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『偽アルドステロン症について』

水曜日, 5月 23rd, 2012

KW:副作用・偽アルドステロン症・pseudoaldosteronism・偽性アルドステロン症・アルドステロン症・aldosterone・甘草・glycyrrhizin

Q:薬物の副作用としての『偽アルドステロン症』について

A:偽アルドステロン症(pseudoaldosteronism)、同義語:偽性アルドステロン症。

aldosteroneは副腎から分泌され、体内に塩分と水を貯め込み、kaliumの排泄を促進して血圧を上昇させるhormoneである。このhormoneが過剰に分泌された結果、高血圧、むくみ、kalium喪失などを起こす病気を「アルドステロン症」という。「偽アルドステロン症」とは、血中のaldosteroneが増加していないのにアルドステロン症の症状を示す病態である。

主な症状として

?手足の力が抜けたり弱くなったりする。?血圧が上昇する。?筋肉痛。?倦怠感。?手足の痺れ。?腓返り。?麻痺。?頭痛。?顔や手足のむくみ。?喉の渇き。?食欲の低下。?動悸。?悪心。?嘔気・嘔吐等が見られる。
更に症状が進行すると、「意識がなくなる」、「躰を動かすと息苦しくなる」、「立ったり歩いたり出来なくなる」、「赤褐色の尿が出る」「尿が沢山でたり、出にくくなったりする」、「糖尿病の悪化」等の症状が稀な症状として見られることがある。

偽アルドステロン症を惹起する主な原因は、甘草あるいはその主成分であるglycyrrhizinを含む医薬品の服用である。甘草やglycyrrhizinは、漢方薬、風邪薬、胃腸薬、肝臓病薬などに含まれている。甘草、glycyrrhizin以外にフッ素含有ステロイド外用剤の長期連用による偽アルドステロン症発現の報告も見られる。酢酸フルドロコルチゾン等のミネラルコルチコイド製剤によっても生じうる。

第3類から第2類

製剤中に1日1g以上の甘草を含有するもの
医療用漢方エキス製剤 甘草配合量1日2.5g以上の時「偽アルドステロン症」の危険性及び低カリウム症患者には禁忌の記載

副作用好発時期:使用開始後10日以内の早期発症から数年以上の使用後に発症したものもあり、使用期間と発症との間に一定の傾向は認められない。但し、3ヵ月以内の発症したものが約40%を占める。副作用に関連する臨床症状の頻度として四肢脱力・筋力低下が約60%、高血圧が35%で見られるが、偽アルドステロン症発見の契機として重要である。他の症状として全身倦怠感が約20%、浮腫約15%が報告されている。また筋原性疾患(myopathy)による四肢の筋肉痛・しびれ、頭痛、口渇、食思不振も多い。

発生機序:甘草あるいはglycyrrhizinで生ずる偽アルドステロン症は、当初、経口摂取されたグリチルレチン酸(glycyrrhetinate)自体のミネラルコルチコイド作用が原因と考えられていたが、実際にはglycyrrhetinateにより11β-HSD2(β-hydroxysteroid dehydronase 2:2型11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素)の活性が抑制され、過剰となったコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体(MR)を介してmineralocorticoid作用を発揮することにより生じることが明らかになっている。なお、mineralocorticoid過剰症候群の多くは、遺伝子の異常により11β-HSD2の活性が失われたものである。フッ素含有ステロイド外用薬による場合は、医薬品自体のmineralocorticoid作用が原因とされる。

偽アルドステロン症は、軽症の場合、甘草あるいはglycyrrhizinの服用中止により2日以内に速やかに消失する。高血圧の治療中の患者であれば、アルドステロン拮抗薬(エプレレノン)により偽アルドステロン症発症の予防、治療が可能である。

glycyrrhizinは甘草中に6-14%含有されるトリテルペノイド配糖体(saponin)の主成分で、蔗糖の150倍の甘味がある。酸化加水分解によりglycyrrhetinic acidと2分子のglucuronic acidを生ずる。

選択的アルドステロン拮抗薬
一般名:eplerenone
[商品名]セララ錠(ファイザー)
[適応]高血圧症[鉱質コルチコイド受容体に結合し、レニン・アンジオテンシン・aldosterone系のaldosteroneの結合を阻害することにより降圧作用を発揮するとされる]。
[適用]1日1回50mgから開始。

1)(財)日本医薬情報センター:重篤副作用疾患別対応マニュアル第1集,2007
2)牧野利明:漢方製剤に使用される注意が必要な生薬;調剤と情報,17(13):1731-1734(2011)
3)伊田喜光・他監修:モノグラフ生薬の薬効・薬理;医歯薬出版,2003
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2012

        [065.PSE:2012.2.10.古泉秀夫]