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「パーキンソン病に効果が見られるとされる漢方薬」

金曜日, 3月 1st, 2013

 

KW:薬物療法・パーキンソン病・漢方薬・生薬・厚朴・白芍・半夏・甘草

Q:パーキンソン病に効果があるとされる漢方薬について

A:何等かの形でパーキンソン病に有効ではないかとされている生薬として『厚朴・白芍・甘草・半夏』等が挙げられている。

厚朴』:鎮痙作用が報告されている。煎汁は動物の遊離腸管の緊張を低下し、横紋筋の強直性収縮に対して軽度の緩解作用がある。本品の含有成分であるmagnocurarineにはクラーレ様作用、抗痙攣作用、magnolol及びhonokiolには鎮静、運動抑制、中枢性筋弛緩、抗胃潰瘍作用、抗菌作用、β-eudesmolには神経筋接合部遮断作用等が知られる。magnocurarine、β-eudesmolは各種標本で神経筋接合部での神経伝達を遮断し、クラーレ様作用が認められるという。厚朴エーテルエキス、magnolol、honokiolにはラット経口又は腹腔内投与で、アポモルヒネ、メタンフェタミン、モルヒネによる筋緊張を緩和させ、ストリキニーネ、ピクロトキシン、ペンテトラゾール、ニコチンによる振戦を抑制し、電撃やペニシリンの脳室内投与による痙攣などを抑制することが報告されている。

『白芍』:鎮痙・鎮痛作用が報告されている。家兎の遊離腸管及びラットの体内の胃・子宮平滑筋に対し、収縮力を減弱し、運動を抑制する。その他、鎮静作用が報告されており、配糖体は中枢神経系を抑制するとされている。

半夏』:鎮静作用が認められている。有効成分はalkaloidの一種である。

『甘草』:鎮痙作用。平滑筋の活動を抑制し、動物の遊離した腸管平滑筋に対して鎮痙作用がある。glycyrrhizinを殆ど含まないFM100分画は、中枢抑制的に働き、マウスの自発運動を低下させ、体温降下、呼吸抑制、鎮静作用があり、ヘキソバルビタール睡眠時間延長も認められる。また、実験的な痙攣を抑制する作用も報告されている。特にisoliquiritigeninに強い痙攣作用が検出されている。甘草煎液は、モルモット摘出回腸の低頻度経壁刺激、DMPP、acetylcholine、K+を抑制する。

方剤としては『半夏』と『厚朴』が配合された『半夏厚朴湯』や鎮痙・鎮痛の基本処方の『芍薬甘草湯』が使用されるとする報告が見られる。

『半夏厚朴湯エキス』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.5gを含有する。
日局半夏6.0g・日局茯苓5.0g・日局厚朴3.0g・日局蘇葉2.0g・日局生姜1.0g
効能・効果:気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症→不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症。

『芍薬甘草湯』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.5gを含有する。
日局甘草6.0g・日局芍薬6.0g
効能・効果:急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛。

その他、『六君子湯』、『抑肝散』、『四逆散』、『加味逍遥散』なども使用されるという。また、症状が慢性化した場合には、『柴朴湯』を使用するとされている。柴朴湯とL-DOPを併用すると、L-DOPAの効果持続時間を伸延し、不随意運動が減るなどL-DOPAの副作用を軽減すると共に、その作用を増強するとする報告が見られる。

『六君子湯』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス4.0gを含有する。
日局蒼朮4.0g・日局人参4.0g・日局半夏4.0g・日局茯苓4.0g・日局大棗2.0g・日局陳皮2.0g・日局甘草1.0g・日局生姜0.5g 。
効能・効果:胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐。

『抑肝散』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス3.25gを含有する。
日局蒼朮4.0g・日局茯苓4.0g・日局川芎3.0g・日局釣藤鈎3.0g・日局当帰3.0g・日局柴胡2.0g・日局甘草1.5g 。
効能・効果:虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症。

『四逆散』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.25gを含有する。
日局柴胡5.0g・日局芍薬4.0g・日局枳実2.0g・日局甘草1.5g 。
効能・効果:比較的体力のあるもので、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間証を表わすものの次の諸症:胆嚢炎、胆石症、胃炎、胃酸過多、胃潰瘍、鼻カタル、気管支炎、神経質、ヒステリー。

『加味逍遥散』
1日量6.00g中、下記生薬より抽出した水製乾燥エキス(加味逍遙散エキス)4.75gを含有する。
日局当帰3.00g・日局芍薬3.00g・日局白朮3.00g・日局茯苓3.00g・日局柴胡3.00g・日局 牡丹皮2.00g・日局山梔子2.00g・日局甘草2.00g・日局生姜 1.00g・日局薄荷 1.00g。
効能・効果:体質虚弱な婦人で、肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難症、更年期障害、血の道症。

『柴朴湯』
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス5.0gを含有する。
日局柴胡7.0g・日局半夏5.0g・日局茯苓5.0g・日局黄岑3.0g・日局厚朴3.0g・日局大棗3.0g・日局人参3.0g・日局甘草2.0g・日局蘇葉2.0g・日局生姜1.0g
効能・効果:気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、時に動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、せき、不安神経症。

『小承気湯』
本品は生大黄12g・厚朴6g・枳実9gを水煎服。
効能・効果:便秘、 発熱、腹部膨満感

尚、上記方剤の添付文書の効能・効果中にパーキンソン病の記載はされていない。
一方、パーキンソン病の病態として次の報告が見られる。パーキンソン病の基本臨床像は、

振戦(tremor):手の指が細かく震える。手を膝の上に置いている時(静止時)や、歩行時に目立ち、丸薬を丸めているような動きに見える(丸薬丸め振戦:pill rolling tremor)。
無動(症)(akinesia):躯の動きがぎごちなく緩慢になる。ベッドからの起き上がりに時間が掛かったり、ボタンの架け外しに時間が掛かる。
筋強剛あるいは固縮(rigidity):腕や足の筋の緊張が高まる。力を抜いて腕を曲げる時に、歯車が噛み合うような抵抗を示し、筋の緊張が高まる。
姿勢保持障害(postural instability):体のバランスが巧く取れない。進行すると突進様になったり転倒しやすくなる。

即ちパーキンソン病とは「動きが極端に遅くなる病気」といえるとされている。パーキンソン病はこれまで運動の症状が主体の疾患と考えられてきたが、最近では睡眠障害や抑鬱状態、認知機能障害、自律神経障害(頑固な便秘・脂ぎった顔など)、感覚障害など、運動機能以外の症状も疾患の初期から明らかになってきている。従って現在、パーキンソン病は脳の疾患と云うより、全身の疾患と捉えられるようになっているとする報告も見られる。

いずれにしろパーキンソン病に対する漢方治療は、試行段階ということが出来る。しかし、パーキンソン病が複合的な疾患であるとすれば、漢方薬の持つ作用が有効な場面も考えられる。

1)中山医学院・編:漢薬の臨床応用;医歯薬出版株式会社,1979
2)ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2011.8.改訂
3)ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2011.8.改訂
4) ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2012.11.改訂
5) ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)添付文書,2012.11.改訂
6)ツムラ四逆散エキス顆粒(医療用)添付文書,2007.5.改訂
7)ジュンコウ加味逍遙散FCエキス細粒 医療用添付文書,2005.10.改訂
8)ツムラ柴朴湯エキス顆粒(医療用)添付文書,2007.05.改訂
9)伊田喜光・他監修:モノグラフ生薬の薬効・薬理;医歯薬出版株式会社,2003
10)山口徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2011

             [035.1.PAR:2013.1.20.古泉秀夫]