「non-envelopeウイルスについて」
金曜日, 4月 25th, 2014KW:感染症・non-envelope-virus・非エンベロープウイルス・無エンベロープウイルス・脂質・エンベロープ・envelope・膜
Q:非エンベロープウイルスについて
A:envelopeについて、次の報告がされている。
virusの基本構造は、核酸のDNAかRNAのどちらか一方と、それを保護する殼蛋白(カプシド:capsid)である。この殼蛋白は多数のサブユニットから構成されており、螺旋状又は正20面体様の規則正しい配列となっている。
またvirusは脂質を含むenvelopeと呼ばれる膜で包まれている場合と、envelopeを持たない小型球形virusに分類できる。
消毒薬による不活性化を受け易いか抵抗性であるかの相違点は、envelopeの有無により異なる。envelopeの有無により感染経路や消毒剤に対する感受性が異なることが知られている。envelopeを持つvirusは消毒薬に対して感受性である。多くのvirusは56℃-30分でcapsid蛋白質が変性して不活化される。
またenvelopeを持つvirusはエーテル、クロロホルム、フロロカーボン等の脂質溶剤により容易に不活化される。一方envelopeを持たないvirusは、加熱処理に対しても抵抗性であり、小型であるため、濾過による除去も困難である。
virusの感染部位は、呼吸器及び消化管である。呼吸器を感染部位とするvirusは、粘液に取り込まれ、線毛運動で咽頭にまで押し返されるため、感染するには線毛に強固に吸着できるスパイク若しくはenvelopeを有するものが有利になるとされる。influenza A virusはenvelope表面のヘマグルチニンにより気道上皮細胞に吸着し感染する。
消化管感染の防御機構には、胃酸による不活化や胆汁酸の界面活性作用等があり、脂質から成るenvelopeは、胃酸等により破壊される。そのため消化管で感染症を引き起こすvirusはenvelopeを持っていない。
non-envelopeウイルス
①DNA
☀パルボウイルスB19(パルボウイルス科:parvoviridae):飛沫感染・接触感染・経口感染。症状:発熱、頭痛、腹痛、嘔吐、全身倦怠感。伝染性紅斑(りんご病)、高度貧血、慢性骨髄不全、胎児水腫(妊娠初期感染)。:pH3-9の範囲で失活せず、比較的耐熱性(56℃-60分で失活しない)。またアルカリ、各種溶剤に耐性があり、環境中で6カ月~2年間感染性を維持。高濃度次亜塩素酸ナトリウム、ホルムアルデヒドなどを使わなければ不活化出来ない。家庭で入手可能なものとしては、二酸化塩素消毒剤、塩素系漂白剤(ブリーチ)の長時間感作等が利用できる。
☀アデノウイルス(アデノウイルス科:adenoviridae):飛沫感染・接触感染(流行性角膜炎)。症状:肺炎、百日咳様症状、急性下痢症、腸重積、咽頭結膜熱(プール熱)。流行性角膜炎。:熱や酸に対して比較的安定であるが、envelopeを持たないため、有機溶媒に抵抗性である。尚、本ウイルスは親油性であるため、それほど消毒薬抵抗性は強くないの報告が見られる。
☀ヒトパピローマウイルス(パピローマウイルス科:papillomaviridae):接触感染・母子感染。症状:乳頭状、鶏冠状の淡紅色又は褐色調腫瘍が多発。男性では陰茎の亀頭、冠状溝、包皮、陰嚢、女性では大小陰唇、膣、子宮口、男女とも肛門内、肛門周囲に好発。:酸・熱に対して比較的耐性で、parvoviridae に次いで安定である。
②RNA
☀A型肝炎ウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):糞便-経口感染及び血液。上水道汚染、食品汚染による集団感染有。症状:突然の発熱、悪心・嘔吐、右季肋部痛、尿濃染、黄疸。流行性肝炎、散発性肝炎。:エーテルや酸(pH3-10で安定)に抵抗性があり、60℃- 60分間の加熱で不活化されないが、70℃-30分間、100℃-5分間で不活性化される。塩素:10-15ppm-30分で失活。ホルマリン:1:4000倍、37℃-4日で失活。
☀E型肝炎ウイルス(ヘペウイルス科:hepeviridae):糞便-経口感染が主体。豚糞便に由来する食品、飲料水の汚染。蝦夷鹿肉の生食、獣肉の生食。症状:腹痛、食欲不振、膿尿、発熱、肝腫大、黄疸、嘔気、嘔吐。流行性肝炎。:エーテルや酸(pH3-10で安定)に抵抗性があり、60℃- 60分間の加熱で不活化されないが、70℃-30分間、100℃-5分間で不活性化される。塩素:10-15ppm-30分で失活。ホルマリン:1:4000倍、37℃-4日で失活。
☀アストロウイルス(アストロウイルス科:astroviridae):(SRSV:小型球形ウイルス):糞口感染・接触感染。感染量はウイルス粒子100個以上。症状:乳児嘔吐下痢症。小児胃腸炎。発熱、嘔吐、下痢を3主徴とするウイルス性胃腸炎。:酸(pH:3)に耐性、60℃-5分の加熱には耐性であるが、60℃-10分の加熱により感染性が失われる。手洗いの励行、適切な手袋の使用が有効である。
☀エコーウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):無症候のヒトの糞便から細胞培養で分離(腸管系細胞病原性孤児ウイルス)。症状:無菌性髄膜炎、新生児感染症、発疹症。:消毒薬抵抗性はおおむね強いと推定される。不活化にalcoholが長時間を要するという報告があるが、概ねイソプロパノールより消毒用ethanolのほうが効力が強い。またこれらenterovirusについて、低濃度のポビドンヨードが効力を示したが、繁用される高濃度では比較的長い時間を要したとの報告がある。
☀エンテロウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):接触感染(家族内・学校内・職場内・院内感染)。症状:急な発症。眼痛、結膜充血、眼脂が主症状。球結膜下出血を合併するのが特徴。耳前リンパ節腫脹と圧痛を認める。:熱に弱く、90℃-5秒の煮沸消毒で死滅する。患者の目や顔を触れた手で触れた物を介して感染するので、患者の触れた物や機械は80%-エタノールやalcohol含液清拭除菌用ワイパーで拭く。医療従事者の手指の消毒は前述の咽頭結膜熱と同じで、器具の消毒も同じであるが、adenovirusと異なり乾燥に弱いので、外来検査の最後に纏めて検査し、用いた器具は消毒液に浸漬後流水で洗浄し、ティッシュペーパーで拭いて乾燥しておけば翌日には滅菌されている。乾燥に弱い。
☀コクサッキーウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):接触感染(家族内・学校内・職場内・院内感染)。症状:多様な発疹(手足口病)、粘膜疹(ヘルパンギーナ)、神経系感染症、髄膜炎。流行性筋肉痛症(ボルンホルム病)、髄膜炎、心筋炎。:熱に弱く、90℃-5秒の煮沸消毒で死滅する。患者の目や顔を触れた手で触れた物を介して感染するので、患者の触れた物や機械は80%-エタノールやalcohol含液清拭除菌用ワイパーで拭く。医療従事者の手指の消毒は前述の咽頭結膜熱と同じで、器具の消毒も同じであるが、adenovirusと異なり乾燥に弱いので、外来検査の最後に纏めて検査し、用いた器具は消毒液に浸漬後流水で洗浄し、ティッシュペーパーで拭いて乾燥しておけば翌日には滅菌されている。乾燥に弱い。
☀サポウイルス(sapovirus)(カリシウイルス科:caliciviridae):糞口(飛沫感染)・接触感染。症状:小児の急性嘔吐下痢症患者(ヒト以外の動物に感染せず)。:未だ研究がされておらずnorovirusを参照する。粒子は胃液酸度(pH3)、飲料水に含まれる程度の低レベルな塩素には抵抗性を示す。また温度に対しては熱(60℃)程度では抵抗性を示すので、失活には中心温度が85℃に到達してから、少なくとも1分以上加熱する必要がある。
☀ポリオウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):糞口感染・飛沫・接触感染。症状:小児麻痺、脳炎。:消毒にはエタノールより次亜塩素酸、グルタールアルデヒドなどが有効である。抗体保有者は感染しない。vaccine≪有≫。
☀ノロウイルス(norovirus )(カリシウイルス科:caliciviridae):糞口感染・経口感染・飛沫感染も推定されている。症状:嘔吐下痢症。:現状では手洗いの励行、汚染された衣類な
☀ライノウイルス(ピコルナウイルス科:picornaviridae):空気感染。鼻分泌物に汚染された食器、ドアノブ等からの間接接触感染も多い。家庭内の伝播が高く、2歳以下の乳児、就学前、及び低学年の子供から感染が家庭に持ち込まれ、約50%の二次感染率を示す。症状:感冒、咽頭炎。:酸に不安定、pH6以下で不活化が起き、pH3では完全に感染性を失う。熱には比較的安定である。
☀ロタウイルス(rotavirus)(レオウイルス科:reoviridae):糞口感染、接触感染、飛沫感染も考えられる。症状:嘔吐、下痢(冬季乳児下痢症。小児仮性コレラ、白痢)。:手洗い、充分な加熱。吐物・糞便の始末の後、適切な消毒を要する。alcoholは無効なため、次亜塩素酸ナトリウム液などで消毒する。norovirusほど感染力は強くはないが、ほぼ同様の予防策を講じるべきである。但し、rotavirusは親油性であるため、それほど消毒薬抵抗性は強くないことが報告されている。vaccine≪有≫。
1)小林寬伊・編集:改訂 消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004
2)中込 治・訳:カラー臨床微生物学≪チャート&アトラス≫;西村書店,2009
3)東京都新たな感染症対策委員会・監修:東京都感染症マニュアル 2009;東京都,2009
4)大里外誉郎・編:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2000
[615.28.NON:2014.2.26.古泉秀夫]