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「各種鎮咳剤と副作用としての便秘」

木曜日, 10月 3rd, 2013

 

KW:副作用・便秘・astriction・鎮咳剤・antitussive agent・中枢性鎮咳剤・末梢性鎮咳剤・ジメモルファンリン酸塩・ペントキシベリンクエン酸塩・クロペラスチン塩酸塩・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物・dl-メチルエフェドリン塩酸塩・メチルエフェドリン・エフェドリン塩酸塩・ノスカピン・コデインリン酸塩水和物・チペピジンヒベンズ酸塩・グアイフェネシン

Q:高齢者の場合、便秘を起こし易いとされているが、種々の鎮咳剤の副作用として便秘はどの程度報告されているか。

A:鎮咳剤は、脳における咳中枢の興奮を抑える中枢性鎮咳薬と、咳反射の末梢受容体の刺激を軽減する末梢性鎮咳薬の二種類に分類されている。

1]中枢性麻薬性鎮咳薬

§ コデインリン酸塩水和物[codeine phosphate hydrate(JAN)]:モルヒネと極めて類似の化学構造を有しオピエート受容体に結合するが、その薬理作用はモルヒネより弱い。鎮痛作用はモルヒネの約1/6、精神機能抑制作用、催眠作用及び呼吸抑制作用は約1/4といわれる。
これらの作用は量を増加しても、それに対応して増強するとは限らない。悪心・嘔吐・便秘などを起こす作用もモルヒネの1/4以下と云われる。これらの作用に比較して鎮咳作用が強く、延髄の咳嗽中枢に直接作用して咳反射を抑制することによりせきを鎮める。また腸管蠕動運動を抑制して、止瀉作用を発現する。消化器系の副作用として悪心、嘔吐、便秘(比較的強い便秘傾向)が報告されている。[商品名]コデインリン酸散・錠(第一三共)。

§ ジヒドロコデインリン酸塩[dihydrocodeine phosphate(JAN)]:コデインリン酸塩より強い鎮咳・鎮痛作用を持っており、殊に鎮咳作用は約2倍強力である。延髄の咳中枢にあるオピオイドレセプターに作用して、求心性インパルスに対する刺激の閾値を上昇させて、咳反射を抑制する。配合剤の消化器系副作用として悪心・嘔吐、便秘、食欲不振、口渇等が報告されている。[商品名]ジヒドロコデインリン酸末・散(第一三共)。

§ オキシメテバノール[oxymetebanol:drotebanol]:中枢性に作用して鎮咳作用を発揮する。コデインリン酸塩の1/10量、デキストロメトルファンの1/5量で、ほぼ同等の鎮咳効果を有する。消化器系の副作用として悪心・嘔吐、食欲不振、便秘、腹痛、口渇、下痢等が報告されている。[商品名]メテバニール錠(第一三共プロファーマ)。

2]中枢性非麻薬性鎮咳薬

§ ノスカピン(noscapine):延髄の咳中枢を抑制することにより、咳の発生が抑制される。コデインなどの麻薬性の中枢性鎮咳薬と異なり習慣性はない。鎮咳去痰薬として単独で処方されるほか、総合感冒薬に配合されることもある。適応として感冒、気管支喘息、喘息性(様)気管支炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、肺癌、肺化膿症、胸膜炎、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)等が報告されている。副作用:眠気や注意力の低下が生じるため、自動車等の運転には注意を要する。他に頭痛、吐き気、便秘などの症状が現れることがある。[商品名]ノスカピン末(純生)。

§ ジメモルファンリン酸塩[dimemorfan phosphate(JAN、INN)]:延髄の咳中枢に作用して、感受性閾値を高め、その働きを抑制する。また咳中枢に直接作用して、咳をやわらげるとする報告も見られる。通常、上気道炎、肺炎、急性気管支炎など呼吸器疾患に伴う咳の治療に用いられる。副作用:消化器系(口渇、食欲不振、悪心、下痢、便秘)。但し、dimemorfan phosphateはマウスによる動物実験で、リン酸コデイン投与時に見られるような腸管輸送能の抑制作用(便秘作用)を示さないとする報告も見られる。[商品名]アストミン錠・散・シロップ(アステラス)

§ チペピジンヒベンズ酸塩[tipepidine hibenzate]:延髄の咳中枢を抑制し、咳の感受性を低下することにより鎮咳作用を示す。また、気管支腺分泌を亢進し気道粘膜線毛上皮運動を亢進することにより、去痰作用を示す。消化器系副作用として腹痛、食欲不振、便秘、口渇、胃部不快感・膨満感、軟便・下痢、悪心等の報告がされている。[商品名]アスベリン錠・散・ドライシロップ(田辺三菱)

§ グアイフェネシン[guaifenesin]:視床下部の抑制及び気管支筋の弛緩による鎮咳作用と、気道分泌液の増加による去痰作用を有する。消化器系の副作用として悪心、食欲不振、胃部不快感等が報告されている。[商品名]フストジル錠・末・注(京都)。

§ デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物[Dextromethorphan Hydrobromide Hydrate(JAN)]:モルフィナン系麻薬拮抗作用薬。咳中枢を抑制し、咳嗽反射の閾値を上げる。l-体のレボルファノールが鎮痛、呼吸抑制、鎮咳諸作用を有し、麻薬であるのに対し、d-体の本薬には麻薬としての作用が無く、鎮咳作用のみ強い。オピオイド受容体には作用しないと考えられている。また脳の延髄にある咳嗽中枢に作用して、咳嗽反射閾値を上昇させ、咳を鎮める。通常、感冒、急性・慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)、気管支造影術や気管支鏡検査時の咳の治療に用いられるとする報告が見られる。副作用:消化器系(悪心、嘔吐、食欲不振、便秘、腹痛、口渇、曖気)。[商品名]メジコン錠・散・シロップ(塩野義)・ハイフスタンM注5mg(日医工ファーマ)。

§ クロペラスチン塩酸塩[cloperastine hydrochloride(JAN)]:本剤は各種の炎症、気道内外の原因による過度の咳嗽反射に対して、優れた中枢性鎮咳作用を発揮する。また緩和なパパベリン様作用、抗ヒスタミン作用を示す。本剤の臨床評価は、感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎などの急・慢性呼吸器疾患の咳嗽について行われたが、鎮咳効果は服用後20-30 分であらわれ、3-4時間持続し、その抑制効果は臨床的にはリン酸コデインに匹敵する等の報告がされている。副作用:眠気、悪心、食欲不振、口渇。[商品名]フスタゾール糖衣錠・散(田辺三菱)。

§ ペントキシベリンクエン酸塩[pentoxyverine citrate(JAN)]:鎮咳効果は延髄にある咳中枢の選択的抑制によると云われており、即効的、かつ持続的であり、呼吸抑制、習慣性、禁断現象などは見られないとされている。また咳をだす神経の感受性を低下させると共に、呼吸器の筋肉の収縮をゆるめたり、刺激を和らげたりすることにより咳の程度や発生頻度を抑える作用を持つ。通常、かぜ(感冒)、喘息性気管支炎、気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)に伴う咳の治療に用いられるとする報告も見られる。副作用:食欲不振(0.4%)、便秘(0.4%)、発疹(0.4%)等であった。[商品名]トクレススパンスール(大日本住友)。

§ エプラジノン塩酸塩[eprazinone hydrochloride(JAN)]:piperazine誘導体のエプラジノン塩酸塩で、鎮咳作用はコデインに匹敵し、中枢性・非麻薬性である。また去痰作用は、酸性ムコ多糖類繊維・DNA高含有繊維溶解作用、喀痰粘稠度低下作用、気道内分泌液増加作用と気道粘液溶解作用を主としている。副作用:消化器系副作用として、食欲不振・悪心、嘔気・嘔吐、胃部不快感、下痢、腹痛等。[商品名]レスプレン錠・散(中外)。

§ クロフェダノール塩酸塩[clofedanol hydrochloride]:本薬はジアリルアミノプロパノール誘導体の中で、鎮咳活性の最も高いものとして見出された。中枢性鎮咳薬。本薬の作用部位は、四丘体下丘以下の脳幹部にある咳中枢そのものであり、末梢作用はないと推定される。消化器系の副作用としては食欲不振、胃痛、胃重感、胃部不快感、嘔気・嘔吐、腹痛、食欲不振、便秘、下痢、口渇等。[商品名]コルドリン錠・顆粒(日本新薬)。

§ ベンプロペリンリン酸塩[benproperine phosphate ]:本薬は咳中枢興奮性の低下、肺伸張受容器からのインパルスの低下及び気管支筋弛緩による鎮咳作用、気管支筋収縮寛解作用を示す。消化器系の副作用として食欲不振、腹痛、胸焼け、口内乾燥等。[商品名]フラベリック錠(ファイザー)。

3]生 薬

§ 桜皮エキス[cherry bark ext.]:動物実験(家兎、マウス)において、末梢性に作用して気管支の蠕動運動を促進することが認められている。また、作用機序は不明であるが、気道粘膜の分泌を高め、痰をうすめる作用もあるとされている。 [商品名]ブロチンシロップ(第一三共)

4]β2-アドレナリン受容体刺激薬

§ dl-メチルエフェドリン塩酸塩[dl-methylephedrin hydrochloride(JAN)]:フェネチルアミン系化合物(非麻薬性鎮咳剤)。本剤はアドレナリン性の気管支拡張作用と、中枢性鎮咳作用、抗ヒスタミン作用を示すことにより、気管支喘息、感冒、急性・慢性気管支炎、肺結核、上気道炎などの疾患に伴う咳、また蕁麻疹、湿疹に用いられる。またアドレナリン神経終末に作用してノルエピネフリンを遊離させ、間接的にアドレナリン作用を現すと同時に、直接受容体に作用してβ-作用を示す。その結果、気管支平滑筋を弛緩させる。また気管支を拡張し、咳を鎮め、ヒスタミンを抑制する作用がある。副作用:配合剤フスコデ配合錠(アボット)として消化器系(悪心・嘔吐、便秘、食欲不振、口渇等)。なお、本薬単独投与の場合、報告されている消化器系の副作用は「腹部膨満感、悪心、食欲不振」である。[商品名]メチエフ散・注(田辺三菱)。

§ エフェドリン塩酸塩(ephedrine hydrochloride):ephedrine hydrochlorideは、β受容体を刺激してcyclic AMPの細胞内濃度を上昇させるとともに、プロキシフィリンの気管支平滑筋弛緩作用を増強する。ephedrine hydrochlorideは気管支拡張作用によって気管筋の収縮を弛緩させることによって咳を鎮め、鼻粘膜血管収縮作用により鼻腔容積を拡大して充血や腫れをなくす。通常、気管支喘息・気管支炎・感冒・肺結核・上気道炎に伴う咳、鼻粘膜の充血・腫脹の治療に用いられる。配合剤の副作用として消化器系(腹痛、下痢、胃腸障害、胃部膨満感、悪心・嘔吐、食欲不振、胃部不快感、口渇等)が報告されている。[商品名]エフェドリン散(丸石)・エフェドリン錠・注(日医工)。

尚、高齢者の便秘について、次の報告が見られる。

1]便秘の原因となる加齢に伴う生理的機能の低下

1.身体活動や食事摂取量の低下→腸内容物の減少、腸管壁への物理的・拡張刺激の減

                                            弱、腸局所血流量の低下。 
                                        →腸管緊張、腸管蠕動運動の低下。
2.腸管筋層の萎縮、結合織の増生→大腸支持組織の緊張・運動の低下。
3.大腸憩室の増加→腸管壁緊張低下の助長。
4.Auerbach神経叢の変化
5.腸管分泌低下→便高度増大。
6.ガス吸収機能低下→腸管内腔拡張、左右結腸彎曲部異常彎曲。
7.直腸壁感受性低下→排便反射の低下・消失。
8.排便に関する筋力(腹筋・横隔膜筋・骨盤底筋群等)の低下。
9.高齢者に多く見られる疾患との関連→脳血管障害、肺気腫、心不全。
10.高齢者のライフ・スタイルと心理的要因→少ない食事量
                                                    繊維成分の少ない食事内容
                                                   水分摂取の低下、便意の抑制
11.浣腸や下剤の習慣性。

上記に便秘の原因となる生理的機能の低下を示す。生理機能の低下に伴い、腸管の緊張や蠕動運動、及び筋力の低下が起こり(弛緩性便秘)、結腸の痙攣性収縮により便が直腸に輸送されず、水分の吸収が増大しても兎糞状の便(痙攣性便秘)となり正常な排便が障害されることにより便秘が生じる。

また薬剤起因性の便秘(副作用としての)を惹起する薬物とその発現機序について次の通り報告されている。

2]便秘を惹起する薬物とその機序

薬物の分類 一般名 発現機序
制酸薬

aluminum  hydroxidet
calcium salt

収斂作用が便秘の発現に関与すると考えられる。
高脂血症治療薬 cholestyramine 腸の運動性減少や脱水、水分制限が腸閉塞の原因となる。
硫酸鉄  

パーキンソン病治療薬
抗コリン薬
ドーパミン作動薬

biperiden
L-dopa

平滑筋に対するacetylcholineの作用を抑制し、消化管の緊張や運動性を減少さ せるように作用する。

抗うつ薬
  (三環系)

amitriptyline

imipramine

腸管壁の平滑筋細胞に対し抗コリン様の作用を示す。

抗精神病薬
(フェノチアジン系)

chlorpromazine
trifluoperazine
perphenazine

腸管の筋層間神経叢障害の起こる可能性があり、慢性便秘や偽性腸閉塞の原因となる。便嵌頓は局所の炎症(慢性や急性)、潰瘍、出血や穿孔の原因になり得る。これらの所見は剖検でしばしば見られる。
抗癌剤 vincristine 上部結腸の便嵌頓が起こりうる。とりわけ小児や高齢者で麻痺性イレウスが起こりやすい。
免疫抑制薬

tacrolimus hydrate

本薬はマクロライド構造を有する化合物なので、erythromycin同様、結腸から空腸に掛けて腸管収縮、蠕動運動の異常を起こし、イレウス来すことが知られている。
筋弛緩薬 dantrolene sodium 直腸筋を弛緩させる本来の作用により腸管平滑筋が弛緩し、胃腸管アトニー(緊張欠如状態)から腸管不全を起こし、重篤な便秘を伴うイレウスを惹起すると考えられる。
麻薬系鎮痙薬 codeine phosphate 推進力や蠕動収縮力の減少に関連する腸平滑筋の静止緊張を上昇させる。
抗ヒスタミン薬

diphenhydramine
promethazine

内在性の抗コリン作用。
緩下薬

senna
bisacodyl

長期使用(濫用)は正常な蠕動を抑制するような平滑筋の緊張と収縮性の消失(無緊張)に導く。

利尿薬
  (非K保持性)

chlorthalidone
thiazide
furosemide

脱水は硬い便塊の原因になる。
降圧薬 clonidine 機序不明。但し便秘は一般的に発現する。
抗不整脈薬

verapamil
disopyramide

抗コリン作用を保持又は保持する可能性があり、腸管の働きを抑制する可能性がある。

高齢者では、頻度が高くなる可能性のある消化管の癌、憩室炎などによる炎症性癒着など、器質的疾患による通過障害も便秘の原因となる(器質性便秘)。また糖尿病、脳血管障害、甲状腺機能低下症等の全身疾患の部分的な症状として弛緩性便秘が出現することもあるとされている。更に高齢者では、合併する心血管系疾患や消化器疾患、神経疾患など様々な疾患に対して治療薬が投与されており、治療目的で投与される薬物の副作用として、便秘が発生することが報告されている(薬剤性便秘)。便秘の誘因となる薬剤の一部とその機序について、表2紹介した。

尚、高齢者の薬物性便秘に対しては、緩下剤の投与を考える前に、食事の管理等、日常生活の管理を図ることも必要だと考えられる。

1)アストミン錠・散IF,2010.12.改訂
2)トクレススパンスールカプセルIF,2010.5.
3)フスタゾール糖衣錠IF,2010.2.改訂
4)デキストファン散10%IF,2010.4.
5)フスコデ配合錠IF,2011.3.改訂
6)dl-メチルエフェドリン塩酸塩散10%「フソー」IF,2010.12.
7)アストモリジン配合胃溶錠・アストモリジン配合腸溶錠IF,2011.7.改訂
8)純生ノスカピン添付文書,1998.4.改訂
9)コデインリン酸塩水和物タケダ原末IF,2009.12.改訂
10)フスコデ配合錠IF,2011.3.
11)レスプレン錠・細粒IF,2010.2.改訂
12)コルドリン錠・コルドリン顆粒IF,2008.2.
13)ブロチンシロップ3.3%添付文書,2009.9.改訂
14)高久史麿・他編:治療薬マニュアル2011;医学書院,2011
15)ワソラン錠インタビューフォーム,2011.5.改訂
16)フルイトラン錠インタビューフォーム,2011.10改訂
17)日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[1];薬業時報社,1997
18)日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[2];薬業時報社,1998
19)日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[3];薬業時報社,1999
20)日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[1];薬業時報社,2001

        (065.AST:2011.12.29.古泉秀夫)