「鯛釣草の毒性について」
金曜日, 6月 6th, 2014
KW:毒性・中毒・鯛釣草・タイツリグサ・ケマンソウ・華鬘草・荷包牡丹根・Dicentra spectabilis・APG体系・Lamprocapnos・コプチシン・coptisine・ケレリトリン・chelerythrine・プロトピン・protopine
Q:鯛釣草の毒性について
A:鯛釣草は、ケシ科コマクサ属の多年草で、和名は『ケマンソウ(華鬘草)』とされている。荷包牡丹根(かほうぼたんこん)。異名:土当帰(本草綱目拾遺)、ケシ科の植物、荷包牡丹の根茎。学名:Dicentra spectabilis (L.)Lem.。魚児牡丹、活血草ともいわれる。なお、1998年に提唱されたAPG体系では、ケマンソウ属(Lamprocapnos)に分類されている。
Angiosperm Phylogeny Groupとは、被子植物系統グループの略称で、新しい分類体系である。現在最新版としてAPG IIIが報告されている。但し、APG体系とは、この分類を実行する植物学者の団体の意であり、「APG体系」・「APG分類体系」等と呼ばれている。
原産地:中国・朝鮮半島に自生する多年草。草丈:30-60cm。開花期:4月-6月。斜めに伸びた総状花序にコマクサに似たハート型の花をつける。花茎はアーチ状に湾曲する。花茎1本に数個の花が釣り下がったように咲き、釣り竿に鯛がぶら下がったように見えるとしてタイツリソウの別名がついた。観賞用によく栽培され、花色は桃色のほかに白色がある。
含有成分:全草にベルベリン型alkaloidコプチシン(coptisine)等の毒性分を含み、誤食すると中毒症状を呈する。その他alkaloidのプロトピン(protopine)、ケレリトリン(chelerythrine)を含み鎮痛作用があるとする報告も見られる。その他、クリブトピン、サンギナリン、ケリルビン、ケリルチン、ケイランチホリン、スコウレリン、レチクリン等が含まれている。毒成分としてプロトピン(protopine)、その他とする資料も見られる。
ビククリン(bicuculline)は、ケシ類のケマンソウ科の植物の茎から得られるアルカロイドである。中枢神経系にGABA受容体(GABAA)があり、抑制性伝達物質GABAの外に、ムシモル、ベンゾジアゼピン、バルビツール酸等と結合し、抑制作用を発現する。bicucullineはGABA受容体でGABAの作用を選択的に抑制し、痙攣を起こす。
中毒症状:全草、特に根茎と葉を誤食した場合、嘔吐・下痢・呼吸不全・心臓麻痺などを引き起こす。睡眠、嘔吐、縮瞳、徐脈、体温低下、呼吸麻痺、心臓麻痺。誤食すると大脳中枢が麻痺するので、酒に酔ったように眠くなり、吐き気や体温低下、呼吸麻痺、心臓麻痺などを起こす。
中毒発現時の治療方針としては、気道を確保し、誤嚥を防止したら後は痙攣対策である。痙攣を止めれば、代謝性アシドーシスや横紋筋融解による腎不全も防げる。痙攣を止めるには、ジアゼパムを静注する。20-30mg静注して痙攣が止まらなければ直ぐにペントバルビタールに切りかえる。これらの薬物は、痙攣を止める作用がある(生理学的拮抗)だけでなく、薬物の作用点(GABA受容体)に対する特異的拮抗薬(薬理学的拮抗薬)でもある。従ってこれらの痙攣毒に対しては、対症療法がそのまま特異的治療になる。重症中毒には、気管内挿管をして機械的人工呼吸をしなければならないことがある。
華鬘草の適応:根を突き潰した汁に酒を注いで飲むと、酷く酔うが、これは金瘡の聖薬である。血を散らす、瘡毒を消す、風を去る、血を和ませる。その他、腫れ物により膿みを持ち、痛みがある場合に、飲んで痛みを柔らげ、腫れ物を、痕が残らないように、きれいに治すとする報告がみられる。
華鬘草の製剤:天日干しにした根茎を1日量約5gとして水0.4~0.6 Lで沸騰させる。その後、弱火にして3~5分煎じて、茶漉しで濾して1日3回に分けて食後に服用する。ケシ科コマクサ属は、有毒であり1日5g以上は用いないこと。また癌等の疼痛にも有効とする報告もある。
1)ja.wikipedia.org/wikiケマンソウ,2104
2)上海科学技術出版社 小学館・編:中薬大辞典 第1巻;株式会社小学館,1985
3)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-;南江堂,2001
5)小川賢一・他監:学研の大図鑑-危険・有毒生物;2003
[63.099.DIC.2014.6.5.古泉秀夫]