『消炎酵素薬ひっそりと回収』
木曜日, 2月 24th, 2011魍魎亭主人
抗炎症・腫脹作用、喀痰・膿汁の融解・排泄促進作用、抗生物質の病巣部移行促進作用等を有するとするのがserrapeptase[商品名:ダーゼン(武田薬品)]の薬理作用である。
本薬は1995年に行われた再評価において、厚生労働省から『継続して承認する条件として、必要なdataを揃えるように』という課題を提案されていた。そこで製薬企業は、自主的に慢性気管支炎を対象とした試験を実施したが、プラセボ対比で有効性を示す結果を得ることが出来なかったという。
これを受けて2011年1月19日に行われた厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品再評価部会では、本薬の有効性を検証する再試験の実施を指示していた。
その結果、同社は再試験の実施に向けて、試験デザインを見直す方向で検討を進めてきたが、最終的に有効性を証明することは困難と判断したということである。同社は2011年2月21日販売を打ち切り、自主回収すると発表した。
serrapeptaseは1968年に承認された薬である。現在の承認適応は
1)次の疾患、症状の腫脹の寛解:手術後及び外傷後、慢性副鼻腔炎、乳汁うっ滞(乳房マッサージ及び搾乳を行っている場合)。
2)痰の切れが悪く、喀出回数の多い以下の疾患の喀痰喀出困難:気管支炎、肺結核、気管支喘息。
3)麻酔後の喀痰喀出困難。
であるが、新聞報道によれば『慢性気管支炎の患者311人を対象にした試験』で有効性が確認できなかったとされていたが、酵素系の薬の有効性を確認するという作業は簡単にいかないということのようである。永年に亘りこの薬が使用されてきたというのは、臨床家の認識としてそこそこ効果があったということだと思われるが、その効いているようだという認識の問題を、科学的に証明することは難しかったということなのだろう。
同薬は、2009年度決算ベースで年間売り上げ約67億とされている。病院2,000ヵ所、診療所21,000ヵ所、調剤薬局46,800ヵ所に出荷されているということで、その回収作業も大変だろうが、前記適応で使用できる酵素製剤が減るということの方が問題ではなかろうか。あるいはこれらの適応症で使用される酵素製剤は、全滅ということにもなりかねない。
ところで本薬の後発品として、10製品ほどが市販されている。後発品の定義の一つとして『全く同じ薬』ということがある。当然これも回収作業に入るものと思われるが、「いえ、家の薬は効きます」ということで、厚労省がダーゼンの承認取り消しを決定するまでは、知らぬ顔の半兵衛さんを決め込むのか。
1)読売新聞,第48496号,2011.2.21.
(2011.2.23.)