『ペットボトル症候群について』
月曜日, 11月 14th, 2011KW:疾病名・ペットボトル症候群・PET bottle syndrome・ソフトドリンクケトーシス・soft drink ketosis・清涼飲用水ケトーシス
Q:ペットボトル症候群という病名を聞いたが、これはどのような疾病か
A:ペットボトル症候群(PET bottle syndrome)→ソフト・ドリンク・ケトーシス(soft drink ketosis)[清涼飲用水ケトーシス]。
清涼飲料水の過剰摂取が原因で惹起されるケトーシスで、通常高血糖を伴う。稀にアシドーシスにまで進展し、高度となれば意識障害ももたらされる。1型糖尿病発症時のケトアシドーシスと類似の病態になり、食塩水の補液とinsulin治療が必要となるが、回復すればinsulinから離脱できることが多いため、2型糖尿病に分類される。当初、若年者で2Lのペットボトルを1日に何本も飲む例で見られたことから「ペットボトル症候群」の俗称もある。
最近では中高年にも増えており、糖尿病での口渇を和らげる目的で清涼飲料水を多飲することによる発症も増えた。原因は不明であるが、スクロースや、フルクトースなどの単純糖の過剰な体内への流入による代謝失調が想定されている。
★ketosis
†糖質及び脂質の代謝障害により、体内のケトン体(ketone bodies)が異常に増量し、臨床症状を示す状態。ケトン症とも呼ばれる。血中のケトン体が増量した状態をケトン血症、尿中のケトン体が増量した状態をケトン尿症、乳中のケトン体が増量した状態をケトン乳症と呼び区別する。臨床症状を伴わないケトン体の増量はケトーシスとはみなされない。
†ケトン体(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)は、肝で脂肪酸の酸化により生成され、肝外組織にて燃料として利用される。高ケトン体血症は、組織での利用障害ではなく、肝のケトン体生成増加の結果であり、エネルギー源が脂肪酸に変移していることを示している。?insulin作用の欠乏(糖尿病)、insulin拮抗ホルモンの増加(ストレス)によって脂肪組織での脂肪分解が促進され、遊離した脂肪酸の肝への動員亢進、?飢餓などによるグルコース利用低下に伴う肝での脂肪酸再エステル化障害等が原因となる。
†1型糖尿病、コントロール不良の2型糖尿病、栄養不良、新生児において高頻度に見られる。また、可能性として糖尿病、短期絶食、運動後、妊娠後期、乳幼児、甲状線機能亢進症、ストレスホルモン上昇時が考えられるとしている。
★ketoacidosis
代謝性アシドーシスの一型で、脂肪酸の不完全酸化で生ずるアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトンのケト酸の蓄積(ケトーシス:ketosis)によって発症する。その大部分はinsulin依存型糖尿病(IDDM)のinsulin不足時に認められ、糖尿病性ketoacidosisと称し、糖尿病性昏睡となり適切な治療をしないと死亡する。
†体内にケトン体が増加する状態をケトーシス(ケトン症;ketosis)といい、特にアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸は比較的強い酸であるためketoacidosisとも呼ぶ。ketoacidosisは、風邪やinfluenzaなどの感染症にかかっている時や、強いストレス下にある時など、血液が体組織よりも更に酸性に傾いている時に急激に発症する。糖尿病性ケトアシドーシスは、主に1型糖尿病患者に起こる。insulinが不足した状態では、グルコース(ブドウ糖)の代りに脂肪の代謝が亢進し、ケトン体が作られる。1型糖尿病患者で、insulinを十分に補わないと、血糖値が上がり続け、ケトン体が血液中に蓄積しketoacidosisをきたす。この状態では細胞が損傷を受け、さらに脱水が加わると意識障害(ketoacidosis昏睡)を起こす。最近、清涼飲料水をたくさん飲むうちに、糖尿病性ケトアシドーシスに陥るという深刻な問題がおきている。
★acidosis
†アシドは“酸”、語尾に付いているオーシス(-osis)はギリシャ語由来の接尾語で、“何等かの原因により起こった病的状態”を指す。嘗ては“酸中毒症”の訳語が使用されていたとされるが、現在は英語読みのまま使われている。血液は常に弱アルカリ性でpH7より僅かに大きく、7以下になることはない。ヒトの場合、血液のpHは7.40が正常値で、これより低い時をacidosisという。生命維持が可能な血液のpH範囲は7.00<pH<7.70といわれ、また、正常値から±0.05pH以内の変動は何ら障害はない。
†acidosisは呼吸性と代謝性に2大別される。前者は二酸化炭素の蓄積によるものであり、後者は二酸化炭素以外の酸(固定酸)の蓄積または塩基の欠乏によるものである。†呼吸性アシドーシスは、細胞の代謝活動の結果、絶えず産生される二酸化炭素が十分に肺から排出されないときにおこる。呼吸運動を支配している中枢の活動が低下する中枢性肺胞低換気症状群、肺におけるガス交換が障害される慢性閉塞性肺疾患などがこれである。二酸化炭素の蓄積が強くなると、中枢神経の麻痺状態がおき、意識が鈍くなり、いわゆる老人ぼけの原因となることもある。代謝性アシドーシスは、脂肪の中間代謝産物であるケトン体が蓄積する糠尿病、固定酸の排泄をつかさどる腎臓の機能障害などによっておこる。
市販されている清涼飲料水には、相当程度の糖を含んでおり、例えば、Aquariur(アクエリアス:コカ・コーラカスタマーケティング)では、100mL中エネルギー19kcal、蛋白質0g、脂質0g、炭水化物4.7g、ナトリウム34mg、カリウム8mg、マグネシウム1.2mg、アルギニン25mg、イソロイシン1mg、バリン1mg、ロイシン0.5mgを含有している。
また、それぞれの清涼飲料水等に含まれる糖の含有量について次の報告が見られる。
果汁ジュース100%→10%
炭酸飲料水・ジュース→10-11%
缶コーヒー→10%
スポーツ飲料→5-6%
これらの製品を水代わりに日常的に飲用している場合、1日に2L程度飲用するとすれば、120-200g程度の糖分を摂取することになり、熱量として約480-800kcalを摂取していることになる。
日本人の食事摂取基準によると、ヒトにおける炭水化物の摂取基準は、1日の必要総エネルギー量の50以上70%未満とされている。またまたWHO/FAOの2003年のレポートで、砂糖は総エネルギー必要量の10%未満にすべきだとの勧告もされている。
1)伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典 第2版;医学書院,2009
2)長谷川榮一:カラー版医学ユーモア辞典 改訂第3版;エルゼビア・ジャパン,2008
3)高久史麿・監修:臨床検査データブック2005-2006;医学書院,2005
4)香川芳子・監修:食品成分表 改訂最新版;女子栄養大学出版部,2011
5)Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
[615.8.PET.2011.8.2.古泉秀夫]