トップページ»

「セアカゴケグモの毒性と咬傷時の処置」

木曜日, 10月 10th, 2013

 

KW:毒性・中毒・セアカゴケグモ・咬傷時処置・救急処置・背赤後家蜘蛛・Latrodectus hasseltii

Q:セアカゴケグモの毒性及び咬傷時の処置について

A:セアカゴケグモ(背赤後家蜘蛛:Latrodectus hasseltii)は、ヒメグモ科(theridiidae)ゴケグモ属(Latrodectus)に分類される有毒の小型のクモの一種。和名のセアカゴケグモは“背中の赤い後家蜘蛛”の意味である。本来我が国には生息していなかったが、1995年大阪府高石市で初めて確認されて以後、幾つかの地域で確認されており、本州(宮城県、群馬県、愛知県、岐阜県、三重県、京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、岡山県、山口県)、四国(香川県、徳島県、高知県)、九州(福岡県、佐賀県)、沖縄県等で確認されている。

分布:オーストラリア原産地とする。米国でも記録されている。オーストラリアから材木やコンテナ等に付着して国内に定着したと考えられている。

特徴:雌による咬傷が報告されている。雌の体長は約1cm、黒色で腹部に砂時計型の赤色紋がある。雄は約0.4mmと小さく、褐色で腹部に白色の斑紋が見られる。

毒性:人に対し毒性を示すのは、毒腺の蛋白分画中α-ラトロトキシン(α-latrotoxin)という蛋白である。主成分の分子量13万の巨大蛋白で、受傷から5-60分ほどで局所に強い痛みが生じ、その強さと範囲が徐々に拡大する。α-latrotoxinは神経毒であるため、脊椎動物の神経筋接合部(コリン作動性)、交感神経終末(アドレナリン作動性)の両者でシナプス前膜の受容体に結合し、非特異的に神経伝達物質を放出させる。このため初期には骨格筋、自律神経系の異常興奮、その後伝達物質を枯渇による麻痺を惹起する。

人がセアカゴケグモに咬まれると、運動神経系、自律神経系が障害され、種々の症状が現れる。殆どが軽症だが、重症例では呼吸数や血圧などのバイタルサインに異常が現れ、発汗や悪心、動悸などが生じる。ヒト致死量:不明。

症状:受傷後、疼痛は数分で治まるが、20-40分後に再度生じる。30分-2時間で筋肉痛や筋痙攣が始まり、筋硬直が起こることがある。症状は3-4時間が頂点で、数時間-数日間で治まるが、頭痛、脱力、筋肉痛、不眠などが数週間持続することがある。

また、咬まれた直後は局所の痛みはほとんどなく、あっても咬まれた部位に軽い痛みを感じるだけである。刺し口が一つ、あるいは二つ見つかる場合もある。また、咬まれた部位の周辺に発疹を見ることもある。局所症状が現れるまでの時間は様々である。局所痛として現れ、次第に痛みが増強する。時間と共に痛みが咬まれた四肢全体に広がり、最終的には所属リンパ節に及ぶ。局所の発汗も起こり、しばしば熱感、掻痒感も伴う。しかし、局所症状の最も大きな特徴は痛みであるとする報告も見られる。

局所の激しい疼痛・熱感・発赤、激しい筋肉痛、筋痙攣、筋硬直、多汗、流涎、嘔気、嘔吐、腹痛、血圧上昇、頻脈、気道分泌増加、呼吸困難、体温低下。

これまで国内で重症化した例は殆どない。国立感染症研究所昆虫医科学部の報告では咬傷例は95年以降20例ほど報告されているが、国内での死亡例はない。小児や高齢者では重症化する可能性もあるが、抗血清を適切に使えば対処できる」としている。

処置法:抗毒素血清*[オーストラリア連邦血清研究所(CSL)から直接輸入]。対症療法:筋痙攣(ジアゼパム、グルコン酸カルシウムが有効とされている。ダントロレン等の筋弛緩剤)、疼痛(acetaminophen、NSAIDs、ペンタゾシン、麻薬(codeine phosphate、morphine等))。

*国立感染症研究所・三重県立総合医療センター・大阪府立病院・沖縄県立中部病院に保管の報告があるが、現在、国内では保管されていないとする報告も見られる。但し、居住する都道府県の保健所等に確認することにより有用な情報を得られる可能性はある。

予後:セアカゴケグモの咬傷によりアナフィラキシーショックを起こすことはないと報告されている。適切な診断と治療を行えば死亡することはない。

*小児、高齢者、妊婦などでは重症化する場合があり、死因の主体は呼吸不全である。
*抗毒素血清の投与により症状は速やかに軽快すると言われており、投与は早ければ早いほうが良い。しかし、症状の頂点を過ぎてから投与しても、その後の症状の軽減に有効とする意見がある。

防 疫:殺虫剤として“クモの巣消滅ジェット”(アース製薬)[成分・フェンプロパトリン(ピレスロイド系)]、“ゴキジェットプロ”(アース製薬)[成分・イミプロトリン(ピレスロイド系)]等が有効とする報告が見られる。

1)加納亜子:今月のキーワード-セアカゴケグモ-西日本で咬傷事例が相次ぎ報告;Nikkei Medical,p27,2012.10.
2)森 博美・他:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
3)黒川 顕・編:中毒症のすべて-いざという時に役立つ、的確な治療のために-;永井書店,2006

           [63.099.LAT:2012.11.21.古泉秀夫・2013.9.30.一部改訂]