「ニコチンについて」
水曜日, 8月 31st, 2011
KW:臨床薬理・薬理作用・ニコチン・nicotine・ニコチン様作用・ニコチン様受容体・nicotine様受容体・ニコチン作用・nicotine作用・脱分極・depolarization
Q:ニコチンの薬理作用とニコチン様作用について
A:ニコチン[nicotine]C10H14N2=162.24。ピリジンalkaloidの一つ。煙草(Nicotiana、ナス科)のalkaloidの主成分である。神経節細胞のnicotine様受容体に結合し、まず興奮作用が起こり、続いて神経節遮断を生じる。
nicotineは無色、揮発性、水溶性で強アルカリ性の天然alkaloidである。植物煙草及び喫煙用煙草の葉に含まれる猛毒alkaloid。経口致死量は成人30-60mg、小児10-20mg。その薬理作用は、自律神経節、神経筋接合部、副腎髄質、中枢神経系に存在するnicotine受容体と結合して興奮を惹起する。しかし、脱分極*が持続的に長く続くと脱感作により抑制に移行する。つまり少量のnicotineは自律神経節を興奮させ、大量では麻痺させる。これらは何れもニコチン性acetylcholine receptorを介して作用する。
nicotineは治療的応用は少ないが、毒性が強く、煙草に含まれるために医学的に重要である。
1.少量(自律神経節脱分極) | 2.大量(自律神経節の持続的脱分極) |
?自律神経節興奮→優位支配神経の節を強く刺激[症状]心拍数減少、血圧上昇等 | ?自律神経節遮断→優位支配神経の節を強く遮断[症状]心拍数増加、血圧下降等 |
?神経筋接合部興奮[症状]骨格筋収縮 | ?神経筋接合部遮断[症状]骨格筋弛緩 |
?中枢興奮[症状]呼吸興奮、嘔吐、振戦 | ?中枢抑制[症状]呼吸麻痺 |
●ニコチン様作用(nicotinic action)[ニコチン作用:nicotine action]。
acetylcholine(ACh)は、神経筋接合部や自律神経節シナプスにあって、速いシナプス反応を生じ、筋の収縮や速い化学信号伝達を行う。この中枢神経の興奮作用やあまりに興奮する結果生じる抑制adrenaline遊離促進による血圧上昇等の作用が、煙草葉よりとられたnicotineにより近似できることから、1916年H.H.Daleがnicotine作用と名付けた。nicotine作用はカルバコール、デカメトニウム等で生じ、d-tubocurarine等で遮断される。
*脱分極(depolarization):細胞は細胞膜を境にして内部が(?)、外部が(+)の電位差を持っている。これが分極状態であるから、電位差が0の状態は「分極していない」ということになる。分極している状態から、分極していない状態に向かって変化することを「脱分極」と呼ぶ。
1)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,2002
2)佐藤 進・編集:第2版新薬理学テキスト;廣川書店, 2009
3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
[015.4.NIC:2011.4.30.古泉秀夫]