「茶番劇」
木曜日, 6月 2nd, 2011鬼城竜生
政府・東京電力統合対策室は21日の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所1号機で東日本大震災の発生翌日に行われていた海水注入が中断していた経緯を説明した。この中で対策室は、内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長が3月12日、菅首相に「海水を注入した場合、再臨界の危険性がある」と意見を述べ、それを基に、政府が再臨界の防止策の検討に入ったとしていた。しかし、班目氏は21日夜、読売新聞の取材に対し、「再臨界の恐れなど言うはずはない」と対策室の説明内容を真っ向から否定した。
東電側は、官邸で再臨界の危険性の論議が続いていることを理由に海水注入を中断したとしており、班目氏の再臨界に関する指摘の有無は、対策室の説明の根幹部分だといえる。対策室と班目氏の言い分の違いは、23日からの国会審議で大きな問題になりそうだ。
対策室が21日の記者会見で配付した資料や説明によると、3月12日、1号機に注入していた淡水が供給できなくなったため、首相は午後6時頃に原子力安全委や経済産業省原子力安全・保安院などに対し、海水注入を検討するよう指示。これに対し、班目氏が、海水注入によって核燃料の分裂反応が再び始まる再臨界の危険性があると指摘したため、首相は再臨界防止に向け、ホウ酸注入などの対策を含めて検討するよう改めて指示したという。
だが、東電は午後7時4分、現地の判断で独自の海水注入を開始。順調ならそのまま注入を継続する予定だったが、官邸にいた東電担当者が現地や東電本店に、政府内で再臨界を巡る議論が続行していることを伝えたため、同25分に注入を停止した。[読売新聞,第48586号,2011.5.23.]。
政府・東京電力統合対策室は22日海水注入を中断した理由として班目春樹委員長が菅首相に「再臨界の危険性がある」と進言したとしていた21日の発表を訂正した。班目氏の発言について「首相から再臨界の可能性を問われ、可能性はゼロではないとの趣旨の回答をした」と改めた。班目氏が22日、首相官邸で福山哲郎官房副長官、細野豪志首相補佐官に申し入れた。発表の訂正を求める班目氏に、福山氏らが「可能性はゼロではない」と発言したとする案を提示、班目氏も了承した[読売新聞,第48587号,2011.5.23.]。
少なくとも菅首相は「真水に代えて海水を使用することを危惧」し、内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長にその危惧について質問した。その質問に対してどのような回答をしたのか。彼の回答は「再臨界はゼロではない」というものだったようだが、この曖昧な回答が、猜疑心の塊みたいな方の足を止めたということである。班目氏は「事実上(可能性は)ゼロだという意味だ。『注水は止めた方がいい』とは絶対に言っていない 」と釈明した[読売新聞,第48589号,2011.5.25.]というが、切った張ったの最中に、間延びのした回答をすることで内閣府原子力安全委員会委員長役目が果たせるとしたら楽なものである。切った張ったの場面で必要な情報は、誤解を招くような曖昧なものではなく、明快極まりないものでなければならない。
最近になって、実は、東京電力福島第一原子力発電所吉田昌郎所長の判断で海水注入の中断は無かった[読売新聞,第48591号,2011.5.27.]ということで、この間の茶番劇は何だったのかと言うことだが、これも国の責任者が、田舎芝居の座長みたいに、自分が目立つことには敏感に反応するが、責任を追求されることの結論は先送りするという、無責任体制の結果だろう。
(2011.5.27.)