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「肺MAC症について」

木曜日, 1月 24th, 2013

 

KW:感染症・肺MAC症・Maycobacterium avium complex・MAC感染症・抗酸菌感染症・非結核性抗酸菌・nontuberculous mycobacterium・NTM

Q:TVで放送されていた肺MAC症とはどのような病気か

A:MAC感染症(Maycobacterium avium complex感染症)は、大部分は肺感染症であり、肺外感染症は稀である。結節・気管支拡張型(中葉舌区型)MAC感染症が増加していることもあり、最近の調査では女性が優位を占めている。高齢者の発病が多く、平均年齢は68歳と報告されている。肺MAC感染症は自・他覚症状とも肺結核に類似した慢性肺感染症である。本症は他の肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacterium:NTM)感染症と同様に肺結核症に比較して症状が穏和で発現率も低いが、血痰(喀血)が多い傾向が認められている。

AIDSの末期にCD4+T細胞が100/mm3以下になるとMACをはじめとしたNTM感染のリスクが高まり、NTM症の合併が高率に見られる。このことはMAC等のNTMに対する人の感染抵抗性の発現には、CD4+T細胞依存の免疫系の役割が重要であることを示している。

菌種によっては“cross band”の形態を示すものもある。抗酸性の程度は一般に結核菌よりも弱い。グラム陽性菌である。NTMの発育は結核菌より速いが、卵培地上で37℃で2-3週間を要するものから3日以内に発育するものまで、菌種により様々である。結核菌群と異なり一般に25℃でも発育する。菌種により30-33℃を発育至適温度とするものもある。集落は多くはS型で、白色ないし灰白色のもの、光に当てると発色するもの、暗所でも黄色ないし橙色に発色するものがある。

MAC感染症の原因菌とされるNTMはRunyon分類法でIII筋群に属するM.avium、M.intracellulareとされている。

  至適温度 発育日数 集落性状 自然感染 感受性動物
M.avium 37-40℃ 平均>14 S型、灰白色、古くなると淡黄色-黄色 トリ(結核類似症)ヒト(肺結核類似症) トリ、ウサギ、マウス
M.intracellulare 37℃ >14 S型、灰白色、古くなると淡黄色-黄色 ヒト(肺結核類似症) マウス

NTMに含まれる菌の大部分は自然界、水や土壌中に存在するものと考えられている。その他、食物、動物(家畜を含む)などにも生息している。現在、約150種類が知られているが、そのうち我が国で人に病気を起す主な菌は約10種類であるとされる。
M.avium・M.intracellulare(70%)、M.kansasii (15%)、M.scrofulaceum、M.szulgai、M.gordonae、M.xenopi、M.fortuitum、M.abscessus、M.chelonae。

感染経路としてNTMの吸入による呼吸器系からの感染と、NTMを含む水や食物を介する消化器系からの感染があると云われている。リンパ節、皮膚、骨・関節に病変を作ることもあるが、最も病変が見られるのは肺である。かつては結核や肺に病気を持つ人が易感染者であると云われていたが、近年、世界各地で肺に病気がなく、免疫力も正常な人にNTMによる肺感染症が増加していると報告されている。NTMは結核菌と異なり人から人へ感染は見られない。

?診断:播種性の感染では、発熱、体重減少、寝汗が最もよく見られる症状である。AIDS患者に菌血症を起こすこともある。
肺疾患としては、我が国では肺MAC症が約70%、M.kansasii(カンサシ)によるものが約20%と云われている。肺カンサシ症は結核と区別のつかないことも多いが、特に増加傾向はなく治療によく反応するとされる。一方我が国で最も患者数の多いMAC菌による肺感染症は増加傾向にあるとされる。特に気管支を中心に病変を作る肺MAC症が中年以降の女性に増えているといわれていたが、最近若年者にも見られる様になった。気管支拡張症、慢性気管支炎と言われてきた患者の中に、痰の中の菌を調べるとMAC菌が見つかり肺MAC症と診断されることがある。

?診断検査:貧血とアルカリフォスファターゼ上昇がよく見られる検査異常である。疑い症例では抗酸菌の血液培養検査を実施する。

?治療:初期治療としては、マクロライド系薬物(クラリスロマイシン500mg 1日2回経口)にエタンブトール(15mg/kg 1日1回経口)を併用する。
重症例ではリファンピシン300mg 1日1回経口若しくはシプロキサシン500mg 1日2回経口を加えるのもよい。
播種性MACに対する二次予防は、MACに対する12ヵ月の治療が終了し、症状や徴候がなく、抗レトロウイルス治療に反応してCD4細胞数100/μL以上が6ヵ月以上持続した場合に中止できる。

1)高久史麿・他監訳ワシントンマニュアル第12版;MEDSi,2011
2)内海 爽・他編:エッセンシャル微生物学;医歯薬出版,2000
3)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂33版;南山堂,2007
4)松本慶蔵・編:病原菌の今日的意味 改訂4版;医薬ジャーナル社,2011

               [615.28.MAC:2013.1.23.古泉秀夫]