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「高山病の治療について」

金曜日, 4月 25th, 2014

 

KW:薬物療法・高山病・acute mountain sickness・AMS・高地脳浮腫・HACE・高地肺水腫・HAPE・低酸素血症

Q:今秋にチベットに行くことになったが、高地における対応について、調べて頂きたい。

A:2000mを超えて、標高が高くなる地域では、気圧は低下し、低圧低酸素環境になる。動脈血の酸素分圧が低下することによって、低酸素血症に陥ることが山酔い(acute mountain sickness:AMS)になる原因である。

高度順応には個人差があり、更には体調により発症することもあるので、既往の経験は高山病発症の参考にはならないと云われている。

高山病は重症化すれば生命に危険が及ぶ状態であることを承知しておくことが必要である。可能な限り軽症のうちに病状を判断することが必要であり、高度を下げることで回復する。中等症以上の高山病では、絶対に撤退・下山を躊躇してはならない。子供は成人よりも高山病にかかりやすく、また小さい子供は高山病で見られる食欲不振や倦怠感等の不定愁訴をうまく説明できない。また妊婦については、高地に短期間行った場合の胎児への影響について、調査した報告は見当たらないが、殆どの専門家は3600m以下にいることを勧めているとする報告がある。

標高2500m以上で山酔いは発症し、数時間から72時間以内に、頭痛(必発)、倦怠感、脱力感、食欲不振、悪心・嘔吐、睡眠障害等の自覚症状が見られる。
高山病は山酔いと、重症型の高地脳浮腫(HACE:high-altitude cerebral edema)と高地肺水腫(HAPE:high-altiude pulmonary edema)の3種類の症候群に分けられる。

高地脳浮腫は、高山病の症状に加え精神状態の変化、あるいは運動失調のいずれかを伴う場合に診断される。

高地肺水腫は、高山病の症状に加え、以下の基準を満たす場合に診断される。
自覚症状として、①安静時呼吸困難、②咳嗽、③運動能力低下、④胸部圧迫感・充満感のうち二つ以上を認め、且つ他覚所見として、①少なくとも1肺野での異常呼吸音(ラ音)聴取、②中心性チアノーゼ、③頻呼吸、④頻脈のうち二つ以上を認める場合である。

予防:急激に高度を上げないこと(高地では1日に300m以上登らないこと)とする注意がされている。つまり徐々に高度を上げることが最大の予防となる。更に可能であれば、高く登っても低い場所で眠ることが重要であるとされている。呼吸抑制作用のある睡眠薬やアルコール摂取は避けるべきである。薬による予防は代謝性アシドーシスを誘導する事で、代謝性に換気を促進するダイアモックスが使用される。

*予防的投与としては高地へ向かう1-2日前から服用開始、到着後3-5日継続する。

            ダイアモックス錠(250mg) 2錠 分2(保険外)

ダイアモックス錠(三和化学)、組成:acetazolamide、錠:250mg・末:98-102%・注:500mg/v。

作用機序:生体に存在する炭酸脱水素の作用を抑制することにより眼圧低下、中枢神経系の刺激伝達抑制、利尿などの作用を示す。炭酸脱水酵素は腎上皮、赤血球、脳、毛様体上皮等に存在し、生体内で、炭酸ガスと水から炭酸を生成する可逆反応(CO2+H2O←→H2CO3)にあずかる酵素である。acetazolamideはこの酵素を特異的に抑制する。

acetazolamideは炭酸脱水酵素抑制作用により肺胞中のHCO3-の尿中排泄を増加させるとともに、他方代謝性アシドーシスを起こし、H+を増加させる。増加したH+により呼吸中枢が刺激され、換気量が増大し、併せて低酸素・炭酸ガス換気応答が改善される。この換気量の増大により血中O2が増加し、CO2は減少し、呼吸性アシドーシス・無呼吸による睡眠中の低酸素血症が改善する。また、換気応答の改善により睡眠中の呼吸感受性が維持され、無呼吸の回数が減少する。

高山病の治療

1.軽症の場合:現地点以上に高度を上げないようにし、安静・保温を保ち、頭痛には鎮痛剤の頓用にダイアモックス錠を併用する。悪心・嘔吐には制吐剤を使用する。
1)ナウゼリン坐薬(30mg) 1回1個 頓用
2)ナウゼリン錠(10mg) 3-6錠 分3

2.中等症の場合:安静の上で保温し、酸素吸入を開始し、可能な限り下山する。携帯用加圧バッグがあれば、加圧しながら下山する。使用薬剤はダイアモックス錠を投与し、必要な場合
デカドロン錠(0.5mg)   32錠 分4(保険外)

3.重症[高地脳浮腫・高地肺水腫]:安静の上で保温。酸素吸入を開始し、即時撤退。下山する。携帯用加圧バッグがあれば、加圧しながら下山する。下山不能の場合、可及的速やかに救助を要請する。次記の処方は、当座の緊急対応であり、生命に危険が及ぶ病状であることを認識させることが必要であるとされている。

高地脳浮腫
デカドロン注(4mg) 1回8mg 6時間毎に4mg追加。静注又は筋注(保険外)。
高地肺水腫
1)アダラートL錠(20mg) 2錠 分2(保険外)
2)デカドロン錠(0.5mg) 32錠     分4(保険外)
上記処方1)又は1)及び2)の併用で治療する。

1)ダイアモックス末・錠添付文書,2011.12.改訂
2)山口 徹・他監:今日の治療指針;医学書院,2014
3)高久史麿・他監:治療薬マニュアル;医学書院,2014
4)高山病で死なないために;日本旅行医学会,2014

 

  [035.1.AMS:2014.4.23.古泉秀夫]