「一物二名称」
月曜日, 9月 24th, 2012魍魎亭主人
中央社会保険協議会は、8月22日の総会において、富山化学/エーザイの関節リウマチ治療薬イグラチモド(一般名)について、『コルベット(大正富山)』、『ケアラム(エーザイ)』の商品名で併売するのは好ましくないとする意見が診療側委員から出たという。
いわゆる「一物二名称」は問題だという意見である。
三浦洋嗣委員(日本薬剤師会副会長):「患者や国民にどういうメリットがあるのか」と疑問視。薬局の在庫負担だけでなく、医療安全の観点からも「好ましくない。ルールを見直すべきではないか」と問題提起した。これに対し、
厚生労働省保険局医療課の吉田易範薬剤管理官は一物二名称は「別会社が別に承認を取って販売するもので、特段の保健衛生上の問題があるとは考えにくい」と指摘。メーカーMRが競うことで情報提供が充実することや、競争原理が働き、市場実勢価格が下がれば、薬剤費の適正化にもつながることなど、利点もあることを説明した。
この返答に、安達秀樹委員(京都府医師会副会長)は「両社が頑張るから詳細に情報提供が可能と云うが、こんなものを利点と思われたら困る。両社がMRを抱えて耳元で(医師に)囁き続ける。余計に囁いた方が耳に残るだけ」と反論。1社による販売よりMR雇用の人件費が嵩み、それが薬価にも上乗せして反映されることから「二社併売は好ましいとは思わない」と述べたと云う記事[リファックス,第6151号,平24.8.23]が紹介されていた。
“iguratimod”は、大正富山で創薬し、エーザイが共同開発の形で参画した薬剤である。2社共同開発に持ち込んだと云うことは、創薬した大正富山が、開発に伴う危険負担を軽減したい為と、治験実施医療機関の確保、市販後の販売戦略を考慮して提携したと考えられる。開発段階で膨大な経費をかけて、開発中止などと云うことになれば、損害は大きい。開発段階での危険性の分散ということで、両社がそれぞれに賭けたということだろう。
さて、厚生労働省は一物二名称について企業のMRが競うことで、情報提供が充実するとしているが、そんなことはあり得ない。大正富山とエーザイは、その品揃えは自ずから異なる。更には得意分野も異なっている。更に医療機関に対する影響力は、大きく差が開いている。従って、市販が開始される段階で企業は完全に担当医療機関の配分を決定し、全国的に担当病院を決めてしまう。つまり両社間に競争は起こりえないのである。しかし、担当施設を振り分けることで、個々の会社の売り上げではなく、全体の売り上げが嵩上げされる。その意味では商品名は何も二つにする必要はない。
競争原理が働き、市場実勢価格が下がれば、薬剤費の適正化にもつながるなどと脳天気なことを期待しているようであるが、競争は起こらない以上、競争原理は働きようがない。実勢価格が下がるとすれば、期待するほどの効果がなく、使用する医師が乗り気にならず、企業に嫌気がさした時である。大体、価格の設定は厚生労働省がやっているはずである。競争原理で値が下がることを期待するのではなく、最初から期待する価格を設定したらどうか。
医薬品の開発には膨大な経費が掛かる。二社協同で開発するという流れを止めることは出来ない。当然併売と云う形式は存続する。そのたびに一物二名称にするのではなく、統一名称で販売することで何の問題もないはずである。
(2012.9.6.)