トップページ»

「醗酵アガリクスについて」

火曜日, 7月 30th, 2013

 

KW:物理・化学的性状・醗酵アガリクス・Agaricus blazei Murrill・アガリクスブラゼイムリル・β-(1→3)D-glucan・glucose・cellulose

A:醗酵アガリクスについて

Q:Agaricus blazei Murrill(アガリクス・ブラゼイ・ムリル)は、担子菌類ハラタケ科に属する茸で、和名:ヒメマツタケとされている。別名:カワリハラタケ。
アガリクスの抗腫瘍活性の中心は、子実体から生成した多糖、菌糸体の培養ろ液から採取した多糖・蛋白多糖であるとされている。茸の抗腫瘍活性を示す主要成分は、多糖類のβ-glucanで、中でもβ-(1→3)D-glucanという特別な構造を持ったものが抗腫瘍活性は強いと報告されている。因みにglucanはglucoseのみからなる多糖類のことであり、セルロース、アミロース、デキストランがこの類に含まれるとされている。

cellulose(セルロース)はD-glucoseがβ-1,4結合で直鎖状に重合したもので、高等植物の細胞膜の主成分で、植物体の骨格成分となっており、また細菌、海藻、海産動物のホヤ類の外皮にも存在する。celluloseは恐らく多糖類中で最も分子量の大きい物質で、化学薬品に対する抵抗性が強く、微生物に侵されにくい。その構造はD-glucoseがβ-1,4glucoside結合で、約3000個重合しており、方向性のある微結晶(ミセル)を作り、繊維構造を取ることができる。ヒトにはβ-1,4glucoside結合に作用する消化酵素がないので、celluloseは消化されず、吸収利用されないが、少量の存在は消化管の蠕動運動を促進し、また便通を整えるのに役立つ。草食動物は消化管内の微生物の働きによりcelluloseを分解し、生じる有機酸その他を吸収、利用してエネルギー源とすることができる。
celluloseは繊維素ともいわれ、殆どは細胞外に存在し、植物の堅固な細胞壁、繊維組織、木組織の主要な細胞外構成成分である。水に不溶、分子量50,000-250万。glucose残基で300-1,500個。一般に哺乳動物の消化管はcelluloseの加水分解酵素が分泌されないため、食物としては利用できない。唯一の例外がウシなどの反芻動物で、酵素cellulaseを胃の細菌が産生する。最近、celluloseは大腸癌の予防の関係で注目されている。
その他、celluloseはβ-1,4glucoside結合した多糖類。天然には植物体の細胞膜の主成分として存在し、生物界の有機物質の50%以上を占め、通常、ヘミセルロースやリグニンなどを狭雑する。cellulose中のβ-1,4-glucan結合を加水分解する酵素cellulaseはある種の菌類、細菌、軟体動物、高等植物等にその存在が知られているとする報告も見られる。
amyloseはD-glucoseがα-1,4-glucoside結合によって直鎖状に重合した多糖で、澱粉中に20-25%含有される。熱水に溶解し、amylase(唾液、膵臓に分布)によって加水分解される。
dextranは蔗糖を微生物により発酵させ、生産される多糖類。glucoseのポリマーで、主としてα-1,6結合によって構成されている。

現在、医薬品として使用されているβ-D-glucanの製剤として次の3製品があるが、消化管からの吸収が悪いとして2製品は注射剤である。

物質名(会社名) 適用 抽出法

クレスチン(呉羽-三共)
原末=1g

経口 担子菌類の一種『さるのこしにかけ』の熱水抽出物。蛋白質と結合した多糖類で、カワラタケの菌糸体より得られたもの。糖質の主要成分はβ-1,4-glucanであり、glucoseの基数個に1個の割合で、glucoseの3位及び6位で分枝した構造が推定されている。平均分子量約10万。

sizofiran
ソニフィラン(科研)
1管=20mg

注射

本品は、スエヒロタケの菌糸体培養ろ液から得られる多糖体を、超音波照射と高速噴射処理により低分子化した物質である。重量平均分子量:約450,000。▼本品はglucoseのみからなる多糖体で、その基本構造はβ-1,3結合を主鎖とし、主鎖のglucose残基3個に対し1個の割合でβ-1,6結合で分岐したglucose側鎖を有し、その分岐は規則的である。水溶液中では三重ラセン構造を有する三量体として存在する。

lentinan
レンチナン(山之内)

注射 本品は、椎茸の子実体の熱水抽出エキスより得られた抗悪性腫瘍性多糖体を生成して得られたもので、β-(1→3)結合を主鎖とする高分子glucanである。

上記の各報告からAgaricus blazei Murrillについて、吸収能を強化する目的で、『醗酵アガリクス』以外にも微細化した製品等、種々の製品が市販されているが、いずれも健康食品としての扱いであり、製品の吸収について、科学的根拠となる資料(体内動態等)は公表されていない。

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
2)奥田拓道・監修:健康・改訂新版 栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001
3)薬科学大辞典 第3版;廣川書店,2001
4)医学大辞典;南山堂,1992
5)クレスチン添付文書,1999.2.新様式第1版
6)クレスチンインタビューフォーム,1990.2.改訂
7)ソニフィランの概要,1996.3.作成
8)レンチナンインタビューフォーム,2003.4.新様式第3版
9)小池五郎・他編:栄養学事典;朝倉書店,1982

        [014.4.AGA:2004.3.29.古泉秀夫]