Archive for 10月 3rd, 2012

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『糸巻海星について』

水曜日, 10月 3rd, 2012

 

KW:イトマキヒトデ・糸巻海星・Asterina pectinifera・無脊椎動物・Asterindae・イトマキヒトデ科・イトマキヒトデ属・棘皮動物・サポニン・saponin

Q:糸巻海星について

A:糸巻海星(Asterina pectinifera)。ヒトデ綱(Class Asteroidea)、アカヒトデ目(Order Valvatida)、イトマキヒトデ科(Family Asterindae)。イトマキヒトデ属(Genus Asterina)。海星は棘皮動物門(Phylum Echinodermata)に属する無脊椎動物である。学名:Patiria pectinifera。別名:糸巻海盤車。

日本沿岸の浅海に最も普通に見られるヒトデで、テトラポットや漁港の岩壁などによく張り付いている。名前の通り糸巻きに似た五角形で、腕が短く、間輻域の切れ込みが浅い。5腕の物が多いが、4腕や6-7腕、稀に9腕の物もいる。盤と腕の中央は隆起し、体の周縁は薄く、腹側は平坦。青藍色や暗緑色で不規則な橙赤色の斑紋がある物が多いが、一様に朱赤色の物もおり、腹側は橙黄色。体表は顆粒状の単棘で覆われ、背側板には覆瓦状に並ぶ半月形の主骨板と小さい副骨板の二種がある。溝棘は3-4本で、外側に4-6本の亜溝棘が平行して並ぶ。

潜水中に体が異常に盛り上がった物を見つけることが有り、岩盤から剥がしてみると反転した胃の中から半ば消化された小型の蟹やヤドカリが出てくることが多い。卵巣などにサポニンと言う有毒成分を含むので、ウニ類のように卵巣を食用にはしない。

樺太、北海道-九州、東シナ海の潮間帯-水深300mに分布する。放流されたサザエ、クロアワビ、蝦夷アワビ等の稚貝を食害する有害種であるとされている。しかし、海は元々彼らの領域で有り、簡単に有害種と断定されたのでは堪ったものではない。

サポニン (saponin)

サポノシド(saponoside)。ステロイドやトリテルペノイドを非糖部(aglycone)とする一群の配糖体の総称であるが、強心配糖体や植物ステロールモノグルコシドは含めない。植物界に広く分布するが、動物では一部の棘皮動物(ヒトデや海鼠)に含まれている。共通した性質としてはその水溶液が著しい気泡性を持ち、赤血球細胞膜のステロイドと結合して溶血させる。この緩和な界面活性剤としての性質を利用して、細胞膜を破壊する目的に用いられる。ジギトニン*はサポニンの代表的例である。

saponinは水、メタノール、アルコールなどには溶けるが、他の有機溶媒には溶けない。水溶液が何時までも強く泡立っているのが特徴である。保護コロイドとしての性質を持ち、しばしば洗浄剤、乳化剤、起泡剤として用いられる。粘膜刺激作用が有り、肌荒れ、皮膚炎などの原因となる。ジギタリスの葉に含まれるジギトニン(digitonin)、ギトニン(gitonin)、エゴノキの実に含まれるエゴサポニン(jegosaponin)等はsaponinである。

ジギトニン(digitonin)。ジギチン(digitin)。C56H92O29=1229.33。無色結晶。融点:225℃(湿潤)、235-240℃(不明瞭)。ゴマノハグサ科植物ジギタリス(Digitalis purpurea,D.lanata)の種子、葉より得られるスピロスタン骨格を持つサポニンで、強心剤として用いられるプルプレア配糖体と区別される。無機酸で加水分解するとジギトゲニン、グルコース、ガラクトース各2分子、キシロースを生じる。強い溶血性、発泡性を持ち魚毒となる。アルコール中、3β-ヒドロキシル基を持つステロール、高級アルコール、フェノールと難溶性の包接化合物(ジギトニド)を形成するので、酵素法が発達するまでは、血清、胆汁、組織中のコレステロールの定量に利用された。またロドプシンなどを水中に分散させる際の界面活性剤として用いられる。

海綿(sponge)及び海鼠(sea cucumber)も海底に生息する動物で、海綿は海綿動物門(Echinodermata)、海鼠は棘皮動物門の海鼠類(Holothurioidea)に属する動物である。これらの動物が持つ毒は、人に対して中毒を起こす公衆衛生の立場よりも、これらの種々の毒化合物が抗生物質、抗癌剤、酵素の阻害剤としての作用を持っていることが多い。海鼠類からは多数のsaponinが知られている。これらのsaponinの多くは抗黴作用が有り、ホロトキシンを含む薬剤が水虫の薬として利用されている。

saponinには界面活性作用があるため、細胞膜を破壊する性質があり、血液に入った場合には赤血球を破壊(溶血作用)したり、水に溶かすと水生動物の鰓の表面を傷つけることから魚毒性を発揮するものもある。saponinはヒトの食物中で必要な高比重リポ蛋白(コレステロール)の吸収を阻害したりする。こうした生理活性を持つ物質の常で作用の強いものにはしばしば経口毒性があり、蕁麻疹や多型浸出性紅斑を起こす。特に毒性の強いものはサポトキシンと呼ばれる。構造の類似した物質でも、強心配糖体(ジギタリスのジギトキシン、ジゴキシンなど)や植物ステロール配糖体は普通サポニンには含めない。

1)佐波柾機・他:ヒトデガイドブック;TBSブリタニカ,2002
2)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
3)Anthony T.Tu:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
4)海老沼昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

    [999.1.AST.2012.8.26.古泉秀夫]

「モーズ軟膏の調製法」

水曜日, 10月 3rd, 2012

 

KW:院内製剤・院内特殊製剤・モーズ軟膏・モーズペースト・Mohs軟膏・塩化亜鉛・モーズペースト

Q:皮膚癌の治療目的で、医師がモーズ軟膏を調製したいと考えているが、この製剤の保存期間はどの程度かと問い合わせてきた。調査を御願いしたい。

A:モーズ軟膏(Mohs)又はモーズペースト(Mohs paste)とは、米国の外科医F.E.Mohsが考案した軟膏製剤とされている。主成分は塩化亜鉛で、塩化亜鉛が潰瘍面の水分でイオン化し、亜鉛イオンの蛋白凝集作用により腫瘍細胞や腫瘍血管および二次感染した細菌の細胞膜硬化作用を有する。

処方例内容は

塩化亜鉛 50g (試薬)
精製水 25mL (局方品)
亜鉛華澱粉* 25g (局方品)
グリセリン 20mL (局方品)
全量 100g

*亜鉛華澱粉

酸化亜鉛 50g
トウモロコシデンプン 50g

[調製法]            

ビーカーに精製水25mLを秤取し、徐々に塩化亜鉛50gを加えて、溶解するまでスターラーを用いて撹拌する。溶解放冷後、ビーカー中の塩化亜鉛溶解液に亜鉛華澱粉25gを秤取し、少量ずつ加えてよく混和する。溶液を均一とした後、ある程度硬度がでてきたら、乳鉢に移し、亜鉛華澱粉を徐々に加えて、グリセリン20mLを加えてペースト状とする。調製には保護マスク、保護メガネ、手袋を装着する。なお、塩化亜鉛は腐食性があるので金属は用いない。

[用法・用量]

皮膚癌などの病変部位に塗布し、Mohs軟膏は切除困難な皮膚悪性癌等の出血や感染、浸出液や悪臭に対しQOLを改善するための緩和治療に用いられる(保険適応外)。Mohs軟膏は組織を固定させるため、固定部位を切除して腫瘍がなくなるまで繰り返す。
塗布する際には、粘度の調節のため、適宜グリセリンを加える。

[貯法]遮光・室温保存。
保存期間については特に報告されていないが、院内製剤の場合、その保存期間は短期間とすることが原則である。

[使用上の注意]

軟膏を0.5-2mmに塗布し、ガーゼで覆い、6-24時間後に固定された組織をメス等で切除する。組織の状態を観察し、固定・切除を繰り返す。軟膏を塗布する厚さや塗布時間は、腫瘍の大きさ、状態により考慮する。なお、軟膏は健康皮膚に付着すると、製剤の刺激性により影響されるので、腫瘍近辺の健常組織にはワセリン等を塗布し、保護する。

[薬効・薬理]

モーズ軟膏の薬効及び薬理作用は、塩化亜鉛によるもので、亜鉛イオンは水溶液中で蛋白質を沈殿させ、組織の収斂や腐食を起こす。また亜鉛には殺菌作用も見られる。本品は腫瘍の除去とそれに伴う止血、浸出液の抑制や二次感染による悪臭の軽減に有効である。

その他、モーズ軟膏は、基底細胞癌及びSCC、MMなど表在性腫瘍の止血及び腫瘍組織の除去等の化学的デブリドマンを目的として使用するものである。使用法は、約1mmの厚さで腫瘍組織表面に外用し、その後24-72時間ごとに硬化した組織を切離除去する。今回は塩化亜鉛の濃度を変えた3種類のモーズ軟膏を調製し、扁平上皮癌、乳癌、悪性黒色腫に使用したところ、どの軟膏も止血効果、悪臭軽減効果がみられた。しかし、塩化亜鉛の量が多くなるほど組織は硬く硬化するため、塩化亜鉛を減量した軟膏のほうが使用しやすいと考えたとする報告が見られる。

なお、本剤は院内特殊製剤であるため、調剤薬局宛に処方箋を出してはならない。また、外科的処置が必要なため、院内での処置となるとする報告が見られる。

また、他の報告として『Mohsペーストとは、米国の外科医Frederic E.Mohs博士が創始した化学外科療法(chemosurgery)に用いる、組織を化学的に固定することを目的とした外用剤である。
Mohs化学外科療法は、1936年、主に皮膚癌の治療法として導入された。その後外科、眼科、耳鼻科領域で広く行われた療法であるとされている。本来のMohs化学外科療法とは、皮膚癌などの病変部位にMohsペーストを塗布し、固定した組織をメス等で取り除き、病理組織的に診断を行いつつ、腫瘍組織が無くなるまでこの作業を繰り返す方法である。
しかし、最近では、手術が困難な場合や手術を拒否している症例に対して、腫瘍の縮小や腫瘍からの出血を止めるなど、症状の緩和を目的とした方法が行われている。
なお、現在使用されているMohsペーストの処方は、原処方中には我が国では入手できない薬品が含まれているため報告されている処方は変法である。』とする報告も見られる。

注意事項

原料の塩化亜鉛は、『試薬』であり、医薬品として使用されることは認められていない。従って本品を院内製剤する場合、院内倫理委員会において承認を得ることが必要である。また、患者には十分に説明し、同意書の提出を求めておくことが必要である。尚、本製剤の保険請求は認められない。

1)社団法人福岡県薬剤師会薬事情報センター:http://www.fpa.or.jp/yakuji-enter/yakuji-menu/shi
tugioutou/y10k06/,2012.7.24.
2)沖山良子・他:モーズ軟膏の適用と使い方;皮膚病診療,31(6):741-746(2009)
3)佐々木尚美:モーズ軟膏使用時の看護ケア;Nursing Today,11:6-8(2010)
4)荒木裕子・他:患者ベネフィットを追求した院内製剤 Mohsペースト;月刊薬事,51(9):1281-1285(2009)

                 [014.16.MOH:2012.7.26.医薬品情報21・古泉秀夫]

「アダラートの副作用-歯肉肥厚」

水曜日, 10月 3rd, 2012

 

KW:副作用・歯肉肥厚・アダラート錠・nifedipine・カルシウム拮抗剤・Ca拮抗剤

Q:高血圧の治療目的でアダラートを服用中、歯科医師から歯茎が腫れているので中止するように云われた。どのように対応したらよいか

A:アダラート錠[nifedipine(バイエル)]は、第一世代のジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤である。
カルシウム拮抗剤(calcium channel blocker, CCB)とは、血管の平滑筋にあるカルシウムチャネルの機能を拮抗(阻害)し、血管拡張作用を示す薬剤である。適用症例として主に高血圧、狭心症があげられる。なお、カルシウム拮抗薬にはCYP3A4で代謝される薬剤が多く、腸管内のCYP3A4活性を阻害すると薬物血中濃度が過剰に上昇する事が知られている。このため、CYP3A4活性阻害作用を持つフラノクマリン類を多く含むグレープフルーツジュースとの飲みあわせは一般的に行うべきではない。但し、肝初回通過効果の影響が小さいアムロジピンなど一部の薬剤では、グレープフルーツジュースによるCYP3A4活性阻害作用の影響が比較的少ないことが知られている。

カルシウム拮抗薬の副作用としての歯肉肥厚は、次の薬剤で報告されている。

amlodipine besilate[アムロジン錠(大日本住友)]口腔(連用により歯肉肥厚)→中止。
amlodipine besilate・atorvastatin calcium hydrate[カデュエット配合錠(ファイザー)]消化器(連用により歯肉肥厚)。
aranidipine[サプレスタカプセル(大鵬)]-記載無し-
azelnidipine[カルブロック錠(第一三共)]消化器(歯肉肥厚)。
barnidipine hydrochloride[ヒポカカプセル(アステラス)]口腔(歯肉肥厚)。
benidipine hydrochloride[コニール錠(協和醗酵キリン)]口腔(歯肉肥厚)。
cilnidipine[アテレック錠(味の素)]消化器(歯肉肥厚)。
diltiazem hydrochloride[ヘルベッサー錠(田辺三菱)その他(歯肉肥厚)。
efonidipine hydrochloride ethanolate[ランデル錠(日産化学)]口腔(歯肉肥厚)。
felodipine[スプレンジール錠(アストラゼネカ)]口腔(歯肉肥厚)→中止。
nicardipine hydrochloride[ペルジピン錠(アステラス)]口腔(歯肉肥厚)→中止。
nifedipine[アダラート錠(バイエル)]口腔(歯肉肥厚)。
nilvadipine[ニバジール錠(アステラス)]口腔(歯肉肥厚)→連用により発現・中止。
nisoldipine[バイミカード錠(バイエル)]口腔(類薬:歯肉肥厚)。
nitrendipine[バイロテンシン錠(田辺三菱)口腔(歯肉肥厚)。
manidipine hydrochloride[カルスロット錠(武田)]口腔(歯肉肥厚)→中止。
verapamil hydrochloride[ワソラン錠(エーザイ)]口腔(連用により歯肉肥厚)→中止。

カルシウム拮抗薬の内aranidipine[サプレスタカプセル(大鵬)]については、2009年6月改訂の添付文書中に『歯肉肥厚』の記載はされていないが、他の薬剤の添付文書中には全て記載されている。

歯肉肥厚(歯肉組織過形成)について次の報告がされている。

歯肉組織の過形成は炎症を伴わず、様々な薬物、特にフェニトイン、シクロスポリン、ニフェジピン又はあまり一般的ではないが、その他のカルシウムチャネル拮抗薬への反応として起こることがある。過形成は、瀰漫性で、比較的無血管の平滑性又は結節性歯肉肥大が特徴で、幾つかの歯を殆ど覆ってしまうことがある。肥大した組織は、しばしば切除される。可能な場合は、原因薬物を中止し、代替薬物の投与がされる。綿密な口腔衛生は、再発を最小限にする。

calcium拮抗剤による歯肉肥厚について、発症機序は不明とされているが、1種類のcalcium拮抗剤を除いて、他の全てのcalcium拮抗剤に報告されており、本剤の薬理作用に関連する物と考えられる。カルシウム拮抗剤の使用により細胞内へのcalcium流入が減少するため、歯肉の線維芽細胞でコラーゲンの分解が抑制され、歯肉肥大が起こるのではないか、又は末梢動脈と静脈の拡張バランスが崩れ、鬱血や浮腫が発現し、ブラッシングなどの刺激で炎症が起こるためではないかと考えられている。

1)高久史麿・他編:治療薬マニュアル2012;医学書院,2012
2)福島雅典・総監修:メルクマニュアル第18版日本語版;日経BP社,2007
3)アダラート錠インタビューフォーム,2010.5.
4)バイミカード錠インタビューフォーム,2012.2.
5)アムロジピン錠インタビューフォーム,2010.11.

                      [065.CAL:2012.7.12.古泉秀夫]