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「ニコチン受容体について」

月曜日, 7月 18th, 2011

 

KW:物理化学的性状・nicotine・ニコチン受容体・nicotine receptor・ニコチン性アセチルコリン受容体・nicotinic acetylcholine receptor

Q:ニコチンは、実際には喫煙をしなくても体内にもともと持っているものなのでしょうか?。チャンピックスの作用機序としてニコチンレセプターをブロックするとされていますが、タバコをやめてチャンピックスオンリーの治療段階では、ニコチンの消失速度からみてそれ以上喫煙しなければ、直ぐに体内からは消失しているかと思われますが、ブロックしなければいけないニコチンというものが、もともと体内にあるとの回答だったのが理解できずにおります。

A:nicotine(C10H14N2=162.24)について、次の報告が見られる。

ピリジンアルカロイドの一つ。タバコ(Nicotiana,ナス科)のalkaloidの主成分である。油状のalkaloid。その他ナス科Duboisia hopwoodii(シカジチョウ:スモウトリバナ)、キク科Eclipta alba(タカサブロウ)、ガガイモ科Asclepias syriaca(オオトウワタ)、ベンケイソウ科Sedum acre(オウシュウマンネングサ)に含まれる。神経節細胞のニコチン様受容体に結合してまず興奮作用が起こり、続いて神経節遮断を生ずる。接触性神経毒として農業用殺虫剤となる。またnicotineは骨間筋や神経節に存在するコリン作動性受容体(acetylcholine receptor)を少量で興奮させ、逆に大量で遮断する。このnicotineの作用にちなんで、この種のコリン作動性受容体をニコチン様(コリン作動性)受容体と称する。急性nicotine中毒では悪心、嘔吐、痙攣を惹起する。またnicotineは天然由来の物質である等の報告が見られるが、人体内で合成されるという報告は確認できない。

自律神経系の主な化学伝達物質の一つはacetylcholineである。acetylcholineを伝達物質とする神経はコリン作動性神経(cholinergic nerve)と呼ばれている。交感神経及び副交感神経節前線維は、何れもコリン作動性であり、その終末から遊離したacetylcholineはシナプス後膜のニコチン性受容体と結合し、節後線維を興奮させる。

副交感神経節後線維の神経伝達物質もacetylcholineであり、効果器にあるmuscarine受容体と結合して、muscarine様作用を現す。コリン作動性神経支配シナプス後膜にはmuscarine受容体、あるいはnicotine受容体が存在し、acetylcholineはmuscarine様作用とnicotine様作用を持っている。muscarine様作用はmuscarineの薬理作用と類似した作用で、現在ではこれに類似した作用は他の薬物の作用でもmuscarine様作用と呼ばれる。muscarine様作用はatropinで遮断される。nicotine様作用は、nicotineの薬理作用と類似した作用で、acetylcholineの神経筋接合部や自律神経節に対する興奮作用である。他の薬物の作用であっても、acetylcholineのnicotine様作用に類似したものは、nicotine様作用と呼ぶ

*コリン作動性神経(神経末端からacetylcholineを放出している神経)
a.交感神経節前線維→nicotine受容体
b.副交感神経節前線維→nicotine受容体
c.副交感神経節後線維→muscarine受容体
d.汗腺に至る交感神経の節後線維→muscarine受容体
e.副腎髄質に至る交感神経節前線維→nicotine受容体

■ニコチン性アセチルコリン受容体(nicotinic acetylcholine receptor:nAChR)

ニコチン性受容体という言葉からは、nicotine受容体に結合するリガンド(ligand:情報伝達物質)はnicotineだけと考えられがちであるが、nicotine受容体の生体内でのligandは飽く迄acetylcholineであり、むしろacetylcholineと結合する方が本来の役割であるとされる。

nicotine受容体は1983年沼らによってシビレエイからα-ブンガロトキシン結合能を指標に精製された蛋白質の部分アミノ酸配列に相当するオリゴヌクレオチドをプローブ*にしてクローニングされた。これは受容体の構造が分子レベルで明らかにされた最初の例である。このchannelを通過するのはNa+が主であるが、K+やCa2+も通過する。
nicotine受容体は筋肉型(NM)と神経型(NN)の二つに分けられる。神経筋接合部のNMはα1×2、β1、γ、δの5量体で、acetylcholineは二つのαサブユニットと結合する。また成熟個体のNMはγでは無くεを含む。自律神経節や中枢神経系のNNのサブユニットは主にαとβ(それぞれに9、4種類のサブタイプがある。)からなり、α×2、β×3のヘテロペンタマーが多いが、αのみのホモペンタマーもある。
*「生ある物質の存在を確認するための手掛かりに用いる物質。対象物質と相互作用するような物質が用いられる。」
また、nicotine受容体には様々なサブタイプが存在し、受容体を構成するサブユニットとしてα(1-10)、β(1-4)、γ、δ、εの17種類が発見されている。その中で中枢神経細胞での発現が多いのは二つのα4と三つのβ2で構成されているα4β2受容体である。この受容体はnicotine依存にも関係が深く、これらのサブユニット以外にもα7サブユニットもnicotine依存症の病態への関与が示唆されているとする報告が見られる。

nicotine:煙草に含まれるnicotineはnAchRに結合して振戦、呼吸促進、嘔吐、交感・副交感神経の刺激症状(徐脈、血管拡張、蠕動亢進などの自律神経のうち優位な方の神経の刺激症状が出現する)を起こす。喫煙による禁断症状が現れるのはこのためである。

NN-antagonist(拮抗薬):ヘキサメトニウム、メカミラミン、トリメタファン:これらの薬物は解離性大動脈瘤や悪性高血圧のような緊急時にのみ血圧を低下させるために用いる。

NM-antagonist(拮抗薬):(競合的)d-ツボクラリン、パンクロニウム、ベクロニウム;(脱分極性、非競合的)スキサメトニウム:これらの薬物は、全身麻酔時の筋弛緩や骨折、脱臼時の整復の際に用いられる。

■ムスカリン性アセチルコリン受容体(muscarinic acetylcholine receptorm:mAChR)

acetylcholine(ACh)には、ニコチン性(n)とムスカリン性(m)の作用がある。nicotine受容体は、ionchannel型である。muscarine受容体はG蛋白質共役型で、遺伝子的にはm1-m5の、薬理学的にはM1-M3のサブタイプに分類される。M1-Rは中枢神経系や胃の細胞壁、コリン作動性神経節伝達の促進に、M2-Rは心臓に分布し、Gi/oと共役しており、AC*の抑制やK+ channelの開口により、陰性変力、陰性変時作用を起こす。M3-RはGqと共役し、PLCを活性化し、シナプス前部からのacetylcholineの遊離、胃酸分泌、腺分泌、平滑筋収縮に関係する。副交感神経刺激は、muscarine受容体に媒介される反応を惹起する。また、m5受容体は、リンパ球に発現していることが知られている。
*アデニル酸シクラーゼ

副交感神経刺激により、瞳孔括約筋は収縮し(縮瞳)、近くを見るために毛様体筋は収縮する(輻輳)。涙腺、汗腺、副腎髄質、膵臓、唾液腺、鼻咽頭腺など外分泌腺からの分泌は全て刺激される。心臓では心拍数、収縮力は減少し(それぞれ陰性変時、変力作用)、活動電位持続時間(AP)は延長し、伝導速度は低下し、房室伝導は減少する(陰性変伝導作用)、動脈平滑筋は弛緩し、動脈は全て拡張し、気管、気管支平滑筋は収縮する。消化管では、胃腸管の運動と緊張は増加し、幽門と肛門の括約筋は弛緩し、胃腺、腸腺の分泌は刺激される。泌尿器系では、膀胱排泄筋は収縮し、三角筋と括約筋は弛緩し、排尿に至る。陰茎は勃起する。

muscarine受容体-agonist(作動薬):即ちコリン作動薬[acetylcholine(N+M)、カルバコール(N+M)、ベタネコール(M2、M3)など]は、消化機能亢進や尿閉に使用されるが、重篤な心疾患(徐脈)、気管支喘息、甲状腺機能亢進症、消化性潰瘍、パーキンソン病、てんかん、妊婦などには禁忌であり、使用には十分な注意と共に、拮抗薬のatropinの準備が必要である。しかし、可逆的コリンエステラーゼ阻害薬は、内因性のAChを増量させてmuscarine受容体を介して作用するので術後などの消化管機能低下に対して用いられる。

muscarine受容体-antagonist(拮抗薬):3級アミン化合物と4級アンモニウム化合物に分類される。4級アンモニウム化合物は中枢への移行が少なく中枢性の副作用が軽減されるが、消化管での吸収も低下する。atropinは代表的なmAChR-antagonist(抗コリン薬、副交感神経遮断薬)で、麻酔の前投薬、消化性潰瘍による分泌・運動の亢進、胃腸・胆管・尿道の痙攣性疼痛、迷走神経性徐脈、有機リン中毒に用いられる。

■varenicline tartrate(JAN)
[チャンピックス