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「スギヒラタケについて」

日曜日, 9月 28th, 2014

KW:中毒・毒性・スギヒラタケ・杉平茸・腎機能低下・急性脳症・透析患者

Q:スギヒラタケの喫食により急性脳症・死亡例がでたという報道が従前あったが、その原因の詳細は判明したのか

 

A:スギヒラタケ(杉平茸)は、キシメジ科スギヒラタケ属の茸の一種である。学名:Pleurocybella porrigens。地域別の名称として、『かぬが、かぬがきのこ、かのか、かのが、かのかきのこ、しぎかのか、しぎきのこ、すぎあおけ、すぎおわけ、すぎきのこ、すぎわかえ、すぎもだせ、すぎわかえ』以上秋田県。『こけ、しらふさ、やたは、すぎごけ』以上新潟県。その他、『かぬか(秋田、岩手県)、すぎかのか(秋田、宮城、山形県)、すぎごけ(新潟、福井県)、すぎたけ(秋田、福島、福井県)、わかい、わかいきのこ(青森、秋田県)』等の地方名が存在する。

分布は広く北半球の温帯以北の地域で発生する。 晩夏から秋にかけてスギ、マツなどの針葉樹の倒木や古株に群生する白色の木材腐朽菌。特徴として傘は白色でほとんど無柄で特徴はない。耳形から扇形に成長し、ふちは内側に巻いている。襞は白色で密。襞の中ほどに枝分かれが見られる。柄は白色。

東北・北陸地方では昔から食用とされてきた茸であるが、2004年秋に杉平茸を食べた人のうち46例の脳症患者が報告され、特に腎疾患の患者では14例が死亡し、現在も病因追求がされているとする報告がみられる。2004年の杉平茸の収穫量は2003年の約2倍あったとされ、通常では径2-6cmの所、2004年では径が大人の掌大もあるお化け杉平茸が多数観察されたという。これらのことから何らかの環境変化が杉平茸の有毒化に影響したのではないかとする想定も報告されている。

中毒の発生機序:現時点では不明である。原因となる毒素は見出されていないが、シアンを含有する。シイタケ、マイタケなど食用のキノコにはない共役型脂肪酸類(エレオステアリン酸など)のほか、異常アミノ酸類やレクチンを含有する。
症 状:新潟県から報告された11例では、年齢は53-89歳、男性4例、女性7例。そのうち9例に種々の程度の腎機能障害を認めたが、半数以上は血液透析患者であったとされる。初発症状は眩暈、全身倦怠感、歩行困難であったが、嘔吐や下痢は伴っていない。更に数日後には振戦様不随意運動、ミオクローヌスが出現し、更に24時間以内に難治性てんかん重積状態に陥っている。しかし、脳炎や髄膜炎を示唆する発熱、頭痛、項部硬直は認められていないとされる。
腎臓に疾患のある人を中心に急性脳症を起こす。原因不明の中枢神経障害で、発症初期には脚の脱力感やふらつき、さらに数日経つと、筋肉の不随意運動が出現、その後急速に麻痺や全身性の痙攣、意識障害を起こし、脳浮腫が進行し、死亡する。主な症状は意識障害、不随意運動、上肢振戦、下肢脱力と報告されている。
診 断:特異的な診断法はなく、杉平茸の摂食の有無について詳細に問診する。
治 療:全身管理と対症療法を行う。新潟県の例では難治性てんかん発作の治療のため半数以上の症例で気管挿管・人工呼吸が行われている。また1例は入院後に血液透析を施行された。その他、治療として①胃洗浄、②吸着薬、③下剤、④輸液、⑤対症療法、⑥血液浄化法(重症の場合のみ)。
予 後:11例の予後は1例は軽快退院、6例は入院中、死亡4例であり、死亡率は約36%である。

1)成田傳蔵・編集協力:きのこ;株式会社北隆館,1997
2)黒川 顕・編:中毒症のすべて;永井書店,2006
3)厚生労働省:自然毒のリスクプロファイル:キノコ:スギヒラタケ;http://www.mhlw.go.jpスギヒラタケ,2014.9.24.
4)長沢 英史・監:日本の毒きのこ;フィールドベスト図鑑,2003
5)森 博美・他:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011

                             [63.099.PLE:2014.9.24.古泉秀夫]

「スギヒラタケ」の喫食により発生した事故等の報道及び行政対応は次の通りである。

(1)新潟県によると、急性脳症を発症したのは、山北町4人、朝日村3人、広神村2人、荒川町1人、神林村1人の計11人。うち50歳代の男性と、60歳代、70歳代の女性の3人が死亡した。いずれも手足の震えや痙攣などの症状を訴えて、9月28日から今月14日までの間に県内の病院に入院し、急性脳症と診断された。発症前の2週間以内に自生のスギヒラタケを食べていた。現在も入院している7人の半数は意識障害などがあるという。県は「原因は特定できていないが、キノコ自体が原因とは考えにくい。コケや花粉など何かが付着していた可能性もあるとしている。」
また山形県も21日、9月以降に同県置賜地方の60歳代の女性と庄内地方の70歳代の男性の2人が、急性脳症の疑いで死亡していた発表した。同県保健薬務課によると、女性は入院前にスギヒラタケを食べていたことが確認された。13人はいずれも人工透析を受けたことがあるなど、腎機能が低下していた。新潟県は「スギヒラタケは食べても安全だが、腎機能に障害がある人は食べるのを控えた方がいい」と注意を呼び掛けている。
急性脳症:急性の中枢神経障害で、原因が特定できないものの総称。足がふらつくなどの初期症状が数日続いた後、自分の意思と関係なく手足が痙攣したように動く。その後、数時間から1日で、痙攣の悪化や意識障害にいたる。国内では集中して発生した例は過去にない [読売新聞,第46190号,2004.10.22.]。
(2)新潟、山形両県で50-70歳代の男女5人が急性脳症により死亡した問題で、秋田県内でも男女2人急性脳症で死亡していたことが22日分かった。他に2人が同様の症状で入院しているという。同県健康対策課によると、死亡したのは60歳代の男性と40歳代の女性。2人は先月から今月初めに掛け、急性脳症と診断されて死亡した。2人は新潟と山形のケースと同様、人工透析を受けるなど腎機能が低下していた。このうち死亡した男性は食用キノコ「スギヒラタケ」を食べていたという。入院している2人も腎機能の低下者で、スギヒラタケを食べていた。4人の死亡・入院は、県内の医療機関から同日夕、保健所に連絡が入った。一方、既に急性脳症による死亡が確認された山形県庄内地方の70歳代の男性も、スギヒラタケを食べていたことが22日、県により確認された。また、3人の死亡が確認された新潟県では、新たに3人に意識障害など急性脳症の疑いのあることが分かった。3人とも人工透析を受け、うち少なくとも1人はスギヒラタケを食べていたという。
厚生労働省は同日、腎機能が低下している人はスギヒラタケを食べるのを控えることを呼び掛けるよう、各都道府県などに通知した [読売新聞,第46191号,2004.10.23.]。
(3)新潟、山形、秋田の3県で原因不明の急性脳症が相次いでいる問題で、秋田県内で新たに60歳代の男女2人が急性脳症の疑いで入院していることが23日分かった。同県健康対策課によると2人はいずれも9月下旬に全身痙攣などの症状を示し、医療機関で診断を受けた。2人とも人工透析を受けているなどの腎機能低下者で、食用キノコ「スギヒラタケ」を食べていたという [読売新聞,第46192号,2004.10.24.]。
(4)新潟、山形、秋田の3県で原因不明の急性脳症患者が相次ぎ、計7人が死亡した問題で、新潟県は24日、県内の70歳代の女性が同日、急性脳症で死亡したと発表した。この女性は腎機能に障害があり、スギヒラタケを食べた後、意識障害などに陥り、入院していた。急性脳症による同県内の死亡者は4人目 [読売新聞,第46193号,2004.10.24.]。
(5)新潟、山形、秋田の3県で原因不明の急性脳症患者が相次いでいる問題で、秋田県は25日、新たに10人が発症し、うち2人が死亡していたと発表した。県によると、亡くなったのは60歳代男性と70歳代女性。この2人を含む計8人がスギヒラタケを食べていた。亡くなった2人は、9月下旬に意識障害や痙攣などの症状を示し、医療機関で診療を受けた。いずれも腎機能が低下し、人工透析を受けていたという。これで秋田県の発症者は計16人、死者は4人となった。福島県は25日、腎機能障害を治療中で、スギヒラタケを食べた70歳代の女性が急性脳症と診断されたと発表した。入院したが既に快方に向かっているという。9月14日にスギヒラタケを食べ、同27日に症状が現れたという [読売新聞,第46194号,2004.10.26.]。
(6)新潟、山形、秋田、福島の4県で原因不明の急性脳症が相次いでいる問題で、新たに山形、石川、宮城の3県で計5人が急性脳症と診断されたことが26日分かった。いずれも入院中だが、命に別状はないという。これで発症者は6県で35人が確認された。新たに発症が確認されたのは、山形県の80歳代の男女、60歳代の女性の計3人と、石川県に住む80歳代の女性、宮城県の60歳代の女性。5人とも腎機能が低下しており、発症前にはスギヒラタケを食べていたという [読売新聞,第46195号,2004.10.27.]。
(7)東北や北信越で原因不明の急性脳症患者が相次いでいる問題で、秋田県は27日新たに80歳代と60歳代の女性2人が急性脳症と診断され、死亡していたことを発表した。これで秋田県内の死者は6人となり、全国の死者は3県で計12人となった。県によると、2人は9月下旬に意識障害などの症状を示し、医療機関で診断を受けた。2人とも腎機能が低下していたうえ、発症前にスギヒラタケを食べていた [読売新聞,第46196号,2004.10.28.]。
(8)原因不明の急性脳症が相次いでいる問題で、山形県は2日、同県天童市の80歳代の男性が10月上旬に発症、下旬に死亡したと発表した。男性は人工透析を受けており、発症前にスギヒラタケを食べていた。厚生労働省によると、急性脳症と診断された患者は、1日現在で46人。死者は同県の男性で14人となった [読売新聞,第46202号,2004.11.3.]。
(9)新潟、秋田県など8県で、スギヒラタケを食べた人を中心に原因不明の急性脳症が起き、死者が出ている問題で、厚生労働省は4日スギヒラタケの成分分析と脳症の関連性を調べるために、緊急の研究班を設置することを決めた。同省では、感染症の可能性もあるとして、各県とともに患者や死者の血液、脳髄液を調べているが、これまでに細菌やウイルスの存在を示す検査結果は出ていないという。このため同省は、スギヒラタケの成分に、急性脳症を起こす原因物質があるとの見方を強めている。研究班は近く、国立医薬品食品衛生研究所の米谷民雄食品部長をトップに、自然毒や中毒などの専門家を中心に結成される見通し。急性脳症は先月21日新潟県に住む50-80歳代の男女11人の発症が報告された。その後、秋田県や山形県などの東北地方で相次ぎ確認され、今月2日現在で8県で46人、うち14人の死亡が確認されている。46人のうち43人が、食用キノコのスギヒラタケを食べ、腎機能に障害を持っていることが判明している [読売新聞,第46204号、2004.11.5.]。
(10)新潟、秋田など8県でスギヒラタケを食べた腎臓病患者が急性脳症を発症するケースが相次いでいるが、同じ地域で、昨年と7年前にもスギヒラタケを食べた腎臓病患者が急性脳症となり、1人死亡していたことが、日本腎臓学会の緊急調査で日5日明らかになった。"スギヒラタケ脳症"が今年だけの異常事態でなかった可能性が出てきた。厚生労働省も事態を重く見て過去の患者の洗い出しを進めることを決めた。同日東京都内のホテルで開かれた学会の緊急報告会で、学会理事の下条文武・新潟大教授が発表した。患者2人のうち1人は透析歴10年の60代女性。昨年9月、スギヒラタケを食べて数日後に足元のふらつきを訴え入院した。女性は今年9月にもスギヒラタケを食べて全身の痙攣と意識障害を発症、現在も入院治療が続いている。もう1人は透析歴5年の60代女性で、1997年10月1日にスギヒラタケを食べたところ、8日後に意識障害を起こし、11日に入院。6日後に死亡した。最近になって女性の夫が問題に気付き、当時の日記を調べ通報した。この他緊急報告会では、新潟県内の病院の協力でスギヒラタケを食べた透析患者290人を調査したところ、12人が発症、発症率は4%だったことが発表された [読売新聞,第46205号,2004.11.6.]
(11)東北地方などで原因不明の急性脳症患者が相次いでいる問題で、新潟県の70歳代の男性が11日、急性脳症で死亡した。県によると、男性は先月下旬、食用キノコのスギヒラタケを食べた後、痙攣などの症状を訴え、1週間後に入院したが、意識障害に陥って亡くなった。男性は腎機能に疾患があったという [読売新聞,第46211号,2004.11.12.]。
(12)秋田県は29日、急性脳症と診断されて入院した同県内の80歳代男性と50歳代女性が、それぞれ今月中旬と下旬に死亡したと発表した。2人とも腎機能が低下しており、発症前にスギヒラタケを食べていた。同県の死者は8人となった [読売新聞,第46299号,2004.11.30.]。
静岡大の河岸洋和教授(天然物化学)らのグループが、食べると急性脳症を引き起こす疑いのあるキノコ「スギヒラタケ」に毒性があることを、マウスを使った実験で突き止めた。29日に開かれる厚生労働省の「急性脳症の多発事例研究班」の第一回会合で報告する。グループは、今年、急性脳症の発症が相次いだ甲信越地方から約30キロのスギヒラタケを入手。エキスを抽出し、水に溶かしたり、熱を加えたりして、通常、人が摂取する際の10倍近い量を与えたところ、ほとんどのマウスが死ぬなどした。急性脳症との因果関係は不明確で、原因物質の特定もできていない。河岸教授は「これが研究のスタート。前提は腎臓の悪い人だが、健康なマウスでも多量に与えれば死ぬことがわかった。原因物質の特定には1年程度かかるだろう」と話している [読売新聞,第46228号、2004.11.29.]
野生のキノコ「スギヒラタケ」を食べた人の間に相次いだ急性脳症の原因究明のため、厚生労働省が設置した「急性脳症の多発事例研究班」の初会合が29日開かれ、動物実験が2件報告された。実験方法は異なるが、脳症患者の発生地域で採れたキノコには毒性があったが、患者報告がない地域で採れたキノコは毒性が認められないという結果が出ており、原因物質を特定する上で注目される。静岡大の河岸洋和教授(天然物化学)は、脳症患者が相次いだ地域から入手したスギヒラタケをすりつぶして水に溶かし、煮沸してエキスを抽出、濾過してマウスに与えたところ、マウス3匹は全て死亡した。濾過前のエキスを与えても、6匹中5匹が死亡した。高崎健康福祉大の江口文陽教授(健康栄養学科)は、群馬県や長野県などから採集したスギヒラタケからエキスを抽出し、健康なマウスに投与したが、変化はなかった。また腎機能を低下させたラットにエキスを投与したり、キノコそのものを食べさせたりしたが、発症しなかった。群馬、長野両県は、これまで患者の発生は報告されていない [読売新聞,第46299号,2004.11.30.]。
食用キノコ「スギヒラタケ」のエキスをマウスに注射すると、強い毒性で腎臓に障害がでることが、金沢大大学院の太田富久教授(天然物化学)の研究で明らかになった。昨年秋、東北・北陸地方で、腎障害を持つ人がスギヒラタケを食べて脳症を起こす例が多発したが、この原因解明の手がかりになると期待される。太田教授らは、昨年秋に東北・北陸地方で採れたスギヒラタケを90度で約30分加熱し、エキスを抽出。これをマウスのおなかに体重1gあたり1mgを注射したところ、10匹中7匹が1日以内に死んだ。死んだマウスは、赤血球が壊れてショックを起こした状態で、腎障害が起きていると見られた。100度で加熱して抽出したエキスは、毒性がなかった。味噌汁を作る程度の加熱では壊れない、毒性のある糖蛋白質等の物質が、スギヒラタケか、その表面に付着した細菌に含まれていたと見られ、これが血液中に入って赤血球を壊し、毒性を発揮した可能性がある [読売新聞,第46297号,2005.2.7.]。
2004年秋にキノコのスギヒラタケを食べた腎障害の患者が、相次いで急性脳症を発症した問題で、スギヒラタケに、筋肉の細胞を壊す毒性がある可能性を、高崎健康福祉大(群馬県)の江口文陽教授(キノコ学)が突き止めた。筋肉細胞の破壊は、腎不全や脳症につながることもあり得るため、「毒性解明の可能性が出てきた」。20日に秋田市で開かれる日本きのこ学会で発表する。江口教授は、正常なラットと人為的に腎不全にしたラットを、通常の餌を与える群とスギヒラタケを与える群に分け、それぞれ血液を分析した。スギヒラタケを食べた群では正常ラット、腎不全ラットとも、脳症の発生を示す酵素や、筋肉細胞の破壊を示す酵素が、血液から検出された。特に腎不全ラットでは、筋肉破壊を示す酵素が、正常ラットの5.7倍も多かった。骨格筋が融解・壊死(えし)する人間の病気としては、「横紋筋融解症」が知られている。壊れた筋肉細胞から流れ出した成分が、腎臓に負担をかけるため、急性腎不全を併発することが多い。また一般に、腎不全が重くなると、脳症を起こすことがある。仏とポーランドでは、スギヒラタケと同じキシメジ科のキノコ「キシメジ」を食べた人が横紋筋融解症になって死亡したとの報告がある。教授は別に、東北-九州の26都府県78地点で昨年秋に採取したスギヒラタケを、正常マウスに食べさせた。47地点のキノコに毒性があり、食べたマウスは12-48時間後に死んだ[毎日新聞,2006.9.19.]。

                                                            食安監発第1119001号
                                                            平成16年11月19日

都道府県
保健所設置市   衛生主管(部)局長 殿
特別区

                                      厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

 

                      急性の脳症に疑う事案の発生について

標記については、平成16年10月22日付け健疾第1022005号、食安監発第1022003号により、スギヒラタケについて腎機能の低下している方への安全性が、確認されるまでの間、これらの方々に対してスギヒラタケの摂取を控えるよう注意喚起をお願いしたところですが、今般、新潟県から公表された急性脳症を疑う死亡例について照会したところ、腎機能障害の有無が不明であることがわかりました(スギヒラタケを発症3日前に摂食)。
つきましては、現在、急性の脳症を疑う事案についてスギヒラタケの摂食との関係に限らず広く原因究明のための調査に努めているところであり、原因が究明されるまでの間、念のため、腎機能の低下していない方も含めた一般の方に対し、スギヒラタケの摂食を見合わせるよう注意喚起をお願いします。

なお、平成20年に次の発文書が発出されている。

                                                                20消安第7339号
                                                            平成20年11月10日

各都道府県特用林産担当部長殿

                                          農林水産省消費・安全局農産安全管理課長
                                                        農林水産省林野庁経営課長

                          スギヒラタケの摂取について

スギヒラタケの摂取については、急性脳症を疑う事案が発生した平成16年10月以降、摂食を控えるよう毎年注意喚起を行ってきており、本年も「スギヒラタケの摂取について」(平成20年10月10日付け20消安第7339号農林水産省消費・安全局農産安全管理課長、林野庁経営課長通知)により通知したところです。
スギヒラタケと急性脳症の関係について、農林水産省委託プロジェクト研究の枠組みの中で「スギヒラタケ事件の化学的解明とその応用展開」を進めてきたところ、今般、スギヒラタケの成分が急性脳症発症の原因となる可能性を示唆する成果が得られました。つきましては、スギヒラタケの摂取を控えるよう、関係者への一層の注意喚起をお願いいたします。
なお、研究成果の詳細については、現在、学術論文として投稿する準備が行われているところですので、論文が公表されましたら改めてお知らせいたします。また、スギヒラタケの特徴、主な関係機関の連絡先及びQ&Aを林野庁のホームページ(http://www.rinya.maff.go.jp/puresu/h16-10gatu/1026sugihiratake2.htm)に掲載して情報提供を行っていますので参考としてください。

「内部被曝に使用される薬剤」

木曜日, 9月 25th, 2014

KW:薬名検索・被爆・内部被曝・ヨウ化カリウム・ラディオガルダーゼカプセル・potassium iodide・ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物・iron(III)hexacyanoferrate(II)

Q:内部被曝に使用される薬剤について

A:薬価収載されている薬剤で、その承認適応として『放射能の内部被曝』を持つ薬剤は現在のところない。ただ、承認適応は無いが、使用例が報告されている薬剤、新たに導入された薬剤として、次の薬剤が報告されている。

[321]無機質製剤
ヨウ化カリウム丸50mg「日医工」 (日医工)
1丸中にヨウ化カリウム 50mg含有する黒褐色の丸剤である。
添加物として、カンゾウ末、センブリ末、トウモロコシデンプン、グリセリン、セラックを含む。
本品の1丸重量は約120mgである。

ヨウ化カリウム「ヨシダ」 (吉田製薬)
原末(99.0%)

一般名:ヨウ化カリウム(potassium iodide)。分子式:KI =166.00。
性 状:無色又は白色の結晶又は白色の結晶性粉末である。水に極めて溶けやすく、エタノール(95)にやや溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。本品は湿った空気中でわずかに潮解する。
適応症:甲状腺腫(ヨード欠乏によるもの及び甲状腺機能亢進症を伴うもの)
下記疾患に伴う喀痰喀出困難:慢性気管支炎、喘息。
第三期梅毒。
禁 忌:[1.ヨウ素過敏症患者[ヨウ素誘発甲状腺腫発現恐れ。]。 肺結核患者[結核組織に易集合。再燃恐れ。]。
用法及び用量:甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺腫には、ヨウ化カリウムとして1日5-50mgを1-3回に分割経口投与。この場合は適応を慎重に考慮すること。慢性気管支炎及び喘息に伴う喀痰喀出困難並びに第三期梅毒には、ヨウ化カリウムとして通常成人1回0.1-0.5g(2丸-10丸)を1日3-4回経口投与する。なお、いずれの場合も、年齢、症状により適宜増減する。
使用上の注意(慎重投与):1.甲状腺機能亢進症患者[ヨウ素誘発甲状腺腫発生。]。2. 甲状腺機能低下症患者[症状悪化。]。3.腎機能障害患者[血清カリウム濃度過剰、症状悪化。]4.先天性筋強直症患者[カリウムにより症状悪化。]。5.高カリウム血症患者[症状悪化。]
重大な副作用(用途):長期連用:(1)ヨウ素中毒(頻度不明):結膜炎、眼瞼浮腫、鼻炎、喉頭炎、気管支炎、声門浮腫、喘息発作、前額痛、流涎、唾液腺腫脹、耳下腺炎、胃炎等の症状があらわれることがある。更に中毒症状が進行すると発疹、面疱、せつ、蕁麻疹、水疱、微熱、甲状腺腫、粘液水腫等の症状発現。(2) ヨウ素悪液質(頻度不明):皮膚の粗荒、体重減少、全身衰弱、心悸亢進、抑うつ、不眠、神経過敏、性欲減退、乳房の腫大と疼痛、骨盤痛発現。
その他の副作用(頻度不明):過敏症: 発疹等。消化器  悪心・嘔吐、胃痛、下痢、口腔・咽喉の灼熱感、金属味覚、歯痛、歯肉痛、血便(消化管出血)等。その他:かぜ症状、不規則性心拍、皮疹、原因不明の発熱、首・咽喉の腫脹等 
高齢者:一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意。
妊婦、産婦、授乳婦等:1.妊婦又は妊娠している可能性婦人-治療上の有益性[本剤は胎盤関門を通過し、胎児の甲状腺腫及び甲状腺機能異常発現可能性] 。2. 本剤投与中授乳回避[母乳中への移行が認められ、乳児に皮疹や甲状腺機能抑制発現可能性] 。
小児等:皮疹、甲状腺機能抑制発現可能性。
過量投与:多用量の経口摂取後は澱粉糊又は殻粉糊を投与。チオ硫酸ナトリウム1gを水にまぜ与える。塩類下剤(硫酸ナトリウム30gと250mLの水)。緩和剤として牛乳と卵。高食塩食が排除を速やかにする。発疹には収斂性包帯(酢酸アルミニウム洗浄剤)と酢酸コーチゾン50mgを6時間ごとに与える。
適用上の注意:1.本剤を長期連用する場合には定期的に血清カリウム濃度を測定することが望ましい。2.食直後の経口投与により、胃内容物に吸着されることがあるので、注意すること。また、制酸剤、牛乳等との併用は胃障害を軽減させることができる。
その他の注意:投薬時:本品は吸湿性があり、直接素手で触れないこと。
薬物動態
1.代謝・排泄:摂取したヨウ素の大部分は腎を経て尿中に、少量が糞便中に排泄される。また、唾液、胃液、腸液中に少量が、乳汁中にごく少量が分泌される。腎からの排泄はCl-と同じだが、Cl-の20倍も速い。1) 投与後24時間以内に65%-80%が尿中にあらわれる。
2.薬効薬理:ヨウ化カリウムは体内でヨウ化アルカリとして分布し、病的組織においてヨウ素を遊離する。甲状腺機能亢進症では、ヨウ素は3′,5′-cyclic AMPを介する甲状腺刺激ホルモンの作用を減弱させ、亢進症状を抑制する。また、ヨウ素は気管支粘膜分泌を促進し去痰作用を現す。更に、梅毒患者の肉芽組織に対する選択的な作用により、第三期梅毒患者のゴム腫の吸収促進に用いる。

ヨウ化カリウムの承認適応として放射線曝露時の治療に関する適応は含まれていない。従って『原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について』(原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会,平成14年4月)の報告を参照する。

安定ヨウ素剤予防服用量のまとめ

対象者 ヨウ素量 ヨウ化カリウム量
新生児*1 12.5mg 16.3mg
生後1ヵ月以上3歳未満*1

25mg

32.5mg
3歳以上13歳未満*2 38mg 50mg
13歳以上40歳未満*3 76mg 100mg

*a:新生児、生後1ヵ月以上3歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では、適当である。
*b:3歳以上13歳未満の対象者の服用に当たっては、3歳以上7歳未満の対象者の服用は、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では適当である。また7歳以上13歳未満の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウム丸薬1丸(ヨウ素量38mg、ヨウ化カリウム量50mg)を用いることが適当である。
*c:13歳以上40歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸(ヨウ素量76mg、ヨウ化カリウム量100mg)を用いることが適当である。
*d:なお、医薬品ヨウ化カリウムの製剤の実際の服用に当たっては、就学年齢を考慮すること。7歳以上13歳未満の対象者は、中学生以上に該当することから、緊急時における迅速な対応のために、小学1年-6年生迄の児童に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸、中学1年生以上に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸を採用することが実際的である。また、7歳以上であっても丸薬を服用できない者がいることに配慮する必要がある。
*e:40歳以上については、放射性ヨウ素による被曝による甲状腺癌等の発生確率が増加しないため、安定ヨウ素剤を服用する必要はない。

*f:医薬品ヨウ化カリウム、滅菌蒸留水、精製水、注射用水、単シロップ等は、原子力災害時に備え、あらかじめ準備し、的確に管理すると共に、それらを使用できる期限に注意する。

 

☀ラディオガルダーゼ®カプセル500mg(独・ハイル社-日本メジフィジックス)36Cap./瓶[2010年10月27日製造販売承認取得]

一般名:ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物[iron(III)hexacyanoferrate(II)]500mg/Cap.[鉄として154.7mg相当]。別名:プルシアンブルー(prussian blue)、ベロ藍。
分子式:Fe4[Fe(CN)6]3・xH2O(x=14-16)=859.23(脱水和物として)

禁 忌:本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者。
適応症:放射性セシウム(137Csなど)による体内汚染の軽減
用法・用量:通常、1回6Cap.(ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物として3g)を1日3回経口投与する。なお、患者の状態、年齢、体重に応じて適宜増減する。
用法・用量関連注意
(1)治療開始後は糞便中及び尿中、又は全身の放射能をシンチレーションカウンタ等で適宜測定し、本剤の投与継続の必要性を検討すること。(2)ゴイアニア事故における本剤の投与量を参考に、用量及び投与回数を適宜増減すること。
使用上の注意(慎重投与)(1)不整脈又は電解質異常がある患者[低カリウム血症により症状増悪]、(2)消化管の蠕動運動の障害のある患者[本剤と結合した放射性セシウムが消化管局所に滞留することで放射線障害発現]。(3)鉄代謝異常の患者[長期投与により本剤含有鉄蓄積]。(重要な基本的注意)(1)投与中は定期的に血清カリウム濃度の検査、必要に応じカリウム補給。(2)本剤服用により体内で遊離した鉄が吸収され、蓄積の可能性-投与期間中血清フェリチン等の推移を適宜確認。

相互作用

薬剤名 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
副腎皮質ホルモン製剤、グリチルリチン製剤、利尿剤 低カリウム血症を増悪させる恐れがある。 これらの薬剤はカリウムの排泄作用がある。
テトラサイクリン系抗生物質 テトラサイクリン系抗生物質の吸収が減弱する恐れ。 本剤中の鉄イオンと難溶性のキレートを形成し、テトラサイクリン系抗生物質の吸収を阻害する可能性がある。

副作用(本剤は副作用発現頻度が明確となる臨床試験を実施していない)

  頻度不明
消化器 便秘、胃部不快感
その他 低カリウム血症

高齢者:生理機能低下、副作用発現に注意慎重投与。
妊婦・産婦・授乳婦:治療上の有益性。
小児等:低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性未確立。
過量投与:ゴイアニアの事故において、本剤が1日に20g投与された場合に、胃部不快感が認められたとの報告がある。
適用上の注意:服用時:本剤服用により、便が青みを帯びる場合がある。また、便の変色により放射性被曝に起因する消化器障害による血便等の発現を見逃す恐れがあるので注意。
その他の注意:排泄物等の取扱について、医療法その他の放射線防御に関する法令、関連する告示及び通知等を遵守し、適正に処理すること[放射性セシウムと結合した本剤は主に糞便中に排泄されるため、本剤投与中の患者の糞便中には放射性セシウムが高濃度に含まれる可能性がある。]
薬効薬理:放射性セシウムの排泄促進作用[放射性セシウム(137Cs)を投与したラットに、放射性セシウム投与直後から本剤を11日間経口投与したとき、血液、肝臓、腎臓、脾臓、大腿骨及び全身の放射能を減少した]。
薬物動態:本剤をブタに単回胃内投与又はラットに5日間反復経口投与したとき、本剤は殆ど吸収されず、糞便中に排泄された。

本剤の導入に際し日本メジフィジックス社は、次の文書を配布している。
『放射性セシウムは、原子力関連施設における廃棄物などに含まれているために、災害時において被ばく原因となるリスクがあります。また、医療用(癌治療の放射性線源)や工業用(滅菌や測定)などに広範に使用されている放射性同位元素のひとつです。放射性セシウムによる被ばくが発生した場合の体内汚染軽減のためには、出来るだけ短時間の内に本剤を経口投与することが望ましいことから、今後、国内各地域の緊急被ばく医療対応機関、災害拠点病院等での備蓄の推進が期待されます。
本剤は、国際的には、米国において Strategic National Stockpile の制度に基づき国家備蓄が開始されているほか、世界保健機関(WHO) においても Essential Medicine の一つとして備蓄推奨のリストに上げられるなど、標準的な放射性セシウム体内除去剤として位置付けられています。
一方国内では、厚生労働省による「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、関係する学会等からの導入要望を受け、今回迅速な承認取得に至りました。今後適切な備蓄体制を推し進めるための制度的な枠組みについて、原子力災害対策あるいは国民保護計画の観点から新たに整備されていくことが望まれます。弊社は、本剤に対する社会的なニーズを認識し、本剤の供給を通じて、わが国における原子力災害対策に貢献したいと考えています。』

1)ヨウ化カリウム添付文書、2009年9月作成(第1版)
2)NEWS Release:日本メジフィジックス, 2010.11.4.
3)日本メジフィジックス 医療関係者専用情報, 2010.11.4.
4)ラディオガルダーゼカプセル500mg添付文書,2010.11.

                  [011.1.POT:2011.5.5.古泉秀夫]

「オオイタドリについて」

木曜日, 9月 25th, 2014

KW:健康食品・オオイタドリ・大痛取・大疼取・大虎杖・Reynoutria sachalinensis・Giant knotweed・ダイコジョウ

Q:健康食品としてオオイタドリの話を聞いたが、オオイタドリとはどのような植物か。

A:オオイタドリ(大疼取・大痛取)。タデ科イタドリ属。北海道及び本州中部以北に生える大型の多年草本である。漢名:大虎杖(ダイコジョウ/根茎)。学名:Reynoutria sachalinensis Nakai(同意語: Polygonum sachalinense)。英名:Giant knotweed。イタドリに似るが、イタドリより大型で壮大、葉の裏側がやや白っぽいことで区別される。北海道や東北では大群落をつくる。北海道のアイヌ民族では、傷の治療に葉を揉んで貼る等の治療に使用されていたと報告されている。

本州中部以北に分布する雑草。高さ2-3m、寒い地方の道端や林縁に生育する。茎は直立するが、多少弓形に傾く。葉は互生し、大型で卵形。先端は尖り、基部は心臓形にくぼむ。根茎は太く、中空で地中を横走し、根は網目状に分枝して、土砂に絡みつくので、崖崩れなどを防ぐ。新芽茎を生食、また漬物とする。通常塩を用いずにこの葉を混ぜて、酸味と赤色を帯びさせる。あるいは茹でて、2日位水に浸して煮て食べる。実は魚油に和え、煮て食べる。東北地方では油炒め、和え物、酢の物、サラダなど様々な料理に用いられる。但し蓚酸が大量に含まれているため、喫食する場合灰汁抜きが必要とされている。老茎は竹材に代用し、間垣(風よけの垣根)とする。

含有成分としてquercetin-3-rutinoside(ルチン)とする報告が見られる。その他タデ科の植物ではレスベラトロール(resveratrol)が含まれているとする報告も見られる。resveratrolは、スチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種。系統名は3,5,4′-trihydroxy-trans-stilbeneとされる。幾つかの植物でファイトアレキシンとして機能しており、またブドウの果皮等にも含まれる抗酸化物質として知られる。食品では赤ブドウの果皮と赤ワインなどに含まれる。ピーナッツの皮、イタドリ、グネモン等にも含まれる。また現在はサプリメントとしても市販されており、アメリカを中心に市場を拡げている。海外で主に使用されているresveratrol素材は、安価なイタドリ抽出物であるが、日本では、イタドリ抽出物は医薬品区分に含まれるため、違法サプリメントとなる。

またアントラキノン誘導体は、幾つかの植物、真菌、地衣類、及び昆虫に天然に存在する。植物ではアントラキノン誘導体はタデ科、クロウメモドキ科、マメ科、ツルボラン科、アカネ科などの様々な科の植物に存在する。アントラキノン誘導配糖体としては、ポリゴニン、フラボン配糖体、タンニン、エモジン、エモジンメチルエーテル等が含まれる。

虎杖(イタドリ)に含まれる成分として根にアントラキノン配糖体のポリゴニン、エジン、ポリダチン、レスベラトロール、エモディン、フィスシオン、クリソファノール等が含まれており、アントラキノン配糖体は緩下剤の効果があるとされる。葉にはビタミンC、レイノウトリン等が含まれている。根茎に含まれるresveratrolには長寿の効果があり、ポリゴニンには利尿作用がある。

1)佐合隆一:救荒雑草-飢えを救った雑草たち;全国農村教育協会,2012
2)廣田伸七・編著:ミニ雑草図鑑-雑草の見分け方;全国農村教育協会,2009
3)生化学的農業製品としてのアントラキノン誘導体:http://www.ekouhou.net/生化学的農薬,2014.7.23.

                 (2014.9.24.)

「描く必要があったんですかね?」

金曜日, 9月 5th, 2014

            魍魎亭主人

2014年5月8日の読売新聞(第49665号,2014.5.8.)に『「美味しんぼ」表現に抗議福島・双葉町「県民への差別助長」』の記事が掲載された。

それによると「ビッグコミックスピリッツ」の4月28日発売号に掲載された「美味しんぼ」(作・雁屋哲、画・花咲アキラ)の作中で、福島県を取材してきた登場人物が、鼻血を出すなどの表現があった件を巡り、東京電力福島第一原発の立地自治体の同県双葉町は7日、県民への差別の助長につながるなどとして、雑誌発行元の小学館に抗議文を送った。

抗議文で同町は、「県産農産物は買えない」「福島方面への旅行は中止したい」といった電話が町役場に寄せられているとし、「復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせている」。

鼻血のシーンで、作中の前町長が「同じ症状の人が大勢いる」との内容の発言をしたことに対し、抗議文では、「原発事故直後から全町避難を強いられているが、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はない」とするもの。

最近でこそ購入しなくなったが、昔は発売される毎に購入して見ていた漫画である。新聞報道を見て、その漫画の収載されている号を購入しようとしたが、もう時期がずれていて、手に入れることは出来なかった。

しかし、その後発売された24号と25号と続く、後段の話を見る限り、為にする話で、作者や出版社が云うような、国民を啓蒙するとの意図があるとは思えなかった。現実問題として、現実に福島に住んでいる多くの人々がいる訳で、彼等の中には線量計を持ちながら外来者を案内してくれる人も居るが、別に鼻血が出るとは云っていなかった。

5月25日-26日に架けて、福島県東部の太平洋に面した浜通り地方のほぼ中央に位置し、北は富岡町、西は川内村、南は広野町・いわき市とそれぞれ接している“楢葉町”を主たる訪問地とし、更には富岡町の流されたままの駅、その先の夜の森駅まで行って、福島に一泊したが、誰も鼻血は出さなかったし、その間行き会った誰もが鼻血で悩んでいるという話は聞かなかった。

同じ取材して漫画を書くなら、地元の材料で美味い料理を創って、それを紹介する。地元の元気回復に役立つことをやったらどうだったのだろう。地元の鼻血の問題について、読売新聞に次の記事が出ていた。

☀連載漫画「美味おいしんぼ」の主人公が、福島県内を取材後に鼻血を出す描写が批判を受けている問題で、自民党環境部会は30日、原発事故と鼻血に因果関係はないとする調査結果を発表した。

東京電力福島第一原発から50キロ圏の相馬地方4市町村(相馬市、南相馬市、新地町、飯舘村)で、鼻血症状で医療機関を受診した患者数に、事故前後で大きな変化がなかったという。

調査は、相馬郡医師会が23日、4市町村の66医療機関を対象にアンケート形式で実施。事故後に鼻血の頻度が増えたと訴えた患者の有無を聞いた結果、回答した52機関のうち、49機関が「ない」と答えた。そのうち南相馬市の総合病院大町病院では、鼻血症状を訴えた患者の割合が、事故前の2010年度は0.42%だったのに対し、事故後の11-13年度は0.46-0.33%とほぼ変化はなかった。[読売新聞,第49687号,2014.5.30.]。

地元医師会が調査した結果である。実証的なものとして、理解することが必要だろう。

次の写真は"楢葉町"にある古刹『宝鏡寺』の天井絵である。住職の早川氏は、八体の仏像は勿体ないけど、住んでいるアパートの押し入れに仕舞っているという。なんせ昼間入ることは認imageめられているが、夜泊まることは出来ないとされており、置いておけば盗まれてしまうと云っていた。

10匹いた池の鯉は8匹は盗まれてしまったという。飼っていた鳥は、仕方が無いから逃がしたと云っていたが、鳥小屋で飼っていた鳥を放して果たして生き残ることが出来るかどうか。

しかし少なくとも、何事もなく暮らしていた生活が、地震・津波に続いて、原発が爆発したことによって、生活を奪われてしまったと云うことである。原発事故の結果については、まだ検証されていないが、あれだけ大きな事故にしてしまったのは、政治家、学者を始め、技術者の方々の想像力が欠如していたことに原因があるのではないかと思っている。もう少し地震や津波の危険性を認識し、原子炉冷却のための水回りを十分に検討し、準備しておきさえすれば爆発させることはなかったのではないか。

先日福島に出かけたとき、案内を御願いした馬上勇孝氏が頂いた写真が牛の写真である。富岡駅から夜の森駅までの立ち入り禁止区域、荊棘線で囲われた地域に丁度牛が出てきたとimage云うことで、撮した写真を頂いたが、この牛の姿を見る限り、原発爆発以降、既に3年が経っているが、牛が元気で生きている姿を見ると、体内の異常については分からないが、豊かな自然、牛が食べるのに困らないだけの草が確保できていると云うことが推測できる。

いずれにしろ事実ではない異常事態を書くことは、地元の人達に対して失礼極まりない話で有り、為にする話である。我々は現在、年に1回楢葉町を中心にして、地元病院の労働組合の協力を得て、一晩泊まりで出かけているが、将に貧者の一灯にしかならないが、地元の食材で、地元の酒を呑み、地元の食堂で飯を食うことで、風評被害に抵抗しているつもりでいる。

                         (2014.9.3.)

『禁忌の解釈』

金曜日, 9月 5th, 2014

                  魍魎亭主人

白川 静先生によると、『禁』は林と示とを組み合わせた形。林は木の生い茂る所で、神の住むところとされた。示は神を祀るときに使う机である祭卓の形。祭卓を置き、神を祀る神聖な地域を禁という。そこは神のいる神域で、俗人が立ち入ることを禁止したので、禁は「とどめる、とめる、禁止(してはいけないこと)」の意味となる。『禁忌:習慣上避けるべき事。タブー』。

『忌』は「誡むるなり」とあって敬いつつしんで神に仕える意味である。また忌は跪と音が近く、跪はひざまずくの意味である。己は折れ曲がる形であるから、ひざまずいて体を折り曲げる姿勢をいい、忌はその様な姿勢で、慎んで神に仕える真情、思いを云う字であろうとしている。禁忌(汚れがあるとして禁止すること。タブー)。

所で『1%ディプリバン注(プロポフォール) 』(アストラゼネカ株式会社)の添付文書では、『禁忌(次の患者には投与しないこと)』として、次の3項目が記載されている。
『1. 本剤又は本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2. 妊産婦(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
3. 小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)(「小児等への投与」の項参照)』

また、小児への投与について、次の記載がされている。
『1.低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用 経験がない)。
2.集中治療における人工呼吸中の鎮静においては、小児等には投与しないこと。[因果 関係は不明であるが、外国において集中治療中の鎮静に使用し、小児等で死亡例が報 告されている。]』

所で日本集中治療医学会では、学会の専門医研修認定施設である東京女子医大病院で平成26年2月に小児の人工呼吸中にその児が死亡するという不幸な事例があり、死亡原因にプロポフォールによる鎮静が関与したと報道された。報道では、添付文書に『投与禁忌』と記載されているにもかかわらず、投与したことが問題だとする論調が眼に付いた。

それに対し学会は理事長名で『理事会声明』を出し、『患者によっては重篤な循環抑制や持続投与によりプロポフォール注入症候群(PRIS)を来す危険性があり、我が国や多くの国では小児に対する人工呼吸中の鎮静としては使用しない、いわゆる「禁忌」となっています。本調査結果でも80%近い認定施設では小児に対してこの目的で本薬剤を使用しておりません。
この「禁忌」という用語は「禁止」とは異なり、専門家としての医師の裁量を法的に束縛するものではないとされています。しかし、使用に関しては当該薬に関する十分な知識を有し、患者の安全管理が厳格になされなければならないことは言うまでもありません。本調査結果では、我が国では「禁忌」となっている小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)にプロポフォールを使用している施設である一方、多くの施設では使用していないことも事実です。また、先進諸外国も「禁忌」又は実質的「禁忌」となっている国が多いのですが、いくつかの使用報告の論文が出ており、使用されている実態の存在が推察されます。』としている。

ここで気になるのは『禁忌』に対する理解が些か現実離れしていると言うことである。添付文書の記載内容について、最高裁は『医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全性を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものである。医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことについて特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。』としている。

添付文書の記載事項は、その医薬品を使用する上で「患者の安全を守る」為に必要な事項が記載されているものであり、その記載事項は、医師の裁量権で乗り越えられるものではない。つまり裁量権を行使するなら、「特段の合理的理由」を示さなければならないと言うことである。『禁忌』とは、添付文書上は『禁止』と同意語であると言わなければならない。

1)白川 静:常用字解;平凡社,2003
2)1%ディプリバン注添付文書,2012

  (2014.8.26.)