「バイアル瓶ゴム栓のコアリングについて」
木曜日, 10月 3rd, 2013
KW:物理化学的性状・バイアル瓶・ゴム栓・コアリング・注射針・穿刺回数・細菌汚染・保存剤
Q:バイアル瓶のゴム栓に対する注射針の穿刺回数の目処について
A:バイアル瓶ゴム栓の穿刺によるコアリング(ゴム片が穿刺により削り取られること)の発生、あるいは空気、溶液の漏出等に関する試験結果の報告として、次の報告が見られる。
① 10回までの穿刺では、コアリングの発生は見られなかった。
②10回までの穿刺では、ゴムと思われるフラグメントは、対照及び試料のいずれにおいても検出されなかったが、20回以上の穿刺では、試料にフラグメントの発生が見られる傾向があった。
③10回の穿刺後においても、ゴム穿孔部分からの内容液の漏出は認められなかった。10回穿刺後に加圧しても空気や内容液の漏出は認められなかった。
④5回程度の穿刺の後では、内容液がやや漏れてくる。しかし、通常使用では3回程度の穿刺と考えられるため、問題にはならない。
コアリングの発生は、穿刺回数のみが影響するわけではなく、穿刺する際の針の角度等、穿刺する者の技術的な問題も含まれる。従って、上記穿刺回数に関する実験結果から、臨床現場での“何回まで穿刺が可能か”とする質問に対する回答を得ることは困難である。
穿刺によるコアリングの発生要件として、次の報告がされている。
1)針刺しの方法:角度、カット面、速度、穿刺部位等
2)ゴム栓:材質(ブチルゴムが主流。プロモブチルゴムから塩素化ブチルゴム等へ変更している企業もある)、構造(ゴム栓は密封性を高めるために容器口部周縁から圧縮される力を受けるように設計されている。)、針刺し部の形状及び厚み。
3)注射針:針の経、形状、肉厚、ヒール部の処理
穿刺時、針が回転したり、ゴム栓面に対して斜めに針刺しするとコアリングが発生し易いといわれる。
コアリングの発生を少なくするためには、
1)注射針はゴム栓の指定位置(IN、◎印など)に垂直にゆっくりと刺す。
2)注射針を途中で回転させない。
3)針刺しを数回行う場合は、同一カ所を避けて穿刺する。
なお、バイアル瓶の使用に際し、注意しなければならないのは、穿刺による細菌汚染である。
分割使用を目的とする注射剤は、使用から次の使用の間、密封することができる容器-バイアル瓶が用いられる。しかし使用毎に外部から栓を通して注射針を突き刺すので、注射針を通しての細菌汚染が起こりえる。この汚染による細菌の増殖を防止するため、製剤総則では『注射剤で分割使用を目的とするものは、別に規定するもののほか、微生物の発育を阻止するに足りる量の保存剤を加える』としている。汚染は多種の混合汚染が考えられるので、保存剤は多種の微生物に有効なものでなければならない。一般に分割使用を目的とした注射剤以外はこのような想定をしていない。従って一度密封容器中に注射針を接触した注射液には、全く保存性がないと考えるべきであるとする報告も見られる。
*保存剤:benzethonium chloride、benzalkonium chloride、phenol、cresol、chlorobutanol、methylparaben、ethylparaben、propylparaben、benzyl alcohol等。
以上の各報告からバイアル瓶ゴム栓への穿刺回数については、穿刺技術及び保存剤の添加等を考慮の上、個々に判断すべき問題であると考える。なお、保存剤の添加されていない製剤では、『密封容器中に注射針を接触した注射液には、全く保存性がない』との判断も必要である。
1)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26(3):247-248(1999)2)戸倉康之・編:改訂版注射薬マニュアル;照林社,1997
3)第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
[014.4.INJ:2003.7.22.古泉秀夫]