『市販薬ネット販売』
火曜日, 6月 5th, 2012魍魎亭主人
厚生労働省は9日、市販薬のインターネット販売に関する同省の規制を違法とした4月26日の東京高裁判決について、「法律判断が妥当とは言い難い」として、最高裁に上告した[読売新聞,第48939号,2012.5.10.]とする記事が眼に付いた。
厚生労働省は副作用の危険性が高い薬に分類される第1類医薬品について、ネット販売を禁止しており、第2類医薬品についても、副作用等の危険性を回避し、安全な使用を図るために、対面販売が原則だとして、ネット販売を禁止しているが、その禁止令は適法ではないとして業者が起こした訴訟で、一審は厚生労働省の言い分を認めたが、二審の東京高裁判決は、「薬事法にネット販売の禁止を直接定めた規定がなく、規制は国民の権利を制限しており違法」と認定し、一審とは真逆の判断を示した。
東京高裁判決は一般用医薬品の対面販売については、薬事法の委任を受けていない規則であり、法律の委任を受けていない規則による規制は、国民の権利を制限しており、違法であると云うことのようである。
この伝で云うと、法律に規定されていない省令、つまり省令より上位に立つ法律の委任のないものは無効だということの様であるが、本当にそれでいいのか。これは飽く迄も法律の解釈であり、薬の安全性という観点が欠落している。我が国は過去にOTC薬の風邪薬で“薬害”を起こしている。OTC薬とはいえ、絶対の安全が保証されている訳ではない。更に当人の体質に合わない薬を服んだ場合、アレルギー等の被害を受けることも起こりえるのである。
その意味で言えば、薬が簡単に、安易に買えれば云いというものではない。対面販売の原則を守り、購入者の状況を十分に把握し、情報を提供して販売すべきである。インターネット販売を行うことで、足腰の弱い高齢者の便宜を図ることが出来ると云うが、その様な高齢者のどの位の人が鍵盤を叩けるのか。更に離島や山奥の居住者は近隣に薬屋がなく、購入が困難であり、便宜を図るためにはネット販売が必要だという意見である。
しかし、その様な環境の人達に考えなければならないのは、近隣に通院すべき医療機関はあるのかと云うことである。医療の保証がないとすれば、それこそ不公平で、政治の責任が問われる課題である。通院が出来なければ往診する。あるいは訪問看護の配置を行う当の何等かの手当が必要であり、薬を届けるという気配りがあってもいいのではないか。
更に心配なのはOTC薬でも副作用が全くない訳ではない。副作用が出た場合、医師に紹介するという項目が添付文書に記載されている薬がある。近隣で日常的に付き合いのある医師が居る場合、患者を紹介しても問題になることは無いと考えるが、ネット販売では近医の捕まえようがない。また、適当な医師を紹介されたのでは、医師の係わりのない薬を売っておいて副作用の相談だけは寄越すのかと云うことでは、患者に対する対応もあまりいいとは云えないのではないか。チーム医療は、人を中心にして医療関係の専門職が協力してその地域の人を支えることのはずである。
少なくとも医薬品は、便宜性だけを販売の目的にしてはならないはずである。副作用が起こるのは医療用の薬だけではない。その時の対応をどうするのか、ネット販売では、対応のしようがないのではないか。
(2012.5.22.)