「信じられないことが起こるものです」
水曜日, 10月 26th, 2011 医薬品情報21
古泉秀夫
§ 立正佼成会付属佼成病院(東京都中野区)は12日、80歳代の女性に対する胃の内視鏡の際、薬剤を誤使用し、女性を重篤な状態に陥らせる医療過誤が起きたと発表した。同院や報告を受けた東京都によると、医療過誤が起きたのは9月22日。女性は外来で同院を訪れて検査を受けた。その際、検査に使用する薬剤の濃度が誤っていたため、帰宅後、体調が悪化したという。現在は別の病院に入院し、治療中という[読売新聞,第48729号,2011.10.12.]。
§ 立正佼成会付属佼成病院で起きた医療過誤で、同病院は12日、記者会見を開き、同病院の男性内科医(34)が、胃の内視鏡検査で通常の7倍以上の濃度の酢酸を使用していたことを明らかにした。神保好夫院長は、「全ての責任は当院にあり、深くお詫び申し上げる」と謝罪した。同院によると、女性は胃がんで、9月22日に癌の部位を特定する内視鏡検査を受けた。酢酸は癌の部位を白く浮かび上がらせる検査薬として使われるが、この検査法は同院では行われていない。内科医は院内にあった酢酸原液を薄めて使ったが、高濃度だと健康被害が生じるという認識が薄く、通常1.5-3%のところを結果的に23%で使用した[読売新聞,第48730号,2011.10.13.]。
§ 同院で起きた医療過誤で、誤って高濃度の酢酸を検査薬として使用され重篤な状態に陥っていた患者が14日午後に死亡したと発表した。警視庁は業務上過失致死の疑いもあるとして病院関係者から詳しい事情を聞く方針[読売新聞,第48732号,2011.10.15.]。
§ 少なくとも人の命に係わる以上、経験の無い治療なり検査なりを行うなら、前もって調べるのが当たり前である。調べた上で確認し、確信を持って初めて実行する。勿論、患者の容体によっては、時に果断に行動することも必要ではあるが、今回の事例では特に緊急に対応する必要は無かったのでは無いか。もし、自分で調べることが苦手だというなら、院内にいる薬剤師に調査の依頼をすればいいわけで、そのために院内には医薬品情報担当の薬剤師がいるはずである。
§ 残念ながら今回この女性患者は亡くなられた。患者にとっては甚だしく不幸な話ということになるが、調べるという僅かな努力をないがしろにしたばかりに、人一人の命を縮め、自らも業務上過失致死ということになれば、医師として致命的な状況に追い込まれてしまう。医師であれば何をしてもいい。あるいは医師である自分のすることは全て正しいと思っていたとすれば、とんでもない思い上がりだと云わなければならない。
§ 新聞報道報道の範囲からは、今回の事件が発生した背景は全く解らない、従って軽々に判断すべきではないのかもしれない。何か特段の事情があって、結果として今回の事態を出来させたと思いたい。それでなければ今回の出来事は“あまりにも信じられないことが起こった”と云わざるを得ない。
(2011.10.15.)