「北陵クリニック事件」
日曜日, 12月 25th, 2011魍魎亭主人
「北陵クリニック事件(守 大助氏)」の判決文を読む機会があった。事件の主題となっている薬は、“マスキュラックス静注用(ベクロニウム臭化物)”である。“マスキュラックス静注用”は『毒薬』に分類される薬で、毒薬については、薬事法においてその取扱が規定されている。
第四十四条 毒性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品(以下「毒薬」という。)は、その直接の容器又は直接の被包に、黒地に白枠、白字をもつて、その品名及び「毒」の文字が記載されていなければならない。
2 略
3前二項の規定に触れる毒薬又は劇薬は、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
第四十七条 毒薬又は劇薬は、十四歳未満の者その他安全な取扱をすることについて不安があると認められる者には、交付してはならない。
第四十八条 業務上毒薬又は劇薬を取り扱う者は、これを他の物と区別して、貯蔵し、又は陳列しなければならない。
2 前項の場合において、毒薬を貯蔵し、又は陳列する場所には、かぎを施さなければならない。
つまり毒薬については、他の医薬品と区分して『鍵』の掛かる所に保存しなければならないとされており、厚生労働省は、毒薬の保管に関して、次の通達を出している。
『毒薬については、薬事法第48条の規定に基づき、適正に貯蔵、陳列、施錠の保管管理を行うとともに毒薬の数量の管理方法について検討し、これを実施すること。また、毒薬の受払い簿等を作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう定期的に点検する等、適正に保管管理すること。』
北陵クリニックでは、毒薬である“マスキュラックス静注用”の管理について、法律に基づく取扱は何もされておらず、杜撰を絵に描いたような状況に置かれていたと云える。このような状況下では、毒薬である本剤を誰が持ち出したかも解らず、持ち出した個人を断定することは出来ないのではないか。クリニックの場合、薬剤師に管理の委任がされていない場合、毒薬の管理責任は院長にあり、まず院長の管理責任が問われなければならない。管理の徹底がされていれば、このような騒ぎにならなかったはずである。
また“マスキュラックス静注用”の使用済みの空アンプルの写真が証拠として提出されているようであるが、ロット番号が同一の空アンプルを持参していたという割には、ロット番号が写されていないという、奇妙な写真が証拠として提示されている。単に使用済みの空アンプルを写して証拠写真としているのだとすれば、それは何を証明しようとしているのか、甚だ疑問だと云わなければならない。
(2011.12.24.)