「葉酸について」
金曜日, 6月 6th, 2014KW:薬名検索・葉酸・folic acid・プロテイングルタミン酸・vitamin B9・ビタミンB9・vitamin M・ビタミンM
Q:葉酸について
A:葉酸(folic acid)。本品は定量するとき、換算した脱水物に対して葉酸98.0-102.0%を含む。
分子式:C19H19N7O6。分子量:441.40。CAS登録番号:59-30-3。
化学名:N-(4-[(2-amino-4-hydroxypteridin-6-ylmethyl)amino]benzoyl)-L-glutamic acid。
性状:本品は黄色-橙黄色の結晶性の粉末で臭いはない。本品は水、メタノール、エーテル(95)、ピリジン又はジエチルエーテルに殆ど溶けない。本品は塩酸、硫酸、稀水酸化ナトリウム試液(液は黄色澄明)又は炭酸ナトリウム+水和物溶液(1→100)に溶け、液は黄色となる。本品は光によって徐々に黄色となる。水溶性vitaminに分類される。
本品は明確に融点を示さず、約250℃で炭化する。水又は有機溶媒に溶け難く、酢酸、フェノール又はピリジンにある程度溶ける。本品は両性化合物で、1gは塩酸3mL、稀水酸化ナトリウム試液約40mLに溶ける。本品は室内等の弱い光で徐々に、直射日光又は紫外線により容易に、-CH2-|-NH-結合が切れて分解する。
本品の水溶液は、遮光下、pH:約6.8で、また酸化性又は還元性物質が共存しなければ安定である。この水溶液に紫外線又は直射日光を当てると、蛍光を発する生理的に不活性な物質に分解する。葉酸は弱アルカリ性では熱に安定、強酸性では熱に弱い。
保存条件:気密容器、遮光保存。
名称:葉酸、folic acid[INN、USP、EP]、葉酸(プロテイングルタミン酸)、叶酸(yesuan)[中]、L-glutamic acid、N-(4-[[(2-amino-1,4-dihydro-4-oxo-6-pteridinyl)methyl ]amino]benzoyl]-。vitamin B9、vitamin M。
来歴:Dayら(1935)はサルの貧血症状に乾燥酵母あるいは肝エキスを与えると回復することを認め、これらの抽出物中の未知の有効因子をビタミンMと名付けた。Snellら(1940)は酵母エキスを活性炭(NORIT)に吸着させ、溶離した因子がLactobacillus casei(乳酸桿菌)及び雛の発育に不可欠であることを知り、これをNorit eluate factorと名付けた。Mitchellら(1941)はこれをほうれん草(羅:folium)から分離してfolic acid(葉酸)と名付けた。葉酸作用を現す天然物質は種々存在するが、各国局方ともpteroylmonoglutamic acidのみを取り上げている。動植物界には葉酸のグルタミン酸基と2-6個のグルタミン酸がペプチド結合した形で見いだされる。このペプチド結合は組織中の酵素によって分解されて葉酸になる。このvitaminは酵母、糸状菌、肉、肝臓、緑野菜などに含まれる。
体内動態:経口投与された葉酸は主に小腸上部から、少量の場合は能動輸送で、大量の場合には受動輸送によって、そのままの形で比較的速やかに吸収される。ヒトに3Hで標識した葉酸を経口投与すると50-60%が尿、糞便中に排泄される。一方、静脈注射では、短時間のうちに血漿中から大部分は消失するが、組織親和性が強く、1回の体内循環でその60%が組織中に取り込まれるので、尿中排泄は著しく少ない。ヒトの体内には5-10mgの葉酸があり、その1/3は肝臓に主にN5-メチルテトラヒドロ葉酸として存在している。これら摂取された葉酸は、生体内で還元されて7,8-ジヒドロ葉酸を経て5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸の形で、葉酸補酵素としてプリン、ピリミジンの生合成に関与している。
食物に含まれる葉酸は、約25%が利用できると考えられており、食事中に含まれる葉酸として、約200μg取る必要がある。アメリカ合衆国では成人男子は成人男子は200μg、女子180μgとされている。妊婦は奇形児発生を予防することを考慮して400μgとされている。また授乳婦では280μg/日と多めに設定されている。
食品中の葉酸含有量(可食部100g中μg)
牛肝臓 300.0 | 牛乳 0.23 | アスパラガス 109.0 | 落花生 56.0 |
小麦粉 38.0 | キャベツ 32.3 | 菠薐草 29.0 | 玉蜀黍 28.0 |
マッシュルーム 24.0 | レタス 21.0 | 玄 米 20.0 | 白米 16.0 |
食パン 14.8 | キュウリ 14.0 | 薩摩芋 12.0 | 馬鈴薯 6.8 |
牛乳 0.23 | 母乳 0.18 |
食事1食分中の葉酸含有量(μg)
肉類 |
鶏レバー |
50g |
650μg 500μg 405μg |
魚介類 |
田作り |
30g |
69μg |
野菜類 |
菜の花 枝豆 芥菜 モロヘイヤ 玉蜀黍 春菊 ほうれん草 アスパラガス 芽キャベツ パクチョイ 空豆 蕪の葉 |
50g |
170μg |
果実類 |
イチゴ アボカド |
100g(4個) |
90μg |
薬効薬理:vitamin B12と共に、生体の組織細胞の発育及び機能を正常に保つのに必要で、特に赤血球の正常な形成に関与し、巨赤芽球性貧血に際して網状赤血球及び赤血球の成熟をもたらす。抗貧血因子とも呼ばれるテトラヒドロ葉酸となって、プリン、チミジル酸、アミノ酸などの合成における補酵素として働いている。葉酸やvitamin B12の欠乏は骨髄成分の成熟停止を起こすとされる。発育と分割分包細胞内でのDNAとRNA合成。構造・機能蛋白質の合成。胎児の成長と発達(特に中枢神経系の形成)。葉酸と亜鉛の間には代謝的に密接な関係がある。葉酸欠乏患者の赤血球亜鉛含量が低下し、亜鉛欠乏動物の肝臓の葉酸量が低い。RDA量の葉酸をプテロイルグルタミン酸形態で補足すると、亜鉛の吸収が低下する。これはこの形態の葉酸が亜鉛をキレートして吸収を阻害するためのようである。
副作用:食欲不振、悪心等の消化器症状。紅斑、掻痒感、全身倦怠等のアレルギー症状。浮腫、体重減少等。
適用:葉酸欠乏症の予防及び治療。葉酸の需要が増大して、食事からの摂取が不十分な場合の補給(消耗性疾患、妊産婦、授乳婦等)、吸収不全症候群(スプルーなど)、悪性貧血の補助療法、アルコール中毒及び肝疾患に関連する大赤血球性貧血、再生不良性貧血、顆粒球減少症。また、栄養貧血、妊娠性貧血、小児貧血、抗痙攣薬・抗マラリア薬投与に起因する貧血で、葉酸の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される場合にも用いられるが、効果が認められなければ漫然と投与すべきではない。
投与量:成人:5-20mg/日、小児:5-10mg/日を2-3回に分割経口投与。一般に消化管に吸収障害がある場合、あるいは症状が重篤な場合は、成人:15mg/回を1日1回 皮下又は筋肉内注射。
悪性貧血の場合は、血液状態は改善するが、神経症状には効果がないので、vitamin B12製剤と併用する。また、診断の確立していない悪性貧血の患者では、血液状態の改善により悪性貧血を隠蔽し、診断及び治療に影響を与えるため注意が必要である。
葉酸欠乏症:血小板産生の低下により、異常出血の危険性増大。白血球の生産が損なわれ、免疫応答低下。血中ホモシステインの増加により動脈硬化の危険性増大。短気、敵対行為、健忘症、妄想性の行動、鬱病。胎児の成長と成熟が障害され、奇形児発生。
消化管上皮の萎縮:栄養吸収の低下、下痢、食欲不振、体重減少。
貧血:軽度疲労感、脱力感、息切れ、集中力低下。
1)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006
2)井川正治・総監訳:微量栄養素小事典;西村書店,2008
3)糸川嘉則:最新ビタミン学-基礎栄養と栄養実践の手引き-;フットワーク出版,1998
4)中村丁次・監修:最新版からだに効く栄養成分バイブル;主婦と生活社,2001
5)鈴木継美・他:ミネラル・微量元素の栄養学;第一出版,1994
[011.1.FOL:2011.1.10.古泉秀夫]