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「モーズ軟膏の調製法」

水曜日, 10月 3rd, 2012

 

KW:院内製剤・院内特殊製剤・モーズ軟膏・モーズペースト・Mohs軟膏・塩化亜鉛・モーズペースト

Q:皮膚癌の治療目的で、医師がモーズ軟膏を調製したいと考えているが、この製剤の保存期間はどの程度かと問い合わせてきた。調査を御願いしたい。

A:モーズ軟膏(Mohs)又はモーズペースト(Mohs paste)とは、米国の外科医F.E.Mohsが考案した軟膏製剤とされている。主成分は塩化亜鉛で、塩化亜鉛が潰瘍面の水分でイオン化し、亜鉛イオンの蛋白凝集作用により腫瘍細胞や腫瘍血管および二次感染した細菌の細胞膜硬化作用を有する。

処方例内容は

塩化亜鉛 50g (試薬)
精製水 25mL (局方品)
亜鉛華澱粉* 25g (局方品)
グリセリン 20mL (局方品)
全量 100g

*亜鉛華澱粉

酸化亜鉛 50g
トウモロコシデンプン 50g

[調製法]            

ビーカーに精製水25mLを秤取し、徐々に塩化亜鉛50gを加えて、溶解するまでスターラーを用いて撹拌する。溶解放冷後、ビーカー中の塩化亜鉛溶解液に亜鉛華澱粉25gを秤取し、少量ずつ加えてよく混和する。溶液を均一とした後、ある程度硬度がでてきたら、乳鉢に移し、亜鉛華澱粉を徐々に加えて、グリセリン20mLを加えてペースト状とする。調製には保護マスク、保護メガネ、手袋を装着する。なお、塩化亜鉛は腐食性があるので金属は用いない。

[用法・用量]

皮膚癌などの病変部位に塗布し、Mohs軟膏は切除困難な皮膚悪性癌等の出血や感染、浸出液や悪臭に対しQOLを改善するための緩和治療に用いられる(保険適応外)。Mohs軟膏は組織を固定させるため、固定部位を切除して腫瘍がなくなるまで繰り返す。
塗布する際には、粘度の調節のため、適宜グリセリンを加える。

[貯法]遮光・室温保存。
保存期間については特に報告されていないが、院内製剤の場合、その保存期間は短期間とすることが原則である。

[使用上の注意]

軟膏を0.5-2mmに塗布し、ガーゼで覆い、6-24時間後に固定された組織をメス等で切除する。組織の状態を観察し、固定・切除を繰り返す。軟膏を塗布する厚さや塗布時間は、腫瘍の大きさ、状態により考慮する。なお、軟膏は健康皮膚に付着すると、製剤の刺激性により影響されるので、腫瘍近辺の健常組織にはワセリン等を塗布し、保護する。

[薬効・薬理]

モーズ軟膏の薬効及び薬理作用は、塩化亜鉛によるもので、亜鉛イオンは水溶液中で蛋白質を沈殿させ、組織の収斂や腐食を起こす。また亜鉛には殺菌作用も見られる。本品は腫瘍の除去とそれに伴う止血、浸出液の抑制や二次感染による悪臭の軽減に有効である。

その他、モーズ軟膏は、基底細胞癌及びSCC、MMなど表在性腫瘍の止血及び腫瘍組織の除去等の化学的デブリドマンを目的として使用するものである。使用法は、約1mmの厚さで腫瘍組織表面に外用し、その後24-72時間ごとに硬化した組織を切離除去する。今回は塩化亜鉛の濃度を変えた3種類のモーズ軟膏を調製し、扁平上皮癌、乳癌、悪性黒色腫に使用したところ、どの軟膏も止血効果、悪臭軽減効果がみられた。しかし、塩化亜鉛の量が多くなるほど組織は硬く硬化するため、塩化亜鉛を減量した軟膏のほうが使用しやすいと考えたとする報告が見られる。

なお、本剤は院内特殊製剤であるため、調剤薬局宛に処方箋を出してはならない。また、外科的処置が必要なため、院内での処置となるとする報告が見られる。

また、他の報告として『Mohsペーストとは、米国の外科医Frederic E.Mohs博士が創始した化学外科療法(chemosurgery)に用いる、組織を化学的に固定することを目的とした外用剤である。
Mohs化学外科療法は、1936年、主に皮膚癌の治療法として導入された。その後外科、眼科、耳鼻科領域で広く行われた療法であるとされている。本来のMohs化学外科療法とは、皮膚癌などの病変部位にMohsペーストを塗布し、固定した組織をメス等で取り除き、病理組織的に診断を行いつつ、腫瘍組織が無くなるまでこの作業を繰り返す方法である。
しかし、最近では、手術が困難な場合や手術を拒否している症例に対して、腫瘍の縮小や腫瘍からの出血を止めるなど、症状の緩和を目的とした方法が行われている。
なお、現在使用されているMohsペーストの処方は、原処方中には我が国では入手できない薬品が含まれているため報告されている処方は変法である。』とする報告も見られる。

注意事項

原料の塩化亜鉛は、『試薬』であり、医薬品として使用されることは認められていない。従って本品を院内製剤する場合、院内倫理委員会において承認を得ることが必要である。また、患者には十分に説明し、同意書の提出を求めておくことが必要である。尚、本製剤の保険請求は認められない。

1)社団法人福岡県薬剤師会薬事情報センター:http://www.fpa.or.jp/yakuji-enter/yakuji-menu/shi
tugioutou/y10k06/,2012.7.24.
2)沖山良子・他:モーズ軟膏の適用と使い方;皮膚病診療,31(6):741-746(2009)
3)佐々木尚美:モーズ軟膏使用時の看護ケア;Nursing Today,11:6-8(2010)
4)荒木裕子・他:患者ベネフィットを追求した院内製剤 Mohsペースト;月刊薬事,51(9):1281-1285(2009)

                 [014.16.MOH:2012.7.26.医薬品情報21・古泉秀夫]