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『リレンザ』で3人がショック、1人死亡

金曜日, 5月 31st, 2013

                           魍魎亭主人

厚生労働省は2013年2月27日、抗インフルエンザ薬の一つ「リレンザ」を2009-2012年に使用した患者3人がアレルギー性ショックを起こし、このうち1人が死亡したと発表した。薬の添付文書の副作用欄に「ショック」を書き加え、患者を十分に観察するよう医師に求めた。リレンザは年間推計170万人が使用している。

厚労省によると、死亡したのは30歳代の女性。2012年、家族がインフルエンザに感染したため、医療機関で予防のために吸入したが、数分後に呼吸困難となり、間もなく死亡した。気管支ぜんそくの発症歴があり、当日は発熱や感染性胃腸炎の症状があったという。2009年には、インフルエンザと診断された10歳代の女性が、リレンザを吸入した6時間半後、一時的に意識を失ったとされる。もう1人は10歳代の男性で、同年、一時的に呼吸困難となったという(2013年2月27日 読売新聞)。

リレンザ服用後、呼吸困難に陥り死亡した女性の場合、気管支喘息の既往があり、しかも服用時には発熱と感染性胃腸炎の症状が出ていたという。普通患者がこの様な状態の時に直接症状に係わりの無い薬を使用するということは避けるべきで、しかも予防目的で使用したと云うことの意味が分からない。

どんな薬でも期待されない『有害作用』は存在する。薬の情報の集積文書である添付文書の記載事項を順守し、なるべく整った環境で使用すべきである。今回の場合、家族がインフルエンザに罹患しており、予防投与の適応ではあるが、注意事項として『本剤を予防に用いる場合には、原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする』とされている。

(1) 高齢者(65歳以上)
(2) 慢性心疾患患者
(3) 代謝性疾患患者(糖尿病等)
(4) 腎機能障害患者

以上はいずれにしろインフルエンザウイルスに罹患した場合、重篤化するかあるいは致死的な影響を受けるとされる範疇に属する。その意味で言えば、今回の患者は該当しないと云うことになるが、残念ながら添付文書には『原則として』という魔法の言葉が付け加えられている。

『原則として』という言葉は、基本的な規則・決まり事という意味ではあるが、そこには例外的な事例も許容されるという理解が入り込む。従って『原則として』という文言が入ると、限りなく原則は矮小化され、例外事項が拡大化してしまう。つまり如何に添付文書に『原則として』という言葉が書かれようが、『医師の判断』が優先されてしまう。

         (2013.4.5.)

「パーキンソン病の治療薬と副作用」

火曜日, 5月 21st, 2013

 

KW:副作用・横紋筋融解症・パーキンソン病・パーキンソン病治療薬・悪性症候群・neuroleptic malignant syndrom・神経遮断薬悪性症候群・syndrome malin・supplements・サプリメント

Q:現在パーキンソン病の治療を受けている90歳代の女性。現在かなりの病状の進行がある。
発症当初マドパー配合錠、デプロメール錠、デパス錠、バイアスピリン腸溶錠を服用していたが、閉塞偶角緑内障の発作が発現したため、マドパー配合錠投与中止。その後代替薬としてビ・シフロール錠(0.125) 3錠/分3の処方に変更された。しかし、その後副作用としての横紋筋融解症が発現し、被疑薬として、就寝前のデパス錠0.5とデプロメール錠25の処方中止。入院による電解質の点滴により回復。
その後、12月中旬時点でビ・シフロール錠による横紋筋融解症もあるとの報告が製薬企業からされたため、主治医から経過によってはビ・シフロール錠を中止せざるを得ない。その場合、パーキンソン病に対する薬の選択の余地が無くなってしまうため、シンメトレル位しかないという見解です。国内未発売薬、サプリメント等を含めて、対応可能なものは何か無いか

現在まで服用していた薬剤の効能・効果、関連する副作用は次の通りである。

薬品名・会社名 副作用 適応
マドパー配合錠(中外)
l-dopa 100mg・benserazide HCl 25mg/錠
閉塞偶角緑内障(禁忌)。悪性症候群。 [適応]パーキンソン病、パーキンソン症候群。[作用]benserazideは脳内に移行せず、肝、腎、心臓、小腸等末梢に於いてdopamine脱炭酸酵素を阻害し、血中l-dopa濃度を高め、その脳内への移行量を増加させる。l-dopa投与量の調節を可能とし、消化器系及び循環器系副作用を軽減する。

デプロメール錠
(Meiji Seika)
fluvoxamine maleate 25mg/錠

セロトニン症候群(錯乱、発熱、ミオクローヌス、振戦)。悪性症候群。 [適応]うつ病及びうつ状態。強迫性障害。社感不安障害。[作用]serotoninの再取り込みを選択的かつ強力に阻害し、シナプス間隙のserotonin量を増加させることにより抗うつ作用及び抗不安・パニック障害作用を発揮する。尚、各種神経伝達物質受容体には殆ど親和性を示さずMAO阻害作用も示さない。

デパス錠

(田辺三菱)
etizolam 0.5mg/錠

急性狭隅角緑内障(禁忌)。悪性症候群。 [適応]①神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害。②うつ病における不安・緊張・睡眠障害。~⑤頸椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛における不安・緊張・抑うつ及び筋緊張。[作用]視床下部及び大脳辺縁系、特に扁桃核のbenzodiazepine受容体に作用し、不安・緊張等の情動異常を改善する。

バイアスピリン腸溶錠

(バイエル)
aspirin 100mg/錠

アスピリン喘息(禁忌)。皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症。 [適応]狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制。川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)。

ビ・シフロール錠
(ベーリンガー)
pramipexole hydrochloride hydrate  0.125mg/錠

パーキンソン病患者に於いて悪性症候群。

[適応]①パーキンソン病、②中等度から高度の特発性レストレスレッグス症候群(下肢静止不能症候群)。[作用]非麦角系の抗パーキンソン薬であり、同受容体に対する親和性とdopamine D2受容体刺激作用を示す。

シンメトレル錠
(ノバルティス)
amantadine HCl 

50mg/錠

悪性症候群。皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症。 [適応]①脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善。②パーキンソン症候群。③A型インフルエンザ感染症。[作用]黒質線条体路のドパミン作働性ニューロンにおいて、dopamineの放出促進作用、再取り込み抑制作用、合成促進作用によりパーキンソン病を軽減させると考えられる。

以上、調査の範囲では、添付文書中に副作用として横紋筋融解症の記載は無く、バイアスピリン腸溶錠以外では、『悪性症候群』の副作用が共通項として記載されていた。但し、『悪性症候群』については、次の報告がされている。

1.『悪性症候群』とは

英名・同義語:『neuroleptic malignant syndrom:NMS。神経遮断薬悪性症候群。syndrome malin。』

主に抗精神病薬服用下で起こる、高熱、意識障害、錐体外路症状(手足の震えや躯の強張り、言葉の話づらさや涎、食べ物や水分の飲み込み難さなど)、自律神経症状(頻脈や頻呼吸、血圧の上昇等)、を主徴とした副作用である。横紋筋融解症(筋肉組織の障害:筋肉の痛みなど)等の症状も見られる。

近年の発症頻度は0.2%以下と低下していとされるが、抗精神病薬は、身体疾患に附随する精神症状や救急医療など、精神科以外でも処方されることがあり、NMSに遭遇することは稀では無いとする報告が見られる。

NMSは、多くは急激な症状の変化を示す。抗精神病薬などを服用後、急な高熱や発汗、神経系の症状などが認められる場合は、NMS発症の可能性を考慮する必要がある。NMSは、放置すると重篤な転機を辿ることがあるので、迅速な対応が必要である。

あらゆる向精神病用薬は、NMSを惹起する可能性があり、他にも抗うつ薬、抗不安薬、パーキンソン病治療薬、制吐剤などの消化機能調整薬による発症も知られている。また医薬品の新規の投与や増量だけで無く、パーキンソン病治療薬の減薬による発症も報告されている。尚、抗精神病薬や抗パーキンソン病薬による横紋筋融解症はNMSとして、麻酔薬によるものは悪性高熱症として取り扱われる。

2.早期発見・早期対応のポイント

精神神経用薬(主に抗精神病薬)を服用中(特に増量、変更、中止時)、
「他に原因が無く37.5℃以上の高熱が出る」
「汗をかく」
「ぼやっとする」
「手足の震え」
「躯の強張り」
「話しづらい」
「涎が出る」
「飲み込みにくい」
「脈が速くなる」
「呼吸数が増える」
「血圧が上がる」
等が特に複数見られた場合には、直ちに医師に連絡する。

NMSが疑われる場合の治療法として、医師の判断の下、まず原因となった医薬品を同定し、医師の指示の下、これを漸減ないし中止する。NMSの診断がされることなく服薬を急激に中止することは危険な場合もある。また、一気に服薬を中断することでかえって状態の悪化を招くこともあるので、医薬品の中止や減量は症状や状態に応じて行われなければならない。

症状が強い場合には入院治療を行うが、その場合には点滴等を行い薬物の排泄を促すと共に、全身管理を行う。症状の緩和を行うために筋弛緩薬のダントロレンナトリウムを用いることもある。

1.発症頻度:最近の報告では発症頻度は0.07-2.2%とされている。但し、報告によって発症頻度にばらつきが見られる。
2.発症時期:薬剤投与後4週間以内に発症し、そのうち2/3は1週間以内に発症する。しかし、稀に数ヵ月にわたり同量の抗精神病薬を服用した後にNMSを発症することもある。また投与直後だけでなく、それまで服用していた薬剤を減量あるいは中止した直後に発症することもある
3.発症機序:脳内には、様々に種類の神経伝達経路があるが、NMSを惹起する可能性のある薬剤は、共通してdopamine神経系に作用したり影響を与えるところから、この神経系に加わる急激な変化が発症に関連していると考えられているが、未だ詳しい発症機序は解明されていない。また、精神神経用薬を服用する多くの患者のうちNMSを発症する患者はその極く一部であり、これまでに発症を促進する危険因子については種々な報告がされている。
4.発症の危険因子:下記の各因子が発症の危険因子と報告されている。
脱水
身体の著しい疲弊状態
脳神経疾患を合併している患者
過去に悪性症候群を発症した患者
遺伝的に規定される何等かの体質要因

尚、supplements関係ではパーキンソン病の予防効果があるとして、vitamin Eが挙げられている。その他、効果があると断言は出来ないが、効能の可能性が科学的に示唆されているとしてCoQ-10(coenzyme Q-10)が挙げられている。本品は特に心臓、肝臓、腎臓、膵臓に見られるビタミン様物質で、肉や魚に少量含まれている。化学的に合成することも可能で医薬品としても使用されている。また本品はスタチンの誘発による筋疾患に対し、効果があるとする報告も見られるが、評価するには科学的なdataが不足とされている。
その他、漢方薬では、パーキンソン病の中核症状では無く、周辺の諸症状の治療として『抑肝散』を支持する資料も見られる。
『抑肝散』の作用機序は、次の通り報告されている。

本剤は、以下の作用により薬理効果を示すことが示唆されている。
攻撃性抑制作用
(1)グルタミン酸放出抑制作用:亜鉛欠乏ラットに経口投与したところ、海馬細胞外液グルタミン酸濃度の上昇並びに海馬スライス標本におけるグルタミン酸神経終末開口放出が抑制された。
(2)グルタミン酸取込是正作用:チアミン欠乏下のラット培養アストロサイトにおいて、グルタミン酸取込能の低下、グルタミン酸トランスポーターのmRNA並びに蛋白の発現低下を改善した(in vitro )。
(3)セロトニン2A受容体ダウンレギュレーション作用:正常マウスに経口投与したところ、前頭前野セロトニン2A受容体発現量が低下し、セロトニン2A受容体作動薬(ジメトキシヨードアンフェタミン)誘発首振り運動が抑制された。
(4) セロトニン1A受容体刺激作用:パラクロロアンフェタミン処置ラット及び隔離ストレスマウスに経口投与したところ、攻撃性が抑制され、その作用はセロトニン1A受容体拮抗薬(WAY-100635)で消失した。また、in vitro 受容体結合試験において、セロトニン1A受容体部分刺激作用を示した。

1)高久史麿・他編:治療薬マニュアル2012;医学書院,2012
2)重篤副作用疾患別対応マニュアル第2集;(財)日本医薬品情報センター,2008
3)寺本民生・他:医薬品副作用学(第2版)-薬剤の安全使用アップデート-;日本臨床,増刊号>,2012
4)田中平三・他監訳:健康食品のすべて-ナチュラルメディシン・データベース-;同文書院,2006
5)花輪壽彦:漢方よろず相談;株式会社医学研究社,2001
6)ツムラ抑肝散エキス顆粒添付文書,2012.11.

               [065.NMS:2013.1.18.古泉秀夫]

『アナカルジン酸について』

火曜日, 5月 21st, 2013

KW:薬名検索・TDP-43・ALS患者・アナカルジン酸・アナカルディック酸・アナカルド酸・anacardic acid・カシューナッツ・勾玉・マガタマの木

Q:アナカルジン酸について

A:脳からの指令を筋肉に伝える運動神経の細胞内で、遺伝子の働きの強弱を調節する蛋白質「TDP-43」が変性し、蓄積することがALS患者の約9割で確認されているとする報告が見られる。このALS患者の細胞にTDP-43の正常な働きを補うことで知られる4種類の化合物を加えたところ、そのうちカシューナッツの殻から抽出した「アナカルジン酸」によって、変性したTDP-43が減少、TDP-43の影響で健康人より短くなった運動神経の突起の長さも2倍になり、健康な人の細胞と同じになったとする報告が見られる。

名称:アナカルド酸
英名:anacardic acid
別名:アナカルディック酸、アナカルジン酸
分子式:C22H32O3
概要:脂溶性のサリチル酸誘導体。ウルシや、ウルシ科の植物であるカシューナッツなどに多く含まれる。アナカルド酸には強い抗菌作用をはじめ複数の有益な作用のあることが知られている。カシューナッツを収穫した際の副産物となるカシューナッツ殻などから、アナカルド酸を含む「殻液」の抽出などが行われている。

『カシュー(カシューナッツ)』。 [英]Cashew、East indian almond。 [学名]Anacardium occidentale。和名:匂玉。勾玉の木。

概要:熱帯アメリカ原産の常緑樹。インドや東アフリカなどの熱帯地域で広く栽培されている。花の柄の部分が大きく肥大し、長さ5-6cmの洋ナシ形となって黄色に熟す。この部分は「カシューアップル」と呼ばれ、生食又はジャムやジュースにする。肥大した柄の先端に本来の果実がつき、長さ2-3cmのまが玉状になる。中の堅果をカシューナッツと呼ぶ。カシューナッツを通常の食品として摂取する場合はおそらく安全と思われる。妊娠中・授乳中に多量に摂取した場合の安全性は、信頼できるデータが見当たらないため避ける。また、カシューナッツの摂取によるアレルギーが多数報告されている。

§.法規・制度:日本では「専ら医薬品として使用される成分本質 (原材料) 」にも「医薬品的効能効果を標榜しない限り医薬品と判断しない成分本質 (原材料) 」にも該当しない。・堅果は米国では「一般的に安全と認識される物質 (GRAS) 」に分類されている。

§.成分の性質:堅果は約45%の脂質、約20%の蛋白質を含む。・果皮にはアルキルフェノール、アナカルジン酸が含まれる。

§.有効性:・メタボリックシンドロームと診断された62名 (試験群21名、平均45.7歳、南アフリカ) を対象とした無作為化比較試験において、試験食とともに63-108g/日の無塩カシューナッツを8週間摂取させたところ、血圧反射機能 (Baroreflex sensitivity) の改善が見られたが、血液凝固因子 (フィブリノーゲン、PAI-1等) には変化が見られなかったとする報告がある。

§.肥 満:・メタボリックシンドロームと診断された64名 (平均45±10歳、試験群21名、南アフリカ) を対象とした無作為化比較試験において、試験食とともに63-108g/日の無塩カシューナッツを8週間摂取させたところ、体重、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、炎症性マーカー (C反応性蛋白) 、フルクトサミン、尿酸値、血圧に変化は見られなかったとの報告がある 。

§.禁忌対象者:調査文献中に見当たらない。

§.危険情報:

1)通常の食品として摂取する場合はおそらく安全と思われる。
2)妊娠中・授乳中に多量に摂取した場合の安全性は、信頼できるデータが見当たらないため避ける。カシューナッツの摂取によるアレルギーが多数報告されており、アメリカやカナダ、オーストラリア等では、カシューナッツを含むナッツ類はアレルギー表示対象品目と定められている。
3)ナッツアレルギー患者を対象とした調査によると、ピーナッツアレルギーよりカシューナッツアレルギーで重篤なアナフィラキシーを発症する場合が多いとの報告がある。
4)カシューナッツアレルギーでは、ウルシ科食物 (マンゴー、ピスタチオ)及びペクチン、アーモンド、ブラジルナッツ、ヘーゼルナッツ、クルミなどによる交差反応性が報告されている。
5)果皮に含まれるアルキルフェノールによる接触皮膚炎が報告されている。

1)iPS使いALS新薬京大グループ有効な物質特定;読売新聞,第49023号,2012.8.2.
2)独立行政法人国立健康・栄養研究所[「健康食品」の安全性・有効性情報],2013.4.4.
3)田中平三・他監訳:健康食品のすべて-ナチュラルメディシン・データベース-;同文書院,2006

            [011.1.ANA:2013.4.4.古泉秀夫]

「嗜銀顆粒について」

火曜日, 5月 21st, 2013

KW:語彙解釈・嗜銀顆粒・しぎんかりゅう・銀親和細胞・argentaffin cell・タウ蛋白質・銀親和反応・argentaffin  reaction・カルチノイド・嗜銀反応・銀親和性

Q:嗜銀顆粒について

A:嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)とする直接的な標記は検索できなかったが、嗜銀(細胞)腫=カルチノイド、嗜銀反応=銀親和性とする用語は確認できた。

銀親和細胞(argentaffin cell)については、「アンモニア性硝酸銀液やヘキサミン銀液などで処理した時に、銀塩を還元して、褐~黒色に染まる顆粒を持った細胞。この反応はセロトニンの存在と関係が深いと考えられている。胃腸の内分泌細胞(基底顆粒細胞)の多くは銀親和細胞である。

銀親和反応(argentaffin  reaction)<銀還元反応、嗜銀反応>。アンモニア銀などの銀塩を還元して、銀粒子を析出させる反応を云う。Fontana-Masson染色がよく用いられる。小腸クロム親和細胞、セロトニンを含むカロチノイド、メラノサイトが陽性反応を示す。→好銀反応。

好銀(性)細胞(argyrophil cell):好銀反応陽性を示す細胞。主として各種アミン、ポリペプチド産生の内分泌細胞を指す。消化管好銀細胞、膵島A細胞、下垂体好銀細胞、甲状腺C細胞、副腎髄質細胞、カルチノイドなどが含まれる。乳癌などで、カルチノイドの形態を示さずに、好銀反応を示すものがあり、好銀性細胞癌と呼ばれる。

カルチノイド(carcinoid)

<好銀性細胞腫:argyrophil cell tumor>、<嗜銀[細胞]腫:argentaffinoma>、<銀親和性細胞腫>、<腸クロム親和性細胞腫:enterochromaffin tumor>、<類癌腫:carcinoid tumor>。腸クロム親和細胞より発生する腫瘍で、原始腸管である前腸(分化して肺・胃・近位十二指腸・肝・胆・膵となる)、中腸(遠位十二指腸・空腸・回腸・右結腸)、及び後腸(左結腸・直腸)、更にその他の臓器(胸腺・子宮膣部・乳腺・腎・皮膚など)に生じ、それぞれ発生部位により分類されている。それらの病床像・予後等には多少の違いはあるが、いずれも腫瘍組織は特有な増殖像(索状・島嶼状・ロゼット状など)を示し、腫瘍細胞は均一で、原形質内に銀親和性又は好銀性反応陽性の顆粒を有し、電顕により分泌顆粒であることが証明できる。しばしば肝・肺に移転する。

その他、嗜銀顆粒について、次の説明が見られた。

嗜銀顆粒とはタウ蛋白質の異常蓄積の一種で、アルツハイマー病や神経原線維変化型認知症にもしばしば出現する。しかし、それらの疾患がないにも拘わらず、嗜銀顆粒が大量に出現し、認知症を惹起する場合が知られている。

認知症の一つのタイプにグレイン病(Grain disease)と呼ばれるものがある。Grainは小さな粒子のことで、1980年代の終わりに銀を用いた脳組織の新染色法であるGallyas-Braak(ガリアス・ブラーク染色)が考案され、脳内に銀によって染色されるGrainが出現するタイプの認知症があることが確認された。
§高齢者の認知症の中でアルツハイマー型に次いで多いとする報告が見られる。
§Grainはリン酸化されたタウ蛋白質が主成分であることが知られている。
§物忘れ、見当識障害が見られる。精神的には頑固さ、怒りっぽさが目立ってくるとする報告が見られる。

また、嗜銀顆粒性認知症(grain disease:DG)

とは、中枢神経系に嗜銀顆粒(argentaffin granules:AG)と呼ばれる構造物が出現する認知症である。高齢者では頻度の高い疾患であるが、臨床診断の指標がなく病理学的検索からの発信が急務であるとする報告が見られる。

1)最新医学大辞典 第3版:医歯薬出版,2005
2)東京都健康長寿医療センター病理解剖コラボレーション(共同研究事業),2024.8.16.

          [615.8.GRA:2013.3.27.古泉秀夫]

『鬼怒川紀行』

木曜日, 5月 2nd, 2013

        鬼城竜生

2012年10月14日(日曜日)-15日(月曜日)の両日東京医労連OB会の恒例大会開催旅館巡りの旅に出かけた。今回の企画は、従前大会で宿泊したことのある旅館に泊まるとい竜頭の滝-02竜頭の滝-03う計画で鬼怒川を選んだが、残念ながら鬼怒川も御多分に漏れず、 閉鎖する旅館が多いと見えて、目的の旅館に宿泊することは出来なかった。ただ、今回宿泊するホテルは“鬼怒川ホテルニュー岡部”の時代に一度大会をやった場所で、経営が代わってホテルの名前も運営の方法も変わったようである。

8時40分に新宿駅(安田生命横)に集合、9時に貸し切りバスで出発。昼飯は日光けもの村・水車屋で“蕎麦御膳”なるものを食し、泊まりは“きぬ川ホテル三日月”ということになっている。翌日は日光東照宮の神橋を左に見て第一いろは坂を登り、二荒神社中宮祠の前を通り、竜頭の滝を目指した。今、最も紅葉が見られるところは、竜頭の滝だという運転手の判断で、そこに向かった。しかも、下から上に登るのは大変だから上から流れに沿って下ることにして、皆さんを降ろしたら車は滝の下流に置いておきますから、滝を見ながら下ってきて下さいという、年寄り向きの御提案を頂いた。

竜頭の滝は水温が低いため、日光でも紅葉が最も早いと云われているというのは、これは帰ってきてからの後の知識。しかし、残念ながら紅葉は1週間行くのが早かったようで、帰ってきてからTVで見る竜頭の滝の紅葉は並みじゃなかった。我々の計画も、計画を立てた幹事氏は十分に紅葉の時期を考え、現地にも確認したようだが、特段の暑さを見せた今年の夏のしつこさ竜頭の滝-04竜頭の滝-06が、樹木の季節感を狂わせ、衣替えの時期を躊躇わせたのだろう。自然を撮るのは難しい。

竜頭の滝を正面から見られる位置に観瀑台があり、竜頭之茶屋がある。その竜頭之茶屋の入口右手に竜頭観音が祀られていた。説明によると、「三六観音の一つで、世に光を与え、悩める衆生を導く菩薩である。左手に水晶玉、右手に巻物を持ち、一角の龍に乗っている。水晶玉の意味は水の持っている力、水の働きを明らかにするとともに、正しくすると云うことで、天上の水、地上の水、地下の水を支配する竜頭観音は、様々な竜を使って水を抑えているという。竜頭の滝の名もその守護を願って付けられたと」されている。

その後、普通の観光バスは行かないという口上で、向かったのが中禅寺湖に影を落とす男体山を見ることができるという場所に走り、中禅寺湖越しに男体山を眺めたが残念ながら風があってボート釣りのボートが不安定に揺れていた。此処で集合写真を撮り、対岸に戻り中禅寺湖観光センターで“湖畔鍋定食”を食し、後は一路東京を目指すことになった。

帰路は何事もなく予定の時間に到着、次の会合に十分間に合うことが出来、義理を欠くことがなかったのは幹事に感謝である。

       (2012.11.6.)

『どの位取れるのか?』

木曜日, 5月 2nd, 2013

  魍魎亭主人

『消費税の増税実施の阻止』、『原発の再稼働反対・原発ゼロ』、『TPP参加反対』を主張することで何処まで票が取れるか見物だと思っていたが、衆院鹿児島3区の補選では、重要な選択基準になったとは思えない選挙結果が出ていた。更に昨年の衆議院選挙では、『TPP参加反対』で当選した諸君はいたようであるが、『原発の再稼働反対・原発ゼロ』では、これ一本で運動した総理経験者が落選しており、大衆に与えた不甲斐なさの印象を拭い去り、当選させるほどの票にはならなかったと思われる。

ところで直ちに『原発の再稼働反対・原発ゼロ』という方策を取ることが出来るのかどうか。水力発電は、新たに作るとなると膨大な経費と、住民の反対運動という阻害要件が派生する。火力発電では、使用する燃料はその多くは海外からの輸入に頼っており、足下を見られれば、価格の高騰を招き、もしイランによるホルムズ海峡封鎖が実行されれば、我が国に輸入される原油は枯渇する。輸入依存のエネルギー源に頼る限り、価格の高騰はついて回り、結局は電気料金の値上げに繋がり、庶民の財布を直撃する。風力発電も直ぐには対応できない。更には低周波によるヒトへの影響も報告されており、また渡り鳥の通路等に設置した場合、鳥の飛び込み事故等も考えなければならず、何処にでも設置すると云う訳には行かないようである。太陽光発電も、安定した電力の供給を保証するところまで行かないのではないか。

原発が全て停止している現在、特に停電も起こっていない。従って原発は要らないという論議がある。しかし、この論議は、電力の需要が現状維持、これ以上は増えないという前提条件があってのことである。新たな工場を作り、生産活動を行う。雇用の増大を図る上で、必要なことだが、電力の価格の高騰、自給率の低下が続けば、生産拠点は国外に移転すると云うことが起こりかねない。更に国内のあらゆる部署でcomputer(CP)が使用されている。電源が落ちれば、作業中のdataは消滅する。交通機関は停止し、銀行の機能は停止する。現在の我々の生活は、眼に見えないあらゆる場所でCPの恩恵を受けているのである。

夏にネクタイをしない等という程度の節電で間に合う話ではない。兎に角安全に配慮し、他の電源が確保できるまでの間は、原発の再稼働もやむを得ない。更に国内の原発だけを問題にしているが、国外にある原発も事故が起こった場合、放射性物質が飛んでくる可能性が全くないという保証もない。その意味では、より安全性の高い原発の開発を追求することも重要なことであり、使用済核燃料の廃棄方法の検討も喫緊の課題だろう。原発の廃止・解体を考えた場合でも、高濃度の放射性物質の付着した大量の廃棄物が発生する。それらをどう処理するのか、落ち着いた論議が必要なときではないのか。それを考えると、反原発で当選するほどの票を集めるのは無理なのかもしれない。

   (2013.3.24.)

「早稲田穴八幡」

木曜日, 5月 2nd, 2013

       鬼城竜生

11月1日(金曜日)、知人の一人が早稲田鶴巻の珈琲自家焙煎店「よいち」で絵の展示会をやると云うことで、出かけていった。そのついでにと云っては申し訳ないが、早稲田穴八幡を覗早稲田穴八幡-01早稲田穴八幡-02くことにした。穴八幡は前に勤めていた病院の近くで、数十年前に娘の七五三の御参りをした神社で、古い神社だったという記憶しか残っていなかったが、何気なく見た写真で、その当時なかった立派な山門が出来ていたので、一度見に行ってみようかと云う気になった。

東西線早稲田駅のa3出口を出ると、左手の先の方に提灯が飾られた門が見えた。記憶ではその位置からは見えないはずだが、見えると云うことは、普段はあまり気にしていなかったと云うことだろう。大体が、早稲田駅の近辺に出るのは、早稲田駅から電車に乗るために出るか、駅の直ぐ近くにある本屋に行くかで、あまりうろうろすることはなかったから、眼が行かなかったということかもしれない。

早稲田の穴八幡は、“江戸名所図会”に描かれていると云うことで、当時は“高田八幡宮”と呼ばれていたという。慶安二年(1649年)に、徳川三代将軍家光の命によって社殿や諸堂が完成した後は、江戸城の北を守る将軍家の祈願所となり、江戸屈指の大社として、重んじられたという。また、その絵には穴八幡神社の社殿と同時に、穴八幡神社の別当寺である“放生寺”も描かれているという。

穴八幡神社の社伝によると、康平五年(1062)、奥州の乱を鎮圧した源義家(八幡太郎)が、凱旋の折に、ここに兜と太刀を納め、京都の岩清水神八幡宮を分祀したのが始まりだという。早稲田穴八幡-03早稲田穴八幡-04寛永十三年(1636)、幕府御弓組頭だった松平新五左衛門尉直次が射撃練習をするために的山を築き、弓矢の守護神である「八幡神」を祀る小祠を置いた。現在、西早稲田になっているこのあたりは、当時、高田と云われており、神社も当初は“高田八幡”と呼ばれていたという。寛永十八年(1641)、隣接する放生寺の良昌和尚が、草庵を建てようとして、山すそを切り開いたところ、深さ4m位の横穴を発見し、そこに阿弥陀如来像が立っていたという逸話が広まり、多くの人が参詣に訪れるようになるにつれ、“穴八幡”と呼ばれるようになったという。

御多分に漏れず、第二次世界大戦によって穴八幡神社は、ことごとく被災してしまったが、戦後仮社殿により再興し、その後平成元年より、慶安、元禄の江戸権現造りの設計図を基に造営を始め、平成10年には随身門が出来上がったことにより往時をしのばせる姿に復活したとされている。

神社の階段を降りるまで全く気がついていなかったが、至近距離の場所に“放生寺”があることには全く気付いていなかった。しかも階段の途中で覗いた壁に穴八幡の『別当寺』という記載が見えたことに驚かされた。

『別当寺』とは神仏習合説に基づいて、神社に設けられた神宮寺の一つとされている。神宮寺(神社の境内に建設される)とは神願寺、別当寺、神供寺(じんくじ)、宮寺とも云われる。早稲田穴八幡-05神社の祭神のために仏事を修して解脱を得させるための寺院。神仏習合思想に基づくと云うが、起源は不明。後殆どの神社に置かれた。奈良時代の気比(けひ)神宮寺が文献上の所見と報告されている。

従って、昔のままであれば不思議はないが、『明治初年、維新政府の新道国教化政策に基づいて起こった仏教排斥、寺院・仏像・仏具破壊運動。』、つまり『廃仏毀釈』で、別当寺の関係は解消され、酷い場合には寺院は破毀されたといわれている。

『廃仏毀釈』については、『1868年(慶應四年)旧3月、太政官布告による神仏判然令によって神仏分離が急激に実施されると、平田派国学者の神官らが中心になって、各地で神社習合していた寺院の仏堂、仏像、仏具などの破壊、撤去運動を起こし、僧侶の還俗強制などがおきた。隠岐のごときは全島の仏寺を破毀て一寺も残さなかった。1875年に信教の自由が保障されたが、この廃仏毀釈によって政府は宗教に対する政治優先の姿勢を確立した。』等の説明がされている。

従って放生寺がそのまま残っているというのは、どうやって御上の御意向をすり抜けたかと云うことに成るが、明治二年寺社引分けの布告を受け、境内を分割し、僧侶の一人が還俗し神官に成ることで措置したというのが、放生寺で頂戴した半截の説明である。

高野山真言宗準別格本山の古刹である同寺は、“威盛院”の院号と、“光松山”という山号を持ち、いわゆる名刹と云うことである。放生寺は寛永十八年、威盛院権大僧都良昌(りょうしょう)上人が 高田八幡の造営に尽力し、その別当寺として開創されたお寺であるとされる。

放生寺の御本尊は、聖観世音菩薩(せいかんのんぼさつ)で、南海の補陀楽浄土におられる菩薩で、その名前の示すとおり世の人々の声を聞き、その苦しみや悩みを救い悪事災難を除くことを御誓願とされている慈悲深い仏様であるとされる。観音経に由ると我々が災難に遭ったとき観音様を一心に念ずると自由自在にお姿を変えてお救い下さることから観自在菩薩とも云うとされる。そのお姿が三十三身あるとされ、観音霊場が三十三の札所となった起こりともなっているとされる。放生寺の本尊は古くより融通虫封じ観世音と云う名前で呼ばれ、親しまれて来たともされる。

所で知人の絵は喫茶店の壁に展示されていたが、絵の展示用に照明がされている訳ではなく、やや見にくい絵もあったが、6枚の抽象画が展示されていた。下地に色を重ね、更には画面の変化を強調するためにガーゼなどを貼り付け、その上に色を塗ることで画面に変化を見せたとする紹介が配布されていた半截に書かれていた。

夕方5時近くなったので、以前勤めていた病院の仲間に電話し、一杯やることにしてしまったので、今回の総歩行数は8,414歩で、1万歩には到達しなかった。

        (2014.11.9.)