『エチコンエスについて』
土曜日, 11月 3rd, 2012
KW:物理化学的性状・滑沢剤・absorbable dusting powder・滑剤・エチコンエス・タルク・手術手袋用滑沢剤・滑剤除去法・ethicon S
Q:手術用ゴム手袋装着時に用いる滑沢剤エチコンエスの代替品はないか。手術時に患部に滑沢剤が付着すると困るため。
A:エチコンエス(日本化薬)は、精選コーンスターチを特殊な化学的並びに物理的処理をして得られた澱粉誘導体に2%以内の酸化マグネシウムを添加した物で、米国薬局方absorbable dusting powderの規格に適合している。
手術ゴム手袋用滑沢剤として使用されているタルクは、開腹手術にともなって往々にして引き起こされる腹膜癒着の一因とされている。1933年にタルクを腹腔内に散布すると腹膜間肉芽腫、腸管膜癒着、その他の障害の原因になることが確認され、タルクに代わる無害な滑沢剤が要望され、トウモロコシ澱粉に特殊処理を施したエチコンエス(ethicon S)が製造された。本品は蒸気滅菌を行っても糊化せず、滅菌後も活性を失うことなく、且つ害の少ない滑沢剤である。
本品は腹腔内に飛散しても比較的短時間で生理的に吸収代謝されて局所に残留せず、癒着、その他の障害を殆ど起こさない。手術用手袋一組に付着するタルクの量は、普通0.2-0.3gで、犬による実験ではこの半量(0.15g)でも明らかに軽度ないし中等度の腸管膜癒着を生ずるが、エチコンエスは約3倍量(0.8g)を散布しても異常はなく、1週間以内に吸収されて局所に殆ど残留していないことが報告されている。
本剤の用法については、本品を手、指によく散布し、ゴム手袋を装着する。装着後手袋の表面に付着した粉末は十分に除去するとされているが、除去する方法については、手袋装着後の手を叩くことによって、付着したエチコンエスを物理的な力によって取り除くかあるいは消毒剤を用いて洗い流す方法が用いられているようである。
本品の使用上の注意として、『本品でも一時に大量のものが腹腔内に入れば吸収されず、Starch-granuloma(澱粉肉芽腫)や癒着を起こす恐れがあるので、手袋に付着した粉末は十分に除去し、できる限り腹腔内に入らないよう注意すること』の記載がされているが、動物実験の結果から見て、通常、手袋に付着している程度の本品の量で、特に問題になるとは考えられず、また、手袋装着後、手を叩くことで手術部位に影響しない程度まで、除去は可能であると考えられる。
尚、本品に代わる滑沢剤を用いたとしても、ゴム手袋に滑沢剤が付着することは避けられず、同様の処理は必要である。
1)エチコンエス添付文書,1986
2)日本化薬株式会社学術課・私信,1991
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.103,1991.6.18.
[790.FD15.014.45ETH.1991.6.17.古泉秀夫・1999.3.31.一部修正]
追記:産婦人科で使っていた粉末「タルク」に混入したアスベスト(石綿)が原因で中皮腫になったとして元准看護師が労災認定された問題で、2012.8.27.大阪市内で当事者が記者会見した。医療現場での日常的な作業で石綿に触れていたことを知らず、病気の原因が分からずに悩んできた心情を吐露し、「私と同じ状況にいる人が救済されるきっかけになれば」と語った。1981年から約5年、産婦人科医院に勤務。当時、手術用ゴム手袋を再利用する際、手袋がくっつかないよう、袋に入れてタルクをまぶす作業をし、袋を開く時にタルクを吸い込んだという。(2012年8月28日 読売新聞)。
上記の報道を受けてエチコンエスに興味が持たれたようであるが、残念ながら本品は2006年3月31日までの経過措置品目の扱いとなっている。