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「ウエストナイルウイルス(West Nile Virus)の感染防御」

火曜日, 9月 4th, 2012
感染症分類

4類感染症・全数[ウエストナイル熱患者を診断した医師は、直ちに指定の届出様式により最寄りの保健所に届け出る]。

一般的性状

ウエストナイルウイルス(West Nile Virus)は、フラビウイルス科フラビウイルス(Flavivirus)属に属する。日本脳炎ウイルスやセントルイス脳炎ウイルスに近い。野生・飼育の鳥類に感染するが、時に哺乳類にも感染し、馬科では時に脳炎を起こす。人でも発病する。下水道から集めてプールした蚊からWest Nile Virusが分離されると共に、河畔で死亡していたカラスが見つかるようになり脳・腎臓・肝臓等からWest Nile Virusが分離された。またカラス以外にblue jay(青カケス)、Red tail hawk等も感染して死亡している。

1999年10月19日West Nile Virus感染症による馬の死亡が報告された。輸液療法や抗炎症薬の投与など対症療法が行われている。ウイルスの感染経路は不明な点が多いが、感染した鳥を吸血した蚊を媒介して馬に感染したと考えられる。2001年8月1日USDA(米国農務省)は、West Nile Virus感染症不活化ワクチン(動物用 Fort Dodge Animal Health社)に対する条件付きの認可を与えた。

小型球形のウイルス。envelopeを持ち、核酸は1本鎖RNAである。節足動物媒介性ウイルスである。蚊が主な媒介者(vector)であるが、単にウイルスを運ぶのではなく、自己の体内でウイルスの増殖を許すが、自身は発病せずウイルスを持ち続ける。

棲息部位

アフリカ(ウガンダ、コンゴ、中央アフリカ、マダガスカル、ケニア、エジプト)、地中海沿岸(仏蘭西のカマルグ地方)、印度等の極めて広い地域に分布している。

West Nile Virusの感染環は、Culex(イエカ)-鳥のサイクルで維持される。鳥以外の中間宿主としてコウモリも考えられている。ダニにも感染するが、ダニが媒介するとする確証はない。

病原性・感染経路

主としてCulex(イエカ)の吸血により感染する。Culex(イエカ)の中でもアフリカや中東においてはCulex univittatusとCulex pipiens molestusが、アジアにおいてはCulex tritaeniorhynchus(コガタアカイエカ)が主要な媒介蚊である。温帯地域ではウエストナイル熱・脳炎が発生するのは夏の後半から初秋にかけてである。

[註1]米疾病対策センター(CDC)は、2002年9月19日、同国で過去3年間に感染が広がり、多数の死者が出ているウエストナイル熱について、『輸血や臓器移植を介して感染』することが確認されたと発表した。ウエストナイル熱のウイルスには、蚊を通してのみ感染するとこれまで考えられていた[読売新聞,第45429号,2002.9.20.]。

[註2]米疾病対策センター(CDC)は2002年9月27日、全米で猛威をふるうWest Nile Virusに感染した女性の母乳から、ウイルスの痕跡が見つかったと発表した。母乳中での発見は初めて。CDCでは母子感染の危険性を考慮、更に詳しい調査を続けるという。この女性はミシガン州在住で、今月2日に出産。直後に発熱などの症状がでて、感染を確認。母乳中から、ウイルスの遺伝子の断片が見つかった。女性は2週間子供に母乳を与えたが、子供の感染は今のところ確認されていない。原因ははっきりしないが、出産後に受けた輸血の提供者が、同ウイルスに感染していたことが判明しており、ウイルスが混入していた可能性があるという[読売新聞,第45437号,2002.9.28.]。

潜伏期間:5-15日

通常ヒトでは不顕性感染あるいは発病しても短期間内に回復するが、高齢者では重篤な脳炎症状を示し、死亡することもある。発症した場合、次の病態がみられる。

通常型:急激な熱性感染として発症し、頭痛、背部痛、眩暈、発汗。ときに猩紅熱様発疹(約半数の症例で認められる)、リンパ節腫大、口峡炎を合併する。患者は第3-7病日に解熱し、短期間に回復する。発熱は二峰性を示すこともある。

脳炎型:重篤である。高齢者によく見られる。中央アフリカでは劇症肝炎を併発した症例が報告されている。また心筋炎、膵炎の併発例も報告されている。

治療 West Nile Virusを対象とした、特定の治療法は報告されていない。
感染防御

*抵抗性:envelopeを保有するウイルスは、エーテル、クロロホルム、石鹸などの脂質溶解薬で処理すると感染性が著しく低下する。

?蚊の活動(吸血)時間帯は、昼間ではなく、日暮れから朝方にかけてであり、特に日暮れから数時間は最も活動が活発になるので、この時間帯の戸外での活動を回避する。?蚊は明るい色を嫌うので、服の色は明るいものとし、長袖・長ズボンを着用し、肌の露出部は少なくする。?虫除けスプレーを使用する。?夜間は窓を閉めるか又は網戸で蚊の侵入を防ぐ。蚊帳を吊るのも効果的である。?住居の内外で水が溜まる場所・物(プール、鳥の水入れ、空き缶、空き瓶等)を取り除き、ボウフラの繁殖場所をなくす。?昼間活動する別種の蚊の関与も想定されており、これらの蚊は藪等にいるので、昼間でもこの様な場所は避ける。

ヒトからヒト、馬から馬への水平伝播はないと報告されている。

滅菌・消毒

West Nile Virusを対象とした特別な消毒法は報告されていない。
-大部分のウイルスに効果を示す消毒法-
?煮沸消毒:98℃以上・15-20分間
?2w/v%-グルタラール
?0.5%(5000ppm)-次亜塩素酸ナトリウム
?消毒用エタノール(76.9-81.4v/v%)
?70v/v%-イソプロパノール
?2.5w/v%-ポビドンヨード

1)山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002
2)West Nile Virus(西ナイルウイルス),2002.8.9.

3)米国における西ナイルウイルス感染症の発生に関する情報;軽防協ニュース速報 号外;http://www.equinst.go.jp/keibokyo-homepage/worldinfonews/News.extra.99.10.27.html,2002.8.9.
4)米国における西ナイルウイルス感染症の最新情報;軽防協ニュース速報 号外;http://www.equinst.go.jp/keibokyo-homepage/worldinfonews/News.extra.2002.5.15.html,2002.8.9.
5)ニューヨーク(アメリカ):ウエストナイル脳炎の発生;外務省・海外安全相談センター,2000.8.16.
6)ウエストナイルウイルス脳炎の最新情報(日本医師会);http://www.med.or.jp/kansen/terro/nail20020925.html,2002.10.8.
                                               

[015.11.WES:2002.10.7.古泉秀夫]
[2002.10.22.一部改訂]
  [2003.11.11.一部改訂]