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『エパデールのスイッチに拘る厚生労働省』

水曜日, 7月 4th, 2012

  魍魎亭主人

2012年6月7日に開催した厚生労働省の薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会で結論を得るはずだった高脂血症治療薬「エパデール」(持田製薬)のスイッチOTC薬化の論議が、猛反対を続ける医師委員を説得できないまま、8月の部会に先送りされる状況になったという。安全性の問題から『医療機関で医師の管理下に置いて投与すべき』と猛反対する医師委員を説得し、翻意させるだけの新たな材料がないということで、関係学会の専門医を招請して説得してもらうという話もあるとされる。

所で厚生労働省は、エパデールのスイッチOTC薬化に何故それほど拘っているのか。

エパデールの成分名は“イコサペント酸エチル(ethyl icosapentate)”で、承認適応は『閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善及び高脂血症。』である。

作用機序として『EPAは消化管より吸収されたのち、全身の血管や臓器などの細胞膜のリン脂質に取り込まれ、その細胞機能に変化を与える。血管や白血球・血小板の細胞膜のなかでは、炎症性サイトカインなどの産生抑制により炎症を抑えたり、トロンボキサンA3(XAT3)、プロスタグランジンI3(PGI3)となり血小板凝集を抑えるなど、EPAはさまざまな細胞膜に取り込まれることにより、多彩な作用を発揮する。』

? 血清リポ蛋白に取り込まれ、リポ蛋白の代謝を促進する。
? 肝ミクロソームに取り込まれ、脂質の生合成・分泌を抑制する。
? 血小板膜リン脂質に取り込まれ、血小板凝集を抑制する。
? 血管壁に取り込まれ、内膜肥厚の抑制や動脈の弾力性を保持する。
? 白血球に取り込まれ、抗炎症作用や粘着能の低下
? 赤血球に取り込まれ、赤血球変形能を亢進する。
等の報告がされている。

また、投与禁忌として『出血している患者(血友病、毛細血管脆弱症、消化管潰瘍、尿路出血、喀血、硝子体出血等)[止血が困難となるおそれがある。]』の記載がされている。

更に本剤を高脂血症に用いる場合には、次の点に十分留意することの注意が添付文書に記載されている。

(1) 適用の前に十分な検査を実施し、高脂血症であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。
(2) あらかじめ高脂血症治療の基本である食事療法を行い、更に運動療法や高血圧・喫煙等の虚血性心疾患のリスクファクターの軽減等も十分に考慮すること。
(3) 投与中は血中脂質値を定期的に検査し、治療に対する反応が認められない場合には投与を中止すること。

本品の添付文書には『警告』もなければ、『重大な副作用』の記載も見られない。しかし、本品の投与は1-2週間で済むという話ではなく、長期の連用が必要である。また、血中脂質値を定期的に検査し、治療に反応が認められない場合、投与を中止することとされているが、OTC薬の場合定期的な検査は何処でやるのか。

更にエパデールカプセルの薬価は1Cap.48.10円、Sカプセルで1Cap.49.40円/300mgである。スイッチOTC薬は一体幾らの価格を付ける気なのか。1日3Cap.服用するとして、医療用医薬品の薬価は144.3円である。

1日144.3円×60日分=8,658円 健康保険2割負担で1731.6円。3割負担で2597.4円

1Cap.に直すと9.62円-14.43円。OTC薬にした場合、患者側にとって1Cap:9.62円-14.43円以下でなければ何のメリットもない。つまり誰も購入しないということである。病院に通院していれば定期的な検査を受けることが出来、医師に助言を求めることも出来る。副作用を疑う症状があれば、医師に伝えれば済む話である。しかし、OTC薬では薬剤師に相談し、必要があれば医師の診察を受けなければならない。

また、高脂血症の治療を要する患者では、その他の年齢から来る疾患に罹患していることが考えられる。その場合、本薬だけでの治療は困難である。

第一、長期慢性疾患の治療薬はOTC薬化に馴染まないのではないか。

薬はOTC薬、検査は病院等という器用な仕組みは我が国にはない。更に限りなく廉価に設定しなければ、病院通いをセルフメディケーションに切り替えることはしないだろう。セルフメディケーションは、治療をする側がある意味危険を背負い込むことなのである。そのためには眼に見えるそれなりの利益がなければ話にならない。

1)RISFAX,第6090号,2012.5.25.
2)エパデールカプセルインタビューフォーム,2012.6.
3)エパデールカプセル300,2012.6.

         (2012.6.23.)