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『処方薬の薬理作用と処方の意味』

木曜日, 1月 24th, 2013

 

KW:臨床薬理・処方薬・atorvastatin・アトルバスタチン・グロビドグレル・カンデサルタン・アムロジピン・インダパミド・薬効薬理・薬物動態値・副作用・適応症

Q:次の処方薬の薬理作用と処方の意味

A:患者の病状に応じて処方される処方薬の処方意議については医師の専権事項であり、処方医に確認することが前提である。ただ、薬効薬理をみることで、予測可能な部分もあるため、質問された薬剤の作用等について以下の通り調査した。

商品名(会社名)リピトール錠10mg(アステラス製薬)
一般名:atorvastatin calcium hydrate
分 類:HMG-CoA還元酵素阻害剤
*GF-J:1.2L/日摂取により、本剤のAUC0-72hが約2.5倍上昇した。CYP3A4の阻害。
適応症:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症
副作用:横紋筋融解症、ミオパシー、劇症肝炎、肝炎、肝機能障害、黄疸、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、多形紅斑。
薬物動態値:Cmax:3.42±1.51 、Tmax:0.8±0.3、t1/2:9.44±2.50、AUC0?∞(ng・h/mL):34.57±15.79 。蛋白結合率:95.6-99.0%以上。*主要代謝臓器:肝臓(M-1・M-2はCYP3A4によって生成する)。
薬効・薬理:本薬は血液中のコレステロール量を調節する主要臓器である肝臓のHMG-CoA還元酵素を選択的・競合的に阻害し、本薬と同程度の活性を有する代謝物とともに、肝臓のコレステロール合成を抑制する。その結果、本薬は肝臓のLDL受容体数を増加させ、かつリポ蛋白分泌を抑制することにより血中脂質量を低下させる。また、本薬は血中脂質動態を改善して、高コレステロール血症に伴う動脈硬化の発症を抑制する。

商品名(会社名):プラビックス錠75mg(日本サノフィ・アベンティス)
一般名:clopidogrel sulfate
分 類:抗血小板剤
*本薬の肝酸化型代謝に関与するチトクロームP450分子種は、主にCYP3A4、CYP1A2、CYP2C19、CYP2B6である(in vitro)。また、代謝物であるSR26334はCYP2C9を阻害。
適応症:*虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制。*経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞)
副作用:出血(頭蓋内出血、胃腸出血等の出血)、関節血腫。肝機能障害、黄疸。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)。間質性肺炎。無顆粒球症。再生不良性貧血を含む汎血球減少症。皮膚粘膜眼症候群(Stevens‐Johnson症候群)、多形滲出性紅斑、中毒性表皮壊死融解症。
薬物動態値:Cmax:2.29±0.46、Tmax:1.9±0.8、t1/2:6.9±0.9 、AUC0-48(μg・hr/mL):8.46±1.36。*主要代謝臓器: 肝臓で主に二つの経路で代謝。
薬効・薬理:本薬の活性代謝物が、不可逆的に血小板のADP受容体サブタイプP2Y12に作用し、ADPの結合を阻害することにより、血小板の活性化に基づく血小板凝集を抑制する。また、ラットにおいて認められたコラーゲンおよび低濃度トロンビンによる血小板凝集に対する本薬の抑制作用は、これらの刺激によって血小板から放出されたADPによる血小板凝集を抑制することに基づく。

商品名(会社名):ブロプレス錠12mg(武田薬品)
一般名:candesartan cilexetil(JAN)
分 類:持続性アンジオテンシンII受容体拮抗剤
*本薬はcarboxylesteraseにより活性代謝物に代謝され、更に一部がCYP2C9により非活性代謝物M-IIに代謝。M-IIの血中濃度及び尿中排泄率はcandesartanの血中濃度及び尿中排泄率に比べ低く、CYP2C9の遺伝的多型によるcandesartanの血中濃度への影響は少ない。また、candesartanはCYP1A1、1A2、2A6、2B6、2C8、2C9-Arg、2C19、2D6、2E1、3A4の代謝活性を阻害しない(in vitro)。
適応症:高血圧症、腎実質性高血圧症
副作用:血管浮腫。ショック、失神、意識消失。急性腎不全。高カリウム血症。肝機能障害、黄疸。無顆粒球症。横紋筋融解症。間質性肺炎。低血糖
薬物動態値:Cmax:55.1±19.9、Tmax:5.0±1.1、t1/2α:2.2±1.4、t1/2β:9.5±5.1(1日1回4mg投与時)。蛋白結合率:99%以上
薬効・薬理:本薬の降圧作用は、生体内で吸収過程において速やかに加水分解され活性代謝物本薬となり、主に血管平滑筋のアンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体においてアンジオテンシンIIと拮抗し、その強力な血管収縮作用を抑制することによって生ずる末梢血管抵抗の低下による。更に、AT1受容体を介した副腎でのアルドステロン遊離に対する抑制作用も降圧作用に一部関与していると考えられる。

商品名(会社名):ノルバスクOD錠(ファイザー)
一般名:amlodipine besilate
分 類:高血圧症・狭心症治療薬、*持続性Ca拮抗薬
適応症:高血圧症、狭心症
副作用:肝機能障害、黄疸。血小板減少、白血球減少。房室ブロック。
薬物動態値:Cmax:5.84、Tmax: 9.3時間、AUC0-∞:298ng・hr/mL、t1/2:35.1時間(10mg単回投与)。人蛋白結合率:97.1%
薬効・薬理:細胞膜の膜電位依存性Ca-channelに特異的に結合し、細胞内へのCaの流入を減少させることにより、冠血管や末梢血管の平滑筋を弛緩させる。Ca拮抗作用の発現は緩徐であり、持続的である。また、心抑制作用は弱く、血管選択性が認められる。

商品名(会社名):ナトリックス錠1(大日本住友)
一般名:indapamide
分 類:持続型非チアジド系降圧剤
適応症:本態性高血圧症
副作用:皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形滲出性紅斑
薬物動態値:Cmax: 9.9±2.2、Tmax:1.7±0.9hr、AUC0-24(ng・hr/mL):110.3±27.0、t1/2:13.2±2.1 。(ヒト血清)蛋白結合率:約83%
薬効・薬理:正常ラットにおいて、0.1mg/kg経口投与から用量依存的な利尿作用を示し、0.05mg/kg経口投与から尿中へのナトリウム排泄量増加を示す。しかし、尿中へのカリウム排泄作用は比較的軽度であり、また、尿量及びカリウム排泄量は、trichlormethiazide、hydrochlorothiazideに比べて少ない。

肝臓のHMG-CoA還元酵素を選択的・競合的に阻害し、本薬と同程度の活性を持つ活性代謝物とともに、肝臓のコレステロール合成を抑制(atorvastatin calcium hydrate)する。抗血小板作用(clopidogrel sulfate)による虚血性脳血管障害後の再発抑制及び他の3剤は、高血圧治療剤で、主に血管平滑筋のアンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体においてアンジオテンシンIIと拮抗し、その血管収縮作用を抑制することによって生ずる末梢血管抵抗の低下を目的として血圧を下げることを目的とするもの(candesartan cilexetil)、Ca-channelによる血圧低下(amlodipine besilate)を目的とするもの、尿中へのNa排泄を誘導して血圧を下げる薬物(indapamide)等が処方されており、加齢に伴う高血圧は、種々の原因が想定され、1種類の薬物では下げられないため、複合的な共力作用を目的に処方されているものと思われる。

clopidogrel sulfateの投与は、血小板の機能を抑制して血栓の形成を抑える作用があり、血小板の作用により血栓が作られることを防止する薬である。加齢に起因する高血圧、脂質異常症等による梗塞の回避及び毛細血管等の脆弱化に伴う血小板の異常を抑制する目的で投与されているものと考えられる。

1)リピトール錠添付文書,2009.6.改訂(第17版)
2)ブラピレックス錠添付文書,2008.3.改訂(第6版)
3)ブロプレス錠添付文書, 2009.10.改訂(第18版)
4)ノルバスクOD錠5mg添付文書, 2009.9.改訂(第12版)
5)ナトリックス錠1添付文書,2008.3.改訂(第7版)

                                                  [015.4.ATO:2009.11.14.古泉秀夫]

「AD/HDについて」

木曜日, 1月 24th, 2013

 

KW:語彙解釈・ADHD・AD/HD・attention-deficit・hyperactivity disorder・注意欠如・多動性障害

Q:ADHDの略号で記載される病名と病態について。

A:通常、略号の正式な表記は『AD/HD』で、

attention-deficit / hyperactivity disorderの略号である。日本語での表記は『注意欠如・多動性障害』である。

注意欠如・多動性障害(AD/HD)は、幼児期に始まり、注意集中の困難、衝動性、多動性を示す。AD/HDに気分障害と不安障害が合併している率は高い。

ICDに沿った概念として『多動性障害群は、不注意、多動性及び衝動性を主症状とし、それらが状況にかかわらず認められ、適応上の問題を生じるものである。微細脳機能障害(MBD)は、多動、注意欠陥、不器用を主徴とし、多動性障害と重なる点が多い。DSM-IVでは注意欠陥/多動性障害が用いられているが、ICD-10の多動性障害と同様である。

[疫学]有病率は小学生で3-7%で、性比は3-6:1で男子優位である。
[症状と診断]主症状は、不注意、多動性及び衝動性である。
●不注意
?細かい注意が払えずミスが多い。
?注意が集中できない。
?云われたことを聞いていない。
?理解はあるが指示に従えない。
?課題や作業をまとめられない。
?精神的集中を要する課題を嫌う。
?学校で必要なものをよくなくす。
?外からの刺激で注意がそがれやすい。
?物忘れをしやすい。
の9項目中6項目以上が6ヵ月以上持続する。
●多動性
?座っていても手足や体を動かす。
?離席が多い。
?じっとしているべき状況で動き回る(年長者では落ち着かない感じのみ)。
?過度にうるさく一緒に遊べない。
?状況によって変わらず活動的すぎる。
の5項目中3項目以上が6ヵ月以上持続する。
●衝動性
?質問が終わらないのに答え始める。
?順番を待てない。
?他人の邪魔をする。
?遠慮なく過剰にしゃべる。
の4項目中1項目が6ヵ月以上持続することで診断される。

以上の症状は、家庭や学校など状況にかかわらず存在し、適応上の問題を生じる。発症は7歳以前である。鑑別診断は、広汎性発達障害の各亜型、躁病エピソード、うつ病エピソード、不安障害などである。

[治療]

AD/HDの治療として、「心理社会的治療」と「薬物療法」の2種類がある。治療に取り組んだとしても、直ぐに治癒するという病気ではなく、治療は直すことを目指すのではなく、病気を持っていても普通の子供と同じように日常生活、社会生活を送ることが出来る様になることを目的とすることが重要である。

AD/HDの治療で、薬物療法は精神刺激薬が中心であるが長期間用いる治療法ではなく、教育的及び心理的側面からの対応と家族への心理的支持も必要である。

AD/HDの治療においては、いかに有効な治療プログラムを組むかが重要で、子供と家族、医師、臨床心理士、ソーシャルワーカー、担任教師や養護教諭などの学校関係者、福祉行政担当者等、治療に携わるさまざまな人達が連携して取り組むことが必要である。

[予後]

多動性障害を有する子供の2/3は、症状の一部を成人期まで持ち続ける。多動性障害の約1/4に後遺障害が合併する。

1)井上令一・他監訳:精神科薬物療法ハンドブック第3版;MEDSi,2001
2)山口 徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2011
3)上島国利・他編:NEW精神医学改訂第2版;南江堂,2008

                [615.8.ADHD:2012.12.14.古泉秀夫]

「肺MAC症について」

木曜日, 1月 24th, 2013

 

KW:感染症・肺MAC症・Maycobacterium avium complex・MAC感染症・抗酸菌感染症・非結核性抗酸菌・nontuberculous mycobacterium・NTM

Q:TVで放送されていた肺MAC症とはどのような病気か

A:MAC感染症(Maycobacterium avium complex感染症)は、大部分は肺感染症であり、肺外感染症は稀である。結節・気管支拡張型(中葉舌区型)MAC感染症が増加していることもあり、最近の調査では女性が優位を占めている。高齢者の発病が多く、平均年齢は68歳と報告されている。肺MAC感染症は自・他覚症状とも肺結核に類似した慢性肺感染症である。本症は他の肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacterium:NTM)感染症と同様に肺結核症に比較して症状が穏和で発現率も低いが、血痰(喀血)が多い傾向が認められている。

AIDSの末期にCD4+T細胞が100/mm3以下になるとMACをはじめとしたNTM感染のリスクが高まり、NTM症の合併が高率に見られる。このことはMAC等のNTMに対する人の感染抵抗性の発現には、CD4+T細胞依存の免疫系の役割が重要であることを示している。

菌種によっては“cross band”の形態を示すものもある。抗酸性の程度は一般に結核菌よりも弱い。グラム陽性菌である。NTMの発育は結核菌より速いが、卵培地上で37℃で2-3週間を要するものから3日以内に発育するものまで、菌種により様々である。結核菌群と異なり一般に25℃でも発育する。菌種により30-33℃を発育至適温度とするものもある。集落は多くはS型で、白色ないし灰白色のもの、光に当てると発色するもの、暗所でも黄色ないし橙色に発色するものがある。

MAC感染症の原因菌とされるNTMはRunyon分類法でIII筋群に属するM.avium、M.intracellulareとされている。

  至適温度 発育日数 集落性状 自然感染 感受性動物
M.avium 37-40℃ 平均>14 S型、灰白色、古くなると淡黄色-黄色 トリ(結核類似症)ヒト(肺結核類似症) トリ、ウサギ、マウス
M.intracellulare 37℃ >14 S型、灰白色、古くなると淡黄色-黄色 ヒト(肺結核類似症) マウス

NTMに含まれる菌の大部分は自然界、水や土壌中に存在するものと考えられている。その他、食物、動物(家畜を含む)などにも生息している。現在、約150種類が知られているが、そのうち我が国で人に病気を起す主な菌は約10種類であるとされる。
M.avium・M.intracellulare(70%)、M.kansasii (15%)、M.scrofulaceum、M.szulgai、M.gordonae、M.xenopi、M.fortuitum、M.abscessus、M.chelonae。

感染経路としてNTMの吸入による呼吸器系からの感染と、NTMを含む水や食物を介する消化器系からの感染があると云われている。リンパ節、皮膚、骨・関節に病変を作ることもあるが、最も病変が見られるのは肺である。かつては結核や肺に病気を持つ人が易感染者であると云われていたが、近年、世界各地で肺に病気がなく、免疫力も正常な人にNTMによる肺感染症が増加していると報告されている。NTMは結核菌と異なり人から人へ感染は見られない。

?診断:播種性の感染では、発熱、体重減少、寝汗が最もよく見られる症状である。AIDS患者に菌血症を起こすこともある。
肺疾患としては、我が国では肺MAC症が約70%、M.kansasii(カンサシ)によるものが約20%と云われている。肺カンサシ症は結核と区別のつかないことも多いが、特に増加傾向はなく治療によく反応するとされる。一方我が国で最も患者数の多いMAC菌による肺感染症は増加傾向にあるとされる。特に気管支を中心に病変を作る肺MAC症が中年以降の女性に増えているといわれていたが、最近若年者にも見られる様になった。気管支拡張症、慢性気管支炎と言われてきた患者の中に、痰の中の菌を調べるとMAC菌が見つかり肺MAC症と診断されることがある。

?診断検査:貧血とアルカリフォスファターゼ上昇がよく見られる検査異常である。疑い症例では抗酸菌の血液培養検査を実施する。

?治療:初期治療としては、マクロライド系薬物(クラリスロマイシン500mg 1日2回経口)にエタンブトール(15mg/kg 1日1回経口)を併用する。
重症例ではリファンピシン300mg 1日1回経口若しくはシプロキサシン500mg 1日2回経口を加えるのもよい。
播種性MACに対する二次予防は、MACに対する12ヵ月の治療が終了し、症状や徴候がなく、抗レトロウイルス治療に反応してCD4細胞数100/μL以上が6ヵ月以上持続した場合に中止できる。

1)高久史麿・他監訳ワシントンマニュアル第12版;MEDSi,2011
2)内海 爽・他編:エッセンシャル微生物学;医歯薬出版,2000
3)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂33版;南山堂,2007
4)松本慶蔵・編:病原菌の今日的意味 改訂4版;医薬ジャーナル社,2011

               [615.28.MAC:2013.1.23.古泉秀夫]