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『コリスチン注射用の入手について』

水曜日, 4月 3rd, 2013

 

KW:薬名検索・コリスチン注射用・硫酸コリスチン・コリスチメテートナトリウム・

Q:多剤耐性緑膿菌に有効とされるコリスチン注射用の入手について

A:コリスチン注射用は国内で市販されていない。必要とするなら海外から医師が直接個人輸入するか、試薬等を用いて院内製剤するしか入手する方法はない。
国外ではコリスチメテート・ナトリウム 150mg/vの注射剤が市販されている。
Coly-Mycin® M parenteral(米・KING Pharmaceuticals Inc.)
  colistimethate sodium(ポリミキシンE)………………150mg/v
(コリスチメテート・ナトリウム=メタンスルホン酸コリスチンナトリウム)

静注療法では、2.5-5.0mg/kg/日を1日2-4分割。最高投与量5mg/kg/日。本品は細胞膜を破壊することでグラム陰性菌を殺菌するポリペプチド系抗生物質である。多剤耐性のグラム陰性桿菌、特に緑膿菌[多剤耐性緑膿菌(mu;tidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)]の治療に用いられる。
静注による治療は特に強い中枢神経系の副作用や腎毒性があるので、経験豊かな臨床医の指導の下でのみ投与すべきである。
静注療法の副作用として、異常感覚、不明瞭な発音、末梢知覚鈍麻、刺痛や用量依存性の重大な腎障害がある。腎障害時に過剰投与すると、神経筋接合部ブロックや無呼吸を引き起こすので、腎機能低下患者に使用する際には、慎重に用量を減量調節する。1日2回投与で、中枢神経系に有意な症状を呈したら、4回分割投与か、持続投与(1日総投与量を500mLの5%-ブドウ糖液に溶かして24時間かけて静注)で調節する。
投与開始時には血清クレアチニンを連日モニターし、その後の投与期間中は定期的にチェックする。

■コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(colistin sodium methanesulfonate=colistimethate sodium)

本品はコリスチン誘導体のナトリウム塩である。本品はコリスチンAメタンスルホン酸ナトリウム及びコリスチンBメタンスルホン酸ナトリウムの混合物である。本品を乾燥したものは、定量する時1mg当たり11500単位以上を含む。但し、本品の力価は、コリスチンAとしての量を単位で示す。
性状:本品は白色-淡黄白色の粉末である。本品は水に溶け易く、エタノール(95)に殆ど溶けない。本品0.1g を水10mLに溶かし、30分間放置した時のpHは6.5-8.5である。
名称:colistimethate sodium(INN)、colistimethate sodium(USP)。CAS-21362-08-3(colistin sodium methanesulfonate)。
来歴:コリスチンはBacillus polymyxa var.colistinusの培養液中に産生される塩基性のペプチド抗生物質で、1950年に日本において発見された。コリスチンは主成分のコリスチンAと副成分のコリスチンBの4:1-2:1の混合物である。当初は塩酸塩と硫酸塩が注射剤及び経口剤として用いられていたが、毒性が強いことから低毒性の誘導体が検索され、マウスに対する急性毒性が硫酸塩の1/40程度と低い本品が選ばれ、開発研究が進められた。
動態・代謝:経口投与によって吸収が認められ(硫酸コリスチンは殆ど吸収が認められない)、600万単位の経口投与2時間後に4.4μg/mLの血中濃度に達し、尿中濃度も22.5μg/mLを認めた。
薬効薬理:グラム陰性菌を特異的に阻止し、グラム陽性菌、真菌には作用しない。細菌細胞膜障害作用により殺菌的に作用する。耐性菌の出現頻度は極めて低く、他の抗生物質との間で交叉耐性の出現がないところから、多剤耐性のグラム陰性桿菌による感染症に有効である。本薬の力価は単位で現され、300万単位は100mg(力価)に相当する。
副作用:頻度は不明ながら、発疹・掻痒感などの過敏症、悪心・嘔吐・食欲不振・下痢等の消化器症状が現れることがある。

現在、本品は医薬品として散・顆粒・錠・カプセル(科薬抗生)が市販されているが、注射剤は我が国では市販されていない。本品の注射剤を使用する必要がある場合、医師個人の輸入によるか試薬を原料とした院内特殊製剤として調製をするしか入手の方法はない。しかし、いずれにしろ問題になるのは、厚生労働大臣の承認を得ていない薬の使用であり、保険請求が出来ないということである。更に副作用を理由として注射剤の製造が中止されたとされており、患者への使用の是非について、“院内倫理委員会”の審議を行い、医薬品費の負担も含めて論議をしておくことが必要であると考える。
なお、試薬のcolistin sodium methanesulfonateの包装単位は1gとされており、5,700円の価格設定が記載がされている。

なお、参照として“colistin sulfate”の物性等について下記に紹介しておく。

参照

コリスチン硫酸塩(colistin sulfate)

本品はBacillus polymyxa var.colistinusの培養によって得られた抗細菌活性を有するペプチド系化合物の硫酸塩である。本品を乾燥したものは定量する時、1mg当たり16000単位以上を含む。但し、本品の力価はコリスチンA(C53H100N16O13:1169.46)としての量を単位で示し、その1単位はコリスチンA 0.04μgに対応する。
性状:本品は白色-淡黄白色の粉末である。本品は水に溶け易く、エタノール(99.5)に殆ど溶けない。本品は吸湿性である。本品の味は苦い。本品0.10gを水10mLに溶かした液のpHは4.0-6.0である。粉末、水溶液とも熱に耐え、100℃で3日間加熱しても安定といわれている。CAS-1066-17-7(colistin)。
動態・代謝:経口投与で殆ど吸収は認められない。ブタに経口投与した時、消化器を除いては血中並びに主要臓器への分布は認められず、胃及び小腸上部に2-6時間、小腸下部に2-24時間、盲腸、結腸、直腸に6-48時間にわたり分布が認められる。
薬効・薬理:細胞膜の障害を引き起こすことにより、抗菌作用を示す。グラム陰性桿菌に対し殺菌的に作用する。発育抑制の感受性は緑膿菌が3.13μg/mLで約71%、また大腸菌及び赤痢菌が1.56μg/mLで100%である。耐性を獲得し難く、他種抗生物質と交叉耐性がないため、他種抗生物質耐性菌にも有効である。
適応:fradiomycin sulfateとの配合剤として、両剤感性菌による皮膚の単独又は混合感染症諸症及び各科領域における手術後並びに外傷後の感染予防と治療に用いる。

1)PDR 61Ed.,2007
2)高久史麿・他監訳:第11版ワシントンマニュアル;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2008
3)戸塚恭一・他監修:日本語版サンフォード感染症治療ガイド(第37版);ライフサイエンス出版,2007
4)Wako Pure Chemical Industries,Ltd.価格表,2008

    [011.1.COL:2008.8.26.古泉秀夫]