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『頻尿の治療薬-女性に特有の薬はあるのか?』

金曜日, 1月 27th, 2012

KW:薬物療法・排尿異常・頻尿・尿失禁・排尿困難・尿閉・平滑筋弛緩薬・神経因性膀胱治療薬・β2-刺激薬・α-刺激薬・抗コリン薬・三環系抗うつ薬・α1-選択的遮断薬・作動薬

Q:高年齢女性の頻尿に対して特有の薬剤はあるか。

A:排尿異常の具体的な症状として頻尿、尿失禁、排尿困難、尿閉の四つが挙げられる。これらの四つの症状の原因として膀胱及び尿道の機械的、器質的障害やそれらを支配する神経障害、また糖尿病などによる尿量の増大や前立腺肥大症なども考えられる。
中で頻尿については、『排尿回数が多い』という愁訴であると説明されている。

?日中(起床時):昼間頻尿。一般的には1日8回以上。原因として膀胱容量の減少、多尿などが挙げられる。膀胱容量の減少は、膀胱自体が萎縮したり、残尿が多いために有効に活用できる膀胱容量が減少し、排尿量が少なくなったりする場合。多尿は24時間尿量が40mL/kg体重以上と定義されている。

?夜間(就寝時):夜間頻尿。夜間に排尿のため1回以上起きなければならないという訴えで、そのことによって困っている状態である。臨床上治療の対象になるのは2回以上の事が多い。原因として夜間多尿、膀胱容量の減少が挙げられる。夜間多尿は、夜間尿量の24時間尿量に対する比(夜間多尿指数:NPi)が高齢者では0.33以上(若年者では0.20以上)と定義されており、この夜間尿量には就寝前の最後の尿は含まれず、朝起床後の最初の尿は含まれる。

以上の報告に見られる通り、頻尿は器質的な障害による症状であり、特に男女の違いが見られる症例では無いと考えられるので、女性であることを特に薬物選択の条件として考えることはないと考える。むしろ高齢者の場合、腎機能・肝機能等が低下していることが考えられるので、代謝・排泄の速さを考慮して薬物を決定することが重要であると云える。

1)平滑筋弛緩薬(神経因性膀胱治療薬)

プロピベリン塩酸塩[バップフォー錠(大鵬)][適応]神経性膀胱、神経性頻尿、不安定膀胱、膀胱刺激状態(慢性膀胱炎、慢性前立腺炎)における頻尿、尿意切迫感、尿失禁。1日1回20mg 最大投与量:40mg
オキシブチニン塩酸塩[ポラキス錠(アベンティス)][適応]神経因性膀胱、不安定膀胱(無抑制収縮を伴う過緊張性膀胱状態)における頻尿、尿意切迫感、尿失禁。1日3回6-9mg/分3。
フラボキサート塩酸塩[ブラダロン錠(日本新薬)][適応]神経性頻尿、慢性前立腺炎、慢性膀胱炎における頻尿、残尿感。1日3回 600mg/分3。

コハク酸ソリフェナシン[ベシケア錠(アステラス)][適応]活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁。1日1回5mg。最大投与量:10mg
イミダフェナシン[ウリトス錠(杏林)][適応]活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁。1日2回 0.2mg分2。最大投与量:0.4mg。
酒石酸トルテロジン[デトルシトールCap.(ファイザー)][適応]活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁。1日1回4mg。

§平滑筋弛緩薬であるpropiverineは直接的な膀胱平滑筋作用と抗コリン作用を有している。服用後速やかに吸収されるが、投与量に依存して半減期が遅延することが知られており、注意が必要である。本薬は肝での初回通過効果を強く受け、約70%が胆汁中に排泄されるが、その約40%が腸管循環するため、半減期は約25時間と長い。
propiverine、oxybutynin、flavoxateは膀胱平滑筋の直接弛緩作用を有しているが、propiverine、oxybutyninは抗コリン作用も有し、膀胱平滑筋を収縮し、切迫性尿失禁や反射性尿失禁の原因と考えられる平滑筋無抑制収縮にも効果が期待できる。但し、抗コリン作用に起因する副作用として口渇、便秘等があり注意が必要である。一方flavoxateは抗コリン作用を有していないため、膀胱平滑筋作用も弱く、切迫性尿失禁などには十分な効果が期待できないが、前立腺肥大症など、下部尿路閉塞が見られる頻尿の改善には使用しやすい。
tolterodine、solifenacin、imdafenacinは膀胱平滑筋(排尿筋)のmuscarine受容体に結合し、膀胱平滑筋の収縮抑制作用により作用発現する。また、いずれも抗コリン作用を有しているため、抗コリン作用に起因する副作用の発現に注意が必要である。

oxybutynin:t1/2:約1hr.、48時間後に投与量の8.2%及び22.2%が尿中に排泄。
flavoxate:t1/2:約2.73hr.、投与後7時間迄に48.5%が尿中排泄。
tolterodine:t1/2:11.3-8.53hr.、関与代謝酵素CYP2D6、CYP3A4。
solifenacin:t1/2:約30.0-40.28hr.高齢者では非高齢者との比較で半減期1.4-1.6倍。関与代謝酵素CYP3A4。
imdafenacin:t1/2:約2.9hr.、蛋白結合率:87.1-88.8。関与代謝酵素CYP3A4及びUGT1A4。

参考として頻尿以外の排尿異常の治療薬について、以下に紹介する。

2)β2-受容体刺激薬      
クレンブテロール塩酸塩[スピロペント錠(帝人)][適応]尿失禁(腹圧性尿失禁)1日2回40μg/分2。最大投与量:60μg。

§β2-受容体刺激薬の中でclenbuterolだけが膀胱平滑筋弛緩作用と尿道括約筋収縮作用を有しているため、腹圧性尿失禁の適応を有している。副作用として手指振戦、動悸などがある。

3)α-刺激薬
  エフェドリン塩酸塩[エフェドリン錠(日医工)][適応]適応外。1日1-3回、37.5-75mg/分1-3。
メチルエフェドリン塩酸塩[メチエフ散(田辺三菱)][適応]適応外。1日3回、75-150mg/分3。
ミドドリン塩酸塩[メトリジン錠(大正)][適応]適応外。1日2回、4mg/分2、最大投与量:8mg。

§α-受容体刺激薬も尿道括約筋の収縮作用を有し、ephedrine、methylephedrineが腹圧性尿失禁に使用されることがある。しかし副作用の血圧上昇、不眠、頭痛、動悸などの発現に注意が必要である。より副作用の少ないα1-選択的受容体刺激薬のmidodrineが使用されることもある。しかし長期間の使用の際には同様の副作用に対する注意が必要である。またいずれの薬物も適応外使用である。

4)抗コリン薬
プロパンテリン臭化物[プロ・バンサイン錠(ファイザー)][適応]夜尿症又は遺尿症。1日3-4回、45-60mg/分3-4。

§抗コリン薬は膀胱平滑筋の収縮抑制作用を有しており、従来からpropanthelineが使用されている。副作用として口渇、便秘などに特に注意が必要である。また前立腺肥大症など下部尿路閉塞、緑内障や重篤な心疾患には禁忌。

5)三環系抗うつ薬
イミプラミン塩酸塩[トフラニール錠(アルフレッサ)][適応]遺尿症。学童:1日25-50mg/分1-2。幼児:1日25mg/分1。
アミトリプチリン塩酸塩[トリプタノール錠(日医工)][適応]夜尿症。1日10-30mg/就寝前。
クロミプラミン塩酸塩[アナフラニール錠(アルフレッサ)][適応]夜尿症。6歳未満:1日10-25mg/分1-2。6歳以上:1日20-50mg/分1-2。

§三環系抗うつ薬は、主に腹圧性尿失禁に使用されるが、いずれも脂溶性が高く服用後速やかに吸収されるが、肝での初回通過効果を受け、生物学的利用能(bioavailability)は約40%といわれている。また主代謝産物はいずれも薬理活性を有するため、投与量の設定には活性代謝物を考慮する。これらの薬剤の代謝にはCYP2D6及びCYP2C19が関与するため、cimetidineやquinidineとの併用で、代謝遅延による半減期の延長が見られる可能性もあり注意する。imipramine、amitriptyline、clomipramineが腹圧性尿失禁に使用される。尿道括約筋の収縮作用と膀胱平滑筋の収縮抑制作用を有し、切迫性尿失禁にも効果が期待できる。比較的作用が穏やかなため、第一選択薬として使用されることが多い。副作用として不眠、頭痛などがあり、また抗コリン作用を有することから緑内障患者には禁忌である。 

6)α1-選択的遮断薬
プラゾシン塩酸塩[ミニプレス錠(ファイザー)][適応]前立腺肥大症に伴う排尿障害。1日1.5-6mg/分2-3回。
テラゾシン塩酸塩[ハイトラシン錠(アボット)][適応]前立腺肥大症に伴う排尿障害。1日1mg/分2より開始し、2mgに漸増。
タムスロシン塩酸塩[ハルナール錠(アステラス)][適応]前立腺肥大症に伴う排尿障害。1日1回0.2mg(食後)。
ウラピジル[エブランチル錠(科研)][適応]前立腺肥大症に伴う排尿障害。1日30mg/分2より開始し、効果不十分な場合1-2週間の間隔をおいて60-90mgまで増量。神経因性膀胱に伴う排尿障害。1日30mg/分2より開始し、効果不十分な場合1-2週間の間隔をおいて60mgに漸増。最大投与量:90mg。
ナフトピジル[フリバス錠(旭化成)][適応]前立腺肥大症に伴う排尿障害。1日25mg/分1(食後)より投与開始。効果不十分な場合:1-2週間の間隔を置いて50-75mgに漸増。最大投与量:75mg。

§α1-選択的受容体遮断薬は尿道及び前立腺部に存在するα-受容体を遮断することにより、前立腺肥大症等の下部尿細管閉塞を伴った切迫性尿失禁や排尿障害・尿閉に使用される。terazosin (テラゾシン塩酸塩)は、服用後の吸収も速やかで、生物学的利用能が約90%といわれている。極めて類似した構造を有するprazosin(プラゾシン塩酸塩)は脂溶性が高く、肝での初回通過効果を受け、生物学的利用能が約50%と報告されている。いずれも蛋白結合率は97%以上と極めて高く、特にアルブミン濃度が低下する肝・腎不全患者や高齢者への投与には十分な注意が必要である。tamsulosin(タムスロシン塩酸塩)は、血管平滑筋のα1-受容体遮断作用は約1/10であるが、尿道括約筋のα1-受容体遮断作用は特異的に強く、更にその製剤は徐放化されている。肝での初回通過効果を殆ど受けず、徐々に吸収され、消失半減期は約10時間と報告されている。蛋白結合率は95%以上と極めて高く、吸収については食事に影響され、最高血中濃度の低下が報告されている。

7)コリン作動薬
ジスチグミン臭化物[ウブレチド錠(鳥居)][適応]手術後及び神経因性膀胱等の低緊張性膀胱による排尿困難。1日5mg。
ネオスチグミン[ワゴスチグミン散5mg/g(塩野義)][適応]手術後及び分娩後における排尿困難。1回5-15mg・分1-3/日。
ベタネコール塩化物[ベサコリン散50mg/g(エーザイ)][適応]手術後、分娩後及び神経因性膀胱等の低緊張性膀胱による排尿困難(尿閉)1日30-50mg/分3-4。

§コリン作動薬は低緊張性の排尿困難に使用される。コリン作動薬は膀胱平滑筋収縮作用を有し、残尿を減少させる。甲状線機能亢進症、気管支喘息、徐脈、てんかん、パーキンソン病患者には注意が必要である。

§頻尿、尿失禁の治療薬

頻尿・尿失禁には平滑筋弛緩薬、交感神経刺激薬、抗コリン薬、三環系抗うつ薬などが使用される。
平滑筋弛緩薬は膀胱排尿筋の直接的弛緩作用を有し、膀胱平滑筋の過収縮を抑制する。
膀胱はβ2-受容体が有意に存在するため、交感神経作動薬の中でも特にβ2選択性の高い薬剤は膀胱平滑筋の弛緩及び尿道括約筋の収縮をする。
また尿道にはα-受容体が豊富に存在するため、α刺激薬(ephedrine、methylephedrine)も尿道括約筋の収縮を示し、軽度の腹圧性尿失禁に有効なことがある。
副交感神経遮断薬は、主に膀胱に存在するmuscarine受容体を遮断し、膀胱平滑筋の収縮を抑制する。
三環系抗うつ薬はα-受容体刺激及び抗コリン作用を有し、尿道括約筋の収縮の促進と膀胱平滑筋の収縮を抑制する。

§排尿障害、尿失禁の治療

排尿障害、尿閉には主としてα1-選択的受容体遮断薬、コリン作動薬が使用されている。α1-選択的受容体遮断薬は尿道及び前立腺部に豊富に存在するα-受容体を遮断し、前立腺部の尿道括約筋の収縮と更に膀胱頸部及び三角部平滑筋の収縮を抑制する。副交感神経作動薬は、主に膀胱に存在するmuscarine受容体を刺激し、膀胱平滑筋を収縮する。

1)高久史麿・他編:治療薬マニュアル2012;医学書院,2012
2)大内尉義・他編:疾患と治療薬-医師・薬剤師のためのマニュアル-改訂第5版;南江堂,2003
3)山口 徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2011
4)バップフォー錠添付文書,2011.10改訂
5)ポラキス錠添付文書,2011.2.改訂
6)ブラダロン錠添付文書,2009.7.改訂
7)ベシケア錠添付文書,2011.11.改訂
8)ウリトス錠添付文書,2011.3.改訂
9)デトルシトールカプセル添付文書,2009,6.改訂

   [035.1.FRE:2012.1.26.古泉秀夫]