食する際には、適切な調理が必要である。キャッサバには主にスイートとビターの2種類がある。
スイートキャッサバは、新鮮重量1kg当たり50mg以下のシアン化合物を含むが、ビターキャッサバは50mg以上を含む。ビターキャッサバを摂食する際には、擂り潰して水に漬けるなどの処理が必要である。筍に含まれるシアン化合物は、98℃で20分間茹でれば70%近くのシアンが除去される。
◆アキーフルーツ(Blinghia sapida):ムクロジ科アキー属の果実(ジャマイカ)。未熟なアキーフルーツはhypoglycinと呼ばれる毒素を含み、重大な健康被害をもたらす。この果物は、自然に完熟した物でなければ有毒である。
◆馬鈴薯:ジャガイモは天然に幾つかの糖alkaloidを含み、最も多いのはソラニンとチャコニンである。少量の糖alkaloidはジャガイモの香りの元であるが、量が多いと苦味や口中の灼熱感がある。糖alkaloidは高温の油で揚げても壊れないため、調理では壊れない。天然毒素は、主に皮又は皮の直下に有り、ジャガイモが緑色に変色していた場合、毒素があることを占めす。但し、皮が赤や茶色のジャガイモの場合、外観では緑色の変化が解らないことがある。芽が出たり傷があるジャガイモは摂食しないようにする。ジャガイモの保存は湿気のない冷暗所で行う。
◆ぜんまい(fiddleheads):ゼンマイ科。生又は調理不十分なぜんまいによる中毒の報告がある。ぜんまいの茎又は葉から得られる配糖体としてオスマンダリン(osmundalin)が存在する。酵素分解でosmundalactoneに変化するが、酸で処理するとブテノライド(butenolide)を生成する。ブテノライドには昆虫の摂食阻害活性がある。
◆ニンジン:生の人参を食べたときに、苦味が合ったり石油の臭いがすることがある。これは人参がエチレンの存在下で保存されたことを証明している。エチレンは果物を熟させるためのホルモンで有り、人参に作用すると、風味を損なうので、人参は果物と一緒に保存すべきではない。

1)海老塚 豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
2)田中治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002
3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;2001
4)果物や野菜中の天然毒素:食品安全情報No.4;2005.2.16.[カナダ食品検査局Web.サイト
http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/foodfacts/fruvegtoxe.shtml 。原題Natural Toxis in Fruit and Vegetables]
5)食品等の安全性に関する情報:東京都福祉保健局,H17.9.21.

        

[615.8.HCN:古泉秀夫]