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「統合失調症治療薬の副作用-眼球上転の発現理由」

火曜日, 11月 27th, 2012

KW:副作用・眼球上転・統合失調症・schizophrenia・スキゾフレニア・精神分裂病・非定型抗精神病薬

Q:統合失調症の治療薬を服んでいる患者が副作用として眼球上転を訴えているが、このような症状が起こる原因は何か。また対処法はあるのか

A:統合失調症は代表的な精神疾患の一つである。統合失調症(schizophrenia)を病気として認識したのはKraepelin(1856-1926)、Bleuler(1857-1939)によるところが大きい。独逸の精神医学者Kraepelinにより早発性痴呆(dementia praecox)と命名されたが、1911年瑞西のBleulerによりSchizophrenie(スキゾフレニア)と命名され、我が国では「精神分裂病」の訳語が1937年(昭和12年)より用いられてきた。その他、精神乖離症、精神分裂症と云われていたこともあるとされる。しかし、精神それ自体の分裂と誤解され易いこと、患者の人格否定につながる等の理由から、2002年(平成14)に「統合失調症」に呼称が変更され、誤解、差別、偏見の解消が期待されている。

統合失調症は青年期ないし成年前期に発症し、陽性症状や陰性症状を呈し、早期に十分な治療的介入を行わないと、進行性の経過を取り易く、再発を繰り返しやすい。発病危険率は0.8%前後で、男女差はないと報告されている。

統合失調症の成因は生物-心理-社会的な要因の複雑な相互作用により発症する。「脆弱性-ストレス」モデルは、多因子が関与し、多段階発達的に形成された脳の脆弱性に心理社会的なストレスが関与し発症するエピソードを統合失調症と見なす。

治療は薬物療法が主体で、非定型(第二世代)抗精神病薬は、錐体外路症状が少なく、陰性症状や認知機能、心理社会的機能、QOLの改善が期待される。心理社会的治療(SST等)は患者の社会復帰を推し進める上で重要である。

統合失調症の治療の最も主要なものは抗精神病薬である。更に重要、安全、効果的な治療手段である。その治療効果は、次の三方向に大別できる。

?鎮静効果(sedative effect):精神安定効果とも呼ばれ、意識状態に変化を来さない量で、精神運動興奮、攻撃性、衝動性を抑制する。
?抗異常体験(抗幻覚妄想)効果:幻覚、妄想、作為体験などが消失ないし、それらの体験に対する患者の構えが疎隔化する。
?賦活(抗自閉)効果:感情鈍麻、意欲減退、昏迷などの精神活動低下の状態を賦活し、生活療法的働きかけを容易にし、社会復帰が可能なようになる。

抗精神薬の選択基準

a.急性期における鎮静的投与:精神運動興奮や異常体験等が出現する急性期には、許容最高量に近い薬用量を比較的急速に投与する。急性の錐体外路系の副作用防止のため、抗パーキンソン薬を併用する。速い治療効果を期待する場合や、拒薬などのため経口投与が困難な場合は注射用製剤を用いる。急性期の症状が激しくなかったり、賦活効果を望む場合は、漸増、漸減が一般的である。
*ハロペリドールデカン酸(haloperidol decanoate)[セレネース錠(大日本住友)][副作用]ジストニア(痙攣性斜頸、顔面・咽頭・頸部の攣縮、後弓反張、眼球回転発作等)錐体外路症状→パーキンソン薬投与等処置
*フルフェナジンデカン酸(fluphenazine decanoate)[フルデカシン注(田辺三菱)][副作用]ジストニア(眼球上転、眼瞼痙攣、舌突出、痙性斜頸、脛後屈、体幹側屈、後弓反張、構音障害、舌のもつれ等)錐体外路症状→抗パーキンソン薬投与等処置

b.維持療法:急性の諸症状が消退して、社会復帰のための生活指導、作業・レクリエーション療法、集団精神療法、デイケアなどを行う際に、中等量の抗精神病薬の維持投与を続ける。

c.再発防止療法:寛解に至っても少量の抗精神病薬を服用することが、良好な社会生活への適応と再発防止のため重要である。

d.新しい抗精神病薬:統合失調症の特徴的な症状を、陽性と陰性の二つの大きなカテゴリーに分けて概念化する試みもある。

陽性症状[妄想、幻覚、解体した会話、酷く解体した又は緊張病性の行動等]:ドパミン受容体(D2)遮断作用が有効。

陰性症状[感情平板化、思考の貧困、意識低下等]:セロトニン受容体(5-HT2)遮断作用が有効。

非定型抗精神病薬(D2遮断作用・5-HT2遮断作用を併せ持つ)
*リスペリドン(risperidone)[リスパダール錠(ヤンセン)][副作用]眼障害(調節障害、眼球回転発作、眼瞼痙攣、視力低下)。
*オランザピン(olanzapine)[ジプレキサ錠(イーライリリー)][副作用]ジストニア(眼球挙上、下肢不安症、動作緩慢)錐体外路症状→抗パーキンソン薬投与等処置。
*クエチアピンフマル酸(quetiapine fumarate)[セロクエル錠(アストラゼネカ)][副作用]錐体外路症状(アカシジア、振戦、構音障害、ジスキネジア、嚥下障害、ジストニア、眼球回転発作、パーキンソン症候群)

錐体外路症状(dopamine D2受容体遮断による副作用)

錐体外路系は、大脳基底核(尾状核、被殻、淡蒼球)と黒質、赤核、視床下部を中心とした経路であり、前障及び視床、脳幹網様体の一部も含まれると考えられる。臨床的には、垂体路、小脳系以外の運動を抑制する系の意味で用いられる。錐体外路系の機能障害による神経症状を錐体外路症状(extrapyramidal symptom;EPS)と称する。EPSには不随意運動、筋緊張異常、随意運動発現障害(無動)、姿勢異常などの症状が含まれる。薬剤性EPSの原因は殆ど抗精神病薬である。症状としてはパーキンソニズム、アカシジア、ジストニアがあり、薬剤内服のタイミングと発症との関係において早発症状と遅発症状に分けられる。

早発症状の一つである急性ジストニア(acute dystonia;ADt)では、突然奇異な姿勢や運動を生じるのが特徴である。一定の筋群の収縮によって不随意的な捻転運動が見られる。舌を突出したり、斜頸、後弓反張、口頭ジストニア、眼球上転発作などが出現する。強い痛みのため、日常生活に支障を来す場合がある。若い男性で急性ジストニアのリスクが高い。

ジストニア(dystonia):筋肉が異常に縮み、首、目蓋、手首などが曲がったり、引きつったりする症状が見られる。運動すると症状が強くなる。腕に起これば書痙、首に起これば痙性斜頸。治療法としては、抗痙攣薬のclonazepamやパーキンソン病治療薬のl-dopaが有効なことがある

非定型抗精神病薬の錐体外路症状発現率

clozapineやquetiapineでは、殆ど錐体外路症状(EPS)の発現は見られず、olanzapineとrisperidoneは従来の抗精神病薬よりEPSの発現率は少ないものの、投与量に依存して出現する。非定型抗精神病薬を第二世代抗精神病薬とする報告がある。第二世代抗精神病薬は効果的な臨床用量を投与すると、全て従来の抗精神病薬より顕著にEPSのが少なくなっている。従来の定型抗精神薬の使用では、EPSは日常的で、重篤な副作用を併発する。患者の訴えは不快感(discomfort)と苦悶(distress)に加えて、EPSによってcomplianceが悪くなり、結局は治療効果が悪くなる。第二世代抗精神病薬は、急性と遅発性に起こるEPSの両者の減少をもたらす。全ての第二世代抗精神病薬は概ねEPSを少なくし、大きい問題を併発しうる抗パーキンソン薬の投与を減ずることが出来る。長期間の研究dataでは、第二世代抗精神病薬が遅発性ジスキネジアの発症リスクも減少させることを示唆している。

統合失調症を中心とする急性・慢性の精神病状態(精神運動興奮・昏迷、幻覚、妄想等)の治療薬は、臨床薬理学的には、?抗精神病効果、?dopamine D2受容体親和性を共通特性とするが、用量力価(mg potency)や定型・非定型によって薬理作用と副作用は若干異なる。抗精神病効果・錐体外路症状・血中プロラクチン上昇は、dopamine受容体への結合を介して現れる。つまり効果と副作用は統合失調症治療薬の薬理作用の正負の関係で発現するものといえる。

1)上島国利・他:NEW精神医学 改訂第2版;南江堂,2008
2)高久史麿・他編:治療薬マニュアル2012;医学書院,2012
3)融 道男:向精神薬マニュアル 第3版;医学書院,2008

             [065.EPS:2012.7.10.古泉秀夫]