「炉心溶融」
土曜日, 7月 2nd, 2011魍魎亭主人
東京電力福島第一原子力発電所の復旧作業の見通しが大きく崩れそうである。今迄、炉心溶融(メルトダウン)はないと発表していたが、どうやらそれは大嘘のこんこんちきということになってしまったようである。
東京電力福島第一原子力発電所の着工日は1967年9月と報告されている。
一方、 原子炉の炉心溶融事故が実際に発生した最初の事例とされるエンリコ・フェルミ高速増殖炉(Enrico Fermi Fast Breeder Reactor)は、アメリカ合衆国ミシガン州デトロイト郊外にあるとされるが、そのエンリコ・フェルミ原子力発電所(Enrico Fermi Nuclear Generating Station)内にあった高速増殖炉試験炉で、1966年10月5日に炉心溶融が起きたとされている。事故の原因は炉内の流路に張り付けた耐熱板が剥がれて冷却材の流路を閉塞したためであるという。また蒸気発生器では、伝熱管破損及び溶接不良によるトラブルが発生したとされる。原子力発電所ではないが、メルトダウンを起こした最初の事例だという。この場所では今も除染が継続されており、多くの住民の被害と膨大な経費とが垂れ流しになっている。これを何の参考にもしなかったのか。
またスリーマイル島原子力発電所事故は、1979年3月28日、アメリカ合衆国東北部ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で発生した原子力事故である。スリーマイル島 (Three Mile Island) の頭文字をとってTMI事故とも略称される。原子炉冷却材喪失事故 (Loss Of Coolant Accident, LOCA) に分類され、想定された事故の規模を上回る過酷事故 (Severe Accident) である。国際原子力事象評価尺度 (INES) においてレベル5の事例であると報告されている。これを参考にして、強度を補強する工事はしなかったのか。
1986年4月26日には、ソビエト連邦(現:ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で事故が発生しており、チェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた原子力に関する事故の話は有名である。後に決められた国際原子力事象評価尺度 (INES) において、最悪のレベル7(深刻な事故)の参考事例として知られている。
事故の発生事例は件数としては多くはないが、事故が発生すると始末に負えなくなることは、全ての事例で十分証明されている。その事故を前例として、何故国内の原発は、より強固な対応をしてこなかったのだろうか。
津波についていえば、869年に発生した貞観地震(じょうがんじしん)のときには、内陸部まで津波が押し寄せたといわれている。更に約2000年前の弥生時代にも仙台平野を津波が襲っており、今回の東日本大震災の巨大津波と同程度まで内陸に浸水していた可能性が高いことが解ったとされる。貞観津波とほぼ同じ浸水範囲を示したと思われ、仙台平野ではほぼ1000年周期で東日本大震災と同規模の巨大津波が襲来していた可能性がある[読売新聞,第48580号,2011.5.16.]とする報告も見られる。
我々は原始時代に『火』を手に入れた。『火』を手に入れたことによって近代的な歴史の道筋を歩んできたともいえる。しかし未だにその『火』を完全に制御出来ずにいる。それが証拠に例年数多くの火事を出し、焼死者を出している。その体たらくを見れば、原始の火を制御するなどということは、人にとってある意味、幻想に近いといえるのではないか。温和しく制御されているように見えるが、それは表面上のことで僅かな齟齬で重大事件に発展する。
原子力発電所の建設に際して万全の体制を取ってきたといえるのか。あらゆる過去の災害の歴史に学び、それに対応する施設、設備を整備したといえるのか。少なくとも過去にマグニチュード8.3以上の地震が来ているとすれば、それに上乗せした地震に対応するだけの施設になっていたのか。しかも最も重要な設備である電源は、何故、複数用意されていなかったのか。
最悪を予測してなおそれでも安全だという施設・設備を整備するとすれば、膨大な設備投資をすることが求められる。適当なところで判断する。それをしなければどれほどの設備投資をすればいいのか解らないなどということを述べた斯界の権威が居たそうだが、東電の役員報酬50%カットでも3,600万円とする報道がされていた[読売新聞,第48578号,2011.5.14.]が、これほどの手当が払えるほど稼ぎがいいなら、設備投資の金なぞ幾らでも掛けられるはずである。また、原発事故によって、これから東電が放出する金額を考えれば、設備投資に使用する金額なぞは極僅かな金額だったはずである。いずれにしろ予測性の欠如、お粗末な想像力の結果だといえる。
所で西村武夫参議院議長の寄稿文[読売新聞,第48583号,2011.5.19.]で、菅総理の退任要求に対して『急流で馬を乗り換えるな』という心理が働くという惹句を引用していたが、急流を乗り越えることの出来ない馬に乗っているなら馬を代えて渡り直さなければならないし、そのような馬を選んだ乗り手も代えなければならない。如何に激変のさなかとはいえ、乱世に対応できない首長は、何時まで待っても対応できるように成長することはあり得ない。
(2011.5.20.)